第21話 ゴブリン迷宮 地下3Fからの生還
多くの皆さんにお読み頂き誠にありがとうございます。
ノルテランド暦1991年12月
《迷宮都市ヴィッテル内小鬼族迷宮地下3F》
オレたちは階段を降りた小部屋(休憩部屋と言うんだと先に来ていた男が教えてくれた。)で野営の準備をしている。
【生活魔法】で生成した水を固形燃料で沸かし、干し肉と強飯、乾燥野菜を煮てスープのようにして食べる。干し肉の塩味だけだが充分美味い。
周囲を見回すと【生活魔法】を使えないパーティは、干し肉や乾パンをそのまま食している。
「クー兄、どうせパーティ組むなら【料理】持ちがいいよね。」
「そうだな。長期の迷宮潜入とかだと食事が粗末だと苛々して、人間関係がぎすぎすしそうだ。」
そんなことを言いながら、オレたちは毛布に包まって翌日に備えることにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日、オレとクー兄は地下3Fの探索をしている。
小鬼族迷宮の地下3Fは、ホブゴブリンと各種のゴブリンがいる。ここの迷宮は地下5F層までなので種族構成からこうなっているようだ。
大きな道を選んで進み、途中クー兄の【索敵】で気配を感じると遠距離攻撃をする。数が多ければ、その後オレが斬り込む。クー兄も、左手に聖短剣を装備したので斬り込みも出来るようになった。それでも、2人のパーティなので、前衛・後衛として役割を分担している。
「ノア、なんか聞こえないか。」
周囲を見回しながらオレに問いかける。
「いや、んっ、何だ。聞こえるな。こっちだ。」
オレは音のするほうに向かって駆け出す。
すると、脇の部屋から昨日揉めたヤンガーが走り出てきた。どうやら、魔物部屋のようだ。
部屋を見ると、入り口で昨日回復をしてあげた獣人の奴隷が、従者らしい男たちとホブゴブリンとゴブリンたちの群れを必死で食い止めている。
「おい、カンナ!俺たちが安全なところに避難するまでこいつ等を防げ。いいなっ!」
「はいなのです。」
怪我で血だらけの獣人の少女が力なく応える。
「よしっ、お前ら引くぞ。撤退だ。」
そう言って、獣人の子を置き去りにして出て行こうとする。
『ちょっと待て!その子はどうするんだよ!』
ヤンガーを怒鳴りつける。
「そいつは俺たちの奴隷だ。どうしようと俺の勝手だろう。いいか、絶対に敵を通すなよ。生き残ったらいつものところに来い。いいな。」
そう言って、にやりと笑った。
(なんてやろうだ。オレはこいつが絶対に許せない。)
「ちょっと、いいかな、ヤンガーさん。この部屋は諦めるんだよね。じゃあ、私たちが狩っても問題ないよね。それに、その奴隷、捨てて行くんなら私にくれないか。」
いきなり、クー兄がそんなことを言い出した。
「ふざけんな。そんな提案、受け入れるわけ無いだろう。それに、その部屋もそいつが討伐しきる予定なんだよ。」
相変わらずニヤニヤしながら男が言う。
(こいつ、この期に及んでなに言ってやがる。)
「いや、討伐は無理でしょう。では、私たちがこの部屋に入るので、その邪魔な獣人を連れて帰ってもらえないかな。」
クー兄は再提案する。
「無理じゃねえんだよ。そいつは、やばくならないと本領を発揮しないんだよ。」
そう嘯く。
「そうかい。でもね、万が一その子が死んだりすると、君たちは罪に問われるよ。わかっていないと思うから、親切心で教えてあげるけどね。冒険者ギルドは“盾”として奴隷を使うことを認めているけど、殺してしまうことは認めていないんだよ。さて、今回はどうなるかな。あっ、言っておくけど、ギルドの掟に貴族様かどうかは関係ないからね。楽しみだね。くっ、くっ、くっ。早く決めたほうがいいよ。奴隷の子も、君の従者もだいぶ体力削られてるよ。」
クー兄が言葉を続ける。
「クー兄、なんで。その子はまた、同じような目に遭う。」
オレはクー兄にそう囁き掛ける。
「わかってる。でも、この場ではひとまず引いてもらえないと、本当にその子が死んでしまう。」
そう小声でオレに返事をした。
「わかったよ。しょうがねえ。おい、カンナも撤退だ。直ぐに部屋を出ろ。こいつらがその部屋で死にたいってよ。馬鹿な奴らだぜ。」
そう捨て台詞を吐いて、ヤンガーたちは走り去った。
獣人の奴隷の子は、オレたちの横を通り過ぎ様に頭を下げていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて、ここからだよ。」
クー兄がつぶやく。
よく見ると、ホブゴブリンによりも大きいハイクラスホブが1体いる。
・ハイクラスホブ…ホブゴブリンの上位種。剣と鎧で武装している。ゴブリンロードを除くゴブリン系の魔物を指揮する。
ハイクラスホブを筆頭にホブゴブリン、ゴブリンリーダー、ゴブリンナイト、ゴブリンメイジ、ゴブリンが群れとして統率されて展開していた。
統率された集団戦に持ち込まれると不利なので、部屋の済みの奥まった場所にオレとクー兄は駆け込んだ。
