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三十三話

 辺りに土埃が舞っている中、俺とエインはその中心から出来るだけ離れたところから警戒を続けている。これで終わりだったら楽で良いんだけど、この場の雰囲気からしてそんなことはなさそうだ。


 抱えたままのエインをゆっくり下ろす。ずっと抱えるなんて俺の体力的にも最近大きくなったエインの重さ的にも無理だ。


「付与『囲』『威』『増』」


 せっかく少し距離をおいたことで余裕が出来たので、ここで付与魔法を使って威力アップだけでもしておく。本当ならもっと色々使いたいところなんだが、魔力節約のために控えめにしておこうと思う。俺自身の魔力量は多い方ではあるが、残念ながらまだまだ未熟なせいか付与魔法の消費量が結構高いので、乱用するとあっという間に使えなくなってしまう。


「きゅっ!」

『ご主人様、何か来るよ!』


 魔物達の警告に従って身構えると、土埃の中から小さな声が聞こえてきた。


「『ゾ・イル・レジエ・ラ・ムグィル』」


 ――――詠唱!


「――ッ! エイン、火の玉!」

「きゅおっ!」


 土埃の中からビームじみた太さの熱線が飛んでくる。かろうじて間に合った指示のおかげが、直撃することはなかった。


 ただ、エインの火の玉は少しばかり溜めが必要なようで、出だしが遅れてしまった。そのせいでかなりこちらに近い位置で衝突してしまい、その爆発でまたしても俺は吹き飛ばされてしまう。


「……っ」


 今度は転げ回らなかったが、代わりに尻もちをついた。しかも、さっきはエインを抱えていなかったせいで別方向に吹っ飛ばされてしまい、エインとの距離が離された。位置的には俺とエインとバロールさんで正三角形が描ける感じ。絶妙な距離のせいで迂闊に近寄れもしない。


「やるではないか、貴様。まさかこの槍を使わされることになるとはな!」


 勢いよく吹き上がった青い炎が土埃を吹き飛ばし、相手の姿がよく見えるようになった。何故かその手には、さっきまで使っていた模擬戦用の槍ではなく、持ち手の両端に大きな矛先がついた、ゲームにありがちなカッコいい槍を持っていた。どう見ても強そうで、明らかに俺程度の相手に使うようなものじゃない。


「…………ダメージなさそうですね。むしろパワーアップしてそうですよ、アレ」

『どうするのご主人様? ぼくが出る?』

「……いえ、まだ早いです。どうしても防御しなければならない攻撃が来たときか、僕が指示した時でお願いします」


 彼の持つ槍の先端からも、先程吹き上がった時と同様に青い炎が溢れだしていた。というより、さっきの青い炎もあの槍から出ていたんだろう。魔法も使わずに炎が出る武器なんてどう考えても模擬戦で使うような武器じゃないし、それどころか戦闘特化な冒険者ですらほとんど使えないだろう。あのレベルの魔法を槍が平然と放つなんて超高価な魔道具でしかあり得ない。



 いつだったか、クヴィスお兄様に見せてもらった魔剣を思い出す。昔の英雄が封印したとか言われているその魔剣は、我が家に厳重に保管されているもので、包帯か何かでぐるぐる巻きにされているにも関わらず、近くにいるだけで恐ろしいと感じてしまった。あの槍からは、あれと同じくらいの威圧感を感じる。目が離せなくて、思わず鑑定をしてしまう。


 異界の双槍


 ――の―が―――――――槍。

 ――封―――――り、――の―――――せない。

 製作者―――。



 鑑定結果は、今まで鑑定した中でも見たこともない文字化けまみれの文章だった。どう考えてもヤバイ代物だと言わんばかりの表記だ。


 これはどうにかして逃げなければ。あれの攻撃を食らえば死んでしまいそうだ。とは言え、当人に文句を言っても「我ならば扱える」とか言われそうだし、教師は面白そうとか言って続行しそうだし、ミトゥレ様に頼むのは気が引けるし……あれ、ミトゥレ様の近くにいたはずのヘルガさんがいない?


「ベイセル様、お下がりください」

「……ヘルガ?」


 うおっと目の前に。家のメイドが神出鬼没なのは今更なので何も言わないが、正直ナイスタイミングだ。いやまああんな代物を出されて中断しないわけないよな、俺の護衛役も兼ねてるわけだし。


「きゅぅぅ……」


 ヘルガさんはエインも回収してきたらしく、だらんとした格好で抱えられたエインが目を回していた。抱えられたまま瞬間移動じみたスピードで動かれたんだろうし、それも仕方ない。


「これ以上の戦闘は、ベイセル様のメイドとして認めるわけには参りません」

「使用人が決闘に割って入るな!」


 怒声とともに、突き出された槍から青い炎が俺達に襲いかかってきた。


「……ヘルガ」

「お任せを」


 どうせ俺にはどうしようもないので、ヘルガさんに任せることにした。無茶ぶりかなとも思ったが、彼女は事も無げに答えて襲い来る青い炎に向かって、手に持ったナイフを振るった。


 たったそれだけで、青い炎はあっけなく消え去り炎の向こうにいたバロールさんも吹き飛んで転がっていった。


 ……マジチート。


「帰ります。エインを」

「かしこまりました」


 ヘルガさんにエインを任せ、俺はこの場から逃げるように背を向ける。


「おい、逃げるのか!」


 これ以上戦闘していたら、最悪死んでしまいそうな気がする。あのバロールさんはあの槍を詳しく知らないんだろう。あんな文字化けだらけの怪しい武器、知ってたら持とうとも思わないはずだ。



 というかそもそも、あれがなくてもあのまま戦う気は起きない。俺達のまともな攻撃手段はエインの火の玉だけだ。俺のへなちょこ攻撃なんて効きもしないし、シスの攻撃ならエインのものと同じくらいの威力があるが、まともに戦うならシスに相手の攻撃を捌いてもらわないといけないから無理。エインは接近戦があまり得意ではないみたいだから遠距離型なんだが、まともに使える遠距離攻撃は火の玉のみ。俺の付与魔法によるゴリ押しで辛うじてしのいでいたが、正直ギリギリだった。



 逃げたことに後悔はないが、ミトゥレ様の前でカッコ悪いところを見せたとは思う。意気揚々と模擬戦を受けたくせに、不利になったら逃げ帰るとか冷静に考えると臆病者でしかない。もう手後れだけど、今後の生活が色々不便になりそうで今からちょっと憂鬱になる。後でミトゥレ様に言い訳もしておかないと。


「貴様なんぞに王女様は相応しくないわぁぁぁ!」


 後ろから響いてくる罵声を背に、ヘルガさんを連れてこの場を立ち去った。……お腹へったし、食堂にでも行こうかな。

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