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二十一話

『生徒会長のオルムだ。昼時になったので、これにて歓迎会を終了する。全員、戦闘を終了しろ』


 ヘルガと一緒に適当な空き教室で休みながら、窓から外の他の戦ってる人達を見守っていると、そんな放送が流れてきた。休んでいた時間はそんなに長くなかったので、どうやら俺が予想していたよりも早めに終わるらしい。全体で約二時間くらいだったな。


『気絶してしまった者やリタイアした者達は皆、集会場に集まっている。新入生達はこれで解散だが、余力がある者は集会場に集まることを勧める』


 解散なのか。てっきり俺はこの後に終わりの挨拶とか、いきなり授業とかそういうのがあると思ってたが。


 まあでも、解散ならちょうど良い。余力何てないし、シスをゆっくり休ませるためにも、さっさと寮に帰ろう。ただ、お兄様やミトゥレ様に何も言わずに帰るのはちょっとよろしくないかな……。


「ヘルガ。僕は疲れたから寮に戻るので、そのことをお兄様やミトゥレ様に伝えてきてください」

「かしこまりました。では、すぐに戻りますので」


 そう言うとヘルガさんはシュバッと音をたてていなくなってしまった。……相変わらず、凄いことが出来るな、ウチの人達は。


「別にゆっくりでも良いんですけどね……」


 どうせ寮まで帰るのにそれなりの距離があるから、ゆっくりでも十分に追い付けるだろうし。もう行っちゃったから、今更だけど。


 それより、ちょうど一人になったからメイドさんに頼むことを考えよう。今までウチの領地の屋敷にいた時は、結構な数のメイドさんがいたから困ったときは色々頼み事が出来たんだけど、こっちに来てからはメイドさんはほとんどいない。その上彼女達の仕事は護衛だから、そんな簡単にあれこれ頼むのも憚られる。


 そんなわけで、頼み事をするのはヘルガさんくらいになる。彼女はメイドさん達の中でも相当強かったらしいから、俺の無茶ぶりにも何とか対応してくれるんじゃないかと思って。それに、何故か俺のことを慕ってるというか、他のメイドさん達と違ってお父様じゃなくて俺に仕えてるって聞いたことあるし。



 で、頼む事なんだけど……主に調べ事をしてもらおうかと思っている。魔の呪いに関してとか、魔物に関してとか、色々。まだこの世界に関しては全然知らないことだらけだから、調べることは多い。ファンタジーだからそういうのを調べるのも結構楽しいし。


「お待たせ致しました。御二方とも心配なさっておられましたよ」


 おっと、もう帰ってきた。まだ一階分しか降りてないのに。本当に急いできたのか。それにしては身嗜みが一切乱れてない辺り、メイドさんって凄い。


「ありがとうございます、ヘルガ。それにしても、心配させてしまいましたか。お兄様にはまた明日にでも会いに行きましょう」


 ミトゥレ様は同じ部屋に住んでるから、戻ったときにでも話せばいいだろう。今から集会場に行くなんてことはしない。今日はもう疲れたから、帰ってゆっくりしたいんだ。


「それでは寮に帰りましょうか」

「かしこまりました」



「ヘルガ。申し訳ありませんが、僕が寮にいる間は護衛は控えてくれませんか?」


 寮の近くまで歩いてきて、ふと思い立ったのでヘルガさんにそんなことを告げる。我が儘を言っていることは承知の上だが、出来ることなら寮内ではメイドを連れる気はない。


「ベ、ベイセル様? 私が何か気に障るようなことを……?」

「いえ。ただ、僕と同室になられたミトゥレ様はそういった者達を連れていませんから」


 ぶっちゃけると、前世の記憶のある俺がメイド連れだなんて私生活で何も出来ないと言っているようで恥ずかしい。ガーン、とでも効果音が付きそうなくらい大袈裟にショックを受けたような反応をしているヘルガさんには悪いが、子供の可愛い我が儘だと思って諦めてくれるとありがたい。


