第27話 闇夜に迫る陰
第27話になりました。
ノルテランド暦1992年2月下旬
《迷宮都市ヴィッテル内冒険者ギルド》
2月下旬を向かえ、オレたちはいよいよ王都ノルテへ戻る日を迎えた。
昨日はお世話になった方々へのあいさつ回りをした。
ギルド職員のカールさん、鍛冶屋のウィレム爺さん、3ヶ月近くお世話になった宿屋や定食屋、迷宮探索でお世話になった道具屋など、挨拶に行くと皆とても残念がってくれた。
一通り挨拶回りを終え、冒険者ギルドで一休みをしていると、多くの【冒険者】が声をかけてくれた。
カールさん曰く、「あなたたちはヴィッテル期待の新人なんですよ。多くの人が声をかけてくれるのは、あの騒ぎ以来多くの【冒険者】がそう認めた証拠です。」
思い返すと本当にここヴィッテルでは多くのことがあった。
迷宮探索、魔物部屋、鍛冶屋への依頼、イルのヘルプ、そして何より決闘騒ぎだ。迷宮主の討伐ができなかったのは残念だが、ヴィッテルに来る前と比較して大きなLvアップをすることができた。迷宮主の討伐は6月過ぎて暑くなったらまた来よう。オレはそう心に誓った。
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現在のステータス
☆ノアシュラン☆
人族 男 11歳
【冒険者F】Lv11 HP:120 MP:100
武器…エスポワール(片手剣)・グラディウス(ミスリル3%合金)
防具…火強革鎧・腕小楯
その他…聖女息吹
一般スキル【剣士】【弓士】【隠密中】【魔術師火Lv2】【魔術師雷Lv1】【魔術師聖Lv2】【生活魔法Lv2】
特殊スキル【英霊の祝福】
☆クーサリオン=イェーガー☆
エルフ族 男 16歳
【冒険者F】Lv12 HP:96 MP:132
一般スキル【弓術士】【剣士】【魔術師水Lv2】【魔術師風Lv2】【生活魔法Lv2】【索敵小】
武器…風精霊十字弓・半月刀(ミスリル3%合金)
防具…強革鎧・聖短剣
☆カンナ☆
獣人族犬人種 女 13歳
【戦奴】Lv5
武器…火炎槍
防具…革胸当・円盾
種族スキル【猛獣咆哮】
一般スキル【槍士】【盾士】【隠密中】【斥候中】
※Lv11未満のためHPおよびMPは確認できない。
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翌日
《ノルテヴィッテル街道》
オレたち(オレとクー兄とカンナ)は、王都ノルテへ向かう商隊の護衛依頼を受けている。もちろん、ほかの多くの【冒険者】と一緒にだ。その中にイルとカクスもいる。
順調にLvをあげたイルは、オレたちと一緒であればゴブリンナイトなどとも渡り合えるようになった。そのため、思ったよりも早く最低報酬額に到達して一緒に王都へ帰ることになったのだ。
今回の商隊は荷馬車8台のかなりの大所帯だ。必然的に護衛部隊も大掛かりになる。護衛の中には、エリカの血の嵐もいた。
荷馬車の陰からエリカが姿を現す。
「お久しぶりね、少年たち。」
「エリカ。今回もよろしく。」
オレも手を上げて応える。
「こら。エリカさんでしょ。エリカお姉さまでもいいわよ。」
エリカがオレを窘める。
「じゃあ、エリカで。それで、今回はどんなメンバーになってるの。」
とオレはスルーして尋ねる。
「何も変わってないじゃない。しょうがないわね。」
エリカは苦笑いで応じ、メンバーの説明を始める。
「今回は総勢10名ね。あなたたち2人でしょ。あと、あっちにも新人が2人いるわ。あと、【斥候】ができる獣人の子がいたわね。あと5名は私のところのメンバーよ。【斥候】兼前衛が1人。純粋な前衛が2人。残りは私ともう一人が後衛ね。でも【斥候】がいるのはラッキーだわ。パーティに勧誘したいぐらいよ。」
エリカが話す。
「エリカ、その【斥候】のできる獣人の女の子はオレたちのパーティだから仲良くしてやってね。それと、新人はオレとクー兄が一緒に新人研修を受講した仲間なんだよね。オレと一緒で護衛の経験は浅いと思うから注意してあげて欲しいな。」
オレはエリカにあらかじめ伝えておく。
「えっ。そうなの。獣人なんて貴重な戦力どうやって知り合ったの。」
驚いた様子でエリカがオレを見る。
「それは秘密ということでおねがいします。」
オレはそう言って頭を掻く。
「あっ。そういえば聞いたことがあったわ。貴族に喧嘩ふっかけてベコベコにして、奴隷を奪ったのがいたって。あれって、あなたたちのことか。」
エリカは独り合点が言ったと頷く。
「いや、そんな聞こえの悪いことをしてないよ。ねえ、クー兄。」
オレはクー兄に同意を求める。
「そうかぁ。途中から結構あくどい挑発を繰り返してたように思うけど。でも、喧嘩じゃなくて決闘だから当然の要求だったよね。」
クー兄が面白そうに話す。
「ひでえ。クー兄だって、オレがあいつ蹴っ飛ばした時、「私なら切り捨ててますよ。」って言ってたじゃん。」
クー兄を肘でつつきながら抗議の声を上げる。
