第十三話
遅れてしまって申し訳ありません。
昨日は部屋に帰ってすぐに寝てしまった。ミトゥレ様への挨拶が適当になってしまったが、俺がまだ幼いからか「しょうがないな」の一言で済まされたのは助かった。家でそんなことをしようものなら説教コース待ったなしだからな。いやあ、良かった良かった。
で、だ。ささっと卵とシスに魔力を軽く流して、外出の準備を終えた後、昨日お願いした訓練を早速朝からすることになった訳なんだが。
「では、ベイセル殿。早速行こうか」
「……もうですか?まだ朝食も食べてませんよ?」
ちなみに、今の時間帯は早朝。普段なら完全に寝ている時間なので俺としてはのんびりしたい気分だし、シスなんてまだまだおねむだ。昨日は寝るのが早すぎたから、こんな朝早くに起きたんだろう。
「何を言っている。今日はベイセル殿との訓練なのだから、いつもより遅い時間だ。朝食は訓練後でないと出てしまうからな」
私だって手加減くらいする、と小声でぼやきながらそんなことを言うミトゥレ様。いつもより遅いって……今は前世的に言えば朝の六時頃なんだが。基本インドア派な俺には辛い。そして出るってなんだ出るって。
「……いつもより遅い、ですか。分かりました。これから準備をしますので、少し部屋を出てもらっても良いですか?」
今後はミトゥレ様と同じ部屋で暮らしていく訳なので、敬語は控えめにしていく予定だ。ミトゥレ様には楽にしていいと言われたし。と言っても、今までも敬語なんて正直適当ではあったが。そもそも日本語を喋ってるわけじゃないし、その辺りは俺のフィーリングで何とかしている。
「む、そうだな。では早めにな」
ミトゥレ様には部屋から出てもらった。まだ所詮五歳と八歳だとはいえ、身分は王族と貴族。着替えを見たなんてことになったら色々と厄介なのである。一緒に住んでる時点で今更なような気もするが、まあ俺達の気分の問題でもある。お互いの着替えを見るとか、正直言って気まずい。
「……ふぁ、あ。朝早すぎ……眠い」
こんな朝早くから部屋を出るとか面倒なんだが、そんな我が儘を言うわけにもいかない。朝練に関しては俺から頼んだことだし、昨日のミトゥレ様のバトルを見た限り俺もシスも現状かなり弱い。まだ小学生程度の年齢でしかないミトゥレ様や、対戦相手のあの先輩(多分兄様と同い年の十二歳)が、普通……と考えて良いのかは分からないが、どちらにしても最低限そのくらいの実力にはなっておかないと色々と困る。
少し前の我が家に侵入した何者かの件もそうだし、今後魔物使いとして生きていく上でもだが、俺はまず確実に戦闘関係のトラブルに巻き込まれるだろう。それに抗える程度の実力は持ってないと駄目だと思う。魔物使いとして魔物達に戦ってもらうにしても、俺自身が逃げ回れる程度には。
毎度毎度こんなことを考えているのも、忘れっぽい俺のことだからどこかでボケたことをやらかして、色々と諦めて堕落した人生を送りそうだからだ。下手に転生して特別感を得てしまっている現状、どこぞの主人公のような優れた人格でもなければしっかりとした自制心が必要になってくる。
現に今、目標を達成していかないと罰が下るってのがあったのを思い出したくらいだ。あの時の天使にすら手も足もでないんだから逆らえるわけもないし、せっかく転生させてもらったんだ。色々気合い入れていかないと。
「あー……シスを起こさないと」
そういうわけで、ミトゥレ様には申し訳ないが少しばかり待ってもらってまずはシスを起こす。いつものことだが、夜は俺の服の中で眠っている。たまに押し潰してしまうこともあるが、彼女的にはそれがいいらしい。俺としてもひんやりして気持ちいいので、わざわざ止めさせてはいない。その時に汗やらを食べているらしいが……。
