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第十話

「ミトゥレ様、準備はよろしいですか?」

「ああ、大丈夫だ。では行こうか」


 今日は学園探索に行く日である。俺もミトゥレ様も立場がアレなので、しっかり準備をしておかないといけない。前世の俺だったら数分もかからないくらい適当に準備を終わらせてただろうけど、今それをやるわけにはいかない。

 なので、それなりの時間をかけて準備を終えたところだ。ああ、服はクローゼットの中に既に色々用意されてた。たぶん、お母様が用意していたんだと思う。こういう時にメイドさん達がいてほしかったと思う。

 ミトゥレ様も準備が終わったようなので、出発しようと思うんだけど、折角なので出る前に卵に魔力を少し与えておく。魔物の卵なのだから、シスと同様に魔力を与えても良いだろう。


「ベイセル殿。何をしているんだ?」


 何って、魔力を……あ。そういえば、卵が魔物のものだって言ってないな。魔物の卵だって言うわけにもいかないし。


「試しに魔力を流してみています。シス達は嬉しそうでしたから、生き物には良いのかと思いまして」

『あれをされるときもちいいの』

「成る程。魔力は生きている者は全て持っているものだからな。……ふむ、ならば私も与えようか」


 え、あー……まあ、いいか。俺とミトゥレ様の魔力が混ざることへの不安はあるが、変なことにはならないだろう。強いて言うなら、生まれてきた魔物がミトゥレ様のことも俺と同じく親、あるいは主として認識する可能性があるってところだが。ミトゥレ様と仲良くしておいても損はなさそうだから、別に良いか。


「さて、では行こうか」

「……すみません、お待たせしてしまって」

「構わないさ」



 さてと。とりあえず最初の目的地は学園の校舎だ。一番分かりやすいからという理由もあるが、職員室的なところで学園内地図のようなものでももらえないかと期待している。

 まあ地図があってもなくても、案内役くらいは寄越してくれるだろう。実力主義がどうとか以前に、入学前の王女と公爵家三男相手に案内すら出さないのは問題だろう。

 というわけで、校舎へ到着した。道中は王女様と話をしていたんだけど、ミトゥレ様の武勇伝がすごい。噂で聞いていたことが本当なのか聞いたら、大体本当だったという。あ、そういった噂はメイドさんの愚痴から聞いた。


「しかし、この学園は大きいですね」


 言いつつ校舎を見上げる。見た感じ、大体八階くらいはありそうだ。この校舎だけでも十分なほどデカいのに、学園の敷地内には他にも色々な施設があるらしい。正直言って無駄なんじゃないかと思わなくもない。


「確かに大きいな。ただ、その分設備も充実しているだろう」

「それにしたって限度があると思うんですけどね。王宮より大きいのでは?」


 これだけデカいと、ルベルトお兄様の部屋がちょっと貧相すぎると思わなくもない。価値観が狂いそうだ。


「どうだろうな。だが、この学園は何代か前の英雄と王家が協力して建てたという話を聞いたことはあるから、王宮より大きい可能性はあるな」

「そうなのですか?」


 王女様の言った英雄というのは、世界を救ったりする者達のことではない。王都が開催している、属性別の最優秀者を決める大会に優勝した者のことを言う。大会の名前は確か「エレメンタル」とか、そんな感じの名前。当然の様に無属性以外の属性別だ。せんせー、仲間ハズレはいけないと思いまーす!

