第20話 迷宮そして成長
第20話まできました。
ノルテランド暦1991年12月
《迷宮都市ヴィッテル》
ノルテランド王国の冬は厳しい。南部であれば、雪も積もらないが、王都ノルテとその周辺はかなりの積雪となる。そのため、冬季は、迷宮探索を行う【冒険者】が多い。
オレとクー兄は、迷宮都市ヴィッテルに宿を取り、小鬼族迷宮の探索を行うことにした。
期間は来年2月までのおよそ3ヶ月。その頃には、王都周辺の雪もだいぶ融けるだろうし、故郷に出した手紙の返事もあるだろう。
(最初の計画とは変わっちゃったけど、やるべきことははっきりしている。大丈夫だ。)
オレはそう考えながら、【冒険者】として自分の持つスキルの向上を目指した。
クー兄は、【弓術士】をすでに取得している。エルフという人種は、生まれながらにして【弓士】のスキルを持っている。それからの訓練しだいだが、早い者で15歳前後。遅い者でも、普通に弓矢を使う生活を送っていれば、20歳までには【弓術士】のスキルを取得するそうだ。
(【弓術士】の相棒が【剣士】じゃ格好がつかない。オレも、早いうちに【剣術士】を取る。)
オレが、ここまでに取得しているスキルは【剣士】【弓士】【隠密中】【魔術師火Lv1】【魔術師雷Lv1】【魔術師聖Lv1】【生活魔法】【英霊の祝福】だ。また、ゴブリンロードを2体討伐に成功しているので、あと1体盟主を討伐すると、【盟主の覇者小】が取得できるらしい。これは、盟主や大型魔物、大型魔獣を討伐する時に攻撃で与えるダメージが増すスキルだ。竜種討伐を目指すオレには是が非でも必要なスキルだ。
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《迷宮都市ヴィッテル内小鬼族迷宮1F》
オレとクー兄は迷宮に入った。今回は野営の準備もしてきた。何でも、階段を下りた先の部屋は魔物が出現しないようで、野営をするパーティも多いらしい。
発光した岩肌に、周囲を警戒しながら進む。今回はエリカがいないので【索敵】がない。【索敵】と【隠密】が取れれば【斥候】がいなくても何とかなる。
(【索敵】必要だよな。こんな迷宮じゃ、どこに敵がいるのかわからないや。あの時も魔物部屋見つけてくれたのはエリカだしな。)
「クー兄、【索敵】必要だよね。王都警備隊の養成所に入れば【斥候】取れるかもしれないけど、こんな迷宮じゃ【索敵】のほうが役に立ちそうだね。」
「そうだな。でも、周囲の風の流れや匂いでなんとなくわかるのもあるよ。たぶん、もう少し進むとゴブリンがいる。何体かはわかんないけど。」
しかし、進んでもゴブリンはいない。
「おかしいな。この辺「ギィーッ。ギャーッ。」
クー兄の話し声を掻き消すように、頭上の岩棚からゴブリンが5体飛び掛ってきた。
オレは何とか避けるが、クー兄は迎え撃つ。近接連射で1体を射止め。もう一体に手傷を負わせる。
オレも態勢を立て直し、手にエスポワールを構え、斬り掛かった。一撃目でゴブリンの頭を飛ばす。あまりの斬れ味に、ゴブリンも頭がないことに気付かず、数歩走ってから倒れる。
返す刀で、もう一体を斬り捨てる。
その頃には、クー兄も残りを討伐していた。
「相手はゴブリンだけど、高い所も気を付け、うわっ。」
オレがクー兄に話しかけようとした、その瞬間、眼前を矢じりが通り過ぎた。
オレとクー兄は、急いで物陰に隠れ、矢の飛んできた方を探る。
すると、そこにはゴブリンアーチャーを連れた、ゴブリンの集団がいた。
「クー兄、魔法だ。狙いはアーチャー。」
オレは火弾丸、クー兄は水球を詠唱する。
練度の低いオレの魔法は、正確にゴブリンアーチャーを討つことが出来なかったが、クー兄の水球は命中する。
「援護頼む。」
そう言って、オレはエスポワールを片手に集団に飛び込んだ。王都警備隊第一小隊仕込みのオレの剣は、集団戦に向いている。まだ、体が小さいので、利き腕の逆の左手に腕小楯を装着し、ゴブリンの棍棒を防いでいる。
オレは、エスポワールをゴブリンの左肩から袈裟斬りに斬り捨てる。そこへ、オレの左手からゴブリンが棍棒を横薙ぎに殴りかかってくる。左手の腕小楯で受け止めると、振りぬいていたエスポワールを相手の顎下に斬り上げる。そのままの勢いで、後方で隙を窺うゴブリンの頭部に致命的な一撃を入れる。さらにその後方のゴブリンに強烈な突きをみまう。
疾風怒濤、そんな言葉がまさに当てはまるような斬撃を繰り広げる。
そんな攻防がどれくらい続いただろうか。周囲からゴブリンの気配がなくなった。
この小1時間ほどの討伐で、2つの群れ、30体ほどを討伐していた。