「ぷっ。相変わらずね。まあ、元気そうでよかったわ。でも、気をつけなさい。貴族の中には理不尽なことを平気でするやつが多いからね。」
エリカの忠告にオレたちは頷く。
「わかりました。しかし、結構バランスよく集まりましたね。」
クー兄もそう感想を伝える。
「そうなのよね。特に、【斥候】がもう2人いるのが大きいわね。前方だけでなく後方もカバーできるわ。私たちみたいに護衛中心のパーティは【斥候】持ちは何人か欲しいわね。」
(やっぱり【斥候】持ちは貴重なんだ。)
「エリカ。あの子はオレたちのパーティだから。手出しちゃだめだよ。」
オレはエリカに釘をさす。
そこに、カンナがやって来た。
「ノア様、そろそろ出発なのです。」
尻尾がぴょこぴょこゆれている。気分は上々なようだ。
「機嫌よさそうだな。カンナ。」
オレが言う。
「はいなのです。これから広いところへ行くのです。広いところは気持ちいのです。狭いところは色んな匂いが詰まって、息苦しいのです。今までに1回しか行ったことがないけど、草原は最高なのです。」
(鼻がいいから匂いが集中している場所だと大変なんだ。ちょうどよかったな。そうだ、役割のことを伝えないと。)
「そうか、よかったな。ところで、これから、王都へ行く荷馬車を護衛するんだけど、カンナの役目は【斥候】な。迷宮のときみたいに少しでいいから先行して、強盗や魔物の気配を察知してくれ。頼んだよ。」
オレがカンナに伝える。
「了解なのです。がんばるのです。前もノア様は言っていたのです。【斥候】が、がんばればみんな安全なのです。任せてほしいのです。」
「うん。任せるよ。でも、これも忘れないで。絶対に無理しないこと。怪我せずに帰ってくること。いいね。」
「はいなのです。」
こうして、オレたちは3ヶ月あまりを過ごしたヴィッテルから王都ノルテへ向かって出発した。
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《ノルテヴィッテル街道》
オレたちは雪の残る街道をゆっくりとしたペースで進んだ。途中、泥濘に嵌まり荷馬車を他の馬車の馬で引き上げたり、明け方凍った街道で立ち往生したりしたが、特に問題もなく王都まであと2日の距離にたどり着いた。
オレたちは夜営の準備を始める。
薪を組みオレはそこに火をつける。【生活魔法】を身に付けておいてよかった、この時ばかりは本当に思う。
そして、前回の護衛であまりにも貧相な食事だったため、今回の護衛にはかなり食料を調達し、BOPで運んで来た。時間の干渉を受けないので、肉も野菜も新鮮なままなのだ。さらに、たっぷりの調味料と香辛料を仕入れてきた。初日に雪兎カレーにしたところ、イルとカクスがやって来た。2日目にはエリカたちもやって来てしまった。その後、なぜか食事当番に任命され、途中の村々で食材を仕入れながら今日まで旅を進めてきた。
「ノア、今日の晩飯『グギュアッー!!ゴギュアッー!!』
あたりに獣の叫び声が木魂する。
空気が震えるのがわかる。上空を黒い影が通り過ぎる。
「なんだ、敵襲か。カンナ!わかるか!!」
オレはカンナに確認をする。
すると、カンナは恐怖のあまり震え、パニックに陥っていた。
「な、な、なんなのです。わ、わからないのです。怖いのです。逃げるのです。」
恐怖のあまり声を震わせる。
(なんだ。カンナどうした。相当強い魔獣の気配でも感じ取ったのか。拙いな。何とかカンナを落ち着かせないと。【斥候】ができない。)
荷馬車の周りをみんなで固めて息を殺し、身を潜める。
「クー兄、【索敵】お願い。おれはカンナを落ち着ける。」
「わかった。カンナは任せたぞ。」
オレはカンナの近くに駆け寄り、声をかける。
「カンナ落ち着け。オレを見ろ。」
カンナは目に涙をためオレを見る。
「ノア様なのです。あれは凄いのです。やばいのです。強いのです。みんな死んでしまうのです。早く逃げるのです。」
カンナは必死になって説明する。恐怖に尻尾が縮まっている。
「大丈夫だ。今、クー兄が【索敵】している。どうやら、通過して行ったみたいだ。大丈夫だ。カンナはオレたちと一緒だ。みんな一緒なら太刀打ちできるはずだ。」
オレはそう言ってカンナを落ち着かせる。
そこへ警戒を解いたエリカとクー兄がやって来る。
「ノア。私の【索敵】からは完全に外れたから、通過だけみたいだね。」
クー兄が報告をくれる。
「上空を通過して行ったようよ。暗くてはっきりとわからなったけど、あの鬼哭啾啾たる様は、余程の魔獣だったはずよ。我々では手に負えないような。例えば、竜種や黒魔虎、銀魔狼とかね。あの様子なら、十中八九、竜種ね。【冒険者A】がパーティ組んでも勝てないわよ。襲われなくてよかったわ。」
エリカは、そう言って自分の持ち場へ帰っていった。
(あれが、竜種か。ものすごいプレッシャー、恐怖を感じたな。獣人のカンナはその感覚がオレたちよりも鋭敏なんだろうな。)
「カンナ、もう大丈夫だ。過ぎて行ったよ。安心して休んでいいよ。」
オレは、カンナを落ち着かせ食事の準備に戻ることにした。