第6話 冒険者ノア誕生
第6話です。
9/5:一部改訂を行いました。
ノルテランド暦1991年3月12日
《王都ノルテ》
オレはルイーゼにつれられて冒険者ギルドの受付に来ていた。
「ジョアンナ、いるか。」
そう言いながらルイーゼはカウンターまで進んでいく。
「ルイーゼ。相変わらず騒がしいわね。どうしたのよ。」
すると受付から女性が出てくる。
「よう、久しぶり。元気だったか。ところで、こいつはノア。冒険者登録ご希望だ。」
そう言って、オレを女性の前に押し出す。
「こんにちは、ノア君。私はジョアンナよ。ここ、冒険者ギルドの職員ね。これから、色々とお話をする機会があると思うからよろしくね。」
ジョアンナという女性がオレに話してくる。
「オレはノアだ、です。よろしくお願いします。」
オレは頭を下げる。
オレと話をしたジョアンナはルイーゼを見て首を傾げる。
「ルイーゼ、あなた、子供の誘導なんて出来たんだ。ところで、この子一人だけ。」
ジョアンナが不思議そうにルイーゼに尋ねる。
「あぁ。ほかの奴らは泣き叫ぶ馬鹿がいてな、ご領主の警備隊にとっ捕まっちまった。」
頭をかくルイーゼ。
そんなルイーゼを見て、女性が大きなため息をつく。
「あら、それはあなたの責任でしょう。あなたは、子供の誘導を引き受けたんだから、そういうことも想定内なんじゃなくて。」
ジョアンナが返した。
「わかってるよ。そこのノアにも言われた。そんなに責めないでくれよ。」
すねたように顔を背けるルイーゼ。
「あら。あのルイーゼに意見するなんて面白い坊やね。」
と言って、ジョアンナは眼を細める。
オレは坊やといわれて少し拗ねる。
「ぷっ。」
そんなオレを見てジョアンナとルイーゼから思わず笑いがこぼれた。
「じゃあ、ノア君。このエントリーシートに記入をして。字が書けないなら、代筆を頼めるわよ。登録だけは代筆無料よ。」
とエントリーシートと筆記用具をノアに手渡す。
「書けます。」
と言うと、ジョアンナもルイーゼも驚く。
「「書けるの。」」
と漏らした。
どうやら【農奴】の子で冒険者登録をするときに字が書けるのは殆どいないそうで、ジョアンナは初めて見たと言っていた。
記入したエントリーシートを渡す。
「はい、これで登録をするわね。この石の上に手を置いて。掌紋と指紋を登録して完了。」
ジョアンナがオレに報告をしてくれた。
「じゃあ、俺の仕事は完了だな。」
ルイーゼはそう言って立ち上がった。
「ノア。これからが正念場だ。俺との約束を覚えているか。お前が【冒険者D】になったら一緒に狩りに行ってやる。だから、それまで絶対に死ぬな。いいな。もし、もし、困ったことがあったら、大丼亭という宿屋に来い。そこが俺の定宿だ。」
そう言って、ルイーゼは去っていった。
(大丼亭って、どんだけ食いしん坊キャラだよ。)
思わず吹き出しそうになったが、かっこつけて去っていくルイーゼのために俺は耐えた。
「あらあら、ルイーゼは相当あなたが気に入ったのね。今までそんなこと言ったことないのよ。」
とジョアンナは教えてくれた。
ジョアンナがパンと手を打ってオレに話しかける。
「では、ノア君。これからはノアと呼ばせてもらうわね。【冒険者】について説明するけど聞くわよね。」
「はい、もちろんです。」
「まず、あなたは【冒険者F】として登録されたわ。掌に集中して「ステータスオープン(以後はSOP)」と言ってみなさい。」
ジョアンナが言う。
「スキルオープンではないんですか。」
と聞くと、
「【冒険者】は特別なのよ。」
と教えてくれた。
「SOP」すると、HP(体力)、MP(魔力)とスキルとして【冒険者F】【剣士】【英霊の祝福】そして【隠密小】があった。
