三十一話
ミトゥレ様とのデートから数日が経った。あの時のあれ(特に別れ際)をデートと言って良いのかは悩むところだが……まあそれは置いておく。
相変わらず朝はミトゥレ様と朝練、その後は授業といった生活を送っている。そういえば授業で王族に関して聞いたので、名前とか顔とか最低限のことは一応覚えた。今のところ王子は六人いて、現王がそれなりに歳なので主に第二王子ルドヴィコ派と第三王子ネイハン派とその他が玉座を巡って争っているらしい。この前会った第四王子ミナリスはその他になる。実質上、王子達を矢面に立てた貴族達のドロドロの勢力争いらしいが、正直関わりたくない。
ちなみにミトゥレ様は関わる気はないらしいが、街の人からの人気はかなり高いらしい。街を出歩いたり騎士の鍛練に参加したりと、一般の人達に近いからだそうだ。人気があるということはすなわち、今の勢力争いの中でその他勢力が勝ってしまうと新たな勢力争いに関わらざるを得なくなるというのが先生の見解だ。是非とも第二、第三王子派には頑張ってもらいたいところである。
まあそんな関係ないことよりもだ。俺は今日もまた、一年生達の授業の見学という名目でメイドさんを連れてミトゥレ様と一緒にいる。シスは俺の服の中、エインはメイドさんに抱えられている。
最近寝ていることが多いシスはちょっと大きくなったようで、服の中に隠しにくくなった。ある程度形を変えられるからなんとかなっているが、その内限界が訪れそうなので早めに魔物使いとしてシスと一緒に活躍しないといけなくなってきたように思う。エインも順調に育ってきて、手乗りサイズの雛鳥から膝下くらいのぬいぐるみサイズまで大きくなって、翼も生えて竜っぽさが増したと思う。
そんなわけで、魔物達も順調に成長しているようで一安心だ。成長が早いのはまだまだ幼いからだろうし、ついでに調べてみたら俺も身長がちょっと伸びていた。実力に関してはほとんど上がってる自信はないが……俺はともかく、魔物達は実力の面でも結構成長してるはずだ。この前の朝練の時に、エインが軽いドヤ顔で火の玉を吐き出して岩を粉々に破壊していたし、それに対抗するようにその翌日にはシスが身体を変形させてハンマーのようにした触手で、エインが壊したものより一回りは大きい岩を粉々に破壊していた。自慢するように俺に見せつけてきていたのがどっちも可愛かったので散々撫で回して褒めたが、やっぱり戦闘に関しては基本的に俺が前に出て戦うことはなさそうである。
そんなことを思いつつ、ミトゥレ様が同級生達数人と模擬戦をしているのを眺める。相変わらずミトゥレ様は同級生を(当然加減はしているだろうが)バッタバッタとなぎ倒していて、その実力差は一目瞭然だった。その実力と気兼ねなく話が出来る態度から、同級生の間では既に人気者になっているようで次から次へと模擬戦の相手を頼まれている。順番待ちをしている人達も、倒された人達も、皆楽しそうな顔をしていて
「私ばかりでなく、他の者達とも戦ってみるといい。思いがけない発見もあるだろう」
「はいっ!」
一通り模擬戦が終わって二周目に入ろうとしたところで、ミトゥレ様が他の人達のお誘いを断ってこっちへやって来た。以前一度他の皆が満足するまで模擬戦をしようとしたらしく、何周も戦い続けていたらしいが、ずっと終わらなかったのでその時から一周で終わらせることにしたらしい。
「お疲れ様です。これをどうぞ」
「ああ、いつもすまないな」
「いえ、僕が勝手にやってることですから」
俺の側までやって来て腰を下ろしたミトゥレ様に、水筒とタオルっぽい布を渡す。水筒の中身は、ヘルガさんに頼んで作ってもらったスポーツドリンクのようなものだ。運動の後は水分と塩分をとらないといけない、なんて前世の曖昧な知識からの思い付きで用意したものだったが、ミトゥレ様は気に入ってくれたらしく毎回持ってくることにしている。ちなみに、水筒は以前ミトゥレ様と一緒に行った魔道具店で買ったもので、保温機能が付いている。この魔道具の保温とは温度の保存という意味のようで、冷たいままで保存、なんてことも出来るらしく結構役立っている。
「……しかし、どなたも遠慮なくミトゥレ様と接していますね。いくらこの学園が地位を気にしない風潮だとはいえ、もっと遠巻きの接触になるかと思ってましたが……」
「最初は確かにそうだったが、ずっとそのままでは困るからな。私から歩み寄ればすぐに話をしてくれるようになった」
まあさっきの同級生さん達の様子からして、親密な仲というよりは憧れなんかで慕われているといった感じだし、暴走したファンかミトゥレ様のどっちかが何かしたかな、とは思ってたけど。
「私はこれでも王女という立場だからな。今後のことも考えると、多少大変でも仲良くなっておいた方がいいんだ。もちろん限度はあるがな」
「そんなものですか……」
「君も少しずつでも考えておいた方がいいかもしれんぞ。いずれはそういうこともあるだろう」
「ですが、僕はミトゥレ様と違って貴族の三男ですから。お兄様達ならともかく、僕にそういうことが必要かどうかは……」
「ベイセルは私の婚約者だろう? ご兄弟よりもむしろ君の方が必要になってくると思うが」
「…………えっ」
笑顔でそう言うミトゥレ様を見て呆気に取られてしまう。思わず顔を向けても、変わらず笑顔のままだった。
「知ってたんですか?」
「うん? 婚約者のことか? かなり以前から教えられていたぞ」
「……僕はつい最近教えられたんですが」
「まあ、いいじゃないか。それとも、私では不満か?」
「……不満ではありませんが」
「ふふ、なら良かった」
頭を撫でられる。身長差があるから分からなくもないが、そういうのは普通逆だと思うんだけど……何となく、今後もこういう関係は変わらない気がする。
「もっと気合いを入れろ! 王女様のお手を煩わせるだなどという情けない性根を持つ輩はこの我が叩き潰してやるわ!」
明らかに貴族と分かる派手な見た目をした、一人の男子生徒が声を張り上げて倒れた生徒達に怒声を浴びせているのが聞こえてきた。彼はスェイロ公爵家の長男の、バロール。この学園の副会長の弟らしい。ミトゥレ様に次ぐ成績を出す程度には優秀で、ちょっと過剰に王族を信奉している人だ。何でも、最初の授業でミトゥレ様に忠誠を誓ったらしい。ありがたいが対応に困る、とはミトゥレ様の言葉。ほとんど毎日一緒にいる俺のことを敵視……とは言わないまでも、キツい目で睨んでくることが多々あり、俺にとっては中々におっかない人である。
今も時々こっちを見ているのは、果たしてミトゥレ様を見るためか俺を見張るためか……。まあでも、まだ俺が五歳児だからかもしれないが、ミトゥレ様の側にいる男に喧嘩を売る、なんて短絡的な男じゃない分良かったと思うべきか。
「そこの子供! 我と勝負だ!」
……あっれえ?
「彼は君をご指名のようだぞ、ベイセル」
「……僕ですか」




