第45話 ゴブリン迷宮⑧迷宮踏破
第45話です。
迷宮潜入3日目
《小鬼族迷宮地下5F迷宮主の部屋》
カンナがゴブリンロードに強力な一撃を撃ち込んだ頃、オレとイルはコボルトキングを攻めあぐねていた。
コボルトキング、こいつはとにかく防御が固い。攻めはそれほど厳しくはないのだが、反応が早くこちらの攻撃が届かないのだ。
(だれか、撹乱できるやつがいないとだめだ。正面からだけでは突破できない。イルと同時攻撃をしてみるか。)
「イル!5秒後、同時に行くぞ!」
オレがイルに声をかけると、イルは手を上げて応えた。。
「5…4…3…2…1…行くぞ!」
オレはコボルトキングの正面から、イルは側面から斬りかかる。すると、奴は咄嗟に、先に到達するオレのエスポワールを長剣で受けると、体ごと回転してオレを弾き飛ばす。その反動を利用してイルの斬撃をも盾で受け止める。そして、盾衝撃でイルを殴り飛ばす。
そして、イルに向かって駆け寄ると、力任せに長剣を振り下ろす。
ガシュッ!ガシュッ!ガシュッ!
木盾で受け止める。しかし、3撃目を受け止めた瞬間、木盾が砕け散り、イルは後方へ弾き飛ばされた。
「イル!貴様~!」
オレは、イルへ追撃を加えようとするコボルトキングに斬りかかり、イルがコボルトキングの間合いから離れるのを待った。クー兄も、カクスも火属性の掛かった強力な鏃で援護に回る。
(リュングさん、自分より強い相手と戦うときどうするって、言ってたかな。こんなになるなら、しっかり話しを聞いておくべ、そうだ。自分に有利な状況を作るんだ。自分に有利な状況。そうか。)
「イル!大丈夫か。」
オレはイルに声をかける。
「あっ、あぁ。もう大丈夫だ。ただ、盾が砕けたときに骨も折れたようだ。これ以上はちょっと厳しい。すまない。」
間合いから抜け出し体勢を立て直したイルの返事も聞こえるが、これ以上の戦闘は厳しいようだ。
オレは、エスポワールを胸の前に構え、集中する。
(これで決める。イルも、エイギルも、ジャニスも限界に近い。このままでは、勝てない。オレがやる。オレがやるんだ。)
エスポワールがノアに反応して青白い光を発し始める。
「クー兄、カクス、遠距離攻撃で頭を狙って。視線をそちらに引き付けて!オレは死角から行く!!」
有利な状況を作り出すために援護に回っているクー兄、カクスに指示を出す。
「「了解!!」」
そう言って、二人はコボルトキングの頭目掛けて一斉に火矢を射ち込む。
コボルトキングは、持っている盾で飛来する矢をうるさそうに叩き落す。そこに死角ができる。そう、オレはこれを待っていたんだ。
「今だ!!」
オレは、左手を持ち上げたコボルトキングの死角に【隠密】を使って忍び寄ると、左胴をエスポワールで斬りかかった。
「もらった。」
盾を持ち上げているコボルトキングに防ぐ手立てはもうない。オレも、そして、イルもそう思ったときだった。
ガキィィィン。
金属がぶつかり合う嫌な音が、迷宮主の部屋に響き渡った。なんと、オレのエスポワールをコボルトキングの長剣が防いだのだ。
「「なに!」」
オレも、イルも、そしてクー兄も思わず声を上げる。
(失敗か。でも、エスポワールの輝きは失われていない。まだやれるのか。)
そう思ったときだった。
「隙有りなのです。」
そう言って、飛び込む影があった。
カンナだっ!
カンナは飛び込むと同時に力強く踏み込む。
ずどんっ!
