第40話 ゴブリン迷宮③カクスの駄目出し
第40話です。
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ノルテランド暦1992年6月中旬(潜入2日目)
《小鬼族迷宮地下2F》
小鬼族迷宮に潜入して2日目を迎えた。今、地下2Fの階段を降りた安全ゾーン、通称:休憩部屋にいる。
通常、迷宮踏破を目指すパーティは2Fの休憩部屋で泊まることは少なく、地下3Fの休憩部屋で宿泊をする。そのため、通り過ぎていくパーティの多くがオレたちのパーティを訝しげに眺めていた。
オレたちも、警戒のため2人ずつ2時間半の不寝番を立てた。
「さて、今日は地下2Fで魔物部屋を探そう。その後、ギルドへ戻って精算と反省会だね。でも、その前に朝食だね。あ、あと昨日手に入れた装備品だけ分けておこうか。役に立つものも有りそうだし。」
クー兄がみんなに告げる。
みんなで朝食…干し肉のスープに乾燥野菜を入れたものと黒パン…をとり準備を整える。
装備品だが、武器はすぐに使いこなせるものではなく、訓練が必要なので戻ってから仕分けることにして、防具のみを仕分けた。
イルに鋼鎧を、エイギルには鋼鎧をカクスには皮革籠手を、ジャニスには鋼鎧と腕小楯を身に着けることにした。
「さあ、出発だ。」
オレの合図でみんなが一斉に立ち上がった。
今日のフォーメーションも昨日と同様だ。【斥候】カンナ、盾戦士にエイギル、前衛にイルとオレ、中衛にジャニス、後衛にカクスとクー兄だ。
途中、コボルトの群れに遭遇する。コボルトはイヌの顔をしたゴブリンと似たような魔物だ。ただ、ゴブリンよりも臆病なため、多くの群れで行動をすることが多い。そのため、オレたちが遭遇したコボルトも15体近い群れになっていた。中には槍を持ったスピアコボルの姿も見られた。
しかし、オレたちは何の問題もなく討伐した。【斥候】【索敵】はあるが、魔物の少ない道を選んでいるわけではなく、あくまでも魔物部屋を探しているのだ。
ジャニスもエイギルも疲れはないようだ。特にエイギルは盾戦士という敵の攻撃を一身に背負うポジションなだけに、疲労は禁物だ。蟻の一穴という言葉があるように、オレたちのフォーメーションは、攻撃力が低く最も数の多いゴブリンやコボルトを盾戦士が引き付け、その間に上位種を狙う形になっているからだ。そんなエイギルの疲労状況を確認して、パーティは進んだ。
何度かコボルトと戦闘を繰り広げたオレたちは、昼前に魔物部屋を探し当てることに成功した。
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潜入2日目《小鬼族迷宮地下2F魔物部屋》
いつものように、オレが【隠密中】で近寄ろうとすると、【隠密小】を持つカクスが同行を希望する。クー兄と相談し、同行することにした。
魔物が集まる部屋の外壁に身を潜める、オレとカクス。オレは、カクスをそこに残しさらに内部まで偵察を図った。
「みんな、あの部屋にいるのは、コボルトがおよそ80体。コボルトソルジャーとコボルトコンダクターがそれぞれ10体くらい。コボルトアサシンが7~8体くらいだ。どうする。【猛獣咆哮】は使わずに行きたいところだけど。」
「それでいいんじゃないか。今まで同様、ノアがコボルトコンダクターとソルジャー。エイギルがヘイトコントロールして、イルとカンナがコボルト担当。ジャニスが後衛のガードをしながら、後ろに逸れた敵を討ち取り、私とカクスでノアを援護するよ。アサシンはどこで出るかわからないからみんな注意して戦って。」
クー兄がオレの提案に賛成してくれる。
みんなも口々に同意の声を上げる。カンナは、早速火炎槍を準備している。
「よし…行くぞ。雷鳴弾。」
