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ノアの冒険譚 成り上がり人生記(仮)  作者: 世迷言言
第七章 練魔闘技祭
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第64話 練魔闘技祭⑧秘策 ジェロームVSガルシア

第64話です。


誤字・脱字・感想をお待ちしています。

ノルテランド暦1993年4月1日

《王都ノルテ内練魔闘技祭会場》


練魔闘技祭1回戦も最終第4試合を迎えた。いよいよ、この試合の勝者でベスト4が出揃う。そして、私立デシ魔法学園ジェローム、インチャード帝国帝都魔法大学校ガルシア。この両者の戦いに勝利した者が、ノアの次の対戦相手となるのだ。


オレは、フランチェスコとの対戦を終え、観客席でクーにいやカンナと一緒に観戦をしていた。


「ノア、どっちが勝つと思う?」

クー兄がオレに尋ねる。カンナも興味津々と言う目でオレを見ている。


「どっちかな。出場者に配布された一般資料では、ジェロームはバリバリの武闘派で、身体強化系の【付与魔術】が得意な【魔拳士】らしいよ。ガルシアは典型的な【魔術師】タイプで、バランスのいいタイプらしいよ。でも、ガルシアはインチャード帝国だからどうかな。その資料には、フランチェスコが【召喚魔術】なんて記載は一切なかった。何か、秘策があるんだと思うな。『トリックスター』なんて呼ばれてるらしいよ。」


「あっ、来たのです~。選手入場なのです。」

カンナの声に闘技場に目をやると選手が入場してきたのがわかる。闘技場の下に控える。


ジェロームは全身の筋肉をひけらかすように、籠手ガントレットに、最小限の胸当、肩当などの最低限の装備で入場してきた。一方のガルシアは強革鎧ハードレザーアーマーに投擲用のナイフを多数身に付けている。右手には片手剣を持ち、左手には腕小楯バックラーを装着していた。


「ガルシアはノアと似たようなタイプなのかな。トリックスターって言う割にはオーソドックスな装備だよね。でも、あの表情が気になるな。ニヤニヤしていてちょっと不気味。なんか隠していそうな雰囲気はあるよね。ジェロームは、まさに筋肉の鎧だ。あの筋肉に【付与魔術】で強化した打撃は相当だと思うね。」

クー兄が感想を漏らす。


「あぁ、あの装備だとオレにとってガルシアのほうがやり易そうだ。でも、投げナイフを持っているからそこだけ要注意かな。あぁ、そうだ。カンナ、ジェロームの格闘術はカンナにとって参考になるはずだから、よく見ておいた方がいいよ。」

オレはカンナに声を掛ける。


「はいなのです。確り見るのです。」

カンナも元気に返事をする。


「ノア、大丈夫だよ。さっきもリュングさんから大会後に感想を提出するように言われていたからね。」


そんなクー兄の声に、カンナはガックリと肩を落とした。


「養成所は厳しいのです。」


「皆さ~ん、長らくお待たせいたしました。1回戦第4試合を開始いたします。この試合も、お馴染みの実況マキロイと解説ユングさんでお送りいたします。」

最終試合にマキロイのテンションも上げ上げだ。


「東からは私立デシ魔法学園代表ジェローム選手の入場です。」


ジェロームが筋肉を誇示するように、ポージングをしながら登壇する。周囲からは歓声とも、笑いともいえない声援が飛ぶ。


「西からはインチャード帝国帝都魔法大学校代表ガルシア選手の入場です。」


ガルシアはニヤニヤと、卑屈な笑みを浮かべたまま登壇する。その不気味な様子に、関係者以外はあまり声を上げない。


「さあ、ユングさん。いよいよ第4試合。最終戦になりました。これで、ベスト4が出揃いますね。そして、明日の準決勝での対戦相手が全てが決まります。既に、サンドラ選手VSオーギュスト選手は決まっています。そして、もう一試合ですね。ノアシュラン選手VSジェローム選手になるのか、はたまたガルシア選手になるのかですね。」


「そうですね。それに加えて、ガルシア選手が敗れると、リッター王立魔法学院に続いて、インチャード帝国帝都魔法大学校も1回戦で敗退となります。学校の名誉のためにも両者ともにがんばってほしいですね。」


「まさにその通りです。学校の威信、国の名誉のためにも健闘を期待しましょう。ところで、選手の出で立ちについて見解をお願いします。ジェローム選手は見るからに【拳士】ということがわかります。【付与魔術】なども得意なため【魔拳士】になるそうですね。一方のガルシア選手はノアシュラン選手と似たような出で立ちですが。ユングさん、いかがでしょうか。」


