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第五話


「ではヘルガ。シスの特訓の手伝いを……うん?」


 ヘルガさんの方へ向くと、中庭の入り口からメイド長さんがこっちに向かってくるのが見えた。


「メイド長。どうしたんですか? 随分急いでいるようですが」

「若様。それが……どうやら屋敷に侵入者がいるようなのです」

「侵入者、ですか。お母様は?」


 お父様は仕事で家にいないし、お兄様達は学園の寮に住んでるので、今家にいるのは俺とお母様とメイドさん達だけだ。


「奥様は無事でございます。我々メイドも負傷した者は確認できません。なので、現状はそれほど問題にはなっておりません」


 皆無事か。良かった。


「では、僕はこの場でヘルガに守られていた方が良さそうですね」


 俺がメイドさん達に、手も足も出ないほどに圧倒的な差があると今日理解させられたからな。無謀な真似はしない。

 わざわざお母様の元へ移動するくらいなら、この障害物がほとんどない中庭で守られていた方が危険は少ないだろうし、メイドさん達も侵入者を捕まえるのに集中出来るだろう。


「そうしていただけると助かります。ヘルガ、若様をしっかりお守りしなさい」

「当然です」

『ぼくも守るよー!』


 ヘルガさんもシスも気合十分みたいだし、こっちは心配ないだろうな。


「ではメイド長。後はお願いしますね」

「かしこまりました。では、失礼します」


 そう言ってメイド長は綺麗な礼をして、その場から消えた。……メイド長も出来るのか、それ。こっちに来る時に走ってきたのは、たぶん俺に気付かせるためだろうな。

 しかし、あんなことが出来るなら侵入者もすぐに捕まるな。一安心だ。


「……ベイセル様。お下がり下さい。あちらから何か来ます」

『なにか怖いのが来るよご主人様!』

「何か……?」


 そんなことを思ったとたん、突然ヘルガさんが俺の前に出た。何かを警戒しているようで、ピリピリした雰囲気を纏っている。シスも何かを感じ取っているようで、警戒するようにぷるぷる震えている。

 ヘルガさんが警戒している方に顔を向けると、少し遠くから誰かが歩いてくるのが見えた。ヘルガさんは何かって言ってたから魔物かと思ったけど、見た感じ人っぽいな。


「ども、こんにちは」

「……! 貴方は何者ですか?」


 注目していたはずなのに、気付いたら目の前に立っていた。……この世界はチートばかりなのだろうか。色々と不安になってきた。

 近づいて来たことにヘルガさんすら気付かなかったようで、キツイ声色で問いかけつつ目の前に迫ってきた女にナイフを投げた。……って、何やってんの!?


「おっとと。危ないですねぇ。あ、わたしは天使ちゃんですよ」


 目の前の女はあっさりとヘルガさんが投げたナイフを掴みとり、何でもなかったかのようにそのナイフを捨てて話しかけてきた。


「天使……?」


 近づいて来て分かったが、随分と可愛らしい女の子だ。真っ白な服と背中に白い羽のある、小さな女の子。……羽? それに、天使って。


「可愛いだなんてそんな。当たり前ですよぅ」

「くっ……」


 しかし、さっきからヘルガさんがナイフを投げまくっているんだけど、全部掴み取られている。やっぱりこの世界はチートだらけなのか。


「この程度、大したことじゃないですよ。それより今日は貴方に用事があって来たんです」

「用事ですか? 私は貴女とは初対面のはずですが……」


 しかし、さっきから俺の考えを読んでるような発言を……まさか。


「ベイセル様っ! 敵と話をするなどっ!」

「さっきからうるさいメイドですねぇ。ちょっと黙らせましょうか」


 そう言って目の前の女の子がヘルガさんに向けて手をかざした。その手には異常なほどの魔力が集められていくのが俺にも理解出来た。

 って……オイ、あの魔力はヤバいって! あんな魔力量のものをぶっ放したら最悪屋敷が吹っ飛ぶぞ!


「なっ……待て! ヘルガ、下がってください」

「しかし、ベイセル様! それではベイセル様を身体を張ってでも守ることが……!」

「いいから、下がれ」

「っ……はい」


 ヘルガさんを後ろに下がらせて攻撃をやめさせたおかげか、女の子は集めていた魔力を霧散させた。

 こいつは絶対に機嫌を損ねたらダメなタイプだ。実力でも性格でも。俺達じゃ手も足も出ないから、何とか穏便に帰ってもらうしかない。


「良かったですねぇ、そこのメイド。下がらなかったら死ぬところでしたよ」

「……そうなると僕まで死んでしまうと思いますけど。貴女はそれでも良かったのですか?」

「その時はその時ですよ。この程度で終わるような人間に用はありませんからねえ。それに、大丈夫だったじゃないですか」

「……それで、僕に用事があると言いましたが」

「おっと、そうですそうです。この手紙を届けに来たんですよ。……全く、人使いが荒いんだからあの方は」


 女の子は愚痴を言いつつ俺に手紙を投げてきた。


「……読んでも?」

「ええ、どうぞどうぞ。むしろこの場で読んでくれないとわたしが困っちゃいますよ」


 くそっ、こっちは死ぬか生きるかのシリアスな状況だってのに、向こうは随分と気楽そうだな。

 まあいい、とりあえず手紙を読もうか。俺の予想通りなら、あの人からだろうし。


『少しばかり手が離せないので、手紙で失礼します。貴方の担当になった女神です。転生前に話をしたので、ある程度は覚えているでしょう。さて、今回わざわざ手紙を送ったのは、貴方が第一目標をクリアしたからです。運が良かったですね。中々早く達成したようで、こちらとしても嬉しく思います。目標クリアの報酬を用意しておりますので、この手紙を渡した者からお受け取り下さい』


