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プロローグ 女装男子の悩み(※イラストあり)

挿絵(By みてみん)


 とにかく股間がスースーして仕方がなかった。

 戦場を駆ける度にスカートがめくれ、中のショーツが露わになる。

 今更言ったところで仕方のないことだけど、いくらハルカが女だからといって勇者ともあろう人間がスカートを履くのはおかしいのではないだろうか?

 いや別にこんな命の奪い合いをしている最中にパンチラを期待するやつはいないだろうが、そうは言ってもこれだけ大事なところが衆目に晒されるのは些かどころか大いに問題があると俺は思うんだ……。


 少し前まで、ここアルカディア王国には、勇者と呼ばれた少女がいた。彼女は名をハルカといい、類稀たぐいまれな戦闘力と、海よりも深い愛でこの国を平和に導こうとした。

 ……だが、その彼女は今はもういないのだ。なぜなら、彼女は戦いの最中敵の刃を受け命を落としてしまったからだ。

 では、今話しているお前は誰なのか? という疑問が浮かぶと思う。はっきり言ってしまうと、俺はハルカではなくて、ハルトという名前の人間なんだ。俺はあくまで勇者の代行者であり、本物の勇者ではない。

 俺が勇者代行になった経緯は、語ると長くなる……。今度機会があればじっくり話すとしよう。


「ハルカ様! 敵が来ていますよ!」


 おっと、余計なことを考えている内に反アルカディアを掲げる武装組織「(くろがね)の翼」の内の一人が目前に迫っていたようだ。

 「鉄の翼」の目的は俺たちアルカディア騎士団の戦力を削ぎ、隣国プレセアとの和平交渉を妨害することだ。俺たちの目下の目標は、この「鉄の翼」の壊滅だ。

 やつは素早い身のこなしで俺の目を撹乱しようとする。しかし、俺の目はやすやすと敵の動きを捉える。それはまるで俺にとってはスローモーションに等しいものだった。

 俺は一瞬、ほんの一瞬動きを止めた敵目掛けて回し蹴りを繰り出す。


「うげっ!?」


 それが見事に顔面にヒットし、敵が吹き飛ぶ。女体化の魔術をかけてもらっているからモノが見えてしまうことはないが、それでもこれだけ足を上げたらショーツは丸見えだろう。俺の様なニセモノではない本物の勇者であったハルカが生きていた時は、恥じらいを覚えることはなかったのだろうか? 少なくとも俺は……


「めちゃくちゃ恥ずかしいのだが……」

「流石です、ハルト、ではなく、ハルカさん。……でも、まだ来ます」


 確かに敵は一度遠くまで吹き飛ばされた。だがやつは性懲りも無くまたしても俺に向かってきたのだ。


「無駄な、ことです」


 だが、彼女が言う様に、それは無駄なことだった。

 俺の前に、白と濃紺を基調としたフリフリのゴスロリ風ワンピースを着た少女、ミナトが躍り出る。彼女は中学生くらいの小柄な体躯にも関わらず、鋼鉄製のハンマー・シャリオヴァルトをその手に携えている。ハンマーの大きさ自体はそれほど大きくはないものの、それが鋼鉄製であることを考えれば、あんなものを軽々と振っているのは驚異的なことだった。


「ええい!」


 向かって来る敵に向かって、ミナトは容赦なくシャリオヴァルトを振り抜いた。

 彼女の一振りで易々と吹き飛ばされる「鉄の翼」たち。相変わらず、彼女の戦い方は豪快だ。体力がないことは難点だが、彼女の強烈なパワーはそれを補って余りある活躍を見せてくれるのだった。


「いいぞミナト!」

「そ、それほどでも、ありません……」


 褒められて照れるミナトは本当に可愛い。俺、この戦いが終わったら絶対彼女を娘にするんだ……という妄想が俺の中を駆け巡る位には、俺は彼女の可愛らしさに夢中だった。すると……

 

「何鼻の下伸ばしてんのよ! この変態勇者!」


 怒声と共に俺は頭をひっぱたかれた!


