第一話
俺、ベイセル・イェールオースが転生してから5年が経った。つまり、もう5歳である。5歳にもなれば出来ることも多いだろう。実際今は情報収集兼趣味のために家の図書室で読書中だ。この世界の本ってどのジャンルでもファンタジー小説の設定資料集みたいで面白いんだよ。ファンタジーな世界の物だから当然だけど。
しかし、転生してすぐの頃は大変だった。何が大変って、どれだけ我慢しても泣いてしまうのだ。結構な頻度でぎゃんぎゃん泣いてしまって、両親には迷惑をかけてしまった。
まあそのおかげで転生のことがバレてたってことはまずないだろうが。完全に普通の子だったし。
ハイハイが出来るようになってからは、家の中にあった図書館っぽいところに本を読みに行った。異世界言語習得のおかげで楽に読める。目が届かない場所に動き回るので、またしても両親には迷惑をかけてしまった。
その後は読書に夢中になったり、適当なタイミングで喋れることをアピールして両親が大はしゃぎしたり、メイドさんが大はしゃぎしたりと色々あった。が、まあ色々と黒歴史を大量生産したような気がするので思い出す気はない。
それはそうと、メイドさんである。どうやら我が家は貴族らしく、使用人達が結構な数いる。第二の人生はどうやら恵まれているらしい。良いことだ。転生時にそういう細かい指定が出来なかったからビクビクしていたんだけど、一安心である。ちなみに今も隣にはメイドさんが座っていて、一緒に読書タイムを楽しんでいる。
ただ、親は貴族らしい貴族というべきか、小説の主人公の両親のような、使用人に対しても家族のように接するタイプではない。冷たい対応を良く見る。
とはいえ、良い親ではある。ちゃんと俺のことは可愛がってくれるし、領地経営も上手い。これまた小説でよくいる理不尽で屑なタイプじゃないのはまず間違いない。偶に愚痴ってるメイドさん達からの評判も悪くないし。精々仕事がキツいだとかそんな程度だ。雇い主と従業員のドライな関係って感じ。
メイドさんの愚痴は結構情報収集になるから、時々聞いている。向こうも子供だから理解できないと思っているのだろう、色々なことを話してくる。最近は過激な話は減ってきたが。ちなみに、1番多いのは恋人が出来ないって話。使用人をやってると男女共に出会いが少ないのだとか。
それは置いといて、スキル確認のために自分に対して鑑定してみた。自分に鑑定ってこれが地味に難しくて、頭か心臓辺りに視線を向けないとステータス鑑定は発動してくれない。ステータス鑑定と普通の鑑定は別物らしく、ステータス鑑定に失敗すると普通の鑑定が発動してしまうのだ。……以前自分の腕を鑑定したら「ベイセル・イェールオースの右腕」って出たんだよ。
ま、まあそれはいい。今は俺のステータスだ。
名前:ベイセル・イェールオース
種族:人間
性別:男
年齢:5
職業:イェールオース家第三子息
状態:通常
能力:ランク
LV:F
HP:F
MP:B
STR:F
VIT:F
INT:C
AGI:E
DEX:D
LUC:C
魔力属性:与
スキル:ランク
鑑定:S
異世界言語習得:S
好印象(従魔):C
育成(従魔):C
成長促進(従魔):C
意思疎通(従魔):C
進化(従魔):C
契約魔法:C
魔力量増加:C
付与魔法:E
貴族:D
速読:D
隠密:F
逃げ足:F
幸運:C
慈愛:D
以上が俺のステータスである。子供って職業なのか、なんてツッコミは置いておくとして。完全に魔法型のステータスである。まあ、碌に運動してないし、本読んでただけだから納得はいく。
それと、本読むために逃げたり隠れたりしてたから取得したらしいスキルがあるし、スキルは行動によって付くと分かったのは収穫だな。あと、この世界のスキルは、自力で身につけたスキルがランクFから始まって、スキルを使い続けるとランクが上がる、といった熟練度制らしいって分かったこともか。
で、このランクなんだが、能力値にしてもスキルにしても、Fランクは正直無いのとほぼ同じだ。自力で身につけたスキルは、いつスキルがついたのか分からなかったくらい変化が無い。その代わり、FからEに上がると補正のようなものが付くみたいだが。ランクが上がったらすぐ気付く程度には補正が掛かっていると思う。
貰ったスキルもちゃんとあるし、最初からランクがCだった。最初からランクCなのはかなりありがたい。ランクCってのは、「十分な知識と技術を身につけ、それに伴う経験を積んだ」レベルの人たちが得られるもので、ランク補正には知識や技術が含まれている。つまり、全く経験していない俺であっても、ランクCになっているものは使い方とかを悩む必要がなく成功させられる、ということである。
一言で言えば、ご都合主義万歳。
