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第九話

書き溜めがなくなったので、これから更新頻度が落ちます。

「お久しぶりです、ルベルトお兄様」

「ベイセル、もう来たのか。久しぶりだね」


 さて、寮母さん(仮)にルベルトお兄様の部屋を教えてもらい、早速向かったわけだが。道中何かしらのイベントでも起きるかなと思っていたが、特に何もなかった。非常に残念である。いや、平穏なのは良い事だけど。


「うん、ベイセルが元気そうで何よりだよ」


 そう言って笑顔になるルベルトお兄様はまごう事なきイケメンである。歳は十二。俺より七つ上の異母兄だ。我が家の次男に当たる。相変わらずこの世界の人は年齢と言動が合っていない。俺が言うなって話だけど。


「やはり、こういう部屋が普通ですよね……」


 ルベルトお兄様の部屋は、俺がイメージしていた寮の部屋そのものである。二段ベッド一つ、机二つ。何となく狭い気もするが、いつも広すぎる部屋にしかいない俺の錯覚だろう。


「うん? ベイセルは屋敷から出たことがないから、やっぱり貧相に見えるかな?」


 ルベルトお兄様の言う通り、俺は屋敷から出た事のない箱入りである。まだ五歳だからパーティーとかは出席したことがないし、危険だからと外には出させてもらえない。俺が外に出させてもらえないのは、以前お兄様達がやらかしたからって話を聞いた事があるが。

 なので、俺が今持ってるこの世界の知識は、家にあった本と家庭教師から教えてもらったこと、それからメイドさん達が話している世間話や愚痴、お母様やお兄様達の話、くらいのものである。


「いえ、そんなことは。ただ、お父様が用意した僕の部屋がかなり豪華なものでしたから」

「ああ、なるほど。でも、ベイセルは王女様と同室なんだから、仕方ないよね」

「……ルベルトお兄様もご存知だったんですね」

「まあね。提案したのは僕だから」

「……えっ」


 ……まあ、納得は出来る。ルベルトお兄様はお父様に似てそういった策略とか得意だから。俺の中では、いわゆる内政チート的なイメージが強い。


「流石にベイセルもそこまでは読めなかったみたいだね」


 いつもの笑顔を浮かべてそんなことを言う。何故かルベルトお兄様は時々こうして俺を過大評価する。最近は会ってなかったから、どうなったかと思ったけど、その点に関してはあまり変わらないらしい。


「ですから、僕はお兄様達ほど優秀ではないと……」

「まあまあ。ベイセルには僕達には無いものを持っている気がしてね」


 いつもこれである。最初は俺が転生者だとバレたのかとも思ったが、そんなことはなさそうだし。


「それで、王女様とはどうだい? 上手くやっていけそうかな?」


 そしてあっさりと話題を逸らされる。これもいつものことである。話術ではルベルトお兄様にはかなわないだろうな。


「今の所は特に問題ないと思います。……部屋にベッドが一つしかないことを除けば、ですが」

「あはは、部屋はそうなってるのか。僕は部屋の内装には関わらなかったけど、なかなか面白い事になっているみたいだね」

「笑い事ではないですよ……。僕はメイド達を連れて来てませんから、対処も出来ませんし」


 本当、あれどうしようか。この際、ルベルトお兄様に頼んでみるか。


「ルベルトお兄様、何とかしてくれませんか?」

「そうだね……まあ、構わないけれど、時間はかかるよ? ベッド二つ、それにある程度の品質も確保しないといけないからね」

「時間がかかるのは構いません。出来るのでしたら、お願いします」

「じゃあ、手配しておくよ」


 良かった、とりあえずはこれで何とかなるだろう。あのルベルトお兄様がつまらないミスをするはずもないしな。


「ところで、ベイセル。今の兄さんの状況、知ってるかな?」

「……何かあったのですか? この後クヴィスお兄様に会いに行こうかと思っていたのですが」


 突然ルベルトお兄様がいつもの笑顔を消し、真剣な表情で聞いてきた。

 クヴィスお兄様はルベルトお兄様より二歳年上の、現十四歳。俺のイメージではカリスマ全開のイケメンお兄様だ。ちなみに、クヴィスお兄様のカリスマはガチだ。話しやすいルベルトお兄様と違って、常に威圧しているような圧迫感を感じる。


