第35話 新人狩り②決着
第35話です。
ノルテランド暦1992年5月上旬
《王都ノルテ近郊漆黒の森》
新人【冒険者】フェルマーが、引き連れていたモンスタートレインを討伐したオレたちは、改めて話を聞いていた。
どうやら、『血餓狼』には【召喚士】がいるようだ。その、【召喚士】は虫系を得意としているようで、召喚した巨殺蜘蛛と鎧蟻のヘイトをフェルマーに集中させてオレたちに方へ逃がしたらしい。
そもそも、フェルマーは新人に最適の狩場があると言って連れてこられたそうだ。その上、今回しっかりとした成果を上げれば、『血餓狼』に推薦してもらえると、騙されていた。
「心細い新人を騙すような小聡明いやり方は、赦せないな。」
クー兄が、珍しく他人に対して怒りの色を見せる。
「そうなのです。赦せないのです。ぼこぼこなのです。ぎたぎたなのです。」
カンナも怒っている。
カンナは、ヤンガーに強いられた苦しみを知っているだけに赦せない気持ちが強いのだろう。
「でも、証人もいるんだから冒険者ギルドに訴えを起こせるんじゃないか。あんたも、訴えてもいいんだろ。」
オレはフェルマーに尋ねる。
「いや。でも。これから狙われたら困る。問題ごとは嫌なんだよ。」
と言って煮え切らない態度を取る。
今後、【冒険者】として活動をしていくうえで、敵対するパーティを作りたくないようだ。特に、新人で他に頼る人がいない彼にとって、新人狩りなどに巻き込まれると命取りになりかねないのだ。
「しかし、今しっかりと対応して潰すなりをしておかないと、他にも『血餓狼』に狙われる【冒険者】が出続けることになる。フェルマーさん、ここは勇気を出して訴えることも必要なんじゃないですか。」
クー兄が再度説得をする。
カンナも、少ない語彙で説得を続けていた。
そんな時だった。
「敵の気配がするのです。伏せるのです!」「殺気だ。伏せろ!」
カンナとクー兄が鋭い声を上げる。
そんな声に引っ張られ、オレはフェルマーを抱きかかえるようにして伏せる。
カッ!カッ!とフェルマーさんの頭があったところを矢が通過し、背後にあった木の幹に刺さった。
「「誰だ!」」
オレとクー兄が矢の来た方角を振り向いて叫ぶ。
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そこには、口角を吊り上げ、厭らしい笑顔を浮かべた4人の男がいた。
「へぇ~、よく避けましたね。」
中央にいるリーダー格の男が口を開く。
「なんだ、お前ら!【冒険者】殺しはギルドのご法度だぞ。」
オレが非難の叫び声を上げる。
「いやぁ、何ね、フェルマー君には申し訳ないんだけど、生きていてもらうと困ったことになるんですよ。なんせ、生意気な『自由への翼』をお仕置きする作戦を知ってしまっていますからね。ここで…、死んでもらいます。」
男はそう言って、ニヤリと笑う。
その男の声を合図に『血餓狼』が攻撃を仕掛ける。
(ジョアンナさんに聞いた情報だと、【剣士】がヨング、【弓士】がグンズ、【魔術師】がジャジ、そして不明がクルーンか。クルーンは【召喚士】か。)
「火投槍!」
【魔術師】が放つ火魔術がオレたちを襲う。
(あれは【魔術師火Lv3】か。結構、高位の【魔術師】がいるな。)
「どっせい。」
そんな、魔術による攻撃を避けていると、リーダーのヨングが両手剣を振り回しながら迫ってくる。
グンズ、ジャジが遠距離攻撃で足止めを謀り、すかさずヨングが隙を突いて攻撃をする。そして、クルーンは召喚の準備をしてバックアップ。追い詰めれば、召喚獣で仕留める。さすがにDランクのパーティだけあって攻撃も連携されている。
だが、クー兄はその作戦に逸早く気付いた。
(『血餓狼』の作戦は【召喚士】を自由にして、再び魔物を召喚することにあるようだ。)
「ノア、あの【召喚士】は自由にさせるな。あいつに、魔物を召喚されると厄介なことになる。カンナ、フェルマーさんを守れ。守りきれば私たちの勝ちだ。」
クー兄が指示を出す。
クー兄は、木の陰からジャジを狙い打つ。魔術による援護がなくなったヨングはカンナに斬りかかるが、カンナは円盾を巧みに使い斬撃をブロックする。オレは、グンズに斬りかかり、弓だけ斬りつけるとクルーン目掛けて突進をした。
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《『血餓狼』が攻撃を仕掛ける1時間ほど前》
『血餓狼』の面々は焦っていた。
ぽっと出のパーティが、巨殺蜘蛛と鎧蟻のヘイトコントロールされたモンスタートレインを討伐しきれるとは思っていなかったのだ。しかも、たかだか3人で。
『自由への翼』を始末した後、フェルマーは脅すなり、喋れなくするなりすれば良いと考えていた。だが、目論見どおりに行かなかった。なんと、そのたかだか3人が巨殺蜘蛛と鎧蟻を悉く葬り去ったのである。