「いったあ……。アオイ! いきなり殴らないでよ!」

「うっさい馬鹿勇者! 今が戦闘の真っただ中なのを忘れたの!?」


 俺をどついた犯人、アオイは槍・ローレライを駆使し次々と敵を払いのけていく。その槍さばきは流石の一言だった。

 彼女、アオイは日本の出身で、本名を香月かつきあおいという。彼女はこの世界の出身者ではないにも関わらず、一行の中で誰よりも強い魔術を誇っていた。

 ショートポニーの髪に、勝気な彼女らしい力強い瞳、そして緑を基調とした軍服に近い衣装(女性用なので下はスカート)。ミナトほどではないが小柄な体格から繰り出される素早い槍のラッシュと、異世界出身者ならではのオリジナリティ溢れる魔術の数々は、彼女を俺たちにとって絶対に必要な戦力たらしめていた。


「アオイ、あまりハルトさんを、叩かないであげてください……」

「うぐ……。なんかこの子にそう言われると、あたしが悪いことしてるように思えてくるわ……」


 ミナトに真っすぐな瞳を向けられ怯むアオイ。全体的にアオイは粗暴だが、その実とんでもなくお人好しだった。だから、あんな無垢な視線を向けられれば彼女は罪悪感を覚えないわけにはいかないのである。


「いや、でも実際アオイも悪いでしょ?」

「な、何よ? あたしが頑張ってるのに呑気に幼女を愛でてるあんたが悪いのよ! あんたはこの中で唯一の『男』なんだから、か弱い女の子の分まで働くのが普通なんじゃないの?」


 アオイは実に意地の悪そうな表情で俺にそんなことを言ってくる。


「あのさ、頼むから戦っている最中に殊更『男』を強調するのはやめてくれよ。ただでさえ顔から火が出そうだっていうのに……」

「ふーん、あたしにはあんたが楽しそうにそれを着てるように見えるけどなあ。ほら、せっかく胸だって盛ってもらってるんだから、揉んで女の子の感触でも確かめてみたら」


 むむ、それは俺が今まで彼女もできたことのない寂しい男であることを知っての暴言か? いや、実際は記憶がないから本当のことは分からないんだけどさ。


「だけど、それを言うならアオイだって別に男性経験が豊富そうには見えないぞ。俺にあーだこーだ言う前に、アオイだって彼氏でも作って男の感触でも確かめてみたらどうなんだよ?」


 俺がそう言うと、隣のミナトも思いっきり頷いた。するとつい一瞬前まで余裕しゃくしゃくだったアオイが焦り出す。俺も大概だがこの子も本当に分かりやすい。


「か、かか、関係ないでしょうあんたには! ミナトも全力で頷くな! あ、あたしは別に彼氏が出来ないわけじゃなくて作らないだけよ! 変なこと言うと殴るわよ!」

「へー、そうですかねえ。私はそうは思いませんが」


 横やりを入れてきたのは一行の頭脳であるセレスティア・アークライトだった。彼女は金髪のショートカットに眼鏡、服は白のブラウスに赤いマント、そして同じく赤のミニスカートをまとっている。確かにこれだけ綺麗で社長秘書のようにキリッとした彼女なら男性経験が豊富でもおかしくはない。少なくともアオイよりは。


「何よ!? あんたも何か文句あるの!?」

「別に文句はありませんが、あまり分かりやすい嘘はつかない方がいいですよ、と忠告をしてあげたかっただけです」

「なんですってえええ!?」


 早速セレスティアに殴りかかるアオイ。セレスティアはそれをサッとかわし、アオイの腕を掴んでしまう。


「な、何するのよ!?」

「彼氏を作らないと豪語するぐらいのあなたですから、男性経験くらい当然ありますよね?」

「あ、ああああ当たり前じゃないのそれくらい……。ってかそれと今の状況と何の関係があるのよ!?」

「それなら、これくらいは、当然体験済みということですよね!」


 そう言って、セレスティアは腕を伸ばし、なぜかアオイの胸を思いきり掴んでしまった!


