第23話 再会
第23話になりました。
ノルテランド暦1992年1月下旬
《迷宮都市ヴィッテル内冒険者ギルド買い取りカウンター》
鍛冶師ウィレムに新しい装備を製造してもらったオレたちは、その後何度か小鬼族迷宮に入り順調に攻略を進めていった。
ここ最近何度となく、魔物部屋や階層のボスを討伐したが、素材や鉱石、回復薬などしか回収できず魔法具や武器防具は出てこなかった。
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最近入手した素材や鉱石
鋼鉄大亀の甲羅
火狼の牙…多数
火蜥蜴の表皮
アルミニウムのインゴット
その他回復薬、MP回復薬などを手に入れた。
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今日も、冒険者ギルドの買い取りカウンターで精算を行う。3日間の迷宮潜入で210万C程になった。まあ、悪くない稼ぎだろう。
「クーサリオンさん、今回の討伐でLv11になりました。おめでとうございます。Lv11になったので、説明事項がございます。今、お時間をいただいてもよろしいでしょうか。」
と、職員の一人がクー兄を呼び止めた。
なんでも、【冒険者】登録1年以上経過し、且つLv11以上になると【冒険者F】が【冒険者E】になるらしい。クー兄は、去年の3月11日に【冒険者】登録をしているので、あと1ヶ月ちょっとだ。オレもがんばってLv11を目指すぞ。
さらに、STOPも変化があった。今まで名前やLvなどしかわからなかったが、冒険者として必要な情報が載るようになった。
「STOP」
とクー兄が唱える。
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クーサリオン=イェーガー エルフ族 男 16歳
【冒険者F】Lv11 HP:80 MP:110
【弓術士】【剣士】【魔術師水Lv1】【魔術師風Lv1】【生活魔法】【索敵小】
武器…風精霊十字弓・半月刀(ミスリル3%合金)
防具…強革鎧・聖短剣
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「便利になったね。」
とクー兄に声をかける。
「クーサリオンさん、説明してもよろしいですか。HPとは体力、MPとは魔素力を表示しています。どちらかでも0になると過労で意識を失います。両方が同時に0になると死亡しますのでご注意ください。もちろん、剣撃などで大きなダメージを負った場合は、両方とも一気に0になることもあります。あくまでも、現在の状態の目安としてください。このHP、MPですがLvが11~20の間は1上がるごとに20%増加します。Lv21~30は15%、31~40は10%、それ以上は5%ずつの増加です。よろしいでしょうか。」
「わかりました。ところで、怪我などでHPが減ったりすることはわかったんですが、他にどんな場合が考えられますか。」
とクー兄は職員に尋ねる。
「そうですね。疲労が蓄積するとHPが減少しますし、状態異状で毒などに罹患した場合は一定の時間ごとにHPが減少していきます。肉体でなく精神的な異状状態に陥ったときはMPが減少します。そんなところでしょうか。」
と教えてくれた。
「ありがとうございました。注意するようにします。」
オレとクー兄は、お礼を言いながら買い取りカウンターを離れ、食堂へ向かった。
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(4日振りのまともな食事だ。何喰おうかな。やっぱり野生猪の網焼き定食かな。)
そんなことを考えて食券売り場に並ぶと
「ノア!クースさん!」
と呼ぶ声が聞こえる。
そこにはイルとカクスがいた。
「イル!カクスも!久しぶりだな。手はもういいのか。」
刃蟷螂に切り落とされかけた手も無事なようだ。
「ノア、お前のお蔭で、こうしてまだ【冒険者】をしてられる、本当に感謝の言葉が見つからないよ。」
イルはそう言って何度も頭を下げる。
「それは、そうと今日はどうした。」
そう、イルに話しかけた。
どうやら、イルはあの怪我の影響で、5月~9月の間満足に依頼をこなせず、【冒険者F】の最低報酬額に到達しない可能性があるらしい。
オレたち【冒険者】は人頭税がない代わりに、報酬から税金が天引きされる。そのため、各ランクごとに一定の金額を稼がなければならない。4月時点の【冒険者】ランクを基準にそこから1年間が課税期間となる。もし、最低報酬額に到達しないと人頭税未納と同じで、奴隷落ちとなる。オレたちは去年の4月1日にFランクだったので3百万Cが最低報酬額だ。