それと、シスの鍛練に関しては基本的に基礎能力向上を目的にする予定だ。昨日決めた魔法耐久型への育成は、それとなく耐久よりに鍛練してもらうことと、スキルの習得方法が分かってから――というより、SPでスキル習得が出来るかどうかを試してからだ。あと、SPの取得方法も調べないと。
「おはようございます、シス。よく眠れましたか?」
『……おはよー、ご主人様。うん、しっかり眠れたよ?』
俺の服の右手の袖からにゅるっと出てきて挨拶をしてくれるシス。全体的に若干だがとろんとしてるような気がするのは寝起きだからか。
「元気そうで何よりです。これから、昨日ミトゥレ様にお願いした鍛練をしに行きますよ」
『お姉様と? うん、分かった』
そう言ってまた俺の服の中に潜り込もうとしてごそごそし始めた。二度寝をしたくなる気持ちは良く分かるが、くすぐったい。
「シス、服の中に潜り込まないで下さい。くすぐったいですから」
あと、昨日シスは大きくなったから、いくら不定形なスライムとはいえ外から見て明らかに分かるくらい膨らんでしまう。寝るときくらいなら別に気にしないが、これから外に出るのにそんな不恰好なのは流石にお断りだ。
『えー……いいでしょちょっとくらい。鍛練する時には出るからさ』
「駄目です。……シス、成長して少しわがままになりましたね」
ステータスを弄る前は素直で可愛らしい子だったのに、今では幼稚園児から小学生くらいになった感じだ。見た目スライムだから可愛いのは変わらないし、昨日見たステータスの忠誠からしても俺が気に入らないというわけでもなさそうだから、ちょっとくらいは許しても良いと言えば良いんだが。どうせ俺以外の人には言葉が通じないんだろうし、口調とかはどうでも良いんだけど……まあ、まだまだ俺もシスも幼い子供だから、ゆっくりと成長していけばいいだろう。
「ミトゥレ様を待たせてしまってますから、すぐに着替えるんですよ。シスもミトゥレ様を待たせたくはないでしょう?」
『うー……分かった。お姉様を待たせるのはだめだもんね』
服の中から出てきたシスがすぐ側のベッドの上に飛び降りた。この部屋にはベッドが一つしかないので、ミトゥレ様とは毎日同じベッドで寝ている。とはいっても、このベッドはいわゆるキングサイズのすごく大きいものなので、俺達くらい身体が小さいとそれなりに距離をおいて寝られる。ついでにいうと、朝が遅い俺と違ってミトゥレ様は早起きのようで、俺が起きる頃には絶対起きている。
そんなわけで、ドキドキなイベントは今のところ一切起こっていない。まあそんなイベントがあっても気まずいだけだろうけど。
『ねえご主人様。鍛練の時には前みたいに魔法、使ってくれる?』
「いえ、あの魔法は使いませんよ。僕達は地力を上げなければいけませんからね」
俺の魔法で支援するのは、ある程度強くなってからの話だ。模擬戦とかで使うならともかく、基礎鍛練では使っても鍛練にならないし。
『えー……ご主人様の魔力気持ちいいのに。あ、でも朝のいつものはくれるんだよね?』
「ええ。シスにもあの卵にもあげるつもりですよ。さてと、着替えましたしこちらに来てください」
『はーい!』
ベッドからぽよんと跳ねて俺の胸辺りに飛んできたのをキャッチする。魔力を流しながら、ついでにむにむにと揉んでおく。
『うにゃうゃ。ぁふー……』
シスに魔力を流しつつ、机の上に置いてある卵にも魔力を流す。卵をなでなで、シスをむにむに。
『うみぅ。ふぅあうぁ』
あんまりやり続けると再起不能になるから、ほどほどでやめないといけない。やってる側としては結構楽しいんだけど。
「ほら、今日はこのくらいで終わりですよ。準備も大体終わりましたし、ミトゥレ様の所に行きましょうか」