「い、いやああ!? あんた何やってんの!?」

「いや、経験豊富なあなたならこの程度は容易いかと思いまして」


 そしてさらに胸を揉みしだくセレスティア。その目は何と言うか、ガチだ……。本気でアオイを攻めている狩人の目だ。真面目で堅物……であるはずの彼女は時として謎の痴態に走る傾向があることを俺は知っていた。


「ちょっと! い、いや、あんっ!? ひゃ、ひゃあああ!?」


 甘い声が漏れるアオイ。


「おや、随分と可愛らしい声で()くんですね? 男性の前でもそんな風に感じるんですか?」


 一方、胸を揉み続けるセレスティアの暴走は留まるところを知らない。

 そしてそれを見て顔を真っ赤にさせるミナト。俺は慌てて叫んだ。


「こ、こら! ミナトの教育上良くないから胸を揉むのをやめてって!」


 俺が注意すると、ようやくアオイはセレスティアの胸揉み攻撃から逃れた。彼女は既に息も絶え絶えになってしまっていた。

 それにしても、戦闘中だってのにみんな緊張感の欠片もないなと思って辺りを見渡してみると、既に敵の姿はなくなっていた。

 一体どうしてと思っていると……


「皆さん、余裕しゃくしゃくなのは構いませんが、節度は弁えてくださいね」

「シャ、シャムロック……」


 鮮やかな銀色の髪の毛を左右で結わえた少女、シャムロックが少し困り顔でそう言っていた。どうやら彼女が残りの敵を蹴散らしてしまったらしい。彼女は可愛らしい見た目に反し、騎士の衣装を纏い、その手には鋭い刃を持つ剣が握られていた。


「す、すみません、姫様。少し調子に乗りました」

「あ、あれのどこが少しよ……」

「ふふ、いいですよ。あらかたは皆さんが片付けてくださったので、わたしは残党を倒しただけです」


 相変わらずの二人にも特に怒った素振りも見せずに悠然と佇むアルカディア王国の王女であるシャムロック。俺は普段のおっとりした雰囲気とは違い、実に勇ましい表情の彼女にすっかり見とれてしまっていた。


「お、お疲れ様、シャムロック。素晴らしい活躍だったね」

「いえ、わたしなんてまだまだです」


 謙遜してはいるが、実際彼女の活躍には目を見張るものがある。今まではほとんど実戦での経験はなかったはずなのに、たった数回戦闘に参加しただけで戦いの年季を重ねている親衛隊のメンバーと並び立つほどの力を発揮しているのは単純にすごいと思った。


「流石は百戦錬磨のわたしの親衛隊です。わたしも早くあなたたちに追いつかないと」


 そう言うシャムロックの表情は実に晴れやかだった。

 シャムロックに褒められ、個人差はあるものの、大方が嬉しそうな表情を浮かべていた。

 それにしても、こうやって全員で戦うようになるなんて、ここに来た当初は全く考えていなかったものだ。

 この世界に初めて来たとき、俺は何一つ持っていなかった……。それが、今やこれだけの人々に囲まれているんだから不思議なものだ。


「どうかされましたか、ハルト様?」

「ん? いや、なんでもないよ」


 俺は少し心配そうに俺を見つめる彼女を見て、彼女と初めて出会ったあの日のことを思い出していた。勇者ハルカが死に、哀しみで満ちていたこの世界で目覚めた俺は、優しさに溢れた銀髪の少女に出会ったのだった。

プロローグの度々の変更申し訳ありません。

一応変更履歴を記載しておきます。

2/20「女装男子の悩み」

3/27 「勇者の死、そして…」

3/28「女装男子の悩み(リニューアルver.)」

これ以上の変更はないように致します。

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