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三十七話

 ここ最近は毎朝のことだが、朝練終わりに風呂に入った後はミトゥレ様と一緒に登校している。同じ部屋に住んでいて目的地も同じなのに、わざわざ別々に行く理由もないからだが……今日はちょっと別々に行った方がよかったかもしれない。


「…………」


 ミトゥレ様は王女様だし、俺は公爵家貴族でしかもこの歳だ。どうしても目立つのは仕方ないとして、いつもなら結構微笑ましい感じの見られ方をしていると思ってるんだが……今日はどうも違う感じがする。なんというか、いくつかの視線がキツい気がするんだ。ミトゥレ様も流石に気になるのか、今日はいつもよりも口数が少ない。


「今日は授業を見に来るのか?」

「ええ、そのつもりですが……ダメでしょうか?」


 普段とそう変わらない口調でわざわざそう聞いてくる辺り、ミトゥレ様も心配してくれているんだろうけど……俺が行っても周りがうるさくなりそうなのは理解しているが、どうせ行かなくてもうるさくなるだろうことは予想できる。そして、行かなかった方が面倒そうだから行く。


「そんなことはない。……ベイセルが良いなら良いんだが」

「僕は大丈夫ですよ」


 ヘルガさんがいるから危険はまずないし、基本的にミトゥレ様以外とは俺から話をすることはないから取り立てて大きな問題はないだろう。今は寝ているが、シスもエインもいることだしな。


「おっと、もう着いたか。ベイセル、また後でな」

「はい、また後ほど」


 校舎の玄関に着いたので、ミトゥレ様と別れてそれぞれの教室に向かった。




 どうも俺が受ける最初の一ヶ月程度の授業は今まで先生が家庭教師の時に教わったものの復習が主なものらしく、多少気を抜いて受けられていた。朝練終わりの疲れはてている状態にはありがたい。


 そんなわけで、多少元気が出てきた状態で俺の授業が終わったのが昼時。ミトゥレ様の授業を見に行く前に昼食を食べようと食堂までやって来た。俺のように毎食食べる人は実はそんなに多くないので、ミトゥレ様と一緒に食べることはあまり多くなかったりする。毎日食堂に来る人達を見ていると、大体三日に一回くらいが平均的だと思う。前世感からすると健康に悪そうだが、むしろここの人達の方が健康だったりする。魔力ってすげー。


「やあ、ベイセル。今日も昼食かい?」

「あ、お兄様。お兄様も食事ですか」

「ベイセルほどは食べないけどね。座っても良いかい?」

「はい」


 お兄様は俺に挨拶をした後、俺が座っていた席の向かいに座った。机の上には相変わらず俺が注文した料理がずらりと並び、それを見たお兄様は若干引きつった笑顔になっていた。……美味しいし食べても苦しくないし太らないんだからいいじゃないか。


「そういえば、副会長さんが言ってましたよ。お兄様が色々探ってるって」

「……ああ、そのことかい?」


 今妙に間が空いたけど……まさか言うの忘れてたとかじゃないよな。お兄様の表情が徐々に硬くなっていってるのが不安になるんだけど、あのお兄様がまさか、ねえ。


「……忘れてました?」

「……内緒にしておいてくれるかい?」

「僕は良いですけど。友人は大事にした方が良いと思いますよ、お兄様」

「ははは、面目ないね。……そうだベイセル。聞いたよ、昨日は大騒ぎだったんだって?」


 露骨に話をそらしたな、今。まあわざわざ問い詰める意味もないし、乗っかっておくけども。これだけあからさまな態度のお兄様も珍しい。


「試合を申し込まれて、引き分けただけですよ。この学園ではそれほど話題にあげるようなものでもないのではありませんか?」

「確かに模擬試合はよくあるけどね。条件も結果も特殊だったから注目を集めてるんだよ。ベイセルはまだ幼いし、子供とはいえワイバーンと一緒に戦ったことでね。今までそんなことをした子はいないから」


 やっぱり模擬戦はよくあることらしい。しかし、歳はともかくエインの方は……確か竜騎士っているんじゃなかったっけ? 俺ぐらいの歳だと前例がないってことかな。魔物使いとして認められた……のは流石にないだろうけど、下地は出来たと思えば全然アリだ。これで後は、『竜と一緒に戦う』から『魔物と一緒に戦う』にシフトしていけばいい。そんなに上手くいくかって言われると微妙だが……まあ、妄想は自由だろう。


「そういえば、あのスライムとは一緒に戦わなかったのかい? いつかの朝に鍛えてたよね」

「あ、ええと……シスは奥の手として服の中に隠れててもらってました。出番がなかったので、残念がってましたが」


 出し惜しみはダメだったと思うべきか、あの武器にやられる事がなくてよかったと思うべきか。


「なるほど……流石ベイセルだね」

「……そんなことはないですよ。メイドに任せて逃げてきたんですし。……んむ」


 試合結果を思い返すと恥ずかしくなってきたので、食事に集中することで会話から逃げることにした。お兄様はそんな俺を見て苦笑いを浮かべただけで済ませ、一緒に食事を始めてくれた。



 十分ほど黙々と食事をして、俺が食べ終わるくらいにお兄様も自分で注文した食事を食べ終わっていた。もちろん貴族である俺達が食事中に会話するのはマナー的によろしくないので、静かになる。……いや、口の中にものが入ってないなら別に喋っても良いんだけど、俺の方は量が量だから常に食べてる状態なわけで。俺達は食べ終わるまで静かになっていた。


「ところでお兄様。僕の評判はどうなっているか分かりますか?」


 俺じゃあ調べられないことを聞いてみる。あまり良い評価ではなさそうだが、どうせこの後ミトゥレ様のところへ行くんだから少しくらい聞いておかないと。


「うん、分かるよ。一、二年生と上級生で評価が別れているみたいだ。情けない子供って意見と、すごい子だねって意見が多いかな。大体半分ずつくらい。もちろん上級生が後者だよ」

「……もっと批判的だと思っていましたが、意外と肯定的な意見もあるんですね」


 思ったよりもマシなんだろうか。五歳児だから見る目が優しいってのはあるんだろうけど。特に上級生の方が肯定的ってことは、それだけ子供を見るような目線なんだろうな、と思う。


「入学してから一、二年の子達の多くは突撃思考な子が多いんだよ。だから負けたら情けないって意見が多数だね。それより上になってくるとそれだけじゃ敵わなくなってくるから、ベイセルが負けずに引き分けに持ち込んだことを評価する人が多いんだ」


 突撃思考と言われるとしっくりくる。特に俺と試合したバロールさんとか、ミトゥレ様の同級生とかはまさにそれだし。元気があって良いと思う反面、脳筋っぽくて面倒くさい。


「ベイセルなら大丈夫だとは思うけど、何かあったら僕かロシェか……あとは副会長になら大丈夫かな。言ってくれれば何とかするから、あまり気にしなくても良いと思うよ」

「……どうしようもなくなったら言いに行きます」


 頼りすぎるとまた面倒な事態になるだろうし、俺が解決出来るならそうする方が良いだろう。正直、大したことにはならないと思うけど。

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