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二十話

 学園長の所まで箱を持っていこうとしたところで、大変な事に気がついた。俺、学園長のいる場所知らない。まあ、普通に考えるとさっきの集会場か、あるいは学園長室にでもいるんだろうが。もし前者なら今いる三階から降りて行かないといけないし、後者なら上に行く必要がある。さっき逃げながら軽く見た限りでは、この校舎は一階から一年、二階は二年と徐々に上がっているので、おそらくその上に職員室とかがあるんだろうと思う。一番上はたぶん八階だから、その辺り。それで、どっちを先に行くかなんだけど……。


「外は魔法が飛び交ってますからね……」


 廊下の窓から外を見てみると、炎が燃え上がってたり土が隆起していたりと、実にファンタジーな光景が広がっていた。元気がある時なら近くで観戦するのも楽しそうだけど、今は色々と余裕がない。あんな所を突っ切る訳にも行かないから、階段を降りて集会場に行くのは却下だ。それに、校舎内の方が隠れる場所も多く、人も少ないから、目的地は上にする。ここから上まで四階ほど昇らないといけないからちょっと面倒だが、シスが気絶している今誰かと戦闘するわけにもいかない。


「上へ、か……階段長いな」


 ちょうど階段がある所まで来たので見上げてみると、一階上がる度に二十程度の段差をのぼらないといけないっぽい。それを四、五回なので約百段くらい。運動不足で尚且つ朝から動きっぱなしの今の俺には中々に手強い相手だ。怪しまれると困るから走らずゆっくりと行く方がいいだろう。今日はそうしていたお陰で副会長以外は誰とも戦ったりしなかったし。



 階段をゆっくりのぼりながら、少し考える。疲れてるし五歳児の身体じゃのぼりにくいからゆっくり行くのはいいんだが、タイムリミットが分からないことはちょっと問題だ。集会場では誰も言ってなかったはずだし、まさか聞きのがしたなんてことはないと思うんだけど。……まあ、俺の予想では長くても昼前まで、大体あと一、二時間くらいだろうか。それくらいならゆっくり行っても全然問題ないんだけど。まあ、たぶん大丈夫だろう。というか、この広い学園の敷地内から手に持てるサイズの小さい箱を妨害ありで探すなんてどれだけ時間がかかることか。俺に関しては余程運が良かっただけの話だし。


「……うん? あれ、もしかして」


 一応各階毎に簡単に何の部屋があるかの確認をしているんだけど、その途中でふと窓から外を見てみると、ミトゥレ様が複数の先輩達を相手に大立ち回りしているのが見えた。ミトゥレ様は一人で、相対している先輩達は五人。流石に遠すぎてここからだとほとんど見えないが、馬鹿げた大きさの火の玉が相手の魔法を呑み込んでいるのが見えた。


「……流石ミトゥレ様。手伝いなんて必要ありませんね」


 あれを見ると、相手の先輩達が気の毒に思えるな。もし劣勢だったりしたら軽く支援でもしようかとも思っていたが、そんな心配はなさそうだ。もっとも、俺に支援が出来るほどの余裕があるかと言われたら何も言い返せないが。


 ここで長い間じっと見ている訳にもいかないので、巨大な火の玉に攻撃魔法ごと呑み込まれた先輩達が倒れこんだのを見届けて、ちょっと今後が不安になりながらもまた階段をのぼっていくことにした。



 そのまま何事もなくたどり着いた八階の一部屋。今まで見た他の教室とは違って一際綺麗で、どことなく威圧感のようなものが感じられる部屋が、学園長室のようだ。もう扉からして豪華というか何というか、他とは明らかに違うからな。それはともかく、ゆっくり来たとはいえ五歳児には辛い。


「……ふぅ。失礼します。学園長はいらっしゃいますか?」


 軽く息を整えてから扉を軽くノックして、扉越しに聞こえるよう話す。集会場で見た感じの学園長は割と礼儀とかそういうのに寛容そうだったが、俺も一応は貴族。横柄な態度は家の名を貶めることになるから、馬鹿なことはしない。それに、学園長がいなかったら困るし。……ただ、多少の拙さは五歳児だということを考慮してくれれば。


