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第七話

「ほらほら、いくわよベイセル」

「ちょ、ちょっとお母様? そんなに押さないでください!」


 部屋でメイド達に手伝ってもらいつつ外出用の準備を終えて、お母様の所へ戻ったらグイグイと背中を押されて屋敷の外へと連れ出された。


「いいからいいから。メイド達、留守はお願いね」

「いってらっしゃいませ、奥様、若様」

「い、行ってきますね!」


 何故かすごく楽しそうなお母様に急かされて、慌ててメイド達に行ってくるとだけ言って屋敷を出た。お母様が先を歩くのに付いて行ったところ、竜籠が待っているのが見えた。そのすぐそばには、御者のような人が立っているのが見える。


「こんにちは。待たせてしまったかしら?」

「いえ。イェールオース家のお二方でございますね? それではどうぞ」


 お母様は予約をしていたようで、他に乗客がいるにもかかわらず、少しだけ待たせてしまったらしい。その乗客というのがこれまた大物のようで、俺はビクビクしているのにお母様は随分平気そうだ。竜籠に乗れるような金持ちっていうと俺の家と同等以上の家格だと思うんだけど、何でそんな平然としていられるんだろうか。そんなに平気なら、対応はお母様に任せよう。


「ベイセル、どうしたの?」


 じっとしている俺のことを心配そうに見ているお母様には悪いが、今の俺にはそんなどうでもいいことよりも気になることがあるんだ!


 それは、今目の前にいる本物の竜超カッコイイ、である。竜籠を運ぶ竜は飛竜だって話だったからワイバーンのような竜を期待していたんだけど、目の前の竜はまさに俺のイメージ通りの竜だった。腕部分が羽になっていて、硬そうな鱗に覆われた大きな体に、長い尻尾のある竜。今は休みの体勢になっているようで翼は折りたたまれていて大きさがよく分からないが、体部分だけでも俺の数倍はありそうだ。あ、俺の身長は1メートルとちょっとくらいだから、5メートルくらいはあるかな。流石ドラゴン。魔物使いとしては、いつか仲間にしたいものだ。


「おおー……!」

「ふふ、竜を見るのは初めてだからかしらね。私の声も聞こえないくらい夢中みたい」

「今は大人しいですが、この竜はあまり人に触れられるのは好かないのでお気を付けください」


 な、撫でてもいいかな。じっとしているし、ちょっとくらい良いよな。

 意を決して、竜のそっと手を伸ばす。


「グルルゥ……」


 俺の手が触れると竜は顔を俺の方に向けてじっと見てきた。おお、すげえ。顔もカッコイイし、感触がスベスベしてて気持ちいいなこれ。


「あ、こらベイセル!」


 じっとこっちを見ている竜と見つめ合う。お母様が何か言ってる気がするが、気にしない。


「グルゥ」

「わ……ぅとと」


 無事認められたのか、俺の顔をひと舐めしたあと、また俺から顔を離して目を閉じた。やっぱりドラゴンはカッコイイな!


「まさかこれは……驚いたことに、御子息様はこの竜に気に入られたようですね」

「流石私とあの人の息子ね。……ベイセル、こっちに来なさい」


 まあそんなことがあったが、乗客の方をこれ以上待たせるのもマズイので竜籠に乗って、早速出発した。竜の魔法で籠を守ってくれるらしく、揺れとかはほとんどないらしい。

 まあそれは良いんだけど。予想通りというべきか、大物が待っていた。


「お初にお目にかかります、ミトゥレ様。イェールオース公爵家三男、ベイセル・イェールオースと申します」

「中々面白いことをしていたようだな、ベイセル殿。よろしく頼む」

『きれーな人だねー』


 待たせてしまったことは気にしていないようだが、先ほどの光景を見られていたらしい。

 この方は第三王女のミトゥレ・アルベルテーヌ様だ。まだまだ八歳とお若いのに、兵士の訓練に参加して兵士達をボコボコにしたり、魔物を討伐したりと、結構なやんちゃをしているらしい。

 前世で言うなら姫騎士って感じ。ああ、まだ子供だからロリが付くか。しかしその実力は確かなもので、既に騎士隊長と一対一で引き分けるほど、らしい。その騎士隊長が手加減していたかどうかは知らないが。どちらにせよ、話題と才能溢れる王女様だろう。

 ちなみにシスは、俺の服の中にいる。普通スライムは人に見せないようにするらしい。シスも俺の服の中にいるのが嫌いではないらしく、進んで入ってきて割とリラックスしているようだ。


「ベイセル殿は随分とお若い様だが、御歳は?」

「ミトゥレ様よりも三つ下の、五歳でございます」


 冷静に考えると、子供の会話じゃねえよこれ。まあ貴族と王族だから、五歳にもなっていればこのくらい出来てもおかしくはない、らしいけど。

 そう、パーティーなんかで恥をかかないようにと、徹底的に叩き込まれるんだ。大抵の貴族が行うお披露目パーティーまでに、まともな言葉遣いと態度が出来るように。俺にはまだ関係ない話だけど。