 ルベルトお兄様の話し方からして、ちょっと嫌な予感がするんだけど。


「ベイセルがいた屋敷に侵入者が来た時に、兄さんの所にも現れたらしくてね。今は怪我をして療養中だそうだよ」

「クヴィスお兄様まで……!?」


 あのお兄様が怪我なんて、よっぽどだぞ!?


「しばらく休めば治るらしいから、そんなに心配はいらないんだけどね。だから、兄さんは今は学園にいないんだよ。今は父さんと同じ、王都の屋敷にいるらしいね」

「なるほど。では、また今度見舞いに行こうと思います」


 この学園は王都から少し離れたところにあるらしいから、屋敷に行くのにも普通の移動手段なら数日はかかる。竜籠に乗るような金は俺にはないし、しばらくはそんな時間はないだろうと思うから、見舞いはまた今度。


「それがいいよ。それと、近いうちに王女様でも誘って学園の探索でもしてくるといいよ」

「そうですね、そうしようかと思います。ではルベルトお兄様、僕はこれで」


 とりあえず、部屋に戻ろう。もし王女様がシスと仲良くなってたら、ちょっとやりたいことがある。



「ただいま戻りました」

「お帰り、ベイセル殿」

『お帰りなさいご主人様』


 部屋に戻ると、王女様と抱かれたシスが迎えてくれた。これは嬉しいな。色んな意味で。


「ミトゥレ様。シスはどうでしたか?」

「とても良い子にしていたよ。私のスライムとも遊んでくれていたからな」

「それは良かったです」


 王女様も随分スライム達と仲良くなったらしい。さっきからずっとシスと、たぶん王女様のだと思われる赤いスライムを一緒に抱きしめているしな。

 俺が帰ってきてもそのままなのは、俺に気を許してくれたのか、そのことに思い至らないだけなのか。まあ後者だろうけど。


『ご主人様ー』

「おっと」


 シスが王女様の腕の中から俺の元へ飛び出して来た。ちょっと驚いたが、しっかりキャッチする。


「ふむ、シスはベイセル殿の方が良いらしいな。羨ましいことだ」


 王女様がちょっとだけ拗ねたように言った。ただからかってるだけなんだろうけど。


「嬉しいことです。それに、ミトゥレ様にはご自分のスライムがいるでしょう?」

「それもそうだな。そうだベイセル殿。教わったことを試してみたんだが、この子が随分と元気になってしまってな」

『良いです主ぃ。もっと、もっとぉ』


 あー……元気になりすぎるのは予想外だった。王女様のスライムは色々ヤバいことを口走ってるし。

 そもそも俺の予想では、スライム……というか魔物は魔力を好むものだと思う。テンプレ的にも、シスの言動的にも。

 で、普段は人の汚れ等から魔力を食べてると推測されるこの世界のスライムは、常に魔力不足なんだろう。人間の汚れにある魔力は極微量でしかない。身体から漏れ出ている魔力はもっと少ない。

 それを直接与えたらどうなるか。日々の食事に困り痩せ細った子供に十分な食事を与えるのと同じだ。おそらく王女様にとっては大したことない量でも、スライムからすれば十分な量だったんだろう。何というか、ツヤツヤしてるように見える。