「あら、あなた珍しいスキルを持っているわね。【英霊の祝福】は貴重なスキルよ。親かおじいさんかしら、感謝なさい。あと【剣士】と【隠密小】があるわね。親の訓練がよかったのと、ノア、あなた林とかで動物を狩ったことがあるわね。」
「人のスキルがわかるんですか。」
思わずオレはジョアンナに問いかけた。
「わかるわよ。と言っても今日だけだけどね。冒険者の説明時は、適切なアドバイスをしないといけないの。だから、この説明のときだけステータスがわかるようになってるのよ。それとあなた、ほかの子たちよりHPもMPも高いわね。相当鍛えられてるわ。ルイーゼと死なない約束をしていたけど、これだけの値なら約束を破らなくてすみそうよ。あなたのお父さまって【農奴】でしょ。何者なの。」
「父は元【騎士爵】です。ユリウス辺境伯の罠で農奴に落とされたんだ。」
と応える。
「聞いたことあるわ。ユリウス辺境伯って王都では相当評判悪いわよ。」
とジョアンナが教えてくれた。
「さて、続きだけど、HPもMPも高いから、【剣士】の鍛錬を続けて前衛でもいいし、これから【魔術師】を身に着けて後衛も出来るわね。でも、今は前衛として鍛えたほうがいいわね。あなたのその腰のロングソードも相当のものよ。それもお父さまから?」
「はい、エスポワールといいます。元々はじい様のものらしいですけど。」
「ちょっと待って。あなたのお父さまってひょっとして神虎隊?」
「そうです。それで聞きたいことがあるんですが。父の従士だった人で、もと神虎隊のダンと父の双子の弟のハインツを探しています。二人とも相当の【剣術士】だったと聞いてます。知っていますか。」
「ええ、もちろん。二人とも知ってるわよ。【冒険者】としても【剣術士】としても一流よね。でも、残念だけど、今はどこにいるかわからないわ。わかったら教えてあげるわね。それと、そのロングソードだけど、昔、前国王があなたのおじい様の活躍に敬意を表して贈ったものだと思うわ。大切になさい。」
「わかりました。ダンとハインツのこと、よろしくお願いします。」
「わかったわ。じゃあ、次の話をしてもいいかしら。」
そう、ジョアンナが聞いてくる。
「はい。よろしくお願いします。」
オレが応える。
「早速だけど、あなた、明日から初心者講習を受けることになるわよ。ルイーゼが丁度いい時期になるように連れて来てくれたのね。あの子にも感謝したほうがいいわよ。下手な時期に到着すると何日も待たされて、その間にお金が無くなっちゃうこともあるのよ。到着当日はギルド宿舎に泊まれるのよ。だから余計なお金を使わないですむわね。お金は大事よ。特にあなたたち初心者わね。」
(あの人そんなことまで考えてくれていたんだ。見た目大雑把で食いしん坊キャラだったけど、実は繊細な人なんだ。)
同時刻、王都内の定食屋でルイーゼは牛丼スーパー特盛をかっ込みながらくしゃみをしていた。
「はい。いつか【冒険者D】以上になって。ルイーゼさんにはお礼を言いに行きます。」
「それがいいわね。では、初心者講習なんだけど、費用は3万Cよ。あなたは武器は要らないわね。防具は5千Cね。お金は今受け取るわ。防具は明日、渡すわね。宿舎は2階よ。食事もそこで取れるわ。明日は7時に集合ね。遅れると罰金よ。注意しなさい。」
そう言って、ジョアンナは事務室へ戻った。
食事を終え部屋に入ったノアは、長旅の疲れからすぐに眠りについてしまった。
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ノルテランド暦1991年3月13日
《王都ノルテ冒険者ギルド教練所》
周りを見回すと同じくらいの年齢の子供と15歳くらいの子供がそれぞれ5名ずついる。
