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十五話

 厳しい朝練も終わったので、一度寮に戻ってお風呂で軽く汗を流した。お風呂から出てすぐに眠ってしまったシスは、いつものように服の中に入っている。準備するようなものは特にないので、ほぼ手ぶらである。学習道具なんかは学園からの支給らしいし、お金は多少持ってはいるものの多いと嵩張るので少しだけ。お兄様とその婚約者のアルガン先輩が寮の前で待っていると言われていたので、ミトゥレ様と一緒にお兄様達を待たせないように少し早めに寮を出た所で、二人を見つけて声をかける。


「お待たせしました、お兄様、アルガン先輩」

「早かったね。もう少しゆっくりしてからでも良かったのに。それと、ベイセルにはロシェのことは義姉と呼んで欲しいな」

「あら、ルベルト様ったら。恥ずかしいですわ」


 二人は予想以上に仲が良いらしい。何でもないかのように平然と腕を組んでいるあたり、流石は婚約者同士、というべきか。朝っぱらからこんなところで惚気てるんじゃねえよ、とでも言いたくなる。


「……分かりましたよ。では、お兄様もお義姉様も、行きますよ。初日から遅刻なんて絶対にダメですからね」

「あらあら、ルベルト様。ベイセル様がお義姉様と呼んでくださいましたわ! お義姉様だなんて……照れますわ」

「良いじゃないか。ロシェは僕の婚約者なんだから」


 ウチのお兄様がバカップル染みた言動をし始めた件。こんな二人と一緒に登校するとか絶対に嫌だ。


「……はあ。ミトゥレ様、もうあの二人は置いていきましょう」

「い、いいのか?」

「良いんです。往来でいちゃつくお兄様は遅刻して恥ずかしい思いをするのがお似合いなんです」

「そ、そうか」


 お兄様達を放っておいて、ちょっと困った顔をしているミトゥレ様と二人で学園へ向かう。入学式が行われるのは集会場、寮からはそれほど遠くはないし、昨日案内もしてもらったから、行く場所は分かる。あの二人の仲が良いのは別に問題ないんだけど、ところ構わずイチャイチャするのはどうかと思う。


「しかし、御二人は随分と仲が良いのだな。イェールオース家とアルガン家は政略結婚だと聞いていたが……」


 ミトゥレ様は既にお兄様達のことを知っていたらしい。いくら王女様とはいえ、この人結構詳しいよな。俺が無知過ぎるのかもしれないが。


「政略結婚だからといって夫婦仲が悪いとは限らない、ということでしょうね。お兄様のことですから、色々と根回しはしたんだとは思いますけど」

「……ベイセルはルベルト殿のことが好きなのだな」

「……へ? ええと、もちろん好きですが……どうしたんですか突然?」


 今生での家族だしな。転生者としては葛藤の一つもあるんだろうが、俺としては家族が一つだけというわけでもないだろうと思う。普通の人だって結婚したら家族が増えるし、ホームステイとかで一緒に住む人も家族みたいなものだろうし。それに、ウチの家族は……何と言うか、色んな方面で才能溢れる人達ばかりだから、一緒にいると楽しいんだ。


「……いや、な。私は――私の家は、あまり仲が良くないからな……。少し羨ましいと思ってな

「……そう、なんですか」


 そっか。王族だし、そういうゴタゴタが色々あるんだろうな。俺はあんまり詳しくないが、三番目の王子と五番目の王子、二番目の王女が王位を積極的に狙っているらしいとは聞いたことがある。


「……それは、」


 何か言おうとしたら、ぐぅ~~、と俺のお腹が鳴った。そういえば、昨日は一食もしていなかったんだった。それに加えて今朝も食べてないし、一昨日も食べてなかった気がする。それは腹が減るのも仕方ない。というか、気づけよ俺。


「……っふふ。そうだな、まだ時間も余っているし、朝食を食べに行こうか」

「……は、はい。お気遣いありがとうございます」


 一応言い訳をさせてもらうと、色々あって忙しかったんだ。それに、この世界では魔力があるお陰で、あまりお腹が減らなかったりする。食事が必要ない、とまではいかなくても、一日一食すれば十分だと言われている。三日抜いた程度で体調は悪くならないし、極論をいえば一切食べなくても生きられるらしい。勿論魔力が充実していればの話だが。


「朝食を食べるのなら、食堂に行くと良いよ。この学園は食事にも力をいれているからね」

「わたくしのおすすめはワッフルですわ。ふわふわで甘くて美味しいんですの」

「……二人とも、いつの間に来たんですか」


 気付けばお兄様とお義姉様が笑顔で楽しそうに俺達の後ろをついてきていた。さっき声もかけずに置いてきたのに。


「ひどいじゃないかベイセル。僕達を置いていくなんて」

「せっかく二人きりにしたんですから、ゆっくり来れば良かったんですよ」

「ロシェとはいつも学園で一緒にいるからね。最近会ってなかったんだから、ベイセルの世話を焼かせてくれてもいいじゃないか」


 ちょっと不満そうな顔でそんなことを言ってくる。しかし、いつも一緒にいるのか……。全然知らなかったけど、すごく仲が良いんだな。


「あ、それとも……王女様と二人きりになりたかったのかな? それなら悪いことをしたね。何なら僕達は今からでも邪魔しないように退散した方が良いかな?」

「……いえ、いいです」


 お兄様も、わざわざそんな逃げ道を塞ぐような言い方しなくてもいいのに。険悪な仲じゃないんだしさ。まあ、そのニヤニヤした感じからして、からかっているんだろうけど。


「お兄様達が色々とすみません、ミトゥレ様」

「それは別に構わないが……ところでベイセル。今朝に私のことは様をつけなくてもいいといったじゃないか」

「そ、それは……」


 そんなちょっと不満そうな顔で簡単に様をつけなくてもいいとか言われても困る。貴方王女様なんだぞと言いたい。というか、今こんなところでそれを言わないで欲しい。今はルベルトお兄様がすぐそこにいるんだからさ。


「なるほど。ベイセルももうそんなに王女様と仲良くなったんだね。良いことじゃないか」

「やはりベイセル様はルベルト様と似てますわね。手が早い所とか」

「……そんなに早かったかな?」

「ええ、それはもう。出会ったその日から、色々あったではありませんか」


 またお兄様達が二人の世界に入りだしたし。変にからかわれなくなった分楽になったと思うべきか、それとも対応が面倒になったと思うべきか。


「……あの、そろそろ朝食に行きませんか?」


 いい加減お腹が減ってきたので、多少恥ずかしくても主張することにした。まだ寮を出てから五分程度しか経ってないとはいえ、このままだと長々と喋り続けてそうだし、食事にありつけそうにない気がする。というか、お腹減ったから早く何か食べたい。朝の激しい運動のせいで普段より余計にそう思う。魔力も朝シス達にあげたから少ないし。


「そうだね。それじゃ、朝食に行こうか。今日の準備のために来た何人かの生徒達のために食堂は開いているから、そこで食事をしよう。その後に集会場に行っても十分間に合うからね」

「その食堂はどこに?」

「ああ、校舎の一階にあるよ。ここからならそう遠くはないから、ベイセルが倒れる前に早く行こう」

「む、それはいけないな。少し急ぐとしようか」


 お兄様のからかいはいつものことだけど、ミトゥレ様までこの流れにのっちゃったし。二人とも楽しそうだから別にいいんだけど、何故かこの流れが定番化しそうな気がする。


「……もうそれでいいですから、行きましょう」

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