「そうですね。筋骨隆々たるジェローム選手は接近戦に活路を見出したいですね。対武器の策として籠手ガントレットをしていますので、剣撃も受け止めることでしょう。懐にさえ入れれば、ジェローム選手優勢と言っても良いでしょう。ガルシア選手は逆に懐に入れないような立ち回りを期待したいですね。ナイフの投擲などをしながら、一定の距離を保って魔術で攻撃というスタイルが予想されますね。」


「はじめ!!」

審判の声が響く。


「ドリャァァァァ~!!」

掛け声とともにジェロームが殴りかかる。速攻、速攻の思いをこめた拳による打撃がガルシアに襲い掛かる。一撃目、右上段への追い突きがガルシアの頭部を襲い、間合いが詰まると左中段逆突きが鳩尾を狙う。その後も、手数ではジェロームが圧倒する。嵐を思わせるラッシュを仕掛ける。


しかし、ガルシアも只者ではなかった。上段突きを頭を振ってかわすと、中段突きを右から左へ受け流す。その後も、何発か被弾するもののジェロームの連続突きを腕小楯バックラーも器用に使いながら受け流していく。


「「「ウォォォォ~!!」」」

激しい攻防に観客席が沸き返る。


「やはり!やはり、インチャード帝国帝都魔法大学校代表ガルシア選手!!只者ではなかった~!ジェローム選手の拳を次々と受け流していく。ユングさん、剣を主に用いる剣士にあれだけの格闘術は身に付くものなんでしょうか。」


「この年齢であれだけの拳闘技を使うことを考えると、剣術士ということは考えにくいですね。ただ、ガルシア選手の装備では拳闘技には向いていません。そう考えると、拳士ということは考えずらいのですが…。」

ユングが眉をひそめる。


「思ったとおりだ。お前なかなかやるな。その後背筋の付き方からただの剣士ではないと思ったぜ。お前も拳士なんだろ。剣なんか捨てちまえよ。」

ジェロームがガルシアを煽る。


「確かに、俺も殴るのは嫌いじゃない。だが、栄えあるサン=モレロ家の者として捨てられない得物もあるのだよ。君らのような輩にはわからないだろうがね。相手してもらえるだけでもありがたく思えよ。」

ガルシアもジェロームを挑発する。


ガルシアはジェロームの今までの行動や、言動から切れやすい性格をしていると踏んでいたのだ。そして、それは誤りではなかった。ガルシアの安い挑発にジェロームが切れる。


「貴っ様~。何様のつもりだ~。」


正面から殴りかかるジェロームにガルシアが呪文を詠唱しながらナイフを投擲する。


「隙あり!!我が刃に加護あれ!!西風セフィーロ!!」


すると、ガルシアの手から放たれた数本のナイフが加速する。


ジェロームに幾本ものナイフが襲い掛かる。何とかかわすが怒りのあまり無防備に接近していたために右肩に1本が突き刺さった。


「グァッ!!」

思わず声を上げ、足を止める。しかし、簡単に立ち上がるとナイフに手をかける。


「これ位では、俺は止められんぞ。」

ジェロームは痛みに顔を歪めながら刺さったナイフを抜き取る。


「ノア、戦いの最中は何があっても冷静にいないといけない。それがよくわかるね。」

クー兄が直情型のオレに窘めるように話しかける。


「もちろんだよ。」

オレも自信満々に返事をする。


(本当に分かっているのか。)クー兄は頭を抱え込んだ。


そうこうしている間にも戦いは進んでいく。闘技場を見ていると、ジェロームが何かを取り出し籠手ガントレットの拳部分に装着している。いわゆる、拳鍔ナックルダスターといわれるものだ。そこから魔素マナを感じるのは【付与魔術】がかけてあるのだろう。そして、さらに【付与魔術】の詠唱を始める。


「地に住まうノームよ、我に力を与えよ。我、汝に魔素マナを与えん。強土身アースガード!!」


「ユングさん。ジェローム選手が面白い魔術を唱えましたね。ここからは効果のほどがわかりませんが。解説をお願いします。」


「そうですね。一見何も変わっていません。しかし、強土身アースガードは身体強化術の一種で、防御力を引き上げる効果があるんです。先ほどナイフで傷ついたので、その弱点をカバーする作戦ではないかと思います。ナイフ程度であれば充分防御可能です。ある程度接近さえできれば、ナイフを投げることも、片手剣も掻い潜ることができますので、そこにいたるまでの防御力を引き上げたということじゃないでしょうか。」


「なるほど。脳筋に見えるジェローム選手も考えているんですね。こうなると、ガルシア選手の動きが気になります。」


ガルシアは距離をとって、先ほど同様ナイフを投擲して加速させる。


カキンッ!カキンッ!