 ……まあそれはともかく、この大会の優勝者六名には、王様直々の勲章の授与と、巨額の賞金が貰える。その何代か前の英雄達は、この勲章でのコネと、貰った金で土地を得て学園を建てたということなのだろう。それならこのデカさもおかしくはない、かな。

 前世だったら八階建てでも全然おかしくないだろうけど、この世界だからな。技術的な面からしても、相当な無茶をしたんじゃないかと思うんだが。


「英雄といえば、この学園の学園長は今代の英雄で、歴代最高とも言われていましたね」


 なんでも学園長は、複数の属性を扱えるらしい。それだけなら珍しいで終わるが、その複数の属性全てで大会を優勝したとか。この世界はチートだらけだよホントに。

 だからこの人が学園長になってからは、一気に生徒希望者が増えたらしい。学園長と接点なんて出来ないと思うんだけどな。


「そうらしいな。……ベイセル殿はその大会に出ようと思っているか?」

「流石にそこまで自惚れていませんよ。僕が参加しても予選で落とされるでしょうね」


 予選どころか参加資格すらないかもな。無属性だし。シスの魔法で誤魔化せないこともないかもしれないが、それにしたって実力不足だしな。


「ミトゥレ様はどうなのですか? 火属性の魔法が得意だと聞いていますが」

「……いや、私も参加する気はあまりないな。私は魔法より剣を扱う方が得意だ」


 どことなく不満そうにも見えるが……まあ、詮索はダメだな。鑑定でもすれば分かるかも、とも思わなくもないが、それをやるとたぶん後ろにいるだろう執事さんに殺されそうだ。

 そういえば、シスのステータスも見たかったんだった。とはいえ今シスを外に出すのはあまり良くなさそうだから、部屋に帰った時にでも見ようか。昨日確認しておけばよかったかな。


「あの、そこのお二方。少しよろしいかしら?」


 王女様が黙ってしまって何となく気まずくなったところに、声をかけてくる人がいたらしい。どうしようか困ってたから、ナイスタイミングだと褒めてあげたいところだ。

 声の主が気になって、そちらに向く。見た感じ知らない人だ。いや、俺が知ってる人なんて皆無に近いんだけど。まさか金髪縦ロールなんてものをリアルに見れるとは思わなかった。この学園の制服を着ているので、先輩何だろうと思う。


「わたくしはロシェル・アルガンと申しますわ。貴方はルベルト様の弟のベイセル様で間違いありませんわね?」

「……ああ、ルベルトお兄様の差し金ですか?」

「差し金というと大げさですけれどね。ルベルト様に言われまして、案内をさせていただこうかと」


 わざわざ探検でもしろと言われたからには、何かしらの手段で接触があるとは思ってたけど、正解だったな。

 案内役を用意したということは、何か見せたいものがある、といったところだろう。王女様と仲良くなれているかの確認も兼ねてそうだ。


「案内ですか? 僕は是非お願いしたいですけど……ミトゥレ様はどうですか?」

「……ああ、構わない」


 あれ、王女様の顔がまた不満そうに……何でだ?


「ふふ、仲がよろしいですわね」


 先輩は俺達二人を見て微笑ましそうに笑っている。その視線は恥ずかしいからやめてほしいんだけど。


「アルガン先輩はルベルトお兄様とはどういった知り合いなのですか?」


 お兄様が俺と王女様の案内役として指名したわけだから、それなりに親しいとは思うんだけど。


「あら、ご存知だと思っていたのですが……では、逆に聞いてみましょうか。わたくしはルベルト様の何だと思いますか?」


 お兄様の何、って言われてもな……確か、アルガン家は侯爵家だったはずだし、ウチよりは位が下とはいえ十分な家格がある。それを考えるとかなり親しいとしてもおかしくない。この先輩は頭が良さそうだし、以前聞いたことのあるお兄様の好みの体型に近い。


「……ルベルトお兄様の恋人ですか?」

「ふふふ。惜しいですわね。わたくしはルベルト様の婚約者ですわ」

「……婚約者、ですか」


 え、何それ聞いてないんだけど。ルベルトお兄様って婚約者いるのか。まあ公爵家の次男なわけだし、おかしくはないか。十二歳で、ってのは早すぎる気もするけど、この世界ではそんなものなんだろう。


「これからもよろしくお願いしますわ、ベイセル様。……さて、ここでずっと話をしていても仕方ありませんし、行きましょうか。まずは集会場へご案内いたしますわ」




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