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ノアの冒険譚 成り上がり人生記(仮)  作者: 世迷言言
第四章 新人パーティ『自由への翼』
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第32話 カルブンクルス湖討伐騒動③討伐

第32話です。

到着3日目午前

《カルブンクルス湖畔》


水蛟ウォータサーペントも変温動物なので、今の時期動き出すのは昼頃からだろうというクー兄の意見を受けて準備をする。


オレたちは酒の量を確認し、フンメルスさんの荷車を使い湖畔まで酒樽を運ぶ。それらを湖畔に置き周囲に油を浸した藁を敷く。油の臭いで気付かれないように、魚醤と半分腐った魚を周囲にまき、風下に隠れる場所を作った。


全ての準備が終わってから、生け簀にいる魚を樽の中に放つ。


「いいか、ノア、カンナ。酒樽はこれしかない。チャンスは1回だ。何としてもこれで仕留めるぞ。」


「了解。」「はいなのです。」


… … オレたちは風下に隠れて様子を見る。自警団の人々も火矢の準備をして更に後方に息を潜める。


隠れてから数時間が経った頃、湖の中から奴が姿を現した。


クー兄が注意を促すように片手を挙げる。


すると、水蛟ウォータサーペントは辺りを覗うようにそろりそろりと岸に上がる。


(でかい。5mはあるか。あのサイズの魔物って討伐したことがないよな。そもそも、どこに急所があるのかもわからない。頭を刎ねるのが一番か。)


水中から陸上に上がるとその大きさが際立つ。口からは先の別れた真っ赤な舌がちょろちょろと覗く。そして左目にはクー兄が射ち込んだ矢がしっかりと残っていた。


みんな物音ひとつ立てずに潜む。


すると、酒樽に気づいた水蛟ウォータサーペントが周囲を警戒しながら近寄っていく。


しかし、辺りを警戒しているのかなかなか、魚に手をつけない。周囲の匂い消しに撒いた魚を一頻り食べてから、とうとう酒樽の中に頭を突っ込んだ。


バリボリと魚の骨を噛み砕く音だけが響く。水蛟ウォータサーペントも段々注意が散漫になっていったようで、酒樽の前でとぐろ巻いて魚を食べている。


クー兄がハンドサインを送る。


3

…2

…1

…「今だ。」


火爆弾ファイアボム!!」

オレは火魔術を詠唱する。


クー兄をはじめとして、自警団の人々が火矢を射ち込む。


カンナは警戒しながら防衛に務める。


瞬く間に火が燃え広がり、水蛟ウォータサーペントの体を炎が包む。


「グリュリュリュ~。ギュリュリュリュ~。」

水蛟ウォータサーペントの叫び声が、炎の幕の向こう側から響く。


ズドン、ズドンと水蛟ウォータサーペントがのた打ち回る音が聞こえる。


「「「やった。」」」

自警団の人々が一斉に声を上げる。誰もが作戦の成功を確信し、水蛟ウォータサーペントの叫び声に引き寄せられるように前へ出る。


しかし、それは水蛟ウォータサーペントの作戦だった。炎の壁が途切れそこから奴の頭が飛び出してきた。


「ギャア~。」

完全に油断していた自警団の一人が足を噛み切られたのだ。


水蛟ウォータサーペントがのた打ち回っていたのは、苦しんでいる振りだった。実は、体を地面にこすり付けて火を消していたのだ。


自警団の何人かに大怪我を追わせた水蛟ウォータサーペントは、次の獲物目掛けて大口を開けて飛び掛る。そこに、盾を掲げて飛び込んだ人がいた。


カンナだ。カンナは自警団の一人の前に円盾ラウンドシールドを翳して神着を防ぐと、その陰から奴の鼻先目掛けて火炎槍ファイアスピアを突き刺したのだ。


「ギュリュア~。ギョリュア~。」

水蛟ウォータサーペントの弱点である火属性の攻撃を受けて、後ずさりながら体勢を整える。


攻撃を阻まれ、手傷を負った水蛟ウォータサーペントは、鎌首を擡げて改めてカンナを狙って隙を窺う。


カンナは、自警団員を守るためにその場を動けずにいた。


(カンナを守らなきゃ。)


火爆弾ファイアボム!」

鎌首を擡げた奴の頭目掛けてオレは火魔法を放つ。奴の頭を直撃した瞬間、尻尾による強力な一撃が襲ってきた。何とか腕小楯バックラーで受け止めたが、あまりの勢いに後方へ弾き飛ばされてしまった。


