三十九話
「お二人とも何となく察してくれているみたいですが、一応説明を。僕と彼の主張を明確化させ、学園の全生徒にどちらかに付いてもらうんです。そして、全生徒で試合をします」
簡単に言えば、全生徒を巻き込んだ大乱戦でもしようかなと思っている。俺一人で戦うよりは色々出来るだろう。
「ちょっ……そんなことしたら」
「落ち着きなよ、副会長。この話は僕達にとっても都合が良いと思うよ。今まで問題だった事のいくつかを、とりあえずの決着が付けられる」
大人数で戦えば紛れるのも簡単だし、横槍が入るのも当たり前、ついでにこういうお祭り好きそうな学園なら参加者も多く許可も取りやすいだろうとか、そんなことを思いついたわけだ。トラブルも当然起こるだろうが、その辺りはお兄様達が何とかしてくれると信じてる。
「当然、お兄様と副会長は僕の方に付いてくれると思っています」
「僕達がベイセルの側に着くのは確定なのかい?」
「だってお兄様言ったじゃないですか。相談に乗ってくれるって」
「……そういう意味で言ったわけじゃないんだけどね。元からベイセルと敵対する気はないから、構わないけれどさ」
苦笑いになりながらも、ちゃんと味方をしてくれるようで一安心だ。お兄様と敵対するなんて勝てる気がしないし。
「ルベルトくんはそれでいいでしょうけど、わたしはねぇ。あの子と敵対したいわけでもないし、かといって君達とも敵対はしたくないし……まったく、悩ましい問題を持ってきてくれちゃって!」
そういえば、彼は副会長の弟だったったけ。……そう考えると、俺と立場が少し似てるかもしれない。貴族の位も同じだしな。
「……でしたら、参加していただかなくとも大丈夫ですよ。僕としては、お兄様の言質を取っただけでも十分な成果だと思ってますから」
敵対したくないってわざわざ言ってくれたし、無理に味方につけなくてもいいかな。いくら僕と彼とで対立したところで、どうでもいいと思う人はいるだろうし。全生徒とは言ったが、正確には一対一にならない程度の大人数になるなら問題ない……と、思う。
「参加するのは全生徒じゃなかったの?」
「正直、全員が全員参加してくれるとは思ってません。抑え役も必要でしょうし」
あくまでも試合だから、大怪我をしないように見張りは必要だろう。教師はむしろ煽りそうだから頼りにならないし。
「それと、彼へのメッセンジャーをしてもらおうかと。試合のルールを決めるのに、僕の側だけで進めるわけにはいきませんから」
俺が勝手にルールを決めるのは流石によろしくない。あくまでも学生同士の試合という体裁は保っておかないと、後に影響するかもしれない。俺達公爵家貴族だからな。それに、先んじて決めておかないと向こう側の人がメッセンジャーになっても困るし。かといって露骨に俺側の人を選んでも角が立つ。ということで、立場的に中立な副会長さんがやってくれるのがありがたい。
「そうね、分かったわ。……私一人だと大変だし、会長も中立に引っ張ってこないと。それからあの子が話を聞いてくれるようにお土産持っていかないと……ああもう」
副会長はぶつぶつ呟きながら、どこかへ行ってしまった。
「……申し訳ないことをした気がします」
大変な仕事を押し付けてしまったかもしれない。どっちに着くかの板挟み状態を解消してもらうための提案だったんだけど……余計なお世話だったかな。受けてもらえたのは助かるけど。
「彼女はいつもそういう役だからね。むしろやる気になってるんじゃないかな?」
「……今後はもっと優しく接しようと思います」
今度お礼を持っていこう。何か美味しい食べ物でも用意して、ゆったり食事したりとか。
「ともかく、まずは互いの主張を明確にする場を作りましょう。あまり気は進みませんが、ミトゥレ様との婚約の賛成派と反対派で分ければ良いかと思っています」
そうすれば、今後余計な横やりが入ることも少なくなるだろう。例えば、俺との婚約を認めたくない貴族とか。完全になくなることはなくとも、牽制にはなるはず。少なくとも学園内でそういうことはなくなるだろう。……負けたら不味いけど。
「それだとベイセルの味方が少なくなるんじゃないかい? 婚約を反対する者は多そうだよ」
「……といっても、他に良い主張もないと思いますが。僕達と関係あることでないと向こうが納得しないでしょう」
関係あることでも、しょうもないことなら他の生徒が参加しないだろう。お兄様を含め、上級生を巻き込むならそれなりに重大なことじゃないといけない。同学年だとこっち側についてくれそうな人はほとんどいなさそうだし、そう考えると良さそうなものがほとんどないんだよな。
「……もしかして、ベイセルは王女様との婚約は嫌かい?」
「え? いえ、そんなことはありませんが……どうしたんてすか突然」
むしろ、最近は少しずつ仲良くなり始めてるから、今さら取りやめられると困るんだけど。え、まさかそういう方向に話が進んでたりはしないよな?
「いや、それならいいんだ。我が家では珍しく政略結婚として事が進んでるから、ちょっと不安になっただけだよ」
そういえば、お兄様達もお父様も恋愛結婚だったらしい。相手の方が身分が低かったり貴族じゃなかったりするのはウチの家系の恒例行事のようなもので、今の俺のような政略結婚は珍しい。その機会に、身分の違いやら何やらの厄介事を解決出来るだけの力を付けろという教育方針のようなものなんだとか。
「王女様との婚約についてはちゃんと進んでいるから、安心して良いよ。公式に発表してないとはいえ、そう簡単に取り消したりは出来ないからね」
それもそうか。もし取りやめになるなら、まず真っ先に同じ部屋で生活出来なくなるだろう。
ただ、これから起こす予定の試合に負けたら婚約解消になってもおかしくない、かもしれない。正直リスクは高いが、リターンも結構ある。俺が勝てば、今後の学園生活である程度は認められるだろう。そうなれば堂々と魔物使いとして動ける可能性も増えるし、ミトゥレ様やお兄様と一緒にいても周りからのやっかみの声は少なくなるだろう。加えて実績づくりにもなるし、神様からのミッションもこの試合で魔物使いとして動けば達成出来るんじゃないかとも思っている。
そんなわけで、割とリターンも大きい。何より一人で戦うわけじゃない。それから、わざわざ大人数を巻き込んだ試合として行うからには、相応に準備期間も必要だろう。つまり、俺と魔物達の修業時間の確保も出来る。他にも、罠……は後が面倒そうだからやめておくが、情報収集やら何やらと、やれることは多い。
「ベイセル、そろそろ授業が終わりそうだよ。僕は生徒会室に行くけど、どうする?」
「……今日はやめておきます。ミトゥレ様に話しておかないといけませんし」
後で生徒会長さんに話を通しておかないといけないだろうけど……まあそれは彼も巻き込めばいい。それよりも、ミトゥレ様に話して了承をもらう方が先だ。貴女を勝利者報酬にする、とでも言ってるようで気が引けるけど、誤魔化すよりはマシだと思いたい。