オレはコボルトの群れに飛び込んだ。
オレは驀地にコボルトコンダクターを目指す。グラディウスで途中の敵を打ち払いながら進み、瞬く間にコボルトコンダクターを数匹屠る。しかし、その後ろからコボルトアサシンが短剣を鳩尾に構えオレ目掛けて突進してきた。咄嗟に身を捩ってかわす。こんな時に、リュングさんとの1対多数の訓練が役に立つ。かわし様コボルトアサシンの首を刎ねる。さらに、コボルトコンダクター、コボルトソルジャーたちと大立ち回りを続けた。
エイギルも盾戦士としての経験を積んでいるだけあり、ヘイトコントロールしながらイルとカンナがコボルトを討伐しやすいように誘導している。安心して見ていられる戦闘だった。
この戦いで、一番ミスを犯してしまったのはカクスだった。この魔物部屋は想像以上に広く、カクスの射程距離ではギリギリになってしまったのだ。正確に射撃がしたいがために、気付かないうちに、徐々に前へ出てしまったのだ。そんなカクスを狙うかのようにコボルトの後ろから狙う影があった。コボルトアサシンだ。カクスがジャニスの護衛の死角に入ったその時だった。コボルトアサシンは短剣をわき腹の所に構えて体当たりを敢行したのだ。さらに、最悪だったのは昨日手に入れた鋼鎧は前衛中衛のエイギル、イル、ジャニスが身に付けておりカクスは強皮革鎧のままだったのだ。
「カクスっ!」
クー兄が声を上げ、近くにいたコボルトアサシンに顔に矢を握って突き刺すとカクスのそばに走り寄る。
クー兄は負傷したカクスを後方へ引っ張るとすぐさま回復薬を飲ませ、鎧を外し怪我の確認をする。生憎、コボルトアサシンの短剣はそれほど良いものでなかったようで、たいした怪我はしていなかった。
結局、後半は後衛のフォローがないままコボルトコンダクターとコボルトソルジャーを片付けたオレは、カクスが鎧を外していることに気付き駆けつける。
そこには、既に全員が集まっていた。
「大丈夫、問題ないよ。」
カクスの言葉にほっと胸をなでおろす。
「みんなも色々と話しをしたいことがあると思うけど、この後ギルドに戻って反省会をするから、それまで警戒態勢を解かないでね。ノア、今回の宝箱はノアが開けてね。」
クー兄の言葉にみんな従い、オレは宝箱を開けに赴く。
宝箱の中からは、ダスマカス鋼のインゴットが入っていた。
そのインゴットをBOPすると、クー兄の指示に従って帰ることにした。チケットの半券に魔素を注ぐと足元に魔方陣が展開する。そこに全員で入ると、迷宮の入り口に戻った。
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小鬼族迷宮地下2F層の討伐結果
コボルトコンダクター・・・10体(50万C)
コボルトソルジャー・・・12体(48万C)
コボルトアサシン・・・8体(16万C)
コボルトスピア・・・8体(6万C)
コボルト・・・111体(55万5千C)
手に入れた武器防具や素材
ダスマカス鋼のインゴット
その他、コボルトの刀剣や防具多数(売却予定)。
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《迷宮都市ヴィッテル内冒険者ギルド買い取りカウンター》
迷宮から戻ったオレたちは早速買い取りカウンターで、魔結石や素材などの精算を行う。
今回の討伐では、魔結石収入が4百89万2千5百Cになった。また、頭環冠は迷宮都市ヴィッテルで売るよりも、王都ノルテで売却したほうが高値が期待できるとアドバイスされ、今回は売却しなかった。ゴブリンやコボルトたちの使っていた武器防具もまとめて20万Cで売却をした。ハイクラスホブの部屋で回収した【冒険者】の魔結石は1人2万Cの謝礼を受け取った。
