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三十二話

「貴様が王女様に相応しい存在であるというならば、それを我に示せ!」


 何様なんだ、とかお前に認められなくても、とか言いたいことは山ほどあるが……まあ、ある意味ではちょうどいい機会だと思う。相手がそれなりに優秀で、観客もほどよくいるし、負けたって死ぬわけじゃない。子供同士の小競合い程度で終わらせられるだろうし、魔物使いとしての初陣には、そう悪くないんじゃないだろうか。


「ベイセル、行かないのか?」

「……行った方がいいんですかね?」


 もちろん俺的にはバトル展開は遠慮したいところだが、喧嘩を吹っ掛けられて逃げるのは風聞が悪いんじゃないか、とも思う。特に実力主義思考の学園で、貴族同士ともなれば尚更。年齢は一応考慮されるだろうが、どうせ逃げれば腰抜けとか言われて面倒なことになりかねない。教師も見てはいるが、止める気はないようだし。


「私は見てみたいと思うぞ、ベイセルが頑張るところをな」


 そんな楽しそうに言われると、断りづらくなるからやめてほしい。そもそもあんまりバロールさんのこと知らないから、どうやって戦えば良いかも分からない。俺が持っている情報と言えば、普段の授業の時に見た火属性の魔法と、剣の扱いが上手いということくらい。


 まああれこれ考えたところで、ミトゥレ様が見たいと言った時点で断れる気がしないんだけどさ。立場的にもそうだし……それに、婚約者相手にカッコつけたいという気持ちもなくはない。


「シス、起きてますか?」

『んにゅ……ご主人様?』

「これからあちらの男と試合をしますので、準備をしておいてくださいね」

『はーい』

「あ、僕が言うまで服の中から出ないようにお願いします」


 服の中から出ようとしていた所を、慌てて止める。せっかく見られてないんだから、わざわざ見せる必要もない。あと、スライムが外に出るのはあまりよろしいことじゃないからな。……たぶん、この試合の中で出すことになる、とは思うが。


「エイン、こちらへ来てください」

「きゅぅぅ!」


 まずは立ってバロールさんの前に出て、一緒に戦うためにエインを呼ぶ。一人で戦っても勝てるとは思えないし、正直二人でも厳しいと思うが、まさかヘルガさんを参戦させるわけにもいかない。何より魔物使いとして魔物達と共に戦って勝たないと。


「エイン、試合が始まったらこの前見せて貰った火の玉を吐き出してください」

「きゅっ!」


 他の人達に聞こえないように小声でそう指示をしておく。自分で魔物使いと言っておいてなんだが、まだ連携の練習はほとんどしてない。基礎能力向上に重点を置いていたからそれは仕方ないんだが、そういうわけなので試合中は声を出してバレバレの指示するしかないだろう。なのでまあ、不意を突くために最初に火の玉ブレスをしてもらうことにしたというわけだ。


「この子達と共に戦いますが、構いませんよね? まさか五歳の僕にハンデ一つなしだと言うような大人げない真似はしないと思いますが」


 エインを抱き上げて、そう軽い煽りを入れておく。挑発に乗ってくれれば戦いやすくなっていいかな、程度のものだが。こういう言い方をすれば参戦も許されるかな、という小細工でもある。


 ちなみに、シスは切り札にするつもりだ。戦力を隠してはいけないなんてルールはないし、もともと前衛で耐久型として鍛えているから攻撃手段としては少し不安だが、知られてないんだから色々といけるはずだ。ピンチの時の防御手段でもあり、チャンスの時の攻撃手段でもある。なんて万能なんだ、流石俺の魔物達。


「別に構わんっ! 子供相手に文句を言うほど我は狭量ではないからな!」


 なら喧嘩吹っ掛けるなよ、と言いたいところだ。まあ生徒も教師もバッチリ観戦の準備をしているし、ミトゥレ様もワクワクして見てるから今更なんだが。


「ほらお前ら、危ないから下がれよー。それじゃ二人、準備はいいな?」

「我はいつでもよいぞ!」

「……ダメだと言っても聞かないでしょうに。僕も大丈夫です」

「きゅぉお!」


 いつぞや見たノリの軽い教師が審判役を務めるらしく、生徒達を下がらせて俺達の近くに来た。小声で文句を言ってみたが、残念ながら聞こえなかったらしい。目の前のバロールさんは模擬戦用の槍を構えていて、言葉の通り準備は万全らしい。エインも翼を広げて以前見たやる気満々だ。指示通りに火の玉ブレスを吐くために口を大きく開けて。……これは、バレバレかもしれない。


 事前に準備をしても良いならエインとシスに付与魔法をかけまくるんだが……試合前に魔法を使うと正々堂々じゃなくなるんだよな。貴族だとそういうのも考えなきゃいけないし、何よりそれで負けたらカッコ悪い。魔物使いとして戦うなら格好は結構大事だから、卑怯な真似や無様な真似は厳禁だ。……ミトゥレ様も見てるし。


「では、始め!」


 まずは距離を取って付与魔法をかけて――。


「きゅああっ!」

「むっ、『ゾ・メルラ・メルテ』!」


 エインが吐き出した火の玉と、バロールさんが使った魔力弾系の火魔法が正面からぶつかり、爆発が起こる。


「くっ、付与『囲』『魔』『耐』『増』、付与『囲』『防』『増』」


 爆発の衝撃で飛んできたエインをキャッチし、その間に付与魔法をかける。後は相手に弱体化を出来れば完璧なんだが――ッ!


「せいっ!」

「っ! 本当に、遠慮が、ありませんねっ!」


 突撃してきた相手を、何とか避ける。ミトゥレ様相手の鍛練が役に立って、辛うじて避けきれてはいるが、いつまで続けられるか不安なところ。魔法を使う余裕なんて全然ない。


「エイン、もう一回!」

「きゅおっ!」


 抱えたままのエインの顔を相手に向けて、もう一度火の玉を吐き出してもらうよう指示。


「同じ手を何度もっ!」

「付与『魔』『威』『増』!」

「きゅあああ!」

「ぬっ、これは――」


 発射直前にエインの火の玉の威力を強化し、後ろにジャンプ。威力を上げたせいで強くなった反動も合わさり、吹っ飛ばされて転がってしまう。


「いっつぅ……!」

「きゅ―……」


 何度か転がって勢いが止まったので、何とか立ち上がって相手の方を見る。土埃のせいでどうなっているかは見えないが、審判役の教師が止めてないんだから警戒はしておくべきだろう。

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