第30話 カルブンクルス湖討伐騒動①遭遇
第30話です。
PV30,000件超えました。ありがとうございます。
ノルテランド暦1992年3月下旬
《パラム高原付近》
ジョアンナさんからの討伐依頼を受けたオレたちは、ギルドの馬車を借りて一路カルブンクルス湖を目指していた。
「ノア、カンナ。疲れてないか。高原抜けたあたりで休憩を入れるからもうちょっと我慢ね。」
クー兄が荷台のオレたちに声をかける。
「大丈夫。しかし、クー兄が御者できてよかったよね。馬車借りて誰も御者できないようだったら雇わないといけなかったよね。そうしたら、赤字だったね。」
オレは御者台に座るクー兄に話しかける。
「そうだね。帰りはノアとカンナにも馬の御し方を教えるから覚えるんだよ。さすがに一人じゃきついからね。」
クー兄が肩をほぐしながらぼやく。
「了解。」「はいなのです。」
それからもオレたちは3時間ごとに休憩を取りながら先を目指した。
野営では、クー兄、オレ、カンナの順に警戒に当たる。
途中、ゴブリンや雪兎を狩りながら進んだが、特に大きなトラブルもなく3日目の昼過ぎにはカルブンクルス湖畔の村落に到着した。
「クー兄、この地形図ってすごかったね。どんな道か、どれだけの勾配かとかみんなわかるんだね。」
オレは地形図を片付けながら感心したように話しかける。
「そうだね。地図、地形図が発展すると国も発展すると思うよ。」
クー兄も同意するように認めた。
カンナはそんな話しを聞きながら
「そうなのです。すごいのです。」
と腕を組みながらうん、うん、頷いていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
到着初日
《カルブンクルス湖畔村》
馬車から降りたオレたちは早速村長さんの家を探す。討伐依頼の受諾を村長に報告し、認めてもらえないと討伐に成功しても報酬が出ない。
「すごい寂れた村だね。空き家はいっぱいあるけど人はいないよ。」
表通りを歩きながら人を探す。
すると、通りの向こうから手に槍を持って何人かがやって来る。
「お前達、何者だ。ここは俺たちの村。今では寂れてしまって貴様らが略奪するようなものはないぞ。早々に立ち去れ!」
槍を手にした男が警告する。
クー兄が、ギルドからの紹介状を手に挨拶をする。
「王都ノルテの冒険者ギルドからの紹介で来ました、クーサリオンと申します。こちらはパーティのノアシュランとカンナです。村長へのお引継ぎをお願いできないでしょうか。」
周囲がざわめく。
「こんなガキだと。」「やっぱりあの金額じゃ、ギルドは取り扱ってくれないんだ。」「もうお終いだ。」
「静まれっ!静まらぬか!」
後ろから一喝が聞こえ、一人の老人が槍を手にした男たちの間から進み出る。
「大変失礼した【冒険者】殿。わしは、このカルブンクルス湖畔村で村長をしております、ヤヌスと申しますじゃ。村の者どもの粗相お許しくだされ。なにぶん貧しい村じゃによって、歓待は出来ませぬがわしの家へお越しくだされ。」
オレたちは村長に案内されて家へ向かった。
そこにあった家は、まさにバラックとも言えるような掘っ建て小屋だった。
玄関をくぐり、お茶をご馳走になりながら村長は淡々と話し始めた。
「この村も、昔はカルブンクルス湖での漁業と豊富な湧き水での酒造が栄え人口も800人以上がおったのですじゃ。あの頃は、魚だけでなく、村で生産する高級酒も主要な産業だったのです。。カルブンクルス湖畔村には大工も、鍛冶屋も、仕立て屋も居ってな、裕福とは言えないまでも満ち足りた暮らしをしておったのですじゃ。わしらも、好き好んでこんなあばら家に住んでいるわけではないんじゃよ。じゃが、7年ほど前、湖に水蜥蜴が住み付き始めたんじゃ。やつらは湖の豊富な魚と綺麗な湧き水が目当てだったんじゃ。当初は自警団が何とか駆除をしておったのじゃが、彼奴らの繁殖力は凄まじく駆除し切れなくなってしまったのですじゃ。そこで、ギルドへ依頼を出したのですが、あまり高額な依頼料も出せずに討伐を受けて貰えんかったのですじゃ。毎回期限切れじゃった。今では200匹以上の群れになってしまったんじゃ。じゃによって、毎年、毎年、村を離れるものが後を絶たず、今では人口100人ほどになってしまったのですじゃ。」