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さらに進んだオレたちは、多くのゴブリンを討伐した。しかし、残念なことに魔物部屋は見つけることが出来なかった。
それから、1時間ほど前進すると、正方形の部屋に出た。
「ここが1Fの主の部屋かな。」
「そうみたいだね。ノア、気を抜くなよ。」
すると、奥の小部屋からゴブリンリーダー1体、ゴブリンナイト3体、ゴブリンアタッカー3体、ゴブリンメイジ1体、ゴブリンアーチャー3体、ゴブリンたくさんが飛び出してきた。
・ゴブリンアタッカー…捨て身覚悟で突進を繰り広げるゴブリン。鎧や兜にダガーなどの武器を括り付け突進して体当たりで攻撃する。力自体はそれほどなく位置の把握さえ怠らなければゴブリンと変わらない。
「火弾丸」「水球」
オレたちは、即座に遠距離攻撃をみまう。飛び出した瞬間、ゴブリンメイジとゴブリンアーチャーが1ずつ倒れる。
「今回も、援護頼むね。」
そう言って、オレは集団に飛び掛った。
クー兄の放った矢は、オレが集団に到達する前にアーチャーを葬り去る。
ゴブリンリーダーがうまく、集団を操るため今までのような一方的な攻撃にならない。
それでもオレは腕小楯を巧みに使いながら、集団の戦力を削っていく。
まずは、ゴブリンに突きを捻じ込む。左から迫る敵に腕小楯での裏拳を叩きつける。さらに左のゴブリンにはエスポワールの横薙ぎで打ち払い、一旦下がって距離を取る。
すると、ゴブリンアタッカーが間髪入れずに飛び込んできた。その斬りかかる剣撃をスウェーでかわし、体勢を崩すアタッカーを袈裟斬りに斬って捨てる。その背後からもゴブリンアタッカーが時間差で突進して来たので、通りざま胴を斬り抜く。
その間も集団から目を離さない。クー兄の援護でゴブリンはだいぶ片付いたようだ。
オレは、そのままゴブリンナイトに迫った。ゴブリンナイトも盾で攻撃を受け止めるが、エスポワールの斬撃に、蹈鞴を踏んで後退する。その隙を見逃すオレじゃない。体勢を崩したゴブリンナイトを後ろに蹴り飛ばすと、仲間のゴブリンナイトも巻き込まれ、動きが止まる。その刹那、ゴブリンナイトの首は胴体と”さよなら”をすることになった。
残りは、ゴブリンリーダーと数体のゴブリンだ。オレとクー兄は何の問題もなくこいつらを討伐した。
討伐を終えたオレたちが魔結石と武器を回収していると、部屋の中心に祠のような建物と地下2階層への階段が出現した。
クー兄が祠をあけるとそこには、弓があった。風精霊クロスボウだ。クー兄が、珍しく興奮しながら話しかけてくる。
「これ、風精霊クロスボウだよ。風の精霊シルフィードに祝福された弓で、威力、命中精度に大幅な上昇効果が賦与された弓だ。こんな、低階層で出る武器じゃないんだよ。これ、オレが使ってもいいかな。ぜひ、使わせて欲しい。」
(こんなに、主張するクー兄って珍しいな。本当にいいものなんだな。前回は、オレが聖女息吹を貰っただけだったから、ちょっと心苦しかったんだよな。)
「もちろん。クー兄が使ってよ。この際だから、武器防具が出たときは、【剣士】系統、【弓士】系統、【魔術師】系統で使い分けよう。これから、【魔術師】や【槍士】もパーティに引き入れたいから、簡単に売り払うより、しっかり持っておいたほうがいい。」
オレたちは、そう話し合った。
階段を降りようとすると、「後ろから次のパーティがやってきたようだ。」とクー兄が言い出す。
「クー兄、なんでわかるの。」
「そういえば、STOP。…あれ、【索敵小】が取れてる。まだ、周囲30mぐらいしかわからないけど。でも、これでだいぶ探索が楽になるね。」
「そうだね。それで、後ろのパーティはどうなった。」
「討伐できたようだ。ゴブリンの気配はなくなったよ。安心して下の階へ降りれるね。」
そうして、オレとクー兄は階段を降りていった。
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小鬼族迷宮地下1F層の討伐結果
ゴブリンリーダー・・・1体
ゴブリンナイト・・・・3体
ゴブリンアタッカー・・3体
ゴブリンメイジ・・・・1体
ゴブリンアーチャー・・4体
ゴブリン・・・・・・・82体
手に入れた武器防具や素材
風精霊クロスボウ
ゴブリンの剣・・・・・4
ゴブリンの鎧・・・・・4
ゴブリンの弓・・・・・1
その他(武器や防具)・2
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