結局、一人70万C以上の収入となり、オレは魔術書聖Lv3をエイギルから相場より安い1百万Cで譲り受けた。
「さて、反省会だよ。」
クー兄がみんなに席に座るように促す。
「今回は慣れるための討伐だからミスは気にしなくていい。ただし、それをちゃんと理解し消化して次に生かせるようにしないといけない。まずは、なんと言ってもカクスだ。」
クー兄がカクスを指摘する。
「はい、わかってます。あの時は、部屋が思った以上に広くて、僕の弓では射程距離ギリギリになって命中率が下がるので、気が付かないうちに前に出ていました。折角、迷宮に来て収入が上がるチャンスでもあるので、これを機に射程の長い武器に買い換えようと思います。」
カクスがそう反省する。
「そうだね。射程がギリギリでも矢を射る速度を、発射回転率を上げて数でカバーすることも出来るんだ。それを意識したほうが良い。ちょうど、昨日回収した武器に長弓があったから、あれを使ってみてはどうだろう。長弓で射程距離を伸ばして回転率を上げれば後衛としてよりレベルが上がると思う。」
クー兄が総括をする。
「次にノア。」
「えぇっ。オレ?なんか失敗したかな。」
オレがクー兄に尋ねる。
「ノアは雷鳴弾の命中精度が低すぎる。広範囲魔法で精度が低いにしても、もう少し上げてもらわないと、多数とやるとき拙い。」
クー兄はそう指摘する。
結局、クー兄は全ての人に何らかのダメだしを行って、最後に自分の失敗点を確認した。
その話の中で、装備を割り振ることになった。昨日の時点で既にイル・エイギル・ジャニスは鋼鎧を受け取っており、さらにカクスは皮革籠手をジャニスは腕小楯を受け取っていた。さらに、残った武器からオレはダスマカス剣を、カクスは長弓を受け取った。
両手剣と腕小楯とイル・エイギル・ジャニスの強皮革鎧は売却することになった。
その後、翌日を休養日と決め、オレたちは束の間の休息を取ることにした。
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☆ノアシュラン=ヴォルツ☆
人族 男 11歳
【冒険者D】Lv16 HP:298 MP:248
武器…エスポワール(純ミスリル製の片手剣)・ダスマカス剣(ダスマカス鋼の片手剣)
防具…神鋼軽鎧・腕小楯聖+1
その他…聖女息吹
一般スキル【剣術士】【弓士】【隠密中】【魔術師火Lv3】【魔術師雷Lv2】【魔術師聖Lv3】【生活魔法Lv2】
特殊スキル【英霊の祝福】【盟主の覇者小】
☆クーサリオン=イェーガー☆
エルフ族 男 16歳
【冒険者E】Lv18 HP:286 MP:394
一般スキル【弓術士】【剣士】【魔術師水Lv3】【魔術師風Lv3】【生活魔法Lv2】【索敵中】
武器…風精霊十字弓・半月刀(ミスリル3%合金)
防具…鉄胸当・聖短剣
☆カンナ☆
獣人族犬人種 女 13歳
【戦奴】Lv11 HP:140 MP:12
武器…火炎槍・鋼鉄小剣聖+1・グラディウス(ミスリル3%合金の片手剣)
防具…鉄胸当・円盾
種族スキル【猛獣咆哮】
一般スキル【槍士】【盾士】【隠密中】【斥候中】【奇襲中】
※Lv11未満のためHPおよびMPは確認できない。
☆イル☆
人族 男12歳
【冒険者F】Lv8
一般スキル【剣士】
武器…ショートソード
防具…鋼鎧・木盾
☆カクス☆
人族 男12歳
【冒険者F】Lv10
一般スキル【弓士】【隠密小】
武器…長弓
防具…強皮革鎧・皮革籠手
☆ジャニス☆
人族 男11歳
【冒険者F】Lv10
一般スキル【槍士】【生活魔法Lv1】
武器…バトルフォーク・ショートソード
防具…鋼鎧・腕小楯
☆エイギル☆
人族 男12歳
【冒険者F】Lv10
一般スキル【剣士】【盾士】
武器…ショートソード
防具…鋼鎧・スクトゥム盾