村長は悔しそうに話す。
「わしの生きておる間に、皆が安心して暮らせる湖畔を、今一度取り戻したいのじゃ。【冒険者】殿、何卒、何卒、宜しくお願いします。」
村長は土下座をして、頼み込む。
「村長、私たちは依頼を受けて来たのですよ。安心してください。」
クー兄はそう言って、村長に討伐受諾の契約を交わした。
貧しい村ではあったが、空いている家と薪などの燃料、野菜や駆除で狩りした水蜥蜴の肉などの提供を受けられることになった。自分たちでも食料を持参はしたが、携行食なので野菜は嬉しい。
オレたちは借りた家に入り作戦を立てる。
水蜥蜴の特徴は、①硬い表皮 ②【魔術師水】への耐性 ③頑強な顎と鋭い爪 ④変温動物なので寒さに弱い ⑤昼行性で動きは素早い ということだ。
「クー兄、表皮が硬いということは魔法による攻撃の方がいいのかな。それに、近接戦闘しかしないようだから遠距離に徹したいよね。」
「寒いのいやなのです。朝は寒いのです。」
「ふむ、【魔術師水】に耐性か。私は【魔術師火】が使えないから、火矢でも用意するか。」
各自の意見を出し合った結果、オレたちは気温の下がる明け方に、水蜥蜴の塒に奇襲をかけることにした。そのさい、弱点とされる火による攻撃を加えることにした。
その後、クー兄は【索敵】、カンナは【斥候】をして塒を探し、翌朝の奇襲に備えることにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
到着2日目早朝
《カルブンクルス湖畔村周辺》
オレたちは、昨日のうちに目処をつけた水蜥蜴の塒に奇襲をかける。
「火爆弾」
オレが【魔術師火Lv2】で攻撃を仕掛ける。
クー兄は巣ごと火矢を射ち込む。
「ギュアー!」「ギョアー!」
水蜥蜴の叫び声が上がり、巣穴からこちらに向かって飛び出してくる。
すかさずクー兄の火矢が本体に飛ぶ。【弓術士】のクー兄の弓矢の腕は凄まじく、的確に水蜥蜴の目や口を射抜いていく。
その弓撃をすり抜けた水蜥蜴はカンナの火炎槍が刺し殺していく。
オレも魔素の続く限り魔法を撃ち込み続けた。
水蜥蜴の襲撃が一時止まる。オレたちは、慎重に、一歩ずつ巣穴に近付いて行く。巣穴まで20mに迫ったクー兄は、オレとカンナに石を投げ込むように指示し、弓を構える。
どすんっ。がつんっ。
オレたちの放った石が巣穴に落ちた瞬間、水蜥蜴が飛び出す。
オレはグラディウスを抜き、水蜥蜴へ斬り込む。しかし、地面すれすれに移動する水蜥蜴に翻弄され、上手く斬ることができない。しかし、カンナは器用に槍を突き刺していく。
「突くのです。死ぬのです。突くのです。死ぬのです。」
オレは、少し距離を取り「火爆弾」を詠唱するが魔素が足りずに攻撃が出来ない。
「クー兄、ピンチだ!攻撃が出来ない。」
焦ったオレはクー兄に報告をする。
「ノア!低い敵を攻撃するときは斬り下ろすより薙いだ方がいい。」
クー兄が、次々に水蜥蜴を射殺しながらオレにアドバイスを送る。
「わかった。」
オレは、再度アタックをかける。
オレは大きな岩を背に、後ろから攻撃されないように気をつけながら、足元の敵を薙いでいく。
2時間あまりの戦闘の後、巣穴の討伐を成功させた。
倒した水蜥蜴の魔結石や表皮を剥いでいく。肉も美味いとのことで回収をする。全ての魔結石で90匹近くになった。
「ノア、おかしい。数が少ない。村長さんは200匹以上って言ってたよね。半分にも満たない。」
クー兄が声を上げる。
「【索敵】でなんか感じる?」
オレはクー兄に確認する。
「私の感知できる範囲からは気配はないみたいなんだ。カンナ、どうだい。」
クー兄が首を傾げながらカンナに尋ねる。
「はいなのです。向こう岸で同じくらいの蜥蜴さんがいるのです。」
カンナが報告をする。
オレとクー兄はカンナと一緒に相談をする。
