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二十七話

年末年始は忙しいので、来週はお休みです。

 俺もミトゥレ様もこの学園に来たときはウチの領内から竜籠で直行してきたが、流石にそんな高級な手段で行くことは出来ない。それに、今日行く街は当然そんなに離れたところではなく、学園のすぐ隣にある街だ。……といってもこの学園はかなり広いので、学園の外に行くのにも多少時間がかかるが。具体的に言うと、一時間以上。流石に歩いていくにはちょっと遠い。


 昨日はその辺りを全然考えてなかったからミトゥレ様に話してみたところ、彼女が昨日から用意していたらしい馬車に乗って街に出向くことになった。元々休日に街に行く予定だったらしくて、準備は整っていたからちょうど良かったんだとか。


 ちなみに、馬車に乗っても速度は徒歩とそれほど変わらない。速いものでも二倍くらいがいいとこだ。いや、俺達子供からするともっと速いか。馬車に乗るのは主に荷物を運んだり大人数で移動する時で、急ぐ時は魔法を使った車みたいなの(俺は詳しく知らない)や、竜籠を使う。 どっちにしても莫大な金がかかるから、普通の人は竜騎手さんに頼むとかそういう方法で何とかするらしい。


 今回は、買い物前に疲れることもないだろうということで、楽をするために馬車に乗るというわけだ。



 そんなわけで、今俺達は馬車に乗って街……というか、学園の出入り口へ向かっている。俺とミトゥレ様が乗っている馬車が前で、ヘルガさんやミトゥレ様付きの執事さんが乗っている馬車が後ろだ。エインはヘルガさんに抱えられたまま後ろの馬車に、シスは俺の服の中でおねむである。馬車を引いている馬は、多少頑丈なこと以外は前世の馬とそう変わらないと思う。馬に詳しかったわけじゃないから分からないけど、少なくとも魔物ではないらしい。……ちょっと残念。


「まずはどこへ行きますか?」


 買い物に来たとはいえ、先に重いものを買ってしまうと後が大変になる。……といっても、メイドさんと執事さんがついてきているんだから、荷物を預けるってことも出来なくはないが。


「街に入ってすぐに店が並んでいる所があってな。最初はその中を見て回ろうと思っている」


 ミトゥレ様が言うには、学園と街の境に受付があるらしい。そこで手続きをしないと出入りが出来ないんだとか。俺はしてないんだけど……と思ったが、あの時はお母様がやっておいてくれたらしいが。


 で、受付を通って街に入ると左右にずらっと店が並んでいるらしく、主に学園から出てくる人向けの店ばかりなんだそうで。


「私はその内の一つへ行くつもりだったからな。ベイセルは何か見たいものはあるか?」

「見たいものですか……」


 ミトゥレ様がすごく楽しそうに見えるな。昨日から予定をしていたらしいし、余程行きたい所があるんだろう。


 しかし、見たいものか……何の店があるのか知らないからなんとも言えないんだけど、強いて言えば。


「食べ物屋さんには行ってみたいですね」

「ふふ、そうか。ではそこにも寄るとしよう」


 あれ、なんか俺食いしん坊キャラみたいになってないか? 笑われたし。いや、確かにちょっとお腹すいてきたし、軽く食べたいなとは思ってるんだけど、そんな……ねえ。


「……その後は、その場で見たいと思った店に寄りましょうか」

「そうだな。時間はあるのだし、好きに見て回ろうじゃないか」


 言う通り、時間は今日一日中あるし、子供とはいえ貴族と王族だから金もあるしな。




 受付では軽く挨拶をしただけで終わり、手続きもメイドさん達が素早く済ませてくれた。今日は学園が休みの日だからか、俺達以外にも外出する学生達が多いらしく受付の人はかなり忙しそうだった。