 貴族って言ったら馬鹿なボンボンがテンプレだろうに、基本的に頭良い奴らが多いんだと家庭教師や両親から聞いた。そのせいで俺も気が抜けないんだよな。もちろん例外はいるらしいが。


「なるほど、五歳か。ならば、学園に通うには早いのではないか?」


 ぶっちゃけ八歳でも早いんだけど。貴族王族なら大抵は十歳からだ。一般の人達ならもっと上の歳で学園に入るのが普通だけど。


「ええ、そうなのですけれど、少々問題がありまして」

「確か、イェールオースの屋敷に賊が侵入したとか言っていたな。それか?」


 何で知ってるんですかねえ。王族の情報収集能力高すぎ。俺が気絶していた時間がどれくらいかは分からないが、それほど時間は経っていないはずなんだけどな。


「ええ、流石ですね。もうそれを知っていらっしゃるとは」

「予想はつくさ。しかし、学園は実力主義だと聞いているが。大丈夫なのか?」


 はいはいテンプレテンプレ。実力主義とかいいながら馬鹿貴族が賄賂で横行してる腐った学園だろ。

 って思えれば良いんだけど。俺の知ってるこの世界の貴族ならガチの実力主義の可能性もある。それはマズイ。

 知識なら詰め込みまくったから大体問題ないけど、戦闘系はな。支援系が歓迎されるとは思えないし、魔物使いとして活動するにはまだまだ弱すぎる。盛大に貶されそうだ。魔物使いってところと無属性ってところと年齢も考えると。


「どうでしょうね。しかし、危険性の高い屋敷にいるよりは安全ではあるでしょうから」


 イジメがあっても死ぬよりマシ。いやまあイジメなんてされた事ないから、全然分からないけど。

 まあ俺は腐っても公爵家。そんな悲惨な事にはならな……あ、これ馬鹿貴族の考え方だわ。


「そうか」


 あ、黙った。何も考えてないとか思われたかな。実際特に何も考えてないけど。

 しかし、王女様とか厄介事の塊だから、出来れば関わりたくはないんだけどな。……あれ、でも、冷静に考えてみると、俺は貴族なんだから同レベルの厄介事はまず確実に付いて回るんじゃないか。むしろ身分の低い相手と関わる方が厄介事になるかもしれない。

 そうなると身分がそれなりに高い人と仲良くならないとダメか。コネ作りのためにも。


「皆様。そろそろ到着いたします」


 お、もう着いたらしい。ちょっと早すぎる気もするが、まあそれが竜籠だ。馬車で2、3日かかる距離でも一時間もかからない。空から行くし、警戒は竜がしてくれるしと、相当の時間短縮が出来るらしい。


「ではミトゥレ様。私達はまだ手続きがありますので、お先に失礼します」

「ああ。ではまたな」


 男前な王女様の言葉に送られ、俺とお母様は先に学園へ向かう。王女様はゆっくり行くらしい。っていうか、手続きって聞いてないんだけど。


「ベイセル、王女様と話していたけど、どうだったの?」

「どう、と言われましても。それほど話をしたわけではありませんから」


 だからそんなニヤニヤした顔で見ないでくださいお母様。何もないから。


「それは残念ね」

「そうですね。ところでお母様。手続きとは、何を?」

「魔力測定と体力測定ね。貴方はまだ五歳だから、どちらも軽くだけどね」


 ついに来てしまった、魔力測定。あと、体力測定も。っていうか、体力測定の方が嫌だわ。俺のステータスは相当低いぞ。


「測定、ですか。あまり自信はありませんが……」

「大丈夫よ。どんな結果でも学園に入れないという事はないから」

「そうなのですか? あの学園はかなりの実力主義だと聞いたのですけど……」

「そうね。あの学園は貴族なら卒業するのが大変なだけで、入るのは簡単なの」


 なるほど、そういう。どうも卒業出来る人は入学した人達の一割にも満たないとか。それなら卒業出来なくてもおかしくない。というかそれが普通だろう。

 わざわざ貴族なら、と付けたくらいだし、一般の人は苦労するんだろう。それと、多少の権力も効きそうで一安心だ。



 学園に着いた所でお母様と別れ、一人行動になった。危惧していた測定は予想以上にサラッと終わり、特に何も言われなかったので拍子抜けだった。魔力測定は不思議な道具で魔力量を調べただけだったし、体力測定なんてしばらく走っただけだ。それでいいのか学園。


「まあ、何事もないのは良い事か」

『いいことー?』


 相変わらずシスが可愛い。しかし、人前で見せるのがダメとは。魔物使いアピールがしにくいじゃないか。次の目標は確か広めることだったはずだし。

 ……そういえば、この世界は魔物使いがかなり少ないって言ってたな。もしや、魔物と一緒に戦うって発想すらない可能性もあったりするのか?

