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四十三話

 昨日はお兄様との話を終えた後、ミトゥレ様に一日家に帰ることを伝えておいた。どうやら彼女も同じ日に用事があるらしく、俺が出かけるにはちょうど良いタイミングだったらしい。ちなみに、その時にシスとエインにも伝えてある。シスはいつも通り俺の服の中にいるだろうからあまり関係ないし、エインはまだ幼くて分かってなさそうだったが。


 そんなわけで翌日。昨日の内に色々準備してもらっていたヘルガさんに朝早くから起こしてもらって、外出の用意を整える。普段の朝練のために起きる時間と同じくらいなので、思っていたよりは眠くない。ちなみに、今日の朝練は中止だ。どっちも用事があって忙しいからな。何となく調子が狂うので、どこかのタイミングで軽く身体をほぐす程度の運動が出来れば良いなと思ってる。


「そういえば、今日はミトゥレ様も用事があるんですよね?」

「そうだな。ただ、ベイセルとは違って学園から出る訳ではないがな。少しばかり外せない用事が出来たんだ」


 俺よりも早くに起きていたミトゥレ様は、既に私服に着替えてゆったりしていた。用事があるということだが、流石に俺よりも早くにということはないらしく、こうして(メイドさんに任せていて暇な)俺に構ってくれてるというわけだ。


「もう出るのか?」

「はい、お兄様が迎えに来ればすぐにでも。せっかく家に帰るので、早めに行こうということになりまして」

「そうか。しっかりご両親に甘えてくるといい」

「……どうして頭を撫でてるんですか」


 構ってくれてるとは言ったが、そういう構い方は恥ずかしいからやめてほしいんだけど。……というか、前もあったなこんなの。


「嫌か?」

「…………楽しいんですか?」

「ああ、楽しい」

「……そうですか」


 本当に楽しそうに微笑みながらずっと俺の頭を撫で続けるミトゥレ様。こういうことを遠慮なくしてくるようになった辺り、仲がよくなったと思うべきか。


「ベイセルは、家族と仲が良いんだったな」

「他の家族がどうかは分かりませんが、僕は仲が良いとは思ってます」


 我が家には妾とかいないし、一番上のクヴィスお兄様が家の跡継ぎ、ルベルトお兄様がクヴィスお兄様のサポート兼保険、と役割が決まっていて、二人ともそれに納得しているらしいから、よくあるお家騒動のような問題は起きていない。……たまに喧嘩はしてるけど。それに対して俺は、上二人のお兄様と歳がかなり離れているから、のんびりまったりやってる感じだ。一応俺は政略結婚に使われたということになるが……まあ、うん。問題ないし。


 逆にミトゥレ様の家はあまり仲がよろしくないらしいが。王家ともなると王位継承権だとか第何夫人の子供だとかそういうアレコレで、相当ドロドロしてそうだ。ミトゥレ様と婚約している以上、いずれ考えないといけないんだけど……関わりたくないな。


「……良いことだな」


 こういう沈んだ顔を見ると何とかしたくなるが、俺に出来ることでもないだろうし……。


「ベイセル、準備は出来てるかい?」


 部屋の外からお兄様の声が聞こえてきて、俺達は話を中断して顔を見合わせた。どうやら時間切れらしい。


「時間が来たみたいですし……では、行ってきます」

「……ああ、行ってらっしゃい」


 彼女は一瞬きょとんとした後、笑顔でそう言ってくれた。





「……ええと、馬車で行くんですか?」


 お兄様達と合流して、学園の出入口にある受付に来た。手続きはメイドさんにお任せだ。お兄様は挨拶も兼ねて婚約者と一緒に帰るらしい。頑張れ二人とも。


 まあそれは良いんだけど、問題は目の前にある無駄に豪華な一台の馬車。我が家の家紋があるから、これに乗ることは間違いないんだろうが……。


「そうだよ。歩いた方が良かったかい?」

「そうですね。家に帰るだけで、これというのは流石に……」

「わたくしも、これは少し……」


 前に学園外に出た時に乗った馬車とは違って装飾が多すぎてこんなのに乗ると思うと恥ずかしくなってくる。実際、高級なものなんだろうことくらいは分かるが、道を塞ぐほどではないとはいえ、それなりに大きいから通行の邪魔になるのは間違いないだろうし……こんなのに乗って行くとか恥ずかしい。少し前にどこぞの王子様が似たようなことをしていたが……。


「ベイセルも公爵家の三男だからね。こういうことにも慣れていかないとダメだよ。ロシェも僕の婚約者なんだからさ」

「……分かっています」

「分かっていますわ」


 それは確かにそうだろうけど、お兄様が平然としてるのがちょっとだけ苛つく。様になっているから余計にそう思う。あと、堂々とロシェルお義姉様といちゃつくのはやめてほしい。ものすごく気まずいから。


「大丈夫だよ、ロシェ。僕がついてるからね」

「ルベルト様……」


 あ、ちょっと抱き合わないでそんなに広くないんだからどうしても目が行くじゃないかせめて隠れてやってくれ!





 ちょっとした苦難の時間を外の景色に集中することでなんとか乗り切り、貴族街にある屋敷の前で馬車が停まった。いかにも貴族の屋敷だと言わんばかりの大きな家だ。


「おかえりなさいませ!」


 馬車を降りて門をくぐると、メイドさんと執事さん達が両サイドにずらっと並んで、一切乱れることなくお辞儀をしていた。アニメではよく見る光景だが、こうして実際に目の当たりにすると……かなり圧倒される。


『おおー、すごいねご主人様。カッコイイ!』

「……あの、お兄様。これは……?」


 シスがキラキラした目で並んだメイドさん達を見ている気がした。返事をするわけにもいかないから、お兄様へ話を振る。……しかし、この光景に影響を受けて真似しすぎないと良いけど。シスとエインにはそういう立場を求めてるわけじゃないし、お遊びの範囲内で済ませてほしいところだ。


「ええと、たぶん母様の手配だろうね……。僕達が今日帰ることは事前に報告したから、気合いを入れたんじゃないかな……?」


 苦笑を浮かべたまま、久しぶりの帰宅だからね、なんて呟いてお義姉様と腕を組んだまま普通に通る。お兄様はどうやら俺と違って、この光景にそれほど気圧されてはいないらしい。お兄様が普通に通っているのに俺がまごついていても仕方がないので、出来るだけ意識しないようにしてついていく。


「僕とロシェはこれから父様の所へ行ってくるよ。ベイセルはどうする?」

「お母様に会いに行きます」


 ただ、この広いお屋敷に一人だと絶対迷子になるだろうな、と思う。それはそれで探検みたいで楽しそうな気はするが……心配をかけるだろうし、やるにしても後でだな。


「それなら、メイドを捕まえて案内をしてもらうと良いよ。……頑張ってね」


 ちょっとばかり不安になるような言葉を残して、お兄様達は二人で先に行ってしまった。……何を頑張れって言うんだ。


「……とりあえず、行きましょうか。案内お願いします」

「かしこまりました」


 並んでいた内の一人のメイドさんに案内を任せることにした。ちなみに、ヘルガさんはお兄様と同じくお父様の所へ行った。俺付きのメイドさんではあるけれど、雇っているのはお父様だし報告するのは当然だろう。


 メイドさんに連れられて、目指すはお母様のいるところ。ちょっとした探検気分で出発だ。



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