少なくとも、あの新人だけは話しができないようにしなければ、冒険者ギルドへ訴えられてしまう可能性がある。そして、それに釣られるように過去の獲物たちが訴えでたら。過去の悪事まで詳らかにされると、下手すると縛り首だ。
「おい、お前ら。あの新人だけでも殺らねえと拙いぞ。」
ヨングが皆に言う。
「でも、兄貴、どうやって殺るんだよ。」
グンズがそう応えると、皆「どうすんだ。」とばかりに頷く。
「それを考えんだよ。お前ら、ホントにわかってんのか。あいつが、ギルドに訴えでもしてみろ。良くてギルド追放。下手すると縛り首だぞ。死ぬんだぞ!」
ヨングが激昂し、周りの木を殴りつける。
結局、『血餓狼』はヨング、グンズ、ジャジが足止めをしている間にクルーンが魔物を召喚し、ヘイトコントロールを『自由への翼』に向け、そちらを対応している間にフェルマーを殺す作戦を立てた。
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ノアはグンズを相手取って戦うことをしなかった。ただ、弓弦を切断しただけだった。【弓士】をいかに早く離脱させ、【召喚士】に向かうかを考えたのだ。
ノアは【召喚士】の近くまで迫った。しかし、既に鎧蟻が3匹召喚されていた。
「やばい、間に合わない。」
オレは咄嗟に持っていたグラディウスを投げつけた。
「あっ、痛っ。」
そう言って、召喚が途切れる。
その瞬間だった。召喚した鎧蟻3匹が、一斉にクルーンに襲い掛かったのだ。
「うわぁ~。助けてくれ~。」
クルーンが必死に蟻を追い払おうと短剣を振り回す。
「「「クルーン。」」」
『血餓狼』の面々が叫ぶが、カンナ、クー兄と交戦中のため助けに行くことができない。
蟻たちは餌にありついたかのようにクルーンへの攻撃を続ける。召喚することを優先していて、ヘイトコントロールが出来ていなかったのである。
「助け…くれ…。助…く…。」
やがて、クルーンの声が聞こえなくなった。
「貴様ら!よくも、クルーンを!赦せねえ!」
グンズが弦を張り直そうとしていた弓を捨て、ショートソードを抜き、オレに向かって斬りかかって来た。
オレはすかさずBOPからエスポワールを取り出す。2合、3合と打ち合うがグンズの力量をあっさりと見抜いた。切りかかってくるショートソードを受け流すと鳩尾に拳を叩き込む。
「ぐふっ。」
そう言って、グンズは意識を失った。その瞬間だった。鎧蟻がオレに向かって攻撃をしてきたのだ。オレは3匹の蟻のヘイトをオレに集中させながら討伐をはかった。
(数十匹の蟻の群れは凄かったが、3匹であればたいしたことはないな。)
オレは、あっと言う間に3匹の鎧蟻をエスポワールの錆びにしてしまった。
他の『血餓狼』を確認すると、【魔術師】ジャジは高位魔法を使いすぎて魔力切れを起こし、クー兄が捕縛していた。
「秘技・連続突きなのです~。どわわわわわ~。」
カンナも獣人であるスピードと膂力をいかんなく発揮して、フェルマーさんを守りながら疲れの見えるヨングを圧倒していた。
それぞれを片付けて、カンナの所に駆け寄ると、ガックリと膝をつき肩を落とすヨングがいた。
「なんなんだよ。なんなんだよ。お前らは。もっと腕の立つ仲間がいれば貴様ら皆殺しにしてやるのに。くそっ。なんでこんな役立たずばかりなんだよ。」
ヨングが悪態をつく。
「あ、兄貴。そりゃないぜ。俺たちは兄貴の指示に従っ「うるせえ!役立たずが!」
『血餓狼』は仲違いを始めたのだ。信頼ではなくお金でつながっていたパーティだ。お互いに罵り合い、罵倒し合い、罪を擦り付け合っていた。
(なんか、こうなると惨めだな。仲間は選ばないとな。)
捕縛を終えたオレたちは、鎧蟻とクルーンの魔結石を回収し、フェルマーさんと『血餓狼』を連れて王都へ戻ることにした。
道中、何度も現状を打破しようとヨングが話しかけてきた。
最初は恫喝である。
曰く「俺たちの仲間が黙ってねえぞ。」
曰く「俺たちに手を出すと組織が貴様らを狙うぞ。」
徐々に買収を持ちかけようとしてきた。
曰く「資産の半分を払う。」
曰く「迷宮の踏破方法を教える。」
曰く「誰にも知られていないお宝がある。」
しかし、どれも胡散臭く聞く耳を持つものもいなかった。そして、王都ノルテの城門が近付くにつれ観念したのか話しかけてこなくなった。
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漆黒の森討伐結果
巨殺蜘蛛…1匹(3百万C)
鎧蟻…49匹(2千4百50万C)
オーク…8体(80万C)
薬草…規定量収穫成功(成功報酬:50万C)
素材
鎧蟻…甲殻多数(98万C)
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