十九話
少し短め。
人数が増えたお陰でやれることが増えたわけなんだが……五歳児とかよわい女の子の二人で果たしてどれだけのことが出来るのか。あと頬が痛い。とりあえずさっきこの教室に入ってきた女の子の近くに行って、軽く自己紹介でもしようと思う。
「僕はベイセルです。貴女のお名前をお尋ねしても?」
「ははははいっ! わっわたしはネリィと申しますぅ!」
自分から美少女に普通に話しかけられ
るあたり、俺も成長したと思う。こっちに生まれたときから美人揃いの家族や使用人さん達と常に一緒にいたお陰で、少なくとも気後れはしなくなった。
しかし、ここまで怯えられると流石に心にグサッとくる。たぶん人見知りなんだろうけど、少しの間我慢してもらおう。ネリィさんも、この場で副会長さんにやられるよりも何とかして切り抜けた方がマシだろう。出来れば悪感情は持たれたくないし、彼女が人と関わりたくない類いの性格じゃないといいんだけど。
「お話しは済んだ? さっきも言ったけれど、わたしは待つのが嫌いなのよ。早くしないと、こっちから行くわよ?」
「副会長さんは本当にせっかちなんですね。もう少し待っててくださってもいいじゃないですか」
っていうか本当に手詰まり感が出てきたんだけど。何が出来るのか分からないし、何をしていいのかも分からないし。それを相談する時間もないから、何かのきっかけでもないと……。
「あ、あのぅ……ど、どなたとお話ししているんですか?」
「「……え?」」
俺と副会長さんが同時にネリィさんの方を向いた。誰とって、どう考えても目の前の副会長さんと……。
「ひぇ、すみませんすみません! 突然いないはずの女の人の声が聞こえるし貴方は自然にお話してるし!」
ネリィさんには副会長さんの姿が見えない……? とすると、最初の予想通り幻術か何か、っぽいな。後から来たから幻術の効果がないとか? それで、副会長さんはこの場にはいないと。未だに頬が痛いのは……聞いてみるか。
「……すみません、僕の頬に傷は付いていますか?」
「……へ? え、ええっと……つ、付いていない、です……」
傷がないってことは、この痛みは幻? それはつまり、副会長さんは攻撃手段が幻のみってことなのか? なら、何故か幻が効いてないネリィさんに任せるべきか。俺が行くと幻に阻まれそうだし。
「続けてお願いしたいんですが、机の上に置いてある箱を取っていただけませんか?」
「わわわ、わたしがですかぁ!?」
「もし何かがあっても、僕が何とかしますので。お願い出来ませんか?」
「うぅ……わ、分かりました」
ネリィさんがびくびくしながら箱を取りに行くのを後ろから眺める。結果的に最初に想定してた、俺がサポート役としてもう一人に頑張ってもらう戦法が出来たな。副会長さんはいないはずだし、大丈夫だと思うんだが。……あれ、でも声は聞こえたって言ってたっけ?
「と、取りました!」
「わたしを無視するとはいい度胸じゃない。幻が効かないからって何も出来ないわけじゃないのよ!」
ネリィさんが無事に箱を手に取った瞬間、机の下から副会長さん(おそらく本物)がネリィさんに向かって飛び出しているのが見えた。ネリィさんも気付いたようだけど、呆気に取られているだけで動こうとしていなかった。
「伏せてくださいっ!」
「……え?」
慌てて彼女を押し退けてから、この状況がかなり不味いことに気付いた。このままだと俺が直接副会長さんの攻撃(と思われる行動)を受けることになる。咄嗟の行動自体は、ちゃんとサポート役として女の子を守れたんだから後悔はないが……これは俺、また気絶するんだろうか。
『ご主人様っ!』
「……シス?」
俺の思考に若干の諦めが入ったところで、寝ていたはずのシスの叫びが聞こえて目の前が膜状になった半透明のスライムで覆われた。
その直後、机の下から飛び出してきた副会長さんが爆発した。轟音と光のせいで何も聞こえないし、何も見えない。幸いシスのお陰で衝撃は飛んでこないが……シスの安否が心配だ。
数秒経って視界が晴れてきた。周りには尻もちをついた俺とネリィさん、平然としている副会長さん。それと肝心のシスは、ダメージが大きかったようで液体状になってしまっていた。
「シス、大丈夫ですか!?」
崩れた液体状になってしまったシスを慌てて抱える。あんな馬鹿みたいな爆発が直撃してしまえば、最悪は……!
『きゅぅ……』
「……気絶、してしまいましたか」
ステータスとか見た感じはただ気絶しただけだし、何ともなくて良かった、ホントに。ひとまずは大丈夫そうだけど、今朝に続いて短時間で二回もこうなったので、何か悪影響がないかが心配だ。
「……防がれたわね。わたしの負けよ、箱は戦利品としてありがたく持っていきなさい」
それだけ言い残して副会長はいなくなってしまった。……逃げられたし。またいつか、リベンジをしてやらないと。そのためにもやっぱり、この学園にいる間は強くならないといけないし、魔物も増やさないと。咄嗟の行動だったせいか、付与魔法を使うことすら頭になかったからそれも何とかしないといけない。……やること多いな。
「……あ、あの。……ありがとうございます」
「……え、ああ。お怪我は、ありませんでしたか?」
そういえば彼女を守るために飛び出したんだったな。シスの事しか目に入ってなかったが……見た感じ、怪我はなさそうだ。俺の行動が無駄じゃなかっただけ、まだマシな結果か。
「……えっと。じ、じゃあわたしはこれで」
「あ、はい。でも、箱は貴女が持っていってください」
俺はサポート役すら出来てなかったし、それが妥当だろう。箱を手に入れられないのはちょっと残念だが、ここで無理に権利を主張するのは格好が悪すぎる。シスも気絶してしまったし、本格的にリタイアするべきだろう。
「いいえいえ! わたしはいいですいいです! 本当にいいですからぁぁぁ!」
ネリィさんはそんな悲鳴を上げて走り去ってしまった。ずっと落ち着きがなかったな、彼女。箱も置いてったし、やっぱり気安く話しかけ過ぎたかもしれない。箱が手に入ったのは運が良かったけど。
「……あ、そういえばシスのこと見られましたね」
しばらくは隠すつもりだったのに。……まあでも、ネリィさんの方は別にいい。人に言いふらすようなタイプの人じゃないだろうから、問題ないはず。それよりも、問題は副会長の方だ。ネリィさんよりも確実におしゃべりなタイプだろうし、立場的にも口封じなんて出来るわけないし、力ずくが出来るほど俺は強くないし。
「……とりあえず、この箱を学園長の所に持っていくか」
これ持っていくだけで報酬がもらえるんだし、躊躇う意味はないからな。道中が多少不安ではあるが……まあ大丈夫だろう。もし戦闘になっても箱を渡せばいいだけだし。