踏み込む音をまるで体感するような強力な一撃が、わき腹に突き刺さった。
「スペシャル秘奥義・牙王なのです。」
カンナの槍をつたってコボルトキングの血が流れる。
「ウギュアァァァァ!」
コボルトキングが叫び声をあげ、踏鞴を踏むように後退し、片膝を付く。
「カンナ、よくやった。」
気を取り直したオレは思わず叫び、コボルトキングに駆け寄る。
「これで終わりだ!!」
オレは上段に構えたエスポワールをコボルトキングの頭部目掛けて逆袈裟に斬りおろした。
オレの渾身の一撃を受けたコボルトキングは、ぶるっと痙攣するとゆっくりと倒れるように崩れ落ちた。
「「「やった!!」」」
みんなが叫ぶ。
とうとう、小鬼族迷宮を討伐した瞬間だった。
イルが、カンナが、ジャニスがオレたちに駆け寄ってくる。
カクスやクー兄は、エイギルを介抱しながらオレたちに親指を立てる。
その瞬間、みんな疲れが溢れ出し、その場にへたり込んだ。みんな、口々に疲労をぼやく。達成感もあり、けだるい時間を過ごしながら、干し肉と回復薬を口にする。
そんなみんなの前に、オレとクー兄は歩み出る。
「ありがとう、みんな。でも、これで目標が達成できたよ。」
オレが頭を下げる。
「なに、殊勝なこと言ってんだよ。僕たちは同期。仲間でしょ。」
立ち上がったイルがオレの肩をたたいて言う。
「そうだよ。それにだいぶ稼がせてもらったしね。最後は僕、役に立っていなかったしね。最後の宝箱は貰う気満々だったのに…な。ふぅ。最後はカンナかな。」
エイギルは溜め息まじりにオレたちに笑いかける。
「そうだな。カンナだな。宝箱あけてみな。」
オレもカンナに伝える。
「はいなのです~。開けるのです~。」
カンナは中から何やらインゴットのようなものを取り出し、オレたちのところに戻ってくる。
「棒なのです~。」
「いや、カンナ。それはミスリル銀のインゴットだから。それで、新しい槍を作れるから。」
クー兄がカンナに説明する。
(最後の宝箱の中身を確認したし、これでやり残しはないかな。)
「それじゃ、名残惜しいけどギルドへ戻ろうか。精算もしないといけないし。あの笛の価値も知りたいしね。」
クー兄がみんなに声をかける。
「「「了解!(なのです。)」」」
クー兄が、チケットに魔素を流す。すると、足元に魔方陣が展開する。気がつくと地上に帰還していた。
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小鬼族迷宮地下5F討伐結果
コボルトキング・・・1体(50万C)
ゴブリンロード・・・1体(50万C)
コボルトジェネラル・・・19体(5百70万C)
エリートコボルト・・・29体(5百80万C)
ハイクラスホブ・・・31体(6百20万C)
手に入れた武器防具や素材
ミスリル銀のインゴット
回収した武器防具
コボルトキングのマント・長剣・鎧・盾
ゴブリンロードのマント・戦斧・鎧
コボルトジェネラルの装備×19
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《迷宮都市ヴィッテル内冒険者ギルド》
オレたちが、冒険者ギルドに戻ると、ギルド内は殺伐としている。カウンターには、フリッツ=アイゼンバッハ支部長までいる。
「なんか、あったんですか。」
オレは、走り回っている見覚えのある職員を捕まえて聞く。
「あれ、ノア君じゃないですか。お久し振りです。カールです。聞いていないのですか。小鬼族迷宮内にどうやら、魔素溜まりがあるらしく、調査隊を送るんです。あっ~。そうだ、ノア君たちも迷宮踏破って聞いていましたが、大丈夫でしたか。」
緊張感のないカールさんの質問。
どうやら、今日の朝、地下5Fの休憩部屋から戻った【冒険者】(クロースさんらしい)から魔素たまりの報告があり、ギルドで調査隊を送り込むことになったようだ。そのため、小鬼族迷宮は立ち入り禁止となっている。
「えっ、えぇ。無事、討伐に成功しましたよ。でも、魔素溜まりはあると思いますよ。地下4Fにコボルトジェネラルはいましたし、迷宮主の部屋にはコボルトキングとゴブリンロードの2体がいました。迷宮主に盟主が2体は聞いたことがないので、魔素の影響だと思います。」
クー兄が冷静に分析する。
「盟主が2体!?」
カールさんが驚き、大声を上げる。
すると、その声に気付いたのかアイゼンバッハ支部長がやって来る。
「アイゼンバッハ支部長、お久し振りです。」
オレは頭を下げる。
「挨拶はよい。それよりも、先ほどの話しは本当か。盟主が2体いたというのは。」
アイゼンバッハ支部長によると、ヴィッテルの迷宮ではそのような例はないらしい。しかし、かつて、インチャード帝国の迷宮に魔素溜まりが発生した際に、迷宮主が2体生まれた。最初の数ヶ月は、迷宮主が共存していたが、2体いるためなかなか討伐が進まずにいると、そのうち1体が迷宮主の部屋を出て浅い階層にも出没するようになり多大な被害をもたらしたらしい。
「そんなこともあったから、討伐の有無は非常に重要なのだ。もう一度聞く。本当に討伐してあるのだな。」
「大丈夫です。魔結石も持ってきたので見ますか。」
支部長の問い掛けに、オレたちは魔結石を取り出して見せた。
「ほう。すばらしい。その若さでな。以前の決闘のときにも感じたが、君たちには何か特別な想いを感じるよ。【冒険者】として、過信はよくないが、自信を持っていいと思うぞ。さあ、買い取りへ行って来なさい。」
支部長が促す。
「ありがとうございます。でも、魔素溜まりは大丈夫ですか。」
クー兄が返事をする。
「ああ、心配要らない。」