「わかった。午前のうちに、こっち側を完全に焼き払ってしまおう。午後は、向こう岸を奇襲しよう。ノアもそれでいいな。今のうちに魔素を回復してくれよ。」
オレたちは、巣穴を焼き払いながら食事をする。
村の女性たちが作ってくれた弁当をほうばる。
「弁当、美味いな。この水蜥蜴の焼肉絶品だな。」
オレは食べながら感心する。
弁当のメニューは、麦と粟のご飯、サラダ、水蜥蜴の焼肉だ。
(ヴィッテルで食べた、土蜥蜴の串焼きも美味かったけど、水蜥蜴も美味いな。この肉は回収していくべきだな。上手に飼育できれば、特産品にもなるんじゃないか。)
「クー兄、水蜥蜴美味いね。これ、飼育できれば特産品になるよね。」
オレはクー兄に話しかける。
「そうだな。生産調整が出来ればいいんだけど、野生生物は難しいよね。」
(ここまで寂れてしまった村だからな、討伐し成功しても漁業だけじゃなあ。こんな美味いんだから飼育して欲しいなあ。)
オレがそんなことを考えていると、カンナから陽気な声が聞こえる。
「美味いのです。美味いのです。もっとなのです~。」
カンナもご機嫌に食事を進める。
「カンナも、しっかり休んでね。前衛は体力を使うからね。」
クー兄がカンナに声を送る。
「はいなのです。食べるのです。…もう無いのです。」
カンナが絶望してオレの弁当箱を覗くがそこにも肉は無い。
「はい、はい。私のをあげるからそんな声を出さない。」
クー兄がカンナに水蜥蜴の焼肉を渡す。
こうしてオレたちは休憩を過ごし対岸へ移動した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
到着2日目午後
《カルブンクルス湖畔村対岸》
午後も日が傾きかけた頃、オレたちは対岸へ移動し水蜥蜴の塒を【索敵】し奇襲をかけた。午前の奇襲で要領を得たオレたちは、順調に水蜥蜴を殲滅していく。
「クー兄、カンナ、周囲の気配は消えた?」
オレは確認をする。
「水の中の気配までは確認できないけど、消えたと思う。」
クー兄が応える。
「ないのです。いないのです。」
カンナもそう認めた。
こちら側の塒には130匹近い水蜥蜴がいたが、魔結石と素材になって回収された。
そんな一安心をして休憩をしているときだった。
「グオァー!ビュラァー!」
物凄い声を上げて大蛇が湖中から飛び出し、攻撃してきた。
「水蛟だ!」
クー兄が叫ぶ。
オレはカンナを抱きかかえ茂みに飛び込む。その瞬間、左手に灼熱のような激痛が走る。油断していたオレは、左手を牙に裂かれたのだ。連続した尻尾の攻撃を、体勢を立て直したカンナが円盾で防ぐ。
「うがぁ!」
オレは思わず声を上げる。
(まずい。焼けるように熱い。回復だ。すぐにかけなきゃ。痛みで集中できない。手が燃えるようだ。)
クー兄がすぐさま矢を射る。風精霊十字弓の性能を最大限に発揮する。そのうちの一つが水蛟の左目を射抜く。
左目に傷を負った水蛟が距離をとる。
「熱い、痛い。クー兄、手が燃えるようだ。回復を頼む。」
オレは痛みで顔を歪めながらクー兄に頼む。
「わかった。カンナ、周囲の警戒を続けろ。」
クー兄がカンナに指示を飛ばす。
「わかったのです。守るのです。ノア様を守るのです。ノア様、がんばるのです。」
カンナが応える。
クー兄がオレに駆け寄り回復を唱える。傷は塞がるが、痛みが引かない。
「蛇毒か!毒消しを飲ませるからちょっと待って。カンナ、替わって。私が警戒するから毒消しの準備をお願い。」
クー兄がカンナと入れ替わる。
カンナがBOPから毒消しを取り出し、お湯で煮出す。
「ノア様、毒消しなのです。飲むのです。」
カンナがオレに飲ませる。
「ぐはっ。苦っ。」
あまりの苦さに思わず咽る。
「ノア様、飲むのです。飲まなきゃだめなのです。」
カンナが必死に飲ませる。
オレも何とか飲みきる。
(あ~、ぼんやりしてきた。痛みが引いていく。)
オレは気を失った。
荷物ですが、ノアは回収素材担当、クースは食事・飲み物担当、カンナは回復薬、毒消し等担当となっています。