「入り口はオレがやるから、ホブゴブリンとゴブリンメイジは任せるよ。」
「了解。」
そう言って、オレは目の前の敵に集中する。
(大丈夫だ。ゴブリンロードのときほどのやばさはない。集中だ。集中を切らさず、1体、1体を斬っていけばいいんだ。)
オレは、エスポワールを右手に構える。
「っせい。やっ。」
殴りかかってくる、ゴブリンを横薙ぎしつつ、次の襲撃に備える。
正面に立つ、ゴブリンを斬り倒し、咄嗟の周囲を見回すと、拙い風景が目に入った。
(やばい、ゴブリンメイジが詠唱に入ってる。止めなきゃ。)
そう思った瞬間、ゴブリンメイジの眉間に矢が立った。
「ノア。心配するな。詠唱に入っても私が始末する。眼前の敵に集中するんだ。」
オレは、再度集中する。
…。…。…。
かれこれ20体ほどのゴブリンやゴブリンナイトを斬ったとき、そいつが、ハイクラスボブが動いた。
上段から両手剣を叩きつけてくる。オレは、右手のエスポワールに腕小楯を添えて何とか受け止める。しかし、あまりの圧力にバランスが崩れる。その隙に乗じて、彼奴の右足の回し蹴りが顔面目掛けて迫る。オレは、両手でその蹴りを受け止める。そして、彼奴の左足をローキックで刈る。倒れた彼奴目掛けてエスポワールを突きこむ。が、床を転がりながらオレの剣の間合いから逃れようとする。
「逃すかっ!」
オレは、地面を蹴って追撃の「火弾丸」を詠唱する。彼奴に着弾したその刹那、オレは必殺の突きを穿つ。エスポワールが彼奴の強革鎧の上から心臓を貫いた。
「よしっ。」
オレはハイクラスボブを討ち取った。
そのときだった。
「ノアっ。気を抜くなっ!」
1体のゴブリンメイジが放った火弾丸がオレの脇腹にあたる。
「ぐふっ。」
(やばい。もろに命中した。回復させなきゃ。痛みで集中できない。回復の詠唱ができない。まずい…。)
「回復っ!ノア、平気か!」
クー兄が咄嗟に魔法をかける。
「大丈夫。痛みも引いたよ。助かった。」
「リュングさんとの1対1じゃないんだから、周囲に気をつけて。集中しすぎて突っ込んじゃうのはよくない癖だよ。」
クー兄のお小言が飛ぶ。
「了解。残りは雑魚だ一気に蹴散らそう。」
その後、オレたちは魔物部屋を討伐し、宝箱から金と銀のインゴットを入手した。そこで、クー兄の提案により地上へ帰還するとことになった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
小鬼族迷宮地下3F層の討伐結果
ハイクラスホブ・・・・1体
ホブゴブリン・・・・・14体
ゴブリンリーダー・・・6体
ゴブリンナイト・・・・6体
ゴブリンメイジ・・・・6体
ゴブリン・・・・・・・38体
手に入れた武器防具や素材
金のインゴット
銀のインゴット
ハイクラスボブの剣と鎧・・・1
ゴブリンの剣・・・・・12
ゴブリンの鎧・・・・・12
その他(武器や防具)・4
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
《迷宮都市ヴィッテル内冒険者ギルド買い取りカウンター》
冒険者ギルドに戻った、オレたちは早速換金所に向かう。
ハイクラスホブ・・・・1体(20万C)
ホブゴブリン・・・・・14体(28万C)
ゴブリンリーダー・・・7体(35万C)
ゴブリンナイト・・・・9体(36万C)
ゴブリンアタッカー・・3体(6万C)
ゴブリンメイジ・・・・7体(5万2千5百C)
ゴブリンアーチャー・・4体(3万C)
ゴブリン・・・・・・・120体(60万C)
コボルトコンダクター・・・3体(15万C)
コボルトソルジャー・・・・5体(20万C)
コボルトアサシン・・・・・5体(10万C)
スピアコボルト・・6体(4万5千C)
コボルト・・・・・・・・ 86体(43万C)
風精霊十字弓《クースの装備》
聖短剣《クースの装備》
金のインゴット《貯蓄》
銀のインゴット《貯蓄》
ファイアオーガの皮革《オレの鎧の素材》
ハイクラスボブの剣と鎧・・・1《オレの武器と鎧の素材》
その他の武器防具多数(売却20万C)
魔結石と武器防具は3百5万7千5百Cで売却できた。
風精霊十字弓と聖短剣はクー兄の装備になった。ファイアオーガの皮革はハイクラスボブの鎧と一緒にオレの新しい鎧を作る素材とし、ハイクラスボブの剣は鍛冶師に練成を依頼してオレの新た武器を作ることになった。やはり、エスポワールは目立ちすぎるようだ。
(明日は鍛冶職人と皮革職人を訪ねよう。)
「クー兄、明日は武器防具の依頼に行かないとね。」
「あぁ。ノアの鎧と剣だけでなく、私の鏃もお願いに行かないと手持ちだけだと心許無いからね。迷宮は収入も多いけど、準備に相当お金をかけたし、明日の武器防具の練成はどれだけ掛かるかわからないから、注意しないとね。今日は、ここで食事も済ませて宿に戻ろうか。」
こうして、初めての本格的な迷宮攻略は終了した。