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二十六話

「ベイセル、どうかしたのか? 先程からずっとぼんやりしているようだが」


 放課後、寮への帰り道でミトゥレ様にそんなことを言われた。エインを抱えてもらったままついてきているヘルガさんと、途中で起きたが二度寝したシスももちろん一緒に帰っている。お兄様はお義姉様を連れて生徒会室へ行ってしまったため、一緒にはいない。


 俺がぼんやりしているのは、もちろんさっきお兄様に言われたことが原因だ。それのショックが強すぎて、いつここまで来たかもあまり覚えてない。……別に嫌な訳ではない、けど。


 ミトゥレ様に説明するのは難しい。今、俺達が婚約しているらしいとミトゥレ様に言っても気まずくなるだけのような気がするし、かといって今現在も一方的にだが気まずいし……そもそもミトゥレ様はそのことを知ってるんだろうか?


 ……いくら二人とも幼いとはいえ年の近い異性が同じ部屋に住んでるんだから、そういう事情でもないとむしろおかしいのかもしれない。どっちも身分の高い人間(の子供)だし、尚更。


「……。僕達の部屋の片付けをしましょう、ミトゥレ様」

「それは構わないが……」


 心配してくれているミトゥレ様には悪いけど、何話していいのかも分からないし、何も話さない方向で。ちょっと強引だが、気分転換も兼ねて部屋の片付けでもすることにしよう。たぶん動いていれば余計な考え事はしないだろう。


「ヘルガも、手伝いをお願いします」

「かしこまりました」


 ついでにヘルガさんも巻き込む。元々部屋の片付けは手伝ってもらうつもりだったし、魔物達がいるとはいえミトゥレ様と二人きりにならなくて済むから。



「それでは片付けを始めましょうか」

『お片付けー!』

「きゅー!」


 皆で寮に帰ってきてすぐに、片付けを始めるために声を上げた。ゆっくり休んでたらそのまま何もしなくなるだろうからな、主に俺が。


 俺の言葉に続いて、肩に乗ったシスと足元にいるエインも元気よく返事をしてくれた。それをミトゥレ様とヘルガさんが微笑ましそうに見ていて、俺自身は特に変なことをしているわけでもないのに急に恥ずかしくなってきた。確かにシスとエインは可愛らしいけども!


「……こほん。まずは必要のないものを分けましょう。これは僕とミトゥレ様が」

「ふふ、そうだな。事前に用意されていた物の中には現状では不要なものも多いからな」


 とりあえず今は片付けに集中するとして、まずは役割を決めよう。俺とミトゥレ様は分別作業。ここ一週間住んできたわけだから、何となく不要なものは分かっている。この部屋には無くて、色々必要なものもあるが……それはまた後で考えよう。


「ヘルガは僕達が分けた物を運んでください。場所は、寮指定のごみ捨て場にお願いします」


 不要なものは捨てても大丈夫だろう。どうせ大体はアレな本とか枕とかそういう類だし。まだ年齢的に性欲とかそういうのはあんまりないし。……ないわけじゃないけど。


「かしこまりました。掃除などはどうなさいますか?」

「それは後で皆でしましょう」


 一週間も住めば多少のゴミや汚れはどうしても出る。俺は多少なら気にならないが、メイドとしてはやっぱり気になるんだろうか。まあでもミトゥレ様も住んでるんだし、部屋は清潔であるに越したことはないだろう。


「エインとシスは……僕達の手伝いをしてください」

『はーい、ご主人様!』

「きゅう」


 流石にスライムとワイバーン、しかも子供に大した手伝いが出来るとは思ってないが、まあチャレンジすることは大事だし。ついでに、俺の気分転換のためにも近くにいてほしいと思って。疲れたら抱き上げて癒されたいから。


「ではミトゥレ様。早速始めましょう」

「ああ、そうだな」


 今更だが、勝手に仕切ったが良かったんだろうか。まあでもミトゥレ様は笑ってるし、魔物達は楽しそうだし、ヘルガさんはいつも通りだし……大丈夫かな、うん。


「必要かどうか悩むものは後にして、まずは絶対に不必要なものから分けましょう。……例えば、これとかですね」


 そう言って本棚に入っていたちょっとアレな本を取り出す。カバーでカモフラージュしてあるだけの、思春期男子にありがちな隠し方がしてある本。一度気になって読んでみた中身は、肌色メインというよりは、正しい方法が書いてある教本のようなものだ。それでも俺達の年齢には相応しくないだろうけど。


 というか、こんなあからさまに色々置いてあるのに、何で最初からそういう目的だって気づかなかったんだろうか、俺は。




「こうして片付けてみると、色々と必要なものが足りないですね」


 粗方片付けと掃除が終わって部屋を見てみると、大分スッキリした気がする。元々そんなに汚れていたわけではなかったが、やっぱり掃除をすると違うものらしい。それと、シスとエインの手伝いが予想以上に優秀で驚いた。二人とも賢いし、エインは力があるから力仕事を積極的にやってくれたし、シスは掃除の時に大活躍だった。俺はそれを見て、そういえばスキルに悪食なんてものがついてたなと思い出して苦笑いだったが。


 見た目がスッキリしたことで、色々足りないものが見て分かる。本棚は半分以上空いたし、枕とかは買わないと。俺はカバーを変えるだけでも良いんだけど、貴族だしな。ケチケチしてると悪印象になるかもしれないし。あとは日用品とかも買わないとな。後でメイドさんに頼めば良いかな……?


「それなら、買いに行こうか。私とベイセルの二人でな。私達はこの街に来たばかりだからな。ちょうど明日は休日なのだから、観光も兼ねて買い物に行こうじゃないか」

「……二人で、ですか?」


 男女二人で街にショッピング……それなんてデート?


「ああ、勿論だ。メイドは遠くで見ているだろうから、護衛の心配はない」

「御二人の安全は、私共がお守り致します」

『お買い物!』

「きゅー!」


 ヘルガさんもやる気になってるし、シスとエインも興味があるみたいだ。……どうせ買い物には行かなきゃならないから、断れないパターンだわこれ。


 美少女とデートなんだから当然喜ぶべきことで、俺自身嬉しくないわけじゃないんだけど……何というか、色々重なりすぎて混乱してる気がする。


 まあいいや。考えても仕方ないし、適当にいこう適当に。あ、この場合の適当はちょうどいいって意味であって、俺はいい感じにやるって意味で使ってるからな。雑にやるわけじゃないから勘違いするなよ! ……誰に言ってんだろ、俺。やっぱり混乱してるわ。


「……分かりました、行きましょう」


 とにかく、せっかくの人生初の美少女とのデートなんだから楽しもう。二人きり……というにはシスもエインも一緒だから、多少は気楽にいけるはず。

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