三十四話
ブクマ100人到達感謝です。
「申し訳ございませんでした、ベイセル様」
食堂のおばちゃん達に注文した後、食事を持ってきてくれるの待っている間にヘルガさんが勢いよく謝ってきた。聞くまでもなく、さっきの試合に割って入ったことなんだろうけど。
「気にしなくて構いませんよ。あの時点で既に試合ではなくなってましたから」
あんな槍を持ち出した時点でルール違反だと思う。というか、試合には模擬戦用の武器を使わなきゃいけないはずなんだが。
「しかし、あのような去り方をしてしまっては……」
「それは仕方ありません。あの試合はどのみち、負け試合でしたから」
冷静になって考えてみると、何で俺はあんな試合を受けたんだろうか。相手はミトゥレ様ほどではないにしても優秀な人で、俺より五歳か六歳くらい年上、公爵家の長男で、人望も結構あるらしい。……勝ち目ないなこれ。色んな意味で。
「そんなことよりも、あの槍の方が気になります。ヘルガが思わず試合を中断させようとするような代物だったんですよね?」
「はい。少なくとも、学生が持つようなものではないことは確かです」
明らかにヤバそうだったしな、あれ。にしては、あっさり攻撃を消し去ってたけど。
「試合で使うようなものではないということですよね。それに加えて相手が僕のような幼い子供だということを広めれば、多少の評判はどうとでもなりそうではありますか……」
問題は誰がそういった噂を広めるか、だ。俺やヘルガさんは当事者だから余計悪化させそうだし、ミトゥレ様やお兄様では目立ちすぎてそっちの評判が落ちそうで頼むに頼めないし。
「失礼いたします。ご注文の品は以上でよろしいでしょうか?」
「あ、はい。これで全部来ました」
「かしこまりました。では、ごゆっくりどうぞ」
そういえば、ここの食堂ってメイドさんがウェイトレスだったっけ。いつの間にか俺の座ってる席には美味しそうな食事が並んでいた。
「とりあえず、食べましょうか。ヘルガもどうです?」
「……ご冗談を。メイドが主と食事を同席するわけにはまいりません」
予想はしてたけど、やっぱり一緒に食べてはくれないらしい。確かに正面にメイドさんがいて一緒に食べるなんて違和感のある光景だとは思う。仮に一緒に食べることになったら、緊張してまともに食事が出来なくなりそうだ。
残念ながら断られてしまったので、一人で黙々と食べ始めることに。しかし、自分で頼んでおいて言うのもなんだが、相変わらず量が多い。もちろん全部ちゃんと食べられるが、前世では考えられないような大食いになったなと思う。
「ルベルトくんから聞いたことはあったけど、本当にたくさん食べるのね、弟くんは」
「……むぐ?」
食べている途中で、声をかけられた。顔を上げれば、俺の正面にある椅子の背もたれに手を置いて、前かがみになってこちらを見ている知り合いの女の人。食べながら話すのはどう考えてもマナー違反なので、口の中にあるものを急いで飲み込む。
「……ん。副会長?」
「相席してもいいかしら?」
「ええと……はい、どうぞ」
さらっと言われた問いに、何も考えずに反射的に答えてしまう。ヘルガさんは副会長が来た時には俺の後ろに立って控えていた。……今更だが、副会長の家ってスェイロ家だったよな? で、さっき試合したバロールさんもスェイロ家……あ。
「聞いたわよ、弟と試合をしたんでしょ?」
「……彼とはご兄弟だったのですね」
「ええ、わたしの異母弟よ」
異母……貴族だし、妾の子とかそういう話かな。どっちがどっちかは分からないけど、どっちにしても男のバロールさんの方が立場が上そうだ。貴族社会って、基本的には男社会だからな。
「それで、その彼の姉である副会長が僕に何のご用でしょうか。文句でも言いに来ましたか?」
「そんなに挑発的にならなくても大丈夫よ。弟がごめんなさいね」
「……いえ、こちらの方こそ、申し訳ありません」
まさか謝られるとは思ってなかった。むしろ責められるかと思って身構えていたから、申し訳なくなってくる。それでもお互いに頭を下げない辺り貴族らしいと言えるか。家格的には同格だから、下手な行動は例え子供同士だとしてもよろしくない結果になってしまう。それなりに人の多い食堂のような場所では特に。
「……しかし、あの試合のことをもうご存じなのですね。つい先程の話なのに」
「これでも副会長だもの。学園内で起こった出来事なら大抵は把握しているわ」
……要するに、学園内は監視していると。そんなことが許されているのは、前世の一般的な学校と違って、生徒達の力が色んな意味で強いから自治の意識が強い、というのがあるかもしれない。この学園が実力主義で、生徒の自主性に任せる風潮があることも理由の一つか。
「一応聞いておきますけど、生徒のプライベートなことまでは把握していませんよね?」
「流石にそこまではしないし、出来ないわ。それをやるには把握しなきゃならないものが多すぎるし、わたしの実力的にも厳しいもの」
ならいいか。……良いのか?
「あの子に言って再試合をさせることも出来るけど……どうする?」
「あの試合は僕の負けですからね。メイドに任せて逃げなかったとしても、勝てはしなかったでしょうし」
二回目で負けたら、それこそ言い逃れが出来なくなるし。今ならまだ、メイドさんが勝手にやっただとか、年齢差的に実力差があるのは当然だとか、そういう言い訳が出来るから、そのままにしておきたい。
「そもそも五歳の子相手に本気で戦う時点でダメよ。貴方もそう思うでしょう?」
「そうですね。もっと加減してほしかったとは思いますよ」
「あら、てっきり怒るかと思ったのに。子供扱いするな、なんて」
「まだ子供ですから。僕自身はそこまで強くもないと思っていますし」
っていうか弱いし。普通の五歳児よりは強いとは思うけど、そもそも戦闘向けのステータスじゃないし。魔物使いとして考えても、シスですら1ヶ月にも満たない程度しか鍛えてないんだから、弱くても当たり前。
「弟くんは立派ねえ。それに比べて、最近のあの子は考え方が単純になってきて困ってるのよね。武人としてならそれでも良いのでしょうけど、あの子は貴族の長男だもの」
強かったら偉いだなんて考えてるのよ、と疲れた顔で愚痴る副会長。まああの人若干脳筋っぽかったし、家族としては色々心配事もあるだろう。
「……そういえば、この間の事件って何か進展があったんですか?」
一週間は経ったんだし、何かしら分かっててもおかしくはなさそうだけど。
「残念ながら、あまり進展はないわ。ルベルトくんが積極的に調べてるみたいだけど、まだ報告はないみたいね」
お兄様が調べてるのか。気になるし、後で聞いてみようかな。あんまり首を突っ込むと危ないだろうから、ほどほどにしておくつもりではあるが……。
「最近ルベルトくんがわたしの家を色々調べてるみたいなのよ。貴方からも彼に言ってくれないかしら」
「以前聞きましたけど、お兄様は副会長のことは疑っていなかったと思いますが……」
家のことは疑ってた気もするけど。
「それなら嬉しいのだけどね。それじゃ、わたしは帰るわ。食事の邪魔をしてごめんなさいね」
後でお兄様のところへ行くとして、まずは食べよう。話をする間は食べれなかったから、まだまだたくさん残ってる。
「……ヘルガ。もう一度聞きますけど、一緒には食べませんよね?」
「はい、申し訳ありません」
しょうがない、ゆっくり食べるか。




