第24話 目標それは叶えるべき夢
第24話です。
ノルテランド暦1992年2月上旬
懐かしい同期と再会を果たしたオレたちは、カクスの頼みもあり一緒に迷宮を潜るようになった。
とは言っても、一緒に迷宮へ行くのは週に1回だ。迷宮の通路を一緒に巡るだけなのでオレやクー兄としてはかなり物足りない。それに、オレも王立魔法学校へ通うために稼がないといけない。だから、一緒に迷宮へ行くのは週1回にしてもらった。他の日はクー兄と地下3階、4階を探索する。年内には地下5階へ行き迷宮主の討伐するのが目標だ。
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ノルテランド暦1992年2月中旬
《迷宮都市ヴィッテル内 小鬼族迷宮1F》
今日はイルたちと迷宮へ行く日だ。
「イル、そこの角からゴブリンの群れが来てるぞ。ノアが前衛で突っ込むから後ろから着いて行け。」
【索敵】持ちのクー兄の声が飛ぶ。
クー兄の気配の察知とオレの前衛で、イルとカクスの負担を減らしながらゴブリンやゴブリンアーチャーの討伐を続ける。
「そういえば、ノアもクースさんも装備がだいぶ替わったよね。僕たちの稼ぎじゃギルドでの研修時の初期装備から、革鎧を強革鎧に変えるだけで精一杯なんだけど、やっぱり良い装備が欲しいよね。それに、ノアの剣って斬るときに少し光っているように感じるけど気のせいかな。」
とカクスが尋ねる。
「オレのこのグラディウスは、ある【冒険者】の遺品を作り直したものなんだ。魔物部屋で命を落とした【冒険者】の両手剣をハイクラスホブが使っていてね。その剣がミスリル3%合金だったんだよ。それで、討伐したとき手に入れたんだ。そいつを鍛冶屋でオレのグラディウスとクー兄の半月刀に打ち直してもらったんだよ。」
とオレが応える。
「それに防具から充実していくのは正解だよ。これらの装備は買ったんじゃなくて、魔物部屋で手に入れた素材を加工して作ったものだから、カクスたちもこれから先手に入れる機会はあると思うよ。それにはまずLvを上げることだよね。」
クー兄もカクスにアドバイスをした。
「魔物部屋って、迷宮の名物なんだよね。ここにもあるんだ。」
そう言って、カクスはオレに同意を求める。
「もちろんあるさ。ただ、魔物部屋にいる魔物は出現パターンがなくて、初めて部屋に入ったときはゴブリンロードが出た大変だったよ。ゴブリンやアーチャー、メイジだけの部屋があれば、一緒に挑戦したいんだけど、なんせ1百体以上いることもあるからね。気を抜けないよ。」
そう返事をした。
「そうだな。私もそろそろだとは思ってる。2人もここに来て2週間くらいが経ったし、イルもLv5を超えたしね。ただ、部屋を見るとあまりの数に圧倒されるからね。覚悟を決めて臨んだほうがいいね。」
とクー兄も同意する。
そんな話をしているうちに、頭上の岩棚から3体のゴブリンが降ってくる。
「ギィー。」「グギョゥー。」
飛び掛る前に声を出してくれるからすぐに気付く。1体がカクスの矢の餌食になる。地面まで降りてきた奴はイルとオレが斬り捨てる。
しばらく迷宮内を探索していると、
「ノア、前方右手に魔物部屋がある。【隠密中】で状況の確認をお願い。イルとカクスは待機。」
とクー兄からの指示が飛ぶ。
オレは【隠密中】のスキルを使って、部屋の内部の様子を探る。
(ゴブリン中心か。数もそれほど多くないな。ゴブリンリーダーだけ要注意だな。)
そして、報告に戻る。
「部屋の内部だけど、ゴブリンがおよそ50。メイジ、アーチャーが各5。ゴブリンリーダーも5体いるからそれだけ要注意だ。どうする。」
オレはみんなに問う。
「行こう。ノア、前衛でリーダーまで一気に突っ込め。イル、お前はゴブリンだ。私とカクスは後衛からメイジとアーチャーを狙う。ノア、突入時の魔法は、火弾丸で少なくともアーチャー2体は殺ってくれ。」
クー兄が各自に指示を出した。
『行け!!』
オレは火弾丸を放ちながら集団に突っ込む。駆けつけるゴブリンの頭をグラディウスでふっ飛ばしながら、ゴブリンリーダー目掛けて突っ込む。ゴブリンリーダーを見つけるや否や振り向きざまにグラディウスを一閃。さらに、あまりのスピードに逃亡を企てる2体のゴブリンリーダーの背後から斬り裂く。勢いよく振り切った所にゴブリンリーダーが体当たりをしてくる。壁際に追いやられるも、態勢を立て直し、突進を図ったゴブリンリーダーに火弾丸を見舞う。あと1体。しかし、その前にゴブリン8体が壁になっている。
『邪魔だ!死ね!!』
そう言って、オレはゴブリンの壁に突っ込む。
そんなオレを、後衛から見ているカクスはクー兄に話しかける。
「ノアって、なんか凄いね。しかも、魔法まで使えるんだ。」
