第34話 新人狩り①モンスタートレイン
第34話です。
まだまだ、続きます。
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ノルテランド暦1992年4月下旬
《王都ノルテ内冒険者ギルド食堂》
装備の修繕を終えたオレたちは、その後も順調に討伐依頼、採集依頼を続けていた。主に達成した依頼は、ゴブリン、オークなどの討伐や薬草・毒草の採集である。
オークとは、中鬼族に属し、巨鬼族ほどの巨躯・膂力は無いものの、人族と較べると大きく力も強い。何より、繁殖力が旺盛で村々から若い女性を攫っては子を産ませて殺してしまうのだ。だが、同族同士でも血族以外とは仲が悪く、ゴブリンやコボルトのように大発生することは少ない。それでも、数年毎に盟主に従えられて集団化し、その度に強制依頼となることで有名な魔物だ。そろそろその時期ではないかと言われている。
・オーク…体長2mほどの人型モンスター。大きな棍棒を振り回して攻撃をしてくる。血族以外とは群れを作らない。ただし、盟主を頂点にすると大きな群れを形成する。
薬草・毒草採集は、薬草はもちろんそのまま飲むと毒になる毒草でさえも【薬術士】が精製することで毒消し草をつくる材料となるのだ。この王都周辺では、ウツボグサ、トリカブト、大黄などの採集依頼が最も多い。毒草の多くは、食用の山野草と外見がそっくりなため、誤食による食中毒が絶えない。そのため、採集も迅速さが求められるのだ。
今日もオレたち『自由への翼』は、ゴブリン討伐とウツボグサの採集を行い食堂にて休憩をしていた。最近オレたちの評判を耳にした人が多いようで、ちらちらとこちらの様子を覗う人が増えた。
「ノアとクースって言うのはお前らか。」
オレたちの前に、まさに『THE冒険者』という感じのガラの悪い2人組が立っている。
(なんだこいつら。)
怒って前に出ようとするカンナをクー兄が肩を押さえて静止する。
「奴隷引き連れて、良い装備着けて、調子に乗ってんじゃねえぞ。あんまり調子に乗ってると怪我するぜ。いいか、ガキはおうちに帰って寝んねしな。ひゃ~はっはっはっは。」
「おっ、そうだ。お前が死んじまったら、その鎧俺によこせよな。予約だぜ。きっとすぐだ。ひゃ~はっはっはっは。」
そう言って、首を斬るポーズをしながら去っていった。
クー兄がその冒険者の風貌をジョアンナさんに伝えると、『血餓狼』というDランクの4人組パーティであることがわかった。リーダーは【剣士】ヨング=ダリル。他に、ヨングの弟【弓士】のグンズ=ダリル、【魔術師】ジャジ=フリスト、役割不明クルーン=クルーソンの4人である。
日頃から、素行不良のパーティとして有名で、他人が討伐した素材を掠め取ったり、討伐者が低ランクで人数が少ないと魔結石を脅し取ったりすることもあるらしく、何度か警告書が出ているようだ。だが、決定的な証拠が掴めずに、なかなか処罰できないのが現状であることがわかった。
最近は、低ランクの【冒険者】を脅して連れて行き、その【冒険者】に敵意を集中させ、その間に魔物を討伐する。そして、怪我して邪魔になるとその場に置き去りにするということを行っており、冒険者ギルドに目を付けられているらしい。
「あなたたちも、最近有名になったから絡まれないように注意しなさいよ。それと、困ったことがあったらすぐに連絡するのよ。自分たちで何でも解決できると思っちゃダメよ。」
ジョアンナさんに念を押された。
「あいつら赦せないのです。ノア様を悪し様に言ったのです。口を封じてやるのです。目には目を、歯には歯をなのです。天誅なのです。月の出ない晩もあるのを教えてやるのです。」
地団駄を踏んで激昂する。
カンナは最近ノアと一緒に、字を勉強して本を読むようになっており、変な言葉を覚えているのだ。
(それでも、直接被害が出ているわけではないし、奴らと違う依頼を受けるようにすれば問題ないかな。)
オレは、それほど深く考えてはいないかった。それが甘い考えだったとわかったのは少し経ってからのことだった。
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ノルテランド暦1992年5月上旬
《王都ノルテ近郊漆黒の森》
『血餓狼』と初遭遇してから10日あまり、奴らの動向はあまりわからなかったが、特に手を出してくる風でもなく、オレたちは順調に依頼を達成していた。
クースもあれ依頼見かけもしない『血餓狼』に杞憂だったかと警戒を解き始めていた。
そんな中、オレたちは漆黒の森へオークの討伐と薬草等の採集に来ていた。
その異変に、最初に気付いたのはカンナだった。
「クース様、声が聞こえるのです。」
オレたちは辺りを見回す。
「えっ。何も聞こえ「いや、確かに。悲鳴が聞こえる。」
オレの声を遮り、クー兄がそれを認めた。
「…けて…ぇ~。」
「助…てく…ぇ~。」
「助けてくれぇ~。助けてくれぇ~。」
徐々に悲鳴が大きくなり、1匹の巨殺蜘蛛と数え切れないほどの鎧蟻を引き連れた【冒険者】がこちらに向かって走ってくる。
・巨殺蜘蛛…体長1mを超える大型の蜘蛛。口から粘着性の糸を吐き出し獲物を捕らえる。その鋭い牙には麻痺毒を持つ。魔結石3百万C