「お、今年は早かったね。箱を持ってきたんでしょ? いいよ、入って入って」


 許可を得られたので、部屋へ入る。ところで、その言葉からして俺の事が新入生だって分かってるみたいだが、他の教師とか先輩達だとは思わなかったんだろうか。それとも扉越しでも誰かが分かるようなチート染みたことが出来る人なのか。……たぶん出来るんだろうな。


「失礼します、ベイセル・イェールオースです。おっしゃる通り、箱を持ってきました」


 一応名前を名乗って学園長室に入る。そこにいたのは、さっきも見た学園長ともう一人、ここにいるのが予想外の見知った人。


「キミが一番乗りかぁ。流石はあの家の子だね。ヘルガちゃんもそう思うでしょ?」

「一番なのは当然です。ベイセル様ですので」


 ウチのメイド、ヘルガさんが何故かここにいた。確かに近い内に来ることは、今朝お兄様が言ってたけど……いくらなんでも早すぎじゃないだろうか。あっちの家からこの学園までは普通に来ると二、三日はかかるはず。


「……何故ヘルガがここに?」

「ベイセル様の護衛でございます。それから、昔の知人である彼女と少しばかり話をと」

「ヘルガちゃんとは昔の知り合いでね。こっちに来るって聞いたから色々話してたんだ」


 へえ、学園長とヘルガは知り合いだったのか。……じゃなくて、どうやって来たのかを聞いたんだが。


「こっちに来るのには少なくとも二、三日はかかると聞いていたんですが……」

「はい、頑張りました」


 何かちょっと誇らしげに言うのはやめてくれ、反応に困るから。頑張ったって要するに、竜籠と同じくらいの速さで来たってことだよな……よく考えたら、ヘルガなら出来そうな気がする。


「……まあ、それはいいです。とりあえず、学園長。これを」


 学園長に持ってきた箱を手渡す。これで少なくとも今日はゆっくり出来るだろう。そう思いたい。ちなみに、ヘルガは俺の後ろへ回って静かに待機していた。


「うん、確かに受けとりました。それじゃあベイセルくん、ご褒美は何がいいかな?」


 ああ、そういえばそんなのあったっけ。正直、何もらうかは全然考えてなかった。何がいいかな……。


「今は思い付かないので、後日でも構いませんか?」

「うーん……じゃあ一つだけ質問をしようかな。それに答えてくれたら良いよ」


 質問? そんなので持ち越しが出来るんなら全然ありだけど。今後何かあった時の切り札として学園長へのお願いが使えるのはかなり助かるし。


「分かりました。それで、質問とはなんでしょう?」

「ちょっと前にキミの家で事件があったでしょ? それについてどう思ったのか聞いてみたくて」

「どう……とは?」


 ちょっと抽象的すぎてどう答えればいいか分からないんだけど。姿も知らない侵入者のことなのか、お母様が倒れたことなのか、俺が気絶したことなのか。


「キミの家のメイド長だった彼女とは友人でさ。その彼女がキミに……って聞いて、さ」


 えーっと……つまり、あのメイド長さんについて言えばいいのかな。っていっても……。


「……あの時のことは、僕は気絶していたのでよく分かっていないのですが……何かしらの事情があったのだろう、とは思っています」


 あの時は確か、お母様と一緒に、天使さんからもらったアイテムで魔の呪いを治そうとしたんだっけ。お母様が治ったのは確認したけど、メイド長の方は見えなかったし……失敗したって可能性も十分にある。それで逃げたとか、結構ありえそうだし。


「そっか……うん、ありがとう」


 どことなく安心したような表情を見せた学園長は、そのまま考え込んでしまった。まあ彼女の視点からしてみれば、友人が職場の上司に殴りかかったようなものだし、心配にもなるか。俺としては、あんまり気にしてないんだけど。メイドさんも家族だからな。俺を育ててくれた家族を疑いたくないし。それに、ボッコボコにされたならともかく、一発で気絶させられただけだし。気づいたらいなくなってたから、いまいちピンとこないっていうのが正直なところだ。


「さてと。用事は終わりましたし、僕はどこか適当なところへ休憩しに行きますが、ヘルガ、貴女はどうしますか?」

「もちろんお供させていただきます」


 学園長はしばらくそっとしておくことにして、ヘルガを連れて学園長室を出ることにした。後は適当なところで休みながら時間がくるのを待ってればいいかな。

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