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第9話 ゴスロリ少女は躊躇わない(※イラストあり)

急襲…?

挿絵(By みてみん) 


 鋼鉄同士がぶつかり合う激しい音。二つの得物の間では火花が飛び散った。

 目の前にはゴスロリ服を着た俺よりも頭一つ分は背の低い小柄な少女。長い黒髪が綺麗で、パッと見では清楚な印象を受ける。しかし、彼女の手に握られているのは、彼女には似合わない無骨な鋼鉄製のハンマー。大きさ自体は小さいものの、それでも鉄ならダンベル以上の重さは当然あるはずだ。それを表情一つ変えずに振るなんて、普通では考えられないことだ。

 俺の手にはセレスティアから渡された、勇者の剣「フェロニカ」。空間からこれを取り出せたのは、セレスティアたちが武器を取り出すのを見ていたからだ。驚くべきことに見よう見まねでやったらできてしまった、という訳だ。


 ハンマー少女の後ろには、銀色の髪をボブカットにしたメイド姿の少女。この部屋に入った瞬間は落ち着き払った顔をしていたから、本来の彼女はきっと冷静沈着なのだろうけど、さすがに状況が状況だ。部屋に入った俺たちに向かって、いきなりハンマーを振り下ろされたらビックリするに決まっている。今の彼女は焦り切ってアワアワしてしまっていた。


「な、な、なんて、ことを……!」


 あー、大丈夫ですよメイドさん。ご覧の通り、挨拶代わりの一撃はちゃんと受け止めましたので。怪我はないのであなたは俺を心配する必要はないのです。……と言ってもそれは無理な話なんだろうけど。


「ミナト! いきなり殴りつけるなんて何を考えているんですか!?」


 隣のセレスティアも怒り心頭だ。セレスティアは俺にハルカのルームメイトであった二人を紹介したいというので、城内のこの部屋まで俺を連れてきてくれたんだ。女体化したまま行くと辛いことを思い出させてしまうと思ったので、男の姿でこの部屋に入ったまではよかったのだが……


「ねえ、君」

「ミナトです。ハルトさん」

「あ、ああ。ミナトちゃん」

「呼び捨てで、大丈夫です」

「そ、そう? じゃあミナト」

「なんでしょうか?」

「これはなに?」


 俺はそう言ってフェロニカにくっ付いたままのハンマーを指差した。ミナトは表情を全く変えないまま、こう言った。


「シャリオヴァルトといいます」

「え? ああ、名前か。良い名前だね。でもね、俺が聞きたいのはそこじゃなくてね……」


 ミナトは本気でわかっていないのか首を傾げている。あまりに無垢で悪意のない少女を前に、俺は先制攻撃を怒る気にもならなかった。しかし、俺は良くても彼女はそれを許さない。セレスティアは当然激怒した。


「何を呑気にお話をしていますか!? ミナト! 初対面の人にいきなりハンマーを振るうなんて正気ですか!? フランチェスカ! あなたはこの子にどんな教育をしているんですか!?」

「も、申し訳ございません! ミナトさんにはしっかり言って聞かせますので!」

「二人とも、とりあえず落ち着いて……」


 烈火のごとくキレるセレスティアと平謝りのフランチェスカと呼ばれた女性の間に入る俺。ハンマーで殴られたのは俺なのにこの立ち位置は一体何なのか……。その一方で、そんな二人の様子などどこ吹く風のミナト。彼女はまっすぐ俺を見つめたまま視線を逸らさない。まるで俺を品定めしているかのような、見透かされているかのような、そんな鋭い眼光を感じずにはいられない。

 だが、そんな人形のように視線を固定している彼女だが、俺はそんな彼女に対して決して冷たい印象を抱くことはなかった。むしろ、俺を見つめる彼女を見ていると、心の奥底が温かい何かで満たされていく様なそんな気すら感じるほどだったんだ。

 ミナトは武器を下ろし、尚も無言のまま俺を見つめている。後ろでは相変わらず二人があれこれとやりあっていたが、会話はほとんど俺の耳には届かず、俺の目はすっかりミナトに釘づけになってしまっていたのだった。


 俺は彼女に向かって一歩を踏み出す。するとミナトが怒られると思ったのか、フランチェスカさんは心配そうに彼女の方へと歩み寄ろうとした。だが、別に俺は彼女を怒ろうと思ったわけじゃない。いきなりハンマーを向けられたにも関わらず、なぜか怒りは湧いてこなかったんだ。


 俺が右手を出す。ミナトはもしかしたら俺が彼女を叩くと思ったのかもしれない。彼女は身を守るように両目を瞑り、少し頭を下げた。そんな彼女に対し、俺は優しく手を頭に置き、そしてその頭を撫でた。

 一瞬ビクッと身体を震わせたミナトだったが、頭を撫でる俺の手に危害を加える意思がないことが分かると、彼女はゆっくりと目を開き上目遣いに俺のことを再び見つめた。その仕草が愛らしくて、俺は思わずニコッと彼女に対して笑顔を見せた。

 その様子を見てセレスティアは驚きを隠せないでいるようだった。そしてそれはフランチェスカさんも同じだった。

 俺は彼女の頭に手を置いたまま、彼女を怯えさせないよう極力声色を柔らかくして言った。


「これからよろしく、ミナト」

「……は、はい。よ、よろしく、お願いします」


 俺の言葉に対し初めこそ困惑していたミナトだったが、俺の笑顔を見ると彼女は照れたようにそう返事を寄越した。彼女の目はもう、先程の様に俺を試す様なものではなくなっていた。


「あの、先程は、ごめんなさい。気分を悪くされたら、本当に、申し訳ないです……」


 一転して今度はしょげた表情で頭を下げるミナト。その様子は普通の可愛らしい女の子といった感じであった。

 

「あ、ああ、別に気にしていないよ。俺は勇者代行の訳だし、実力を試すにはあれぐらいが丁度良かったんじゃないかな」


 俺は笑顔でそう応える。ミナトは俺の言葉を聞くと、安心したように微笑んだ。すると今度はその様子を不思議に思ったのか、フランチェスカさんが恐る恐る俺に尋ねた。


「あの、どうして怒らないのですか? いきなりあんなことをされたら、怒るのが当然だと思うのですが……」


 フランチェスカさんの疑問ももっともだ。だが正直言うと、なぜ俺が彼女の行動に対し怒りを感じなかったのかは、アオイの時と同様に俺自身にすら分からなかったんだ。なんとなく、彼女だったらそういうことをしてきてもおかしくはないと、俺は出会った瞬間に理解していたんだ。俺と彼女は初対面であるにも関わらずだ。


「ま、まあ、ハルトが怒っていないのですから、今回の件は許すことにしましょう。ですが、以後他の人にはこんなことを絶対にやらないでくださいよ。普通であれば、ハンマーで人を殴ったら少しの怪我では済まないことなんですからね」


 さっきまで怒り心頭だったはずのセレスティアが意外にも理解を示してくれた。怒られた当人であるフランチェスカさんとしてはあまり納得はいっていないだろうけど、それでも俺がミナトを怒らなかったことを彼女はひとまず安堵している様だった。

ゴスロリ少女ミナト登場!

続きます!

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