・鎧蟻…体長は60cmほどで、蟻の仲間らしくコロニーを形成し群れで行動する。鎧の素材にもなる非常に硬い体を持ち、噛まれると灼熱痛を伴う。魔結石50万C
「どうする。」
クー兄がオレたちに尋ねる。
「もちろん助ける。」「助けるのです。」
オレたちは即決した。
しかし、クースは納得がいかなかった。ここは漆黒の森のまだ浅い場所だ。モンスタートレインが出来るほど魔物はいないはずだ。それに何より、巨殺蜘蛛【冒険者D】クラスで、鎧蟻も【冒険者D】だが、これだけの集団になるとパーティ討伐か【冒険者C】が対象となるはずだ。それが、こんな場所に群れで出現しているのはなぜか。
「ノア、カンナ。なんか様子がおかしい。いやな予感がする。充分警戒して行動して。それに、昆虫系モンスターだから火属性が弱点なはず。あっ、あと、こいつらは首を斬り落としてもすぐには死なないかもしれないからね。」
クー兄から指示が飛ぶ。
その声を聞き、オレは【魔術師火Lv3】の火炎壁を唱え、カンナも火炎槍を構える。
クー兄の風精霊十字弓からも火属性を持った矢が小気味良い弓弦の音が響く。
逃げてきた【冒険者】は、恐怖と疲労からか木の根元に倒れこみ、肩で息をしている。駆け寄ったクー兄が回復薬を飲ませ話をしている。
「一~つ。二~つ。」
カンナは、なぜか数を数えながら、炎の壁から飛び出してくる鎧蟻を突き刺している。
オレは巨殺蜘蛛と向かい合っていた。【盟主の覇者小】を手に入れたオレは攻撃力補正が付いているはずだ。
オレは愛用のグラディウスを抜き払うと、火爆弾を打ち込みながら、巨殺蜘蛛の懐に入り込もうとダッシュをする。しかし、蜘蛛の8本の足がそれを邪魔する。それどころか、次々と繰り出される足の突きに防戦一方に追い込まれる。さらに、気を抜くと剣を巻き上げるように粘着性の糸を飛ばす。
この粘着性の糸も厄介だが、1mを超える高さから突き刺しに来る、その足もとても厄介だ。オレは腕小楯で必死に防御をしながら、斬りつける隙を探す。その時だった、オレは頭上から振り下ろされた足に腕小楯を頭上にかかげ、脇の防御をあけてしまったのだ。鋭く尖った足先がオレのわき腹に突き刺さっ…ではいなかった。
さすが神鋼軽鎧。巨殺蜘蛛の爪先をしっかりと受け止めていたのである。その刹那、逆に巨殺蜘蛛に隙が生まれた。オレはその一瞬を逃さなかった。グラディウスを大上段から振り下ろす。
「ピギョァー。」
耳を裂くような叫び声をあげる。
しかし、まだ足の1本を叩き斬っただけだ。7本の足は健在なのだ。何より、その牙には麻痺性の毒を持っている。安心はできない。改めて、巨殺蜘蛛と向かい合う。
◇◆ ◇◆ ◇◆
その頃、カンナは数え切れないほどの鎧蟻を相手に、まさに一人槍衾となっていた。蟻と蟻の間を高速に移動し、見切れないほどの連続突きを放つ。
「秘技・連続突きなのです~。」
その場所に蟻が殺到すると、再び移動して、向かってくる蟻に連続突きを見舞う。上下左右、後ろさえ取られなければ、無敵となっていた。
だが、疲労は蓄積する。また、少しずつ攻撃を受けているため、手足を灼熱のような痛みが襲う。
徐々に間なの槍のスピードが遅くなり、攻撃を受ける回数が増え始めたときだった。半月刀を抜いたクースが加勢に加わった。
今まで、逃げてきた【冒険者】の話しを聞き終えたクースが飛び込んだのである。
ところで、クースの予感は当たっていた。逃げてきた【冒険者】、名前はフェルマーと言った。今年、【冒険者】になったばかりの新人であった。仲間や知人もいなかったのでソロで討伐や採集をしていたところに『血餓狼』が声をかけたらしい。何も知らなかったフェルマーは、パーティランクDのパーティが声をかけてくれたことに有頂天になってしまった。周囲の『血餓狼』への評判も妬みややっかみとしか感じなかったそうだ。そして、【冒険者】として成果を出せれば入団できると唆された。先輩に相談をしたら、絶好の狩場と簡単に相手できる魔物を教えてやると言われ漆黒の森の奥深くへ連れて行かれたのだ。
クースの目は怒りの炎に揺れていた。半月刀で次々と鎧蟻を斬り伏せていった。
◇◆ ◇◆ ◇◆
七本足になった巨殺蜘蛛と向かい合ったオレは、先手必勝と懐にもぐりこむことに集中する。切断することに成功した左側に隙があったのだ。オレは、神鋼軽鎧と腕小楯の性能を信じ、滑り込むようにしてもぐりこんだのだ。
まさに頭上に剣を掲げるように巨殺蜘蛛の腹部を切り裂いた。あまりにも懐近くに入り込まれた巨殺蜘蛛は粘着糸でオレを牽制することができない。懐の中から、頭部を胸部から斬り落とした。
(やった。)
オレがそう思ったとき、オレは物凄い正直で弾き飛ばされた。なんと、頭部を落とされた巨殺蜘蛛が体当たりをしてきたのだ。蹈鞴を踏むことにはなったがオレは何とか体勢を立て直し、三度、巨殺蜘蛛と向き合う。
しかし、今度こそ活動を停止していた。
◇◆ ◇◆ ◇◆
カンナやクー兄も討伐が終わったようだ。
「ノア様、やったのです。ガシュッ、ガシュッてやったのです。」
カンナが嬉しそうに駆け寄ってくる。
「あぁ、お疲れ様。」
こうして、何とかモンスタートレインを討伐したオレたちはフェルマーの話をクー兄から詳しく聞くことになった。
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