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二十二話

 卵の孵化を待ち始めてからどのくらい経ったのか。俺の体感では何時間も経ったような気がするくらいの間、じぃっと激しく揺れ動いている卵を見つめていると、ちょうど卵の真ん中辺りに一際大きなヒビが入った。


「きゅぅっ!」

「…………っ!」


 そわそわしながらもじっと見守っていると、殻の一部が大きく割れて、中から小さな影が可愛らしい声をあげながら俺に向かって飛び出してきた。思ったより力が強い突進を受けてびっくりしつつも、落とさないよう慌てて抱えあげる。


「…………」

「ベイセル様、こちらを」


 ちょっと濡れているのをヘルガから受け取ったタオルで優しく拭い、頭に残っていた卵の殻を取って生まれた子の顔をのぞきこんでみた。


「きゅう?」


 こてん、と可愛らしく首を傾げる小さなこの子は、見たところ前世で言うところの雛鳥に近い。やや赤みがある毛色をした、おそらく鳥の魔物の子。女神様からの報酬として受け取った魔物だから、普通の鳥なんてことはまずないと思うが……。


「ワイバーンの子供、でございますね。昔見たことがあります」


 あれ、鳥じゃないの? ……っていうか、ワイバーンってあれだよな。いかにもドラゴンって感じの見た目をした、腕部分が翼になってるやつ。確か、竜籠で見たのもそうだったような……。


「……ワイバーン、ですか?」

「はい。ただ……」

「……ただ、何ですか?」

「ワイバーンも含めてですが、竜の子供の多くはおよそ数ヵ月程度で成体になります。竜の成体は小さくても三メートルを越えますので、この寮のベイセル様のお部屋で飼われるのはお薦めいたしません」

「なるほど……」


 数ヵ月でその大きさになるってことは、シスのように隠し通すのは無理か。となると、色々お願いをしないといけないってことだな。育てたい理由に関しては、竜籠に乗った時に見た竜を見て、って感じで良いだろうが、問題は卵をどこで手に入れたかだ。さて、どうやって説明するか……。


「……まずはお兄様に話してみましょうか。ヘルガ、お兄様に伝言をお願いします。明日にでも話がしたい、と」

「かしこまりました」


 とりあえずヘルガにそんなことを頼んでおく。明日にした理由は、疲れてるだろうと思ったからだ。お兄様もだが、何より俺が疲れたし。すぐに行動に移したヘルガが部屋から出ていくのを見送って、ベッドに腰掛ける。


「……ワイバーン、ドラゴンですか。君はドラゴンなんですね」

「きゅっ」


 この子が生まれるまでは期待やら不安やら、色んな感情で頭の中がごちゃ混ぜになってしまっていて、正直何も考えられなかったが、ようやく実感がわいてきた。


 誇らしげに胸を張るような仕草を取って見せる可愛らしいこの子は、どうやらドラゴンの子供らしい。いずれ、あの時に竜籠で見たような竜になる。見た感じは雛鳥としか思えないが、ヘルガさんがそう言っていたし、そうなんだろう。


「……そうだ、鑑定」


 今ここには俺とこの子と寝ているシス以外誰もいないし、ちょうどいいタイミングだ。きょとんとしているこの子をじっと見て鑑定を行う。


  名前:不明

 種族:ワイバーン

 性別:女

 年齢:0

 職業:なし

 状態:通常


 能力

 HP:E

 MP:E

 STR:E

 VIT:E

 INT:E

 AGI:E

 DEX:E

 LUC:A


 魔力属性:炎


 スキル

 翻訳:C

 咆哮:E

 飛翔:F

 頑強:E

 異常耐性:C

 火属性魔法:E

 幸運:B



 ステータスを見て色々思うところはあるが……この子はどうやら女の子らしい。生まれたばかりだから能力が低いのは当然だからいいとして、俺より一部の能力が高いのが……うん、まあ子供でも魔物だからな。あとは……名前をつけてあげないと。それと、シスの時にもやった契約をしないといけない。準備もいらないし両方同時に出来るから、これから契約を頼もうと思う。


『ご主人様ぁ、おはよー』

「……おはようございます、シス。よく眠れましたか?」


 結構ドタバタしていたからか、シスを起こしてしまったらしい。にゅっと服の中から出てきたシスはまだ眠そうだが、体調が悪いとかはなさそうで一安心だ。ちょこちょこ寝起きを繰り返しているようだが、まだまだ子供だから頻繁に寝起きするってのもあるかもしれない。


「きゅ?」

『あ、えーっと……妹?』


 お互いの存在に気づいた二人でが見つめあって疑問を浮かべていた。シスは何となく気づいたみたいだけど。それにしても、俺の両手の上で向き合っている二人は可愛いな。


「つい先程生まれたんです。まだ名前がないので、これから名付けと契約をするところですよ」

『そっかぁ』


 シスの時がそうだったが、名前をつけたら契約が始まったんだし、今回もそうなるだろう。これから無理矢理契約を結ぶ、というと聞こえが悪いが、この子は俺に懐いてくれているみたいだし、何よりドラゴンを仲間にしたい。もちろん契約の前に本人の意思は聞くが、その答えがどうあれ仲間にはするつもりである。今後も今日みたいな荒事が学園行事として何度もあるだろうし、シス一人じゃ流石に厳しい。ちょうどそれを実感したところで仲間に出来そうな子が現れたんだから、選択肢は一つだろう。


「というわけで、君。僕と契約をしても良いですか?」

「きゅっ!」


 聞いてみたら、割とあっさり返事を返してくれた。そういえば、何でこの子の言葉が分からないんだろうか。俺は異世界言語習得があるし、この子も翻訳スキルがあるのに。……たぶん、翻訳は読み聞きのためのスキルだから、かな。まだ生まれたてだからちゃんとした言葉を喋れないんだろう。


「ありがとうございます。では、ちょっと離れていてくださいね、シス」

『分かったー!』


 契約中の魔方陣の上に他の誰かが乗ってると拘束されたままになるからな。シスには一旦俺の手の上から適当なところに移動してもらう。シスも以前経験したからか簡単に移動してくれた。


「……名前、何にしましょうか?」


 まあ俺の適当な推測とかは置いておいて、この子の名前を考えないと。シスは『白スライム』から取ったし、この子もそれに倣って付けようかな。赤いワイバーンだから……。赤、炎……?


「……貴女の名前は、エインです」

「きゅー! きゅきゅっ!」


 名前を告げると同時に、俺の足元から赤い魔方陣が光りだした。シスの時は白だったし、魔力属性が影響しているんだろう。


『おー、眩しい!』


 ちょっと楽しそうなシスは置いておくとして、少し心配なのでエインの方を見てみるが、体調は問題無さそうだ。


「それでは、エイン。これからよろしくお願いしますね」


 ステータスを見たところちゃんと俺の従魔に変わってるし、契約は無事に成功したようで何よりだ。


「きゅうっ!」

『ご主人様、ぼくも!』


 離れていたシスがぴょんと俺のところに飛び込んできたので、しっかり受けとめる。もちろんシスのことを忘れてたわけじゃない。


「ええ、もちろんシスもです。二人とも、これからよろしくお願いしますね」


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