「ミトゥレ様は大丈夫なのですか? 魔力を与えすぎたりは……」

「ああ、私は問題ない。与えたのは僅かだからな。それよりも、この子は大丈夫なのか?」

「ええ。慣れない量の魔力を与えられて、酔っているだけでしょう。しばらくすれば戻ると思います」


 いわゆる魔力酔いってやつだな。魔力の過剰摂取で酔ったような状態になっている。


「む、そうか。なら次は加減しなければいけないな」

『わたしは是非このままお願いしたいですぅ』

「……そうですね。何かあってからでは遅いですし、それが良いでしょう」


 俺とシスみたいな魔物使いとその従魔といった関係ならともかく、状態異常:魅了のかかったスライム相手に魔力を与えすぎるとどうなるか分からないからな。最悪暴走したり、王女様の命を狙う可能性もなくはない。王女様は随分と好かれているみたいだし、対応が悪いわけでもないから、そんなことはまずないとは思うけど。


「そうだな」


 さて、王女様が予想以上にスライム達と仲良くなったおかげで、ちょっと懸念していたあれも試してみようと思う。早めに何とかしておいた方が良いと思うしな。

 そんなわけで、天使さんからもらった卵を封じ込めたカードを取り出す。ずっと持っていたおかげか、ちょっとだけ魔力を纏っているような気がする。


「ベイセル殿、それは……?」

『妹だー!』


 シスからすると妹なのか。まあ、仲良くしてくれそうだから良しとしよう。


「僕の知人からいただいたものです。余裕がある時に使えと言われたので、使ってみようかなと思いまして」


 王女様に魔物が受け入れられるかどうかは分からないが、スライムを今も抱きしめたままなくらい仲良くなれたんだから、大丈夫だと思いたい。

 それに、早めに卵から孵してあげた方が良いと天使さんからも言われたし、俺も早く会いたいと思う。そのためには王女様を納得させないとどうしようもないだろう。どうせしばらくは同室のままだろうし。学園にいる間はずっと同室の可能性もある。むしろその可能性の方が高いと思う。偶然同室になったってわけじゃないんだから。

 カードの使い方は、魔力を流すだけだったはず。あまり急激に魔力を流すと良くないだろうから、慎重に。

 じわじわと魔力を流し続けて十数秒ほどがたって、カードが薄く光り始めた。


「……まさか、そのカードは」


 王女様が何か言ったような気がしたが、魔力を流すのに集中していたいので放っておく。俺に向けて言ったことではなさそうだったし、聞くのも良くないだろう。

 ゆっくりと光が収まっていき、俺の手にはあの大きな卵があった。


「……卵、か。一体何の……?」

「この卵から何が生まれるのかは分かりませんが、生き物なのは確実でしょうね」


 いや、魔物という不思議な存在が生まれるわけだし、生き物ではない可能性も……。だから何だって話だけども。

 まあ女神様が報酬としてくれたわけだし、普通じゃないことは確かだろう。俺の予想ではドラゴンとかフェニックスとか、その辺りだと思っている。


「しかし、その卵はこれからどうするつもりだ? 流石に学園に持っていくわけにもいかないだろう?」

「しばらくはこの部屋に置いておくつもりですが……よろしいですか?」

「まあ、私は構わないが」

「ありがとうございます、ミトゥレ様」

『よろしくねー、妹ちゃん』


 シスが卵を触手でなでているのを見て、是非生まれた後もその調子で仲良くやってほしいと思う。

 とりあえず、無事王女様の許しを得たので、この部屋で卵を育てることになった。卵から孵るのはまだまだ先だろうから、その間に生まれた後の事を考えればいいだろう。

 ……そういえば、お兄様から王女様を誘って学園探索にでも行けって言われてたな。

 でも今日は無しだな。色々あって疲れたし。もともと俺は体力がないんだから、この広い学園の中を歩き回るとかしたくない。少なくとも疲れてる今は絶対に嫌だ。


「ミトゥレ様、明日にでも学園内を見て回りませんか?」

「ふむ、それは良いな。折角ベイセル殿が誘ってくれたんだ。エスコートは頼むぞ?」

「えっ……」


エスコートとか無理だって! 王女様相手にってだけでもかなり厳しいのに、学園のことなんて全然知らないんだぞ?


「ははっ、冗談だ。一緒に見てまわろうじゃないか」


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