「おお……これだけ色んな店が並ぶと壮観ですね」


 街中で馬車に乗る訳にもいかないので、受付近くで馬車から降りて、しばらく歩いてみてからの景色を見てそんなことを思った。この世界に生まれてから五年、ほとんどを屋敷の中で過ごしていたから、こういう光景は新鮮だった。前世ならまだしも、ファンタジーな世界のものだと考えると感動ものである。


「私は以前からこの辺りにはよく来ていたから、そういうことは分からないが……ベイセルはそう思うんだな」

「そうですね、僕はあまり屋敷の外に出たことがないので」


 そういえば、ミトゥレ様は王女で、ここは王都だった。近くに住んでたんなら見慣れていてもおかしくないか。身分的にそんなに何度も来れるのかという疑問はあるけど……噂からして結構やんちゃしてるみたいだし、黙って抜け出すくらいはしてそうだ。


「……。む、私が行きたかったのはあの店だ。行こうか」

「あ、はい。行きましょう」


 ミトゥレ様はちょっと気まずそうな顔をした後、見つけたらしい目的の店の方へ歩いていった。……あれ、もしかしなくても気を使われたよな? 俺は前世から割と引きこもり気味だったし家の蔵書室とかで本を読みふけってたりしてたからそんなに気にならないけど、普通の人からすればアレなんだろうか。


「魔道具屋……ミトゥレ様は魔道具を買いに来たんですか?」

「……私は魔道具を集めるのが趣味でな。今までも頻繁にこの店に来ていたから、今日は新しいものが出ていないかを見に来たんだ」


 ミトゥレ様が行きたがるような店が何なのか気になって見た看板には、魔道具屋だと書いてあった。魔道具が何なのかは色々種類がありすぎて、正直なところあまり詳しくは知らないが、要するに前世で言う電化製品が近いと思っている。生活に必要な日用品もあれば、武器や防具だったり、更には子供用の玩具のようなものもある、らしい。


「なるほど……それは楽しみですね」


 魔法が使われている道具とくれば、面白そうなものはいくらでもあるだろう。女性の買い物に付き合う=長時間待たされる荷物持ち、みたいなイメージがあったが、これなら楽しめそうだ。


「それならば良かった。こう言ってはなんだが、魔道具集めはあまり歓迎される趣味ではないからな……。大人に言うと子供っぽいと思われることが多い。私もベイセルもまだ子供だから良いが……」

「どうして子供っぽいと思われるんでしょう?」

「魔道具の中で一番種類が多いのが玩具でな。私も含めて、趣味で魔道具を集める者の多くは用途を問わず集めるものだから、結果として玩具集めが趣味だと思われるんだ」


 へえ、魔道具って玩具が多いのか。というか、ファンタジー世界の玩具ってどんなのなんだろうか。アニメとかでよく見るのは大抵、武器とか魔法とかが印象に残ってるから、あんまり想像が出来ない。


「私としては玩具自体と言うよりも、それに使われている技術の方に目を向けているんだがな。例えば、この映像を写し出す透明な球体はスフィアシリーズと呼ばれている物の内の一つなんだが、透明な球体そのものを作る技術も素晴らしい上に、攻撃魔法として使われている水球を使うという発想、更にこの球体の中でそれを特定の形で何度も発生させて、尚且つ一定の動きを繰り返すというパターンも登録されていてな。それをこれほど小さな球体に刻む技術も驚異的なもので――」


 ……お、おぅ。懐から野球ボール程度の大きさの球を取り出したかと思えば、凄まじい勢いで語り始めたな。見たことないくらい楽しそうに。


「……す、すまない。つい熱くなってしまった」


 我に返ったのか、顔を赤くしてしょんぼりしてしまった。ミトゥレ様の趣味は、割とガチなものだったらしい。聞いててすごいと思ったし、俺自身はそれを否定することはないんだけど。


「とりあえず、店の中に入りましょう?」


 店の前で語っちゃったから、周りの視線が……ね。


「う、うむ。そうだな」

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