(オレと同年齢のはみんな農奴の次男か。オレもそうだけど、貧相な体しているな。あっちの奴らは平民か。ニヤニヤしやがって。)
「俺はもう【剣士】持ってんだよ。何でこんなガキどもと訓練しないといけないんだよ。」「私も【弓士】持ちよ。」「何で農奴のガキと一緒に訓練するんだよ。」
と言った声が聞こえてくる。
オレはそんな平民の奴らを見ている。
「おい、お前。お前だよ。ガキ、何見てんだよ。何でお前らなんかと訓練しないといけないんだよ。あぁ、なんか言えよ。おらっ!」
と金髪の男が絡んできた。
「オレが知るか。教官にでも聞け。」
と応える。
「そりゃそうだ。金髪、自分で聞いてみろよ。」
と言って銀髪に耳の尖った男が出てきた。
「なんだとっ!」
金髪が凄い剣幕で銀髪の男に殴りかかる。
「やめなさい。【冒険者】登録取り消すわよ。」
そう言ってジョアンナさんが出てきた。
「おい、お前面白いやつだな。私は、エルフのクーサリオン。クースと呼んでくれ。」
銀髪の男が話しかけてきた。
「おお、エルフ。あなたがエルフか。初めて見た。いや、ごめん。オレはノアシュラン。ノアでいい。」
と返事をし、握手をする。
「なんだ。ノアはエルフ初めてか。」
と聞く。
「あぁ。初めてだ。とは言っても、獣人もここに来るときの引率の冒険者が初めてだったし、ドワーフはまだ見ていない。」
と応えた。
「いや、そうか。田舎モンなんだな。」
とクースが言った。
「自慢じゃないが、ど田舎だ。」と応える。
「いいなぁ。私たちエルフは森の民なんだ。こんな王都よりそういう田舎のほうが心落ち着くんだ。早く、初心者講習を終わりにして森の中へ行きたいよ。そうだ、ノアも一緒に行かないか。絶対楽しいと思うんだよ。その腰のロングソードを見ると、前衛だろ。オレはエルフだから【弓士】なんだよ。」
などと話をしていると先ほどの金髪が悪態をついているのが聞こえた。
「じゃぁ、さっさと田舎へ行けよ。」
オレとクースはそれを聞いて苦笑した。
そんな話をしているとジョアンナの掛け声が聞こえた。
『全員集合!!』
オレたちが整列するとジョアンナが教官を紹介する。
「今から、あなたたちの教官を紹介するわ。カーン、あとはお願いね。」
教官の紹介を終えたジョアンナさんはギルドの中へ戻って行った。
「わしが、お前らの教官カーンだ。これから1週間、わしがみっちり鍛えてやる。とりあえず今日から3日間お前らは『はい。』しか言うな。出来ない奴は叩き直してでもやらせるからな。お前らの自己紹介はその3日間を乗り切ったら聞いてやる。この3日間に耐えられない奴は【冒険者】なんか絶対無理だからな。そのつもりでいろよ。」
と怒鳴った。
(なんて理不尽な言い草だ。でも、なんか理由があるのかな。癪だけど言うとおりがんばってみよう。)
「じゃあな、まずは走れ!!わしがいいというまで走り続けろ!!」
オレたちは走り出そうとした。
「何でだよ。」
金髪が文句をつける。
するといきなり、教官は金髪を叩きつけた。
「わしは出来ない奴は叩き直すと言ったはずだ。おい、そこのエルフ言ったよな。」
クースが応える。
『はい。』
「じゃあ走れ。金髪の小僧も走らんか!!」
顔面を腫らした金髪が走り始めた。
オレたちは午前7時過ぎからお昼の12時過ぎまでみっちり走らされた。
「よし、走るのやめ!!明後日まで午前は走るからな。それと、明日からは防具も付けて走れよ!!防具を付けないで討伐なんて行けないからな。わかったな。」
『『『はいっ!!』』』
こうしてオレたちの地獄の1週間が始まった。
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