ある師弟の勘違いの恋
何年前かは忘れてしまったけれど、その日は突然だった
まだ幼くてうまく霊力を扱えない私の前にその人は現れたんだ
「悪いですね、よろしく頼みます」
「いえ、ほら挨拶しなさい」
お父さんともう一人の男の人
そのそばに私よりずっと背の高い男の子が立っていた
それからというもの、私は西部家に通い彼に様々なことを教えてもらうことに
霊力の使い方から、札に込める霊力の扱い方、それから他にもいろいろと
多分私が彼を師と呼びんでいたのは、尊敬の意と、私自身の気持ちを隠すためだろう
一緒にいたい、少しでも長く貴方に触れていたい
「ねえ師匠」
「なんだよ」
その声を聞いていたい
ただこの想いは伝えられないまま、月日が流れた
あの日はよく覚えてる
雲ひとつない青空の日だったことを
「…彼女ができた」
習慣化してた簡単な練習後、唐突にそう言われ、私は一言「そうですか」と呟くように言う
それ以外にかける言葉がなかったのだ
おめでとうございます、なんて言えなかったし、言ったら私じゃないんですね、なんておかしなことを口走りそうで怖かった
何時ものように静かな空間が逆に居心地悪く、練習も早々に私は帰路につく
「言えるわけない、だってこれはただの憧れを勘違いしただけなんだから」
まだ明るい中、誰もいないのを良いことに自分に言い聞かせるように何度も何度も繰り返す
この片思いは二度と終わることがないのを、何処かでわかっているくせに
私は今だ、捨てることができていない
彼女は今、彼への想いを捨て新たな恋に踏み出そうとしている