まあマイナス効果が付きそうな称号だとか、病気だとかがなくて良かった。攻撃手段は微塵もないけど。
「攻撃魔法とか、使いたかったんだけどなぁ……」
「どうかいたしましたか、ベイセル様?」
「あ、いえ。何でもありませんよ」
思わず声に出してしまった言葉に反応したメイドさんから心配そうに見られてしまった。いつもは読書中には一言も喋らないからだろうけど。……というか、今メイドさんがいることを忘れてたわ。ちなみに俺が敬語なのは、家庭教師に厳しく叩き込まれたからだ。だから基本的には貴族らしく敬語キャラになった。……咄嗟の時は敬語使うのを忘れるけど。
ともかく、ファンタジーと言えば魔法! というわけで、さっきまで魔法の本を幾つか読んでいたわけなんだけど。
まさか適正がないとは思わなかったな。魔法型のステータスなのに。
俺の読んだ本によると、魔法を使うには自分の中にある魔力を使いたい魔法に応じた形に変化させ、それを外に放出することで発動するらしい。要するにイメージして発動、それだけだ。
流石にそれくらいは俺にも出来る。俺の魔力はかなり多いし。一応使える魔法もあるし。では何故適正がないのかというと、俺の魔力の属性が問題だ。
魔力の属性は、定番の火、水、土、風、光、闇と、その他を一括りにした無の七つがある。
そしてステータスでも分かる通り、俺の魔力は無、その中でもレアな与属性だということが判明した。これ探すの大変だったよ。無属性は分類がその他だから種類が多く、しかも与属性はレアだから普通の本には書いてない。属性の図鑑的なものを(メイドさんに手伝ってもらいつつ)探して、ようやく見つけたから読んでみたら目次とか索引とかが無いし、書いてある属性の順番はバラバラだから最初から全部読まないといけないし、文字がかなり小さいからじっくり読まないと見逃すしで、何日かかったことやら。
そんな苦労をしてようやく見つけた俺の属性である与属性は、他者に与えることに特化した属性だ。味方に使う能力強化や、敵に使う弱体化、味方に魔力を与えてMP回復と、意外と便利なものだ。ただし、自分には全く使用できず、攻撃魔法のようなものは使えない。
これだけなら、かなりの当たり属性だとは思うが。支援特化型で、結構有能な後衛になる。俺は魔物使いになる予定だし、魔物に前衛を任せて俺は後ろで支援をする、いいパーティになりそうではある。
しかし、残念なことに魔法が使えない以外にも問題があるらしいのだ。まあ一応メイドさんに聞いてみることにする。
「ヘルガ。無属性って、なんでこんなに適当に書かれているんですか?」
あ、メイドさんの名前はヘルガさんだ。貴族ではないので、姓は無い。短めの赤い髪と高い身長の、カッコ良い女性だ。胸が大きく(我が家の女性の中で1番)、気持ち悪い視線を向けてくる男が多くて困っているらしい(本人談)。
俺が貴族だから、呼ぶ時は敬称をつけないようにしないと、メイドさんの方が怒られてしまう。実際さん付けした時にメイドさんが怒られてたし。
「無属性でございますか? そうですね……」
ヘルガさんによると、無属性は無能だと言われているらしい。その理由は、有名人がいないからだそうだ。
六属性にはそれぞれ英雄的存在がいて、人気が高く、使える人も多い。それに比べて無属性は種類が多すぎて、同じ属性の人がまず存在しないらしく、いても10人以下だそうだ。
同じ属性を使える人がいないということはつまり、教えられる人がいないという事だ。だから無属性になった人は強くなることはまずない。いくら才能があっても独学では限界があるし、時間がかかる。応用性に関しても使う人が多い六属性の方が高い。
珍しいけど、強くもないし、便利でもない。それにあの属性にはあの人がいるけど、無属性にはいないよね。だから無属性は微妙。そんな評価なのだそうだ。
そうなると、無属性だと知られるのは困る。最悪捨てられることもありうるからな、テンプレ的に。貴族に生まれて、無能と言われている魔法属性になって、「お前なんか家族じゃない」的なことを言われて、捨てられる。小説のテンプレである。所詮空想の話だと言っても、現状が既にファンタジーだから前世の常識が通用しない可能性も大いにあるしな。
「失礼いたします。若様、奥様がお呼びです」
お、メイド長さん。お仕事お疲れ様です。しかし、お母様が呼んでるってタイミング悪すぎ。ちょうど今考えたことでフラグがたったとしか思えないじゃないか!
まあ鑑定スキルの類はかなり珍しいから、実際に魔法を使う時にならないと普通は魔力適性なんて分からないんだけど。
だから別件のはずだ。今までにそんな素振りはなかったし。
「お母様が? 分かりました。すぐに行きます」
「ヘルガは仕事に行きなさい。若様は私がお送りします」
「了解です」
ヘルガさん、お仕事頑張って!