イルは、現在2百万Cを超えたところで、カクスはもう少しで到達するらしい。イルは、今のままでは厳しいらしく、効率よく報酬額を増やすためにここ迷宮都市へ来たようだ。
「イル、カクス、Lvはいくつだ。」
そうオレが確認すると、イルはLv3でカクスはLv5とのこと。
「Lv3と5か。正直、厳しいな。小鬼族迷宮でも、そのLvでは魔物部屋に入れないし、1階層から2階層へ降りるのも難しいと思う。もちろん、1件ごとに依頼を受けるより効率よく稼げるけど、相当がんばらないといけないな。」
「そうか。迷宮ってどれくらいの稼ぎになるの。」
とイル。
「そうだな。今のオレたちは、1回の迷宮潜入で、3日間かける。その間に魔物部屋を2部屋に階段前の主を2~3件討伐して、3百万Cぐらいかな。ただ、オレもクー兄もLv10を超えてるからね。」
そう応える。
「「3百万C!マジで!」」
「ああ。ちなみに、最初は1勤1休だったよ。現状のイルたちで考えると、残り70日で稼動できるのは35日。2人で折半すると、2百万Cを稼ぐ必要があるね。単純にゴブリンだけで稼ぎ出そうとすると、4百体のゴブリンを討伐する必要が出てくる。魔物部屋とかに入れば、楽なんだけど今のLvで入れば死ぬだけだからね。通路での討伐だと岩陰に隠れていたり、曲がり角から不意打ちされたりもするので、1日10体以上を討伐するには、【索敵】とか【斥候】があるといいんだけど…。」
オレはそう試算して見せた。
「そうか。どっちもないね。せっかく、【冒険者】になったのに、あの怪我さえなければ。でも、最初に話しを聞けただけでもよかったよ。」
イルが応える。
「ところで、ノアやクースさんはいつまでここにいるの。」
カクスが尋ねる。
「2月末に王都に返ろうと思ってるんだ。ノアが、故郷に出した手紙もその頃には返信が届くだろうし、雪も溶け始めるから、あっちでの討伐依頼も増えるだろうしね。」
クー兄が答える。
「ノア、クースさん、頼みがある。」
カクスが真剣な顔してオレたちを見る。
「1ヶ月。いや、2週間でもいい。一緒に迷宮に入ってもらえないだろうか。その間に出来るだけ、成長するように努力をする。その間、僕の報酬はすべて放棄してもいい。僕は、イルを奴隷にしたくないんだ。ノアにとってクースさんが、大事なパーティのように、僕にとってイルは大事なパーティなんだ。虫のいい話をしているのはわかっている。恥を忍んでお願いしたい。どうだろうか。」
そう言って、カクスは頭を下げる。
「クー兄、イルもカクスもオレの大切な仲間だ。農奴の子として生まれ、戦奴か鉱奴で長く生きられない覚悟をして生きてきた。そして、手に入れた自由、仲間。助けてあげられるのであれば、助けてあげたい。クー兄、オレからもお願いする。どうかイルとカクスを助けてあげて欲しい。」
「ノア、カクス。イルはね、私にとっても大事な同期で仲間なんだよ。奴隷落ちの瀬戸際にいるのに無視をするほど、冷酷な人間ではないよ。これから、2月末までだけど、一緒にがんばろう。」
そう言って、クー兄はカクスに右手を差し出した。
「では、早速だけど打ち合わせだ。でも、その前に食事にしよう。私たちは、さっき迷宮から戻ったばかりで腹ペコなんだよ。イルとカクスも今日は、私がご馳走するから好きなのを注文しておいで。」
クー兄は、そう言って微笑んだ。
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《迷宮都市ヴィッテル内某所》
今日もその男は少女を折檻していた。
「なんで、なんで、あいつらは魔物部屋をクリアできる。地下4階層まで進める。なんで、俺たちは出来ない。お前が手を抜いてるんじゃないのか。クソ犬が。わかってるのか。すべて貴様のせいだ。モノの分際で偉そうに疲れやがって。貴様の力が足りないせいで、俺たちが先に進めないんだ。」
そう言って、少女の顔面に拳を叩きつける。倒れこむ少女の腹部につま先がめり込む。思わず、少女は胃の中のものを戻す。
「汚えな。何してやがんだよ。このゴミが。あぁ、わかってんのか。」
その男はひとしきり騒ぐと、息を荒くしながら物置を出て行った。
少女は、今夜も涙を直しながら生まれて初めて自分に優しくしてくれた少年の顔を思い出す。いつか、彼が自分をこの境遇から助け出してくれることを夢見て眠りについた。