支部長によると、魔素溜まりとは、魔物の死体が多く集まり、魔結石が処理されずにその場に残されると、魔結石同士が結合し、魔素を集めるようになるらしい。だから、魔素溜まりには多くの魔結石があり、そこにたどり着くのは大変だが討伐をしなくても儲かるので、魔素溜まりの調査は【冒険者】にとって割りのいい仕事になるらしい。ただし、参加条件は【冒険者D】以上となる。
「おっ。今朝の坊主ども。カールに聞いたぞ。迷宮踏破おめでとう。俺は、これから魔素溜まり調査で一稼ぎしてくるぜ。」
そこに、今朝話をしたクロースさんが通りかかり、一言二言言葉を交わすと足早に走り去った。
オレたちは、そんなギルド内の喧騒をよそに買い取りカウンターへ進む。
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《迷宮都市ヴィッテル内冒険者ギルド買い取りカウンター》
「こんにちは、魔結石の買取でよろしいでしょうか。」
職員のお姉さんが声をかける。
「はい、お願いします。あと、素材なんかも見積もりをお願いします。」
そう応えると、オレたちは今回の討伐で手に入れた魔結石をカウンターに並べる。
あまりの量に、職員のお姉さんがヘルプを呼びに走ると計算が始まった。
オレたちは、高額取り引き用の応接間に通され、お茶を出される。
「少々、お時間が掛かります。しばらくこちらでお待ちください。」
お姉さんは、笑顔を引き攣らせながらカウンターへ足早に向かう。
「お腹空いたのです~。ペコペコなのです~。」
カンナがぼやく。
オレは、取っておいた干し肉を取り出し齧り始める。
じ~。カンナが見ている。
じ~。じ~。カンナがまだ見ている。
じ~。じ~。じ~。カンナがまだまだ見ている。
「わかった。あげるから、そんな目で見ないでくれ。」
オレは、なけなしの干し肉をカンナに渡す。
カンナがうれしそうに干し肉を齧っていると、職員のお姉さんが戻ってきた。
討伐結果の詳細は、5千6百69万C(1人当たり…およそ8百10万C)となった。そして、イルはLv11になり、カクス、エイギル、ジャニスはLv12になった。
「ノア、クースさん。それとカンナ。今回はありがとう。凄い勉強になったよ。それと、パーティっていいよね。僕たちも、もう一人見つけてパーティを組むよ。本当は、ジャニス、エイギルとがいいんだけど、活動エリアが違っているからね。」
イルが声をかけてきた。
「オレたちとでもいいよ。」
オレがそう応える。
「いや、残念だけど、ノアさんやクースさんとはLvが違うから。足を引っ張るのが嫌だから、今は別に活動しよう。将来は合同討伐や師団結成できるように僕たちもがんばるよ。」
カクスもそう言った。
「よしっ。それじゃあ、今日は宿に戻ってしっかり休もう。そして、後日打ち上げの食事会にしよう。以前、美味しそうなお店見つけたからね。ガッツリ食べて、迷宮踏破終了だ。」
クー兄の提案で、食事会を開くことになったオレたちはしっかりと休みを取るために冒険者ギルドを後にした。
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小鬼族迷宮討伐結果
踏破ボーナスとして、全員に【迷宮踏破者1】と盟主×2が与えられ、クー兄とカンナは【盟主の強敵3】(※註【盟主の覇者小】がわかりづらいため、スキル名を変更しました。)のスキルを獲得した。
ゴブリンロード・・・1体(50万C)
コボルトジェネラル・・・30体(9百万C)
エリートコボルト・・・64体(1千2百80万C)
ハイクラスホブ・・・94体(1千8百80万C)
ゴブリンリーダー・・・29体(1百45万C)
ゴブリンナイト・・・30体(1百20万C)
ゴブリンアタッカー・・・12体(24万C)
ゴブリンメイジ・・・17体(12万7千5百C)
ゴブリンアーチャー・・・24体(18万C)
ゴブリン・・・104体(52万C)
ホブゴブリン・・・51体(1百2万C)
コボルトキング・・・1体(50万C)
コボルトコンダクター・・・5体(25万C)
コボルトソルジャー・・・12体(48万C)
コボルトシャーマン・・・6体(12万C)
コボルトアサシン・・・22体(44万C)
スピアコボルト・・・43体(32万2千5百C)
コボルト・・・114体(57万C)
魔結石小計…4千8百52万C
地下1F主の部屋…宝珠(魔法具の触媒に使われる。ヘギルさんへ売却予定だったが、魔法具との取引材料とする。)
地下2F主の部屋…天蚕絹生地(世界で最も高価な絹の布地。5百万Cで売却。)
地下3F主の部屋…月霊草の朝露(素材・売却予定だったが、クー兄の希望で素材として保管。)
地下3F魔物部屋…回復薬セット(回復薬×3、魔素回復薬×3。使用済み。)
地下4主の部屋…獣操の笛(獣人が使用すると、獣を操ることが出来る。)
地下5F主の部屋…ミスリル銀のインゴット(素材として保管。)
迷宮の宝小計…5百万C
コボルトキングのマント・長剣・鎧・盾…(『自由への翼』で素材として保管。盾のみイルの装備。)
ゴブリンロードのマント・戦斧・鎧…(『自由への翼』で素材として保管。)
コボルトジェネラルの装備×30…15万Cで売却。
回収した武器防具小計…15万C
【冒険者】の遺品
魔結石・・・2人分(2万C)
破損した武器防具・・・(廃棄)
その他小計…2万C
討伐合計…5千6百69万C(1人当たり…およそ8百10万C)
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