四十七話
遅れて申し訳ありません。
「お母様、お父様。それでは私達は学園へ向かいます」
翌日。お母様と遊んだりメイドさん達の話を聞いたりしていると、もう学園へ戻る時間がきてしまった。屋敷の門前に用意してあったらしい馬車の前に俺とルベルトお兄様が立っていて、見送りとしてお母様とお父様、それからメイドさん達数人が来てくれていた。
お母様はともかく、お父様まで見送りに来るのは正直以外だった。まあ、俺でも分かるくらいにお母様のことを気遣いまくっている辺り、そういうことなんだろうが。
「気をつけてね。またいつでも帰ってきてほしいわ」
「はい。近いうちに必ず」
お母様達がいつ王都からウチの領地に帰るのか分からないからなんとも言えないけど、たぶん帰った後になるんだろうと思う。俺はこれから自分で吹っ掛けた試合に集中しなきゃいけないし。
「それでは、そろそろ出発します」
以前屋敷から出た時とは違って慌ただしくもなく、人数的に豪勢な見送りの中、学園に向けて出発した。……お値段的には、一割以下だったりする。
あれからしばらくの間馬車に揺られながら、お兄様達と話したりエインと遊んだりしている内に学園に到着した。その時にお兄様が用事があると言ってさっき別れたので、今は俺一人だ。……いや、もちろんエインは傍で歩いているメイドさんに抱えられているし、シスは相変わらず服の中なので、正確には一人というわけじゃないが。
で、しばらく歩いて今は食堂に来ている。早速寮に帰ろうとも思ったんだが、丁度昼時だし腹も減ってきた気がするからな。とりあえず手近な席に座り、やってきたメイド服のウェイトレスさんに俺にしては比較的軽めの注文をしておいた。ちなみにヘルガさんは、いつものように俺の後ろに立って控えている。
「ヘルガも一緒に食べますか?」
「私のことはお気になさらず、どうぞお食事をお楽しみくださいませ」
つい誘いはしたが、メイドさんが主と共に食事をするのはあまり良くないんだったか。特に今は食堂ということもあってちらほらと貴族っぽい子達がいるし、流してくれて正直助かった。見た目からして目立つからな、俺は。
「ベイセル様、あちらをご覧ください」
不意にヘルガさんがそう声をかけてきた。我が家のメイドさん達は俺が質問すればすぐに答えてくれるが、基本的には俺の意思に任せるというスタンスのようだから、メイドさんの方からこうして声をかけてくるのは割と珍しい、と思う。
「あれは、ミトゥレ様……と、前に会った王子様?」
ともかく、ヘルガさんに促されて向けた視線の先には、ミトゥレ様と一緒に出かけた時に会った王子が同じテーブルについていた。前に二人が話していた時にも思ったが、あまり仲が良さそうには見えない。
「あの方は第四王子のミナリス殿下でございますね」
そうそう、そんな名前だった。前に軽く調べた時には確か、王位継承権争いにはあまり積極的ではない、とかだったっけ。キツイ言動が目立つからあまり人気はないとも言われているとか。
「せっかくご兄妹でお話しをされているのですし、声をかけるのは無粋ですね。そっとしておきましょう」
「……しかし、ベイセル様。お二方はこちらに気づいたご様子ですが」
……確かに、二人ともこっちを見てるわ。この場では一応頭を下げておいて、後で話を聞けば……って、どうして立ち上がってるんですかミトゥレ様?
「ベイセル、帰っていたのか」
「……はい、つい先程帰りました」
迷うことなくこっちに向かってきたミトゥレ様は、一声かけてから俺の向かいに座った。いや、別に良いんだけどさ。あっちの王子様はどうするんだ?
「こちらに来て良かったんですか? あちらの方とお話しをされていたのでは?」
「……ん、ああ。いや、ほとんど話は終わっていたんだ。ただ、私の婚約者であるベイセルに興味があるらしくてな」
……ああ、やっぱりそういう展開か。流石に、良くあるシスコンのように問答無用で喧嘩を売ってくる、なんてことはないだろうが……。というか、あの第四王子様はシスコンなんだろうか? この短期間で二回も会っている辺り、他のご兄弟と比べると交流が多い気がする。まだミトゥレ様と知り合ってたかが一ヶ月程度しか経ってないからなんとも言えないが。
で、その王子様はどうやらミトゥレ様と話をしている間にもうこっちに来ていたらしく、すぐ近くで俺のことをじいっと見つめているのでかなり気まずい。
「二度目だ」
「……? はい、お会いするのは二度目になりますね」
いきなり訳の分からないことを言われたので、とりあえずそれっぽい言葉で返す。相手はミトゥレ様の兄で、正真正銘の王子だ。たかが貴族のボンボンでしかない俺が下手な対応をするのは不味い。……ところで、じっと見るの止めてもらえませんかね?
「兄様。どうぞこちらにお座りになってください」
「……いや、いい。邪魔をしたな」
ミトゥレ様が椅子を引いてくれたが、どうやら座る気はないらしくあっさり断って、立ち去っていってしまった。ようやく視線が離れて、ほっと一息。
「え、ええと……行ってしまいました、ね?」
「そうだな。いつものことだが、ミナリス兄様の行動は私には良く分からなくてな。優秀な人だから、何か思うところがあったのだろうとは思うが」
……いつものことなのか。変人かな?
「それより、ベイセル。試合のことだが……ミナリス兄様の話によると、アルーデ兄様が参加するらしい。それも、私達の敵としてな」
アルーデといえば……ええと確か、第五王子だったか。で、その第五王子とやらは、学園の二年生だとのこと。
「ミトゥレ様がいるのに、ですか?」
「ああ。むしろ私がいるから、かもしれん。私とアルーデ兄様は仲が良くないからな、仕方ない」
仲悪いのか。そういえば、前に家族仲が良くないって言ってたな。
……しかし、そうなるとちょっと困ったことになったな。強さ云々は分からないからなんとも言えないが、試合の仲間集めに関しては不利になりそうだ。ミトゥレ様とその第五王子の人気にどのくらいの差があるのかは知らないが、王子の方が一年は在籍している分味方も多そうだし。ただでさえ五歳児がリーダーってことで人が集まらなさそうなのに、困ったな。
「……ところで、どうしてそれをご存知なのでしょう?」
「ミナリス兄様に聞いたら、調べ物のついでで偶然分かったとのことだが……正直よく分からないな。私としては、わざわざ調べてくれたのだと思いたいが」
こうして知らせに来てくれたわけだからな、と少し嬉しそうに言うミトゥレ様。前に家族仲が良くないと言っていたが、そうではない相手もいるらしい。前に会った時はあんまり仲が良さそうには見えなかったんだが……いやでも、あの時は話を切った第四王子をわざわざミトゥレ様が追いかけていってたし、俺の勘違いだったのかもしれない。
「お待たせいたしました」
と、忘れてたが昼食の途中だった。ウェイトレスさんが静かに料理を運んで来てくれたのを見て思い出した。さて、せっかく頼んだんだし食事を楽しみたいところなんだが、ミトゥレ様を放っておくわけにはいかない。
「私のことは気にしなくてもいいぞ。ゆっくり食事を楽しむと良い」
「ありがとうございます。……ミトゥレ様も食べますか?」
「いや、遠慮しておこう。私は先程食べたばかりだからな」




