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二十九話

遅くなってすみません。ちょっとスランプ気味なので、おそらく次も遅くなります。

 魔道具屋から出て、しばらくこの通りを歩き回った。俺が武器屋に目移りしたり、焼き鳥っぽいものを買って食べ歩いたり、俺が竜舎に目移りしたり、メイドさんがナンパされたり、俺が色んな食事屋さんに目移りしたりと、割と充実した時間だった。こうして思い出してみると俺が目移りしてばっかりだが、今までは結構な箱入りだったんだから仕方ない。


 俺が目移りした所には全部寄ってもらった。本物の武器は重かったし、焼き鳥は美味しかったし、竜騎手さんに頼んだら竜に乗せてもらえたし、いつの間にかいなくなってたメイドさんがいつの間にか戻ってきてたりしたし、色々あったが俺としてはこの街を満喫出来てかなり楽しかった。当初の目的の一つだった生活用品なんかは既にメイドさん達が買ってきていたようで、俺とミトゥレ様は楽しんで帰るだけで良くなった。


「……あれは」


 そんなわけで、時間もまだ多少あるので次はどこに行こうかと考えていると、ミトゥレ様が立ち止まってどこかを見つめていた。ミトゥレ様が見てる方で目立つものといえば……こっちに向かってる馬車くらいだが。


「すまない、ベイセル。楽しい買い物はここまでになりそうだ」


 正面を向いたままのミトゥレ様の表情は俺からは位置的に見えないが、その言葉と共に今まで楽しそうだった雰囲気が一気に消し飛んだ。そのまま買い物を続ける雰囲気ではなくなってしまい、かといってこのまま一人で帰るわけにもいかず、こちらに来ている馬車を黙って待つことになってしまった。


「…………」


 正面から来た一際目立つその馬車が、立ち止まっていた俺達の目の前で止まった。近くで見るとよく分かるが、その馬車には今日ミトゥレ様が用意した馬車と同じ紋章が刻まれていた。あれは確か、王家の紋章。


 じっと見ていると、馬車から長身の男が降りてきた。俺達が小さいからというのもあるが、大体俺の二倍くらいはありそうだ。その男は俺を一瞥した後、ミトゥレ様の前で俺達を見下ろしていた。正確に言えば、俺やメイドさん達には見向きもせずにミトゥレ様だけを見下ろしていた。


「今日は男連れか? いい身分だな」

「……兄様」


 馬車の紋章からしてそうだろうと予想はしていたが、やっぱりミトゥレ様の家族らしい。それに二人の反応からして、仲がいいわけではなさそうだ。


「兄様はお一人なのですか?」

「ふん。私は貴様ほど暇ではない」


 暇じゃないんならさっさとどっかいけよと思う。そんなことを言ったら色々アウトだろうから黙ってるけど。それと、馬車で来てるんだから一人じゃないだろう。まさか自力で馬車を動かしているわけじゃないだろうし。


「兄様が直接出向くような事があったのですか?」

「ギルドからの要請だ。内容も無視できるものではない」


 ミトゥレ様の対応を見た感じ、思っていたより険悪でもなさそうだ。流石にウチほど仲が良いわけじゃなさそうだけど。


「殿下、こちらを」


 いつの間にかいた見知らぬメイドさんが、目の前の男に近寄って何かの書類を手渡した。殿下って呼ばれてる辺り、やっぱり王子様なのか。有力な貴族や王族の名前は一応記憶してはいるが、会ったことがないから顔と名前が一致しないんだよな。


「……ふん、そうか。やはり学園か。……ちょうどいい。私はこれから学園に行く。貴様もついてこい」

「ですが……」


 ミトゥレ様が俺に視線を向ける。一緒にいるから同行は無理っていう意味なんだろうけど、こんな状態で巻き込むのは出来れば遠慮してほしい。


「貴様、名は?」


 案の定、その男はこちらへ訝しげな視線を向けてそう問いかけてきた。返事をしないなんて無礼な真似は出来ないので、大人しく答えるが、何故か視線が刺々しいような気がする。


「……イェールオース家三男の、ベイセル・イェールオースと申します」

「あの公爵家か。……確か、貴様らは寮生活だったな」


 そういえば俺とミトゥレ様が同じ部屋なのってどこまでの人達が知ってるんだ? 俺の方は家族全員知ってるっぽいけど、王家の方々は……国王様は知ってるんだろうけど、他の人達は?


「……チッ、仕方ない。日が落ちる前には帰れよ貴様ら」


 それだけ言い残して、その男は馬車の中に戻っていき、側で控えていたメイドさんはこちらに一礼して、御者台に座った。


「……兄様?」


 てっきり面倒なことになると思っていた俺達が意表を突かれて呆けている間に、その男を乗せた馬車が学園の方へ走り去っていってしまった。


「ええと、行ってしまわれましたね」


 あんなにあっさり帰られたら反応に困るんだけど。いや、確かに帰ってほしかったんだけどさ。


「……すまない、ベイセル。私は先に帰ってもいいだろうか?」


 未だに苦い顔のままだったミトゥレ様が、そんなことを言ってきた。まあこのまま買い物を続行、なんて気分にはなれないか……ただ、今すぐ帰るとさっきの男と鉢合わせしそうだよな。街道を通ってるから馬車もスピードは出てないわけだし。たぶんミトゥレ様もそれを分かってて先に帰るって言ってるんだろうし。


「分かりました。では僕はもうしばらく買い物をしていますね。夜になるまでには寮に帰りますので」

「……すまない」


 俺に頭を下げたミトゥレ様は荷物を載せていた方の馬車に移動して、そのまま学園の方へ帰っていった。俺はそれを見えなくなるまで見送って、残ったのは空っぽの馬車一つとメイドさんと俺。


「さて、どうしましょうか」


 メイドさんにも聞こえる程度の声でそう呟く。ミトゥレ様と別行動になったのは言いが、遊んで回る気分じゃなくなったからな。とりあえずメイドさんと馬車一台を連れて歩くのは確定だから、そう大したことは出来そうにないけど……。


「ヘルガ、どこか行きたい所はありますか?」

「ベイセル様の望む場所ならば、何処にでもついていきます」


 いや、そういうことじゃなくてさ……ううん、やっぱり俺が決めないとダメか。ミトゥレ様を追い抜かないようにそれなりに(一時間くらい)時間がつぶせそうで、夜までには帰っておきたいからあんまり遅くならないようなところ……。


「そういえば、近くにギルドがありましたよね?」

「はい、ギルドはこの街道を直進した先の広場に。ギルドへ向かわれますか?」

「そうですね、そうしてください」

「かしこまりました」


 ギルドと言えばファンタジーには定番の施設。俺はせいぜい昔に一回だけ住民登録のためだけに行ったくらいだし、行ってみるのもアリだろう。何かしらのイベントには遭遇出来るだろう、たぶん。


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