二十四話
「今日はここまでとしましょうか。ベイセル様、お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
今日が授業初日だったからか、あの後は軽く復習をするだけであっさり終わった。まあその分宿題はそれなりに出されたので、早めに処理をしておきたいところである。
「ヘルガ、エインをお願いします。ひとまず教室から出ましょう」
「かしこまりました」
先生は挨拶の後すぐに教室を出ていったので、それに続いて俺と、エインを抱えてもらってるヘルガさんも、早めに出ることにする。空き教室とはいえ、誰かが来るかもしれないし。
俺が自分でエインを抱えないのは流石にちょっと重くなってきたからだ。一週間順調に成長したから、今では五歳児の俺では抱えるのに苦労するくらいには大きくなった。生まれたときと比べると、三倍くらいにはなったんじゃないかな。授業前に抱えた時にも結構ギリギリだったし。
「今日もミトゥレ様のところへ行きます。場所は……いつも通り修練場だと思いますし」
ここ一週間の間は毎日授業中のミトゥレ様の見学に行っている。俺は授業の見学を推奨されているし、せっかく見るなら実力の高いミトゥレ様のものを見たかったし、同じ部屋に住んでるんだから仲良いアピールも兼ねて、だ。後は、護衛役のメイド連れだから何かあったときのためでもあるし、エインやシス……それと俺もこういう学園の戦いとか座学の知識とかを学ぶ意味もあるし、俺がエインやシス(主にエイン)を連れていることを知られる必要もあるし。
まあそんな感じで、色々理由があって授業の見学に行くことにしている。どうせ寮に帰ったところで、朝練で疲れてるから寝て過ごすかシスやエインと戯れるだけだし、見学の方が色々と有意義だろう。
「かしこまりました。この時間の一学年生は魔法学の授業中ですので、仰る通り第五修練場にて行われております。本日は主に各々の魔力量の限界に関する授業とのことです」
何故かヘルガさんは授業内容とかを詳しく知ってるらしく、毎回こうして事前に教えてくれる。まあ心構えが出来るから助かってるし、細かいことは気にしていない。
「なるほど……それでは行きましょうか。エイン、あまり騒いではいけませんよ」
「きゅぅ」
しばらく生活してきて分かったことだが、エインは戦うのが結構好きらしい。朝練にも積極的に参加しているし、授業の見学中には楽しそうにはしゃいでいた。それ自体は全然構わないんだけど、まだまだ子供だからかちょっと騒がしくなってしまう。だから一応軽く注意をしておく。……まあ、そんなに気にすることでもないだろうけど。
校舎を出てから十分程度で第五修練場に着いた。毎回思うが、ちょっと遠くないかな、ここ。基本的に毎日授業で往復するんだし、もっと近くても良いと思うんだが。どうせそれも運動になるからとかで済まされそうだけど。
「相変わらず、ミトゥレ様は一人ずば抜けてますね」
正面には、ミトゥレ様一人に対し三人の生徒が魔法を使っているのが見えた。炎や水の玉が何発も勢いよく飛んでいくが、ミトゥレ様へと届く前に大きな炎に全部呑み込まれて消えてしまう。詠唱を聞いた感じだと、生徒達は第一階級の射出系、ミトゥレ様はたぶん第三階級の障壁系を使ってるっぽい。ミトゥレ様の方は無詠唱でやってるから俺の予想だけど。
魔力量の限界を知るために、とにかく魔法を使って消耗させるという割と面倒な方法を使っているらしく、攻撃魔法と防御魔法で打ち合いをしているんだとか。各々のよく使う魔法が何発打てるかとか、魔力量が少なくなっていく感覚を覚えるためだとか、そんな理由らしい。魔力を使いすぎるとかなりしんどいと思うんだけど、その辺大丈夫なんだろうか。