ナイフはジェロームの肉体に到達するが強化されているため肉体に刺さらない。それどころか、殴りかかる拳を腕小楯バックラーで受け止めると罅が入った。


腕小楯バックラーでは受けきれないと判断したガルシアは横に転がるようにして、ジェロームの間合いから逃げる。だれもが、ジェローム優勢と思ったその時だった。ガルシアの鎧下から筒状の棒を引っ張り出した。そして、持っていた片手剣の鍔の部分を折りたたむと、筒に沿うように引っ掛け力任せにジェローム目掛けてぶん投げた。もちろん、【付与魔術】の詠唱は忘れない。


「我が刃に加護あれ!!西風セフィーロ!!」


投槍器アトラトルを改良し剣を投げれるようにしたものだ。ナイフはもちろん、槍よりも重量のある剣。それも、風魔法を付与して効果を高めた剣。その剣先が一直線にジェロームに向かう。


ジェロームも、ただ黙ってやられるわけではない。先ほどの身体強化術とクロスアームブロックで迎え撃つ。


しかし、風魔法が付与され、高速で飛来する剣はその防御をいとも簡単に打ち破った。


「グハァッ!」


ブロックした両手から鮮血が飛ぶ。ジェロームはあまりの衝撃に跪いた。好機と見たガルシアはさらにナイフを手に取り投擲をする構えを取った。その瞬間、審判員が飛び込む。


「試合終了!!決着は一瞬でした。優勢かと見えたジェローム選手。その拳を掻い潜った瞬間、主導権はガルシア選手に移っていました。お互いに【付与魔術】を駆使した一戦はインチャード帝国帝都魔法大学校代表ガルシア選手の勝利となりました。ユングさんいかがでしたか。」


「そうですね。お互いに同系統の魔術を行使するとは、装備を見た限りではわかりませんでしたね。ジェローム選手も素晴らしい動きでしたね。あの暴風のようなラッシュはまさに脅威でした。また、ガルシア選手の【付与魔術】西風セフィーロ。あの魔術はインチャード帝国独自のものと思われます。投擲術と相性のいい魔術のようですね。それよりも、恐るべきはガルシア選手の戦いの先を読む能力ですね。」


「と言いますと、どのような辺りでしょうか。」


「はい。まず、ガルシア選手はナイフの投擲が防がれることを前提に戦略を組み立てていた点ですね。通常の戦闘では、ナイフに毒なり痺れ薬なりを塗付するのでしょうが、この練魔闘技祭では反則行為になります。そこで、ナイフを防がれた先の戦略まで考えていましたね。あの筒状の道具、あれは投槍器アトラトルを改良して、剣を投げれるようにした物のように見えます。そして、剣も鍔を折りたたんで投げるのに適した形にしてあるのでしょう。」


「なるほど。でも、最初から鍔無しの剣にしてもいいのではないですか。」


「この試合だけを考えているのであればそれでもいいでしょう。しかし、初戦の相手が決まってからでは準備は出来ません。ひょっとしたら、初戦は【剣術士】の可能性もあります。それでは、鍔の無い剣では不利です。そこまで考慮していたのでしょう。『トリックスター』の異名は、その類希なる戦術眼に由来すると考えていいと思います。」


「そうですか。とにかく、これでベスト4が出揃いました。明日は、サンドラ選手VSオーギュスト選手。そして、ノアシュラン選手VSガルシア選手が午前中行われまして、午後はその勝者でいよいよ決勝戦となります。ユングさん展望をお願いします。」


「そうですね。サンドラ選手とオーギュスト選手は、サンドラ選手の体術、格闘術がどれだけオーギュスト選手の杖術にどこまで迫れるか。魔術自体はサンドラ選手のほうが長けていますので、武器戦闘でどこまで渡り合えるかが鍵ですね。ノアシュラン選手とガルシア選手は、ノアシュラン選手の意外性とガルシア選手の戦術眼の競い合いとなるでしょう。この戦いは正直読めません。実戦を楽しみにしたいと思います。それにしても本当に楽しみな戦いが続きますね。」


「わかりました。それでは、明日またお会いしましょう。ユングさん、明日もまたよろしくお願いします。」




それにしても戦いのシーンは難しい…。

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