(ぐっ、痛い。でも、今ので尻尾の攻撃のタイミングは掴めた。)


オレは周囲を見回す。カンナは何とか立ち回ってはいるが、防戦一方だ。クー兄も援護射撃が精一杯だ。


自警団の面々が傷つき倒れているのがわかる。村長も弓を射てはいるが効果はない。このまま戦闘が続くと拙い。


オレはエスポワールを抜き、胸の前に掲げ集中する。


(オレは誰も失いたくない。ここでオレがやらないで、誰がやるんだ。オレは水蛟ウォータサーペントから逃げない。奴の討伐を諦めない。村長たちの期待を裏切らない。)


すると周囲に満ちた魔素マナがノアの体を包み込む。ノアが意を決して両の目を見開くとその魔素マナが刀身に吸い込まれ青白く輝きだす。


ダンッ!

オレは地面を蹴って水蛟ウォータサーペントの前に飛び込む。


火爆弾ファイアボム!」

奴の眼前で魔法が爆ぜる。


顔を上げた奴はオレ目掛けて尻尾を振り回す。オレは腕小楯バックラーで受ける。ここまではさっきと一緒だ。しかし、オレは尻尾を受け止めることなくそのままの勢いで受け流したのだ。腕小楯バックラーが砕け散る。だが、尻尾の攻撃を受け流された奴は勢いのままにバランスを崩した。


「好機!!」


間髪入れずにオレはエスポワールを大上段に構え袈裟懸けに一閃する。


「ギョリュア~!」

水蛟ウォータサーペントは叫び声を上げる。


そこに、クー兄だろうか風刃ウィンドカッターが飛ぶ。オレの与えた傷に寸分違わずヒットした。


バシュッ!血飛沫が舞う。


(やった。かなりの出血だ。どうだ。)


息も絶え絶えとなった水蛟ウォータサーペントは後退を始める。しかし、すぐに動きが止まる。


村長や自警団の面々が奴の退路に既に火を放っているのだ。


進退窮まった奴は眼前のオレを打ち破って退路を確保するしかないのだ。片目を血走らせて奴がオレに迫る。


オレは逃げない。鎌首を擡げてオレに肉薄する。


「ノア避けろ!」「ノア様、逃げるのです。」


でも、オレは避けない。敢えて踏み出すと真っ赤な奴の口目指してオレはエスポワールを突き入れる。牙に触れた腕から灼熱痛が脳天まで突き抜ける。その瞬間だった。オレのエスポワールが奴の後頭部を突き抜けたのだ。


水蛟ウォータサーペントは、一瞬ビクッと痙攣を起こしその場に崩れ落ちた。


「「「やったぞ。」」」

周囲に喧騒が広がる。


村長が、自警団員達が、協力をしていた漁師たちが、みんなが脱力してへたり込む。


エスポワールを引き抜いたオレは、激痛に顔をゆがめてその場に座り込んだ。


「ノア!」「ノア様!」

クー兄とカンナが毒消しを片手にオレの元に駆け寄る。


「相変わらず無茶するな。」

クー兄がオレに文句を言う。


「ぶっ、苦っ。」

オレは毒消しを飲み込み、クー兄に誤る。


「ごめんね。だけどね、確実に仕留めるにはあれしかないと思ったんだよ。あの鱗だよ。どれだけ剣戟を重ねても弾かれちゃって、止めを刺すのが難しいと思ってね。何とか倒せたね。でも、これでカルブンクルス湖畔村も復旧するかな。」


「どうだろうな。今回の犠牲者もいるし、もう奴隷になっている人もいるみたいだから、すぐには難しいんじゃないか。でも、漁業も酒造もあるから、徐々には持ち直すだろう。なんにせよ、これで終わったな。」

クー兄はノアに返事をした。


そこにカンナののどかな声が響く。


「ノア様、クー様。素材なのです。肉なのです。」


カンナは水蛟ウォータサーペントの周りで鱗や肉を一生懸命回収している。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


カルブンクルス湖討伐結果


水蛟ウォータサーペント…1頭(2千万C)

水蜥蜴ウォータリザード…226匹(56万5千C)

ゴブリン(道中)…11体(5万5千C)

雪兎スノーラビット…5匹(7千5百C)