「そうだね。それは、ノアがそれだけ大変な思いをしている証拠でもあるんだよ。あいつは目標が、やるべきことがしっかりわかっているんだ。だから、どんなに大変でも決して逃げないし諦めない。前、ここの食堂でイルが奴隷になるかも知れないって話をしたよね。だから、稼ぐために迷宮都市へ来たって。だけどね、それだけじゃ弱いんだ。たった、10歳やそこらのノアや君たちが生き残っていくには、もっともっと強烈な目標が必要なんだ。別にね、君たちを否定するわけじゃないんだ。でも、君たちはもともと奴隷になる可能性もあったよね。奴隷の子は奴隷になってもしょうがない。そんな、諦めの気持ちが心の奥のほうに最初っからあったよね。ノアは違うんだ。ノアの目標はね、私や君たちが考えているよりも、はるかに大変なことなんだ。目標っていうのは叶えるべき夢なんだ。出来たらいいなっていう儚いものじゃないんだ。もっとも、私の口からはこれ以上言えないけどね。」
そう言いながら、クースは最後のゴブリンメイジを片付ける。
「さて、イルがそろそろやばそうだから。カクスは援護に行ってあげて。2人で1体を相手にすればいいから。頼むよ。」
クースがカクスに指示を出した。
「了解。」
そう言って、カクスは前線に飛び出した。
その後、20分ほどの戦闘が続き魔物部屋の討伐が終了した。
「今日は、それほど大物もいなかったし数も多くなくてよかったね。」
オレは、そう言いながらグラディウスの血を拭う。
すると、部屋の真ん中から宝箱が出現する。
「これが噂の魔物部屋の宝箱か。ノア、開けてよ。」
とカクスが言う。
「オレで良いの。」
「もちろんだよ。討伐の魔結石報酬だって、本当はノアたちの方が数も価値もいいものなのに、等分して貰ってるんだもん。これまで貰えないよ。」
とカクスが応える。
横を見ると、イルも頷いている。
「わかった。宝箱オープン。」
すると、そこには羽のような鋭い刃のようなものが入っていた。
「剣蜻蛉の羽だね。エルブンソードの材料になるものだ。剣の芯に触媒にもなる高純度のミスリル合金を用いて薄刃の剣を作り、その刃を剣蜻蛉の羽で覆うんだ。“その剣は軽く、その斬れ味は抗うものなし”って言うぐらいよく斬れるんだ。私たちエルフが好んで使う片手剣の一つだよ。」
そう、クー兄が教えてくれた。
「へえ~。相変わらずクー兄は詳しいね。これは、将来のためにとっておくね。」
オレはそうクー兄に伝えた。
「ありがとう。迷宮の深いほうへ入れば、高純度のミスリル合金も手に入ると思うから、そのときはウィレム爺さんのところへ行こう。他の魔結石や素材の会衆も住んだかな。」
周りを見回すと素材の回収も終了したようだ。クー兄がそれを見てオレに頷く。
「じゃあ、戻ろうか。」
クースの言葉にみんなが頷いた。
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小鬼族迷宮地下1階討伐結果
ゴブリンリーダー・・・5体(25万C)
ゴブリンアーチャー・・11体(8万2千5百C)
ゴブリンメイジ・・・・8体(6万C)
ゴブリン・・・・・・・72体(36万C)
回収した武器などの売却益(8万C)
合計83万2千5百Cで一人当たりおよそ20万Cの収入となった。カクスは最低報酬額のノルマを無事クリアできた。イルは残り60万C程となった。
イルの将来にも光がさしてきたこの日、カクスはクースから聞かされたことをイルに話した。叶えるべき夢である目標のことを。イルの目標、カクスの目標。今後、二人の運命は大きく変わっていくことになるんだが、それは別の話で。
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《迷宮都市ヴィッテル内 小鬼族迷宮1F魔物部屋》
その男は、従者、奴隷を従え魔物部屋へ来ていた。
「カンナ!貴様手を抜くのもいい加減にしろ!殺されたいのか。なんで壁をしない。そっちから抜かれてるじゃないか。」
男が叫ぶ。
「ヤンガー様。一人で両方を防ぐのは無理でございますなのです。」
奴隷の少女カンナが報告をする。
「うるさい!黙れ!奴隷の分際で口ごたえするな。オレの言うことを聞いていればいいんだ。」
男が言い返す。
「ヤンガー様。無理です。ゴブリンリーダーまで辿り着けません。やはり、4人では無理でございます。」
従者からも報告が届く。
「ふざけるな。あの、ガキどもは2人で魔物部屋はおろか地下3階層まで行っているんだぞ。貴族の俺に出来んわけがない。出来ないのは貴様らが無能だからだ。無能でなければ、手を抜いているからだ。言い訳ばかりしないで働け。」
そう、男は従者達に怒鳴り散らす。
(くそっ。なぜだ。なぜ俺に出来ない。あのガキどもに出来て、俺に出来ないはずがない。俺は貴族だ。俺は偉いんだ。なんで言うことを聞かない。何で言う通りにしない。俺のことを舐めやがって。ふざけるな。)
その男は理不尽な怒りに身を震わせながら怒鳴り続けた。