「し、しかし、護衛の役をやめるわけには……」

「……言い方が悪かったですね。気付かれないように護衛してほしいんです。なので、気配に敏感な方々に気付かれないよう、控えめにお願いしたいんです」


 俺さっき護衛するなって言ったっけ? ま、まあいいや。とりあえずバレないように……というより、これ見よがしにメイドさんを引き連れて歩きたくないってだけなんだけど。


「……かしこまりました。では、誰にも気配を悟られないようお護りさせていただきます」

「お願いします」


 ちょうど寮の玄関前まで来たところ、ヘルガさんがどこかへ行ってしまった。俺の我が儘にも即座に対応してくれるヘルガさんマジ感謝。



「ただいま帰りました」

「おかえりなさい。早かったのね」


 寮に入ってつい癖で挨拶をすると、返事が返ってきた。そういえば、寮には寮母さんがいたな。最初にここに来たときに挨拶したような気がする。


「今日は歓迎会があったはずだけど……どうしたの?」

「疲れたので帰ってきました。一応学園長に箱を手渡しはしましたけど……」

「あら、それはすごいじゃない! でもそれなら、お食事会には参加しないの?」


 え、何それ知らない。もしかして、余力があったらってそれのこと? 食事会なら行けば良かったかな……ああでも、朝にしっかり食べたし、シスを休ませたいし。


「……やめておきます。今日はゆっくり休むことにしましたから」

「そう。なら、しっかり休むのよ」


 何があったかはミトゥレ様かお兄様にでも聞くことにして、早いこと部屋に戻ることにした。



「……そういえば、部屋の片付けをしないといけないんだった」


 ベッドに腰掛けてゆったりしていたら、ふと思い出した。本棚の中とか色々をメイドさんに頼む予定だったのをすっかり忘れてた。


「……はぁ、後でいいや。そうだ、魔物の卵に魔力をあげておこう。後、シスにも」


 疲れているとはいえ、魔力を流すくらいならそれほど大変でもない。ベッドの側に置いてある卵を抱えてから、服の中のシスを潰さないように気をつけて背中から倒れるようにベッドに転がる。ぼふっと沈んだまま、眼を閉じる。


「……昼寝でもしようかな。眠い、し……」


 ひんやりとしたシスの感触と温かな卵の鼓動を感じながらゆっくり微睡んでいると、抱えている卵がピクピクと動いているような気がした。


「……ん、あれ」


 まだまだ眠いんだが、何となく気になるので薄目を開けて確認してみる。ぼやけた視界の中、卵にヒビが入っているように見えた。



「…………ヒビ?」


 重い身体をゆっくりと起こして卵をじっくりと見てみる。そこには確かに所々にヒビが入り、ぷるぷると震えている卵があった。抱えている卵の揺れは段々と大きくなり始めて、ピキピキと音をたてながらヒビが増えていっているのが見えた。


「もしかして、生まれる? ど、どうしよ……とりあえず卵を置いて、それから」


 ベッドの側に卵をそっと置いて、俺は立ち上がる。たぶん、魔物だから色々細かいことは気にしなくても大丈夫だと思うけど……ええっと、まずは布巾と温かいお湯? 布巾は適当な柔らかい布で大丈夫だと思うけど、お湯って……!?


「失礼致します、ベイセル様。こちらをどうぞ」


 突然どこからか現れたヘルガがお湯が入った器とタオルを持ってきた。流石ヘルガ、ナイスタイミング!


「雑事は私が行いますので、ベイセル様は見守ってあげて下さいませ」

「……分かりました、お願いします」


 俺も何かしてあげたいが、下手なことをやらかして困るのはこれから生まれる魔物の子だ。俺に出来るのは、今色々しているヘルガの邪魔にならないよう見守ることだけ。


「……後は待つだけでございます」

「ありがとうございます、ヘルガ」


 準備を終えたらしいヘルガが俺の後ろに下がったため、俺は目の前で大きく揺れている卵をじっと見守ることにした。

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