まあ俺としてはそんなことより、攻撃魔法や防御魔法を簡単に使いまくってるのが羨ましい。付与魔法も割と使い道が多くて助かってるから別に良いんだけどね。どうせ俺は魔物使いだし、魔物達のサポートがちゃんと出来ればいいし。
「魔力使いすぎてキツい奴は休んどけよ! 特にそこのお前ら……おいバカッ!!」
暑苦しい感じの教師のうるさい声につられて指を差しているそちらを見ると、今にも倒れそうな男女四人が無理矢理魔法を使おうとしていた。しかも、四人のうち一人の目の前に大きな火の玉が浮かんでいて、今すぐにでも魔法が発動しそうだ。教師は慌ててそちらに走り出したが、あれじゃ間に合わない。
「ヘルガ!」
「かしこまりました」
どう見ても緊急事態なので、ヘルガさんに救出を任せる。声をかけた瞬間に生徒の所まで動いたヘルガさんは、どうやってか魔法が発動する前に気絶させて教師の所へ生徒四人を一人ずつ運んだ後こちらへ戻ってきた。……たった数秒の早業だった。しかもエインを抱えたままだし。
「……流石ですね、ヘルガ。ありがとうございます」
「勿体無い御言葉でございます」
「きゅおっ!」
そして何事もなかったかのように俺の後ろに控えた。抱えられているエインはものすごく楽しそうにはしゃいでいるし。確かにヘルガさんなら何とか出来るだろうとは思ったが……本当に出来るとは。いやまあ、皆無事で良かったよ、うん。
「それで、彼らの体調はどうでしたか?」
「魔力切れで間違いありません。しばらく休息を取れば問題ないかと」
それはひとまず置いておいて、気絶した生徒達の様子を見る。どうやら教師が医務室へ運ぶようで、しばらくは自習ということになった。倒れた生徒達の状態が魔力の低下による症状なのは明らかなので、ヘルガさんの言う通り少しの間休んでいれば大丈夫だとは思うが……。
「ベイセル。助かった」
やることがなくなったらしいミトゥレ様がこっちに礼を言いに来た。俺じゃなくてヘルガさんのおかげ……って言いたいところだけど、こういうのは後で俺がヘルガさんを労えば良いだろう。
「たまたま間に合っただけです。ミトゥレ様も防ごうとしていたじゃないですか」
他の生徒達が呆けている中、ミトゥレ様だけは一人魔法を使おうとしていたのを見た。生徒達が発動しかけた魔法を防ぐためだろうし、咄嗟にそんなことが出来る辺り流石だ。
「だが、私のは彼らが魔法を使った後の対処だったからな。君は使わせずに止めただろう?」
それこそヘルガさんのおかげなんだが……それを言うと長くなりそうだから、ちょっと強引だが話を変えよう。
「しかし、どうして彼らはあんな状態になってまで魔法を使おうとしたのでしょう?」
普通はヤバいと思った時点で止めるだろうし、そもそもあれだけ魔力量がギリギリなら魔法の発動はまず無理なはずなんだが。でも魔法は発動する寸前だったし、ヘルガさんが止めなければ間違いなく発動していただろう。
「確かにな。限界になる前に止めるよう、教師からも事前に注意があったが」
にも関わらず、魔力切れの苦しい状態で無理矢理魔法を使ったわけか。しかも、言い方は悪いが、たかが学園の授業で。明らかにおかしいよな。いい成績をださなきゃ勘当されるとか? いやでも、四人ともそう、なんてことはまずないだろうし。むしろこんなことしたら成績落ちるし。
「ヘルガはどう思いますか?」
「私が彼らに近寄った時には、既に全員気絶しておりました。少なくとも、彼らの意思で魔法を発動させようとした訳ではないと思われます」
それって、誰かが何かしらやったってこと……だよな。
「……とりあえず、このことはお兄様に話しておきましょう。ミトゥレ様も行きますか?」
「……そうだな、私も行こう」
……まあ、皆無事だったんだしとりあえずは良いとしようか。考えるのはお兄様に任せる。一応、一人にはならないようにしていればいいだろう、たぶん。