 手紙の一枚目はこれで終わっていた。予想通り、女神様からだ。むしろ、あれだけすごいことが出来る人が女神様の使い以外だったら俺死んでるだろ。


「なるほど。……手紙に書かれている報酬とは、何ですか?」


 色々気になることはあるが、とりあえず貰えるものは貰っておこう。タダだし。


「あー……ちょーっと待ってくださいねー。えーっと、どこだったかなー……」


 報酬を要求したら、なにやら空中に手を伸ばしてゴソゴソと探り始めた。手の先が見えなくなってるし、アイテムボックス的なものか。俺それが欲しいな。


「これは流石にあげれませんよー。作るの大変だったんですから。……お、あったあった」


 もうあっさり考えが読まれてるな。まあ女神様の使いの人なら仕方ないが。抵抗出来るだけの力も手段もないし。

 探っていた何かを見つけたらしく、見えない空間から手を引き抜いた。その手に持っているのは、一つの大きな卵。


「それは……?」

「ものすごーく珍しい魔物ちゃんの卵ですよ。貴方なら飼い慣らせるんでしょうねぇ。女の子を飼い慣らすなんて……変態ですねえ」


 あの卵は魔物の卵で、しかも女の子らしいが……言い方に気をつけて欲しい。まあわざとそういう言い方をしてるんだろうけど。


「あまりそういう言い方をしないで下さい。ウチのメイドが怒るので」


 ヘルガさんが今にも目の前の女の子に斬りかかりそうな雰囲気になってるから。シスは……何故か照れてるっぽいけど。


「ちょっとくらい良いじゃないですか。ストレス溜まる仕事ばかりで大変なんですよ、天使も。じゃ、この子をしっかり育ててあげてくださいね」

「どうも。……ヘルガ、持っていてくれますか?」

「かしこま「おおっと、ダメですよ貴方が持っていないと」っ」


 ……天使さんが言うには、俺が卵を持ってないとダメらしいが。流石にこれだけの大きさの卵をいつも持っているわけにもいかないしな。

 そして話を遮られたヘルガさんがちょっと不機嫌になってる。後でご機嫌取りをしないとな。


「しかし、これだけの大きさの卵をずっと持っているわけにも……。今は侵入者もいるわけですし。……貴女が侵入者じゃないですよね?」

「当たり前じゃないですか。これでも天使なんですし、いくらなんでもそんな簡単に見つかったりはしませんよ。……まあ、仕方ないですねえ。えいっ」


 天使さんが卵に手をかざすと、卵が何故かカードに変わってしまった。


「えっ……」

「これで大丈夫でしょう。そのカードに魔力を込めれば卵に戻ります。それ以降はカードに出来ませんけど、まあずっとカードのままにしてるとその子に嫌われるので気をつけるんですよ」

「はあ、どうも……。それで、要件はこれで終わりですか? でしたら」

「いえいえ、それがまだあるんですよ。わたしも本当なら帰りたいんですけどねえ。あ、次の手紙も読んじゃってくださいな」


 ……まあ、次の手紙を読もう。


『さて、貴方は見事第一目標をクリアしましたので、次の第二目標も無事にクリア出来ると思っております。第二目標はこちらで決めさせていただきました。その内容ですが、「この世界に魔物使いの存在を広める」とします。未だお気づきでないようなので記しておきますが、この世界では魔物使いという存在は極少数です。では、頑張ってください』


 ……色々問い詰めたいことが増えたんだけど。目標クリアしたら次って。もしやエンドレスだったりしないよな?


「やですね、流石にエンドレスじゃないですよ。まだ序盤なので目標のクリア条件はゆるゆるですし、大した負担じゃないはずですよ? 」


 まあ確かに、目標達成したことに気づかないほどだったけどさ。たぶん第一目標のクリア条件は、魔物と契約して従魔を持つ、とかだったんだろう。


「ほらほら、まだ続きがありますからね。考えるのは後にして、ささっと読んでわたしの仕事を終わらさせて下さいよ」


 天使さんに急かされたので、手紙を読む。逆らうとあっさりやられそうで怖いし。


『追伸。この手紙を読み終える頃には、おそらく貴方の母親が呪われていることでしょう。こちらとしてもその呪いは困りますので、解呪用のアイテムを受け取ってください』


 なっ、呪い!?


「というわけで、コレがそのアイテムです。呪いを解きたい相手に使えばOKです。後悔しないよう、頑張ってくださいな」


天使さんからまたカードを手渡された。何も書かれていない、真っ白なカード。本当にそんな効果があるのか不安になってくるが……今は信じよう。


「……お母様が、なぜ呪いに?」

「あー……面倒くさいバカがちょっかいを出してきたって感じですねえ。あんまり詳しく喋ると怒られるので、聞かないでくれると……」


 ……まあいい。とりあえずはお母様を助けないと。考えるのは後だ。


「行きますよ、ヘルガ。急いでお母様の元へ行かなければ」

「しかし、ベイセル様。あの女は……」

「僕の客人です。ゆっくりしていってもらいましょう」


 後で色々聞きたいことがあるから、出来ればゆっくりしていってほしいが……。


「おろろ、客人といってくれるとは……ありがたいですねえ。でも今日はまだ仕事が残ってるんですよねえ。ですので、帰りますよ」

「……迎えは必要ですか?」

「いえいえ、お気遣いなく。では、また会いましょう。ベイセルさん」


 それだけ言い残して、天使さんの姿がかき消えた。もう瞬間移動がデフォルトみたいになってるんだけど。こんなんじゃチートで俺つえーとか無理だな。分かってたけど。


「……では、行きましょうか。お母様の元へ案内お願いします」

「かしこまりました」


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