達成報酬2百万C


討伐報酬合計…2千2百62万7千5百C


獲得素材


水蛟ウォータサーペントの皮革・鱗・牙・毒・肉

水蜥蜴ウォータリザードの表皮・肉

雪兎スノーラビットの毛皮・肉






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


到着3日目夕方

《カルブンクルス湖畔村》


オレたちは村の人々と討伐記念の焼肉大会を村広場で開いていた。


「ノアシュラン殿、クーサリオン殿、カンナ殿。この度は本当に忝く、感謝の言葉もございませんですじゃ。」

村長がオレたちの前に来て感謝の言葉を述べる。


「村長。せっかくのめでたい席です。怪我した方には申し訳ありませんが、おいしく頂きましょう。」

クー兄が返事をする。


今日の焼肉は昨日まで討伐していた水蜥蜴ウォータリザードの肉だ。ジューシィで美味い。


150匹分を報酬として貰い、残りをオレたちが提供をしたのだ。さらに、村長命令で各家庭に貯め込まれていた、酒が一斉に持ち込まれたのだ。


「祭りだ。」「活気が戻るぞ。前祝だ。」

どこからか祭囃子も聞こえてくる。


子どもたちは感謝の絵を描いて、カンナの所に運んで来る。クー兄の前には、女の子たちが集まっていた。


オレの周りはなぜか、じいちゃん、ばあちゃんが集まってくる。


「坊主、もっと食え。」「よくやってくださったのう。」


みんなで盛り上がっていると、突如として馬の足音が響き渡った。それも、1頭、2頭じゃない。おそらく、10頭以上だ。


祭りを楽しんでいた村の人々が悲鳴を上げて一斉に家に逃げ込む。


オレたちも、あばら家の陰から様子を覗う。


「騒がせて申し訳ない。責任者の方居らぬか。」

一人の男が下馬し広場にやってくる。カツン、カツンと長靴の足音が響く。


オレは、オレたちは、その男を知っている。


「あれ、カーン教官。何してるんですか。」

オレが尋ねる。


そんなオレたちの姿を見てカーン教官も驚いたようで歩みを止める。


「おぉ、ノア。無事だったか。」

ホッとしたように話しかける。


「無事とは何のことですか。」

クー兄も尋ねる。


すると、カーン教官は水蛟ウォータサーペントの出現可能性があり討伐者ランクが引き上げられたと告げた。


「まだ、討伐は終わってないんだろ。今日からはわしらも手伝うぞ。」

というカーン教官の問いかけに対してオレたちは既に終わったことを伝える。


オレとクー兄は既に討伐済みの素材を見せると、カーン教官をはじめ同行の【冒険者】からざわめきが起こる。


「本当かよ。」「ほかの蛇の皮じゃねえか。」「あいつら【冒険者E】だろ。」

みんなが囁きあっている。


カーン教官も回収した皮や鱗を見ながら信じられない様子だ。それでも、オレたちはけが人を出してしまったことを後悔していた。


そんな話しをカーン教官としていると、一人の【冒険者】がオレたちに近寄ってきた。


「ノア、クース。相変わらず無茶やってるな。」

オレたちに話しかける人がいる。


「「ウルリッヒさん。」」

オレたちは驚いて声を上げる。


「おうっ。水蛟ウォータサーペントなどの大蛇退治は普通集団討伐の仕事だぞ。それは、お前らは無茶しやがって。俺も向こう見ずな所が歩けどお前らには負けるよ。」

ウルリッヒがオレたちに説明する。


しかし、無駄足になったとはいえ無事討伐が済んでいたことにカーン教官もウルリッヒも他の【冒険者】も安堵したようだ。


「でも、ウルリッヒとか無駄足だと損になるんじゃ。」

オレが心配する。


「心配はいらねえよ。今回は強制討伐だからな。参加しただけでも、1日1百万Cが出るんだ。帰りはゆっくり討伐でもしながら帰るよ。だけど、お前らは違うぞ。なんせ、水蛟ウォータサーペントの討伐だからな。カーン教官には悪いけど、俺は何人かの犠牲者は覚悟してきたよ。お前らも相当上手くやったようだな。王都に帰ったら、ギルド中大騒ぎになるぞ。楽しみにしてろよ。今日は、ここで1泊だけどな。」

ウルリッヒが楽しそうにオレの頭を叩いた。


その後、後発の【冒険者】も含め空き家に一泊し、明日王都に帰還することになった。オレたちも、増額分を含め相談するので、王都へ戻り次第ギルドへ顔を出すように言われ、オレたちは借りている家でゆっくり休むことになった。



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