二十八話
あけましておめでとうございます(遅
「……いらっしゃいませ」
周りの視線から逃げるように入った魔道具屋には俺達の他に客はおらず、正面に全身を覆うローブを着た怪しげな店員さんが一人座っているだけだった。周りの棚や正面の机には結構色んな魔道具らしきものが丁寧に並べられて置かれている辺り、ちゃんとしたお店なんだろうけど……怪しくて客足が遠退くのも分かる気がする。まあその方がファンタジーっぽくて嫌いじゃないけど。これでヒッヒッヒとか笑うお婆さんだったら完璧だな。
「久しぶりだな、店主殿。」
「……ん。男連れなんて、珍しい」
「そうか? 使用人なら何度か連れてきたこともあっただろう」
「……使用人?」
「いいや、違うが」
「……やっぱり、珍しい」
ミトゥレ様は親しげに話しているようだし、通いつめていたというのも本当なんだろう。別に疑ってたわけじゃないが。店員さんは声からして女性、それもかなり若そうだ。流石に俺達ほど若い、というか幼いわけではなさそうだけど……見た感じ、ローブを着ているとはいえ女性的な特徴は見られないけど。
「……新しいのはあっち」
「助かる。では私は見に行くとしよう」
「……ごゆっくりどうぞ」
ミトゥレ様が店員さんとの話を終えて、こっちに戻ってくる。何となく話に入りづらくてちょっと後ろで見ていたんだが、忘れられてはなかったらしい。とりあえず店員さんに会釈くらいはしておく。
「ベイセル、私は魔道具を見て回るが……どうする?」
「邪魔でなければ、一緒に見て回りたいです」
一人で見るのもそれはそれで楽しそうではあるが、俺は詳しくないから魔道具を見ただけじゃどんなものなのか分からないし、それにせっかくミトゥレ様と一緒に来たんだからわざわざ別行動でなくてもいいだろう。
「なら行こうか。店主殿が言っていた新しいものから見ていこう」
「はい、お任せします」
というわけで、早速ミトゥレ様と二人で魔道具を見て回ることになった。俺には全然分からないので、見るものはミトゥレ様に任せることにしている。
「まずはこれだな。これも玩具の分類になるが、動物の毛皮を再現したものらしい。 今回は羊の毛皮だな。この魔道具の制作者はこれ以外にも様々な魔物や動物の毛皮を再現していて、その手触りや丈夫さは素晴らしいの一言だ。本職は服屋らしく、そちらへの応用を目指しているそうだ」
「もこもこですね、これ」
何か人を駄目にするクッション、みたいなのを思い出すな。これもたぶんそんな感じの用途だろう。形も枕っぽい長方形だし、ちょっとほしい気もする。
「次はこれだ。これは玩具ではなく生活用品だな。服や物にこびりついた汚れを落としやすくするものだ。この液体をつけて水で洗い流すと綺麗に汚れが取れるらしい。今までも似たようなものを出していたが、今回は性能が上がったというよりも値段が安くなったようだな。生活用品で有名なブランドで、使用人達もよく使っている。ベイセルも見たことがあるんじゃないか?」
「そうですね、メイド達が使ってるのを見たことがあります」
メイドさん達の話にもたまに出てきた。すごく便利で使いやすい魔道具だって好評だったのを覚えている。でもぶっちゃけこれ、洗剤だよな。魔法ってすげえ。
しかし、俺が一緒に見ると邪魔かな、とも思ったんだが。楽しそうで良かった。
「三つ目はこれか。これは……珍しいな。腕輪型、おそらく装着者の能力を向上させるものだろう。正確に言えば、この腕輪に込められた強化系の魔法が装着者の魔力によって発動する、といった類いのものだろうな。こういったものは戦う者にとっては非常に有用だから、あまり出回らないんだが……流石店主殿だな」
「出回らない、ですか?」
「ああ。大抵は貴族が買い取ったりギルドが所有していたりするからな。こういった一般向けの魔道具屋にはあまり売られていないんだ」
「なるほど」
ミトゥレ様が言ったギルドは、基本的にはファンタジーによく出てくるギルドと考えてもそれほど間違ってはいない。基本的には国営で、職にあぶれた者や魔物退治の傭兵、各地を移動する旅人みたいな人達へのサポート等のための施設だ。
出来た当初は戦力が集中するだとかの懸念もあったらしいが、そもそも国営だし、貴族や王族の直属の騎士なんかもギルドに登録していたりする。ギルド内のランクが戦力の指標にもなるし、貴族的には一般市民からの依頼を騎士達がこなすことで評判を上げたり出来るからそれほど損にもならないんだとか。ウチのメイドさんや執事さん達もギルドに登録していて、一定以上のランクじゃないといけない、とかいう採用基準もあったりする。
後は、ギルドへの登録が戸籍のような扱いもされているようで、国民の大半はギルドに登録している。俺やミトゥレ様ももちろん登録済みだったりする。この一般市民向けの戸籍登録と、メイドさんや騎士さん達みたいな依頼をこなす側の登録では色々と違いがあるらしい。
「これは買いだな」
まあギルドの話は置いておいて、買い物の続きだ。ミトゥレ様は早速買うことに決めたらしい。その即断即決っぷりがらしいというかなんというか。
「それにしても、すごい知識ですね」
そもそもさっき見たのは新しいものらしいのにすらすら解説が出来てる辺りからして、もうすごい。
「……やはり変か?」
「そんなことはありません。むしろ尊敬しますよ、それだけの知識がつくほど夢中になれることがあるんですから」
しかもその歳で。俺は趣味とかないタイプの人だったからな。趣味は、と聞かれると読書、とか無難な答えしか出来ない感じの。話題合わせや暇潰し程度でしかなかったから、どんなことであれ人に誇れるくらいの知識を持っているのは素直に尊敬する。
「……そうか。ありがとう」
「いえ。それより、ミトゥレ様のおすすめの魔道具を教えてください。どんなすごいのが出るのか楽しみですから」
「……ふふ、そうだな。では行こうか」
その唐突なふわりとした笑顔に、思わず立ち止まってしまった。それと同時に、そういえばデート(仮)中だったことを思い出す。
「ん、どうした?」
「……な、何でもないです。早速見に行きましょう」
その後もいくつか、ミトゥレ様に解説してもらいながら見て回った。ある程度見た感想としては、あれだ。魔道具屋ってホームセンターみたいだな、と思った。各種便利グッズとか、玩具とかあるし。ミトゥレ様が言うには、ここの魔道具屋の品揃えがかなり多いから、らしいんだが。結局ミトゥレ様は見て回ったものの大半を購入し、俺もあの毛皮の玩具とかを買った。
「……またのお越しを」
「ああ、また来る」
「……次も、男連れ?」
「さてな。そう言う店主殿はどうなんだ?」
「…………」
「いや、店主殿にそういった相手はいなかったな。すまない」
「……チッ」
「おお怖い。ではまたな」
そんな会話のあと、ミトゥレ様がこっちに来る。……俺に向けられたものじゃないとはいえ、店員さんの視線が怖いんだけど。
「良かったんですか、あんな言い方をして」
「次に来るときが怖い気もするが、まあたまには良いだろう」
上機嫌で店を出ていくミトゥレ様に、慌ててついていった。