 まあどちらにしろ、魔物使いになる、っていうかなってるわけだし、魔物と一緒に戦うのは決定事項。それを広めるなら積極的に戦ってるところを見せる必要があるか。……ただ、まだ弱いだろうから強くなってからだけど。


「まあしばらくは特訓の日々だな……ん、あれは?」


 見覚えのある後ろ姿を見つけた。どう見てもさっき見た王女様である。さて、声をかけるべきか否か。


「またお会いしましたね、ミトゥレ様」

『さっきの綺麗なひとだー』


 せっかくなので声をかけることにした。コネ的な意味でも、仲良くなっておくのも良いだろう。そう上手く仲良くなれるかは分からないが。


「ん? おお、ベイセル殿」


 声をかけるとこっちに振り返って、笑いかけてくれた。いやあ、覚えてくれていたようで何より。いや、この短時間で忘れてるわけないとは思ってたけど。


「ミトゥレ様。先程までいらっしゃったお連れの方はご一緒ではないのですか?」


 竜籠に乗った時には強そうな執事さんを連れてたけど。鑑定なんてしたら、ばれて睨まれそうな感じの執事さん。


「ああ、学園でまで従者を連れて歩きたくはないからな。帰らせたよ」


 ……帰らせたって。それはダメだろ。

 まあ王女様を置いてさっさと帰るなんて、あの執事さんがそんな事をするわけないよな。


『あの怖い男のひと、ちょっと遠くでこっち見てるよ?』


 うん、やっぱりいるらしい。王女様に気づかれないように警護しているんだろう。

 って、シスはどうやってそれに気づいたんだ? 目の前の王女様ですら気づけないレベルの隠れ方だろ?

 これは、後で鑑定しておいた方が良いか。俺が魔物使いになった事で何かしら変わったかもしれないしな。


「そうですか。しかし、お気をつけて下さいね、ミトゥレ様。いくらこの学園でも、危険がないわけではありませんからね」


 貴族王族が相当数通うこのカーヴェ学園は、安全対策はバッチリ、らしいが。そういう所に限って襲われるからな、フラグ的に。


「分かっているさ」


 それならいいんだけど。まあ王女様はかなり強いらしいし、大丈夫だよな。

 ……フラグにしか聞こえなくなってきた。むしろ俺がフラグ建てた気もする。


「しかし、ベイセル殿。本当にその歳で学園に通うのか?」

「そうですね。心配していただけるのはありがたいのですが、既に決まった事ですから」


 まあ実際、五歳児を学園で寮生活させるとかあり得ないだろうが。ただ、兄様達も既に通っているし、何より。


「それに、本格的に学園で講義を受けるのは三年ほど後になるかと。今回は公爵の権力を使ったテストケース、といった所ですよ」


 現在の学園が前世で言うところの高校や大学のようなもので、それ以前の基礎知識を付けさせるための入学テスト、っていう建前で俺が学園に入れられるらしい。さっき測定してる時に聞かされた。色々身構えていただけに拍子抜けだ。

 まあ、寮生活はするんだけどな。しかも一人部屋。おかげで色々とやりたいことが出来るから、今から楽しみだ。


「なるほど、そうなのか。いや、すまないな。私も随分と似たようなことを言われたから、気になったんだ」


 王女様もまだ八歳だから当然だな。まあこの王女様のことだから、無理矢理押し通したんだろうけど。


「いえ、ミトゥレ様に心配していただけて嬉しいです」

「それは良かった。それで、ベイセル殿はこれからどこに?」

「これから寮へむかう予定です。その後、兄達の元へ挨拶に」


 侵入者の一件、お兄様達も心配してくれたらしいからな。無事の知らせとこれからよろしく、ってことで顔見せだ。


「では寮まで一緒に行こうか。私もこれから寮生活だからな」


 お、美少女から誘われるとは、これで俺も勝ち組か?

 まあ五歳児のことが心配で、ってことなんだろうけど。この王女様はそういう噂は微塵もないしな。俺もそうだけど、婚約者とかもいないらしいし。そもそもこの歳で恋愛は早いだろう。


「ええと……よろしいのですか?」


 しかし、俺がまだ五歳児とはいえ、王女様も歳が近い。俺の身分が低いわけでもないし、色々と問題が……。


「何だ、私の誘いを断るのか?」

「そ、そんなことは! ……では、ご一緒させていただきます」

「ふふ、よろしく頼むぞ」


 なんか弄ばれた気がするなあ。まあ王女様が嬉しそうだから、いいか。


『よろしくねー、綺麗なおねーさん』


 シスも嬉しそうだし。俺も嫌なわけじゃないからな。



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