第18話 ノア、勝ち鬨を挙げる
第18話になりました。
9/15:一部改訂を行いました。
ノルテランド暦1991年11月上旬
《迷宮都市ヴィッテル宿屋前》
小鬼族迷宮にもぐった翌日、オレたちは王都へ帰るトールマン商会の荷馬車護衛のために宿屋の前に集合した。
今日も、荷馬車は5台だ。トールマンさんや他の商会の人々はすでに準備を終え、出発を待つばかりだった。
「よう、ノアとクース。昨日はエリカと迷宮に行ったらしいじゃないか。どうだった。ちっとは、稼げたか。」
「おはようございます。ウルリッヒさん。まあ、ぼちぼちといったところですかね。」
クー兄が応じる。
「あら、ぼちぼちなんてモンじゃないわよ。」
そう言ってエリカも準備を終えて出てきた。
「その子たち、昨日は魔物部屋で大激闘よ。ほとんど二人で、ゴブリンリーダー、ゴブリンナイト、ゴブリンロードを圧倒したのよ。ギルド内の換金所は大騒ぎよ。あたしだってこんな新人初めて見たわよ。」
「「ゴブリンロード!」」
あまりの驚きに周囲がざわめく。
「お前らの、ゴブリンロードの噂は真実だったんだな。いやぁ、まいった、まいった。」
首を左右に振りながら、ウルリッヒがぼやく。
「それだけじゃないのよ。その子たち、誰に剣を習ってると思う。」
エリカが問いかける。
「えっ、カーン教官とかギルドの教官じゃないのか。」
とエリカのパーティの【剣士】が応える。
「違うのよ。リュングベリよ。」
「リュングベリって、あのリュングベリ?王都警備隊第一大隊長の。王都の良心。騎士の鑑。……オレあの人にあこがれて騎士団に入ったんだよ。」
ウルリッヒがぼそりともらす。
(うわぁ~。ウルリッヒ目が憧れの目になってるよ。でも、やっぱりリュングさんは凄いな。)
そんなことを考えていると、トールマンさんがやって来た。
『おはようございます。皆さん。今日から王都ノルテまでよろしくお願いしますよ。』
今日もオレはクー兄と3番目の荷馬車に乗り込もうとする。
「ノア、クース。真ん中の馬車じゃつまんないだろ。今日は、1台目でいいぜ。1台目は景色がいいぞ。その代わり、なんか出たときは前衛でよろしくな。」
とウルリッヒが話しかけてきた。
オレたちは1台目の荷馬車に乗り込むことになった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
《ノルテヴィッテル街道》
今回の商隊の護衛は…………暇だった。
途中で、商隊の後方からゴブリンの群れが襲ってきたが、ウルリッヒが騎馬で蹴散らし、残ったゴブリンもエリカのパーティの【剣士】たちに撃退され、オレたちが駆け付けた時はすでに全てが終わっていた。
(世は全て、こともなしか…。)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
オレたちは、順調にノルテヴィッテル街道を進み王都まであと2日の距離にいた。
今日も、先頭の荷馬車にオレとクー兄が乗る。荷馬車の屋根から前方を確認していた、クー兄が叫んだ。
「前方より、騎馬の集団。数は20。全員武装しているようだ。」
すると、後方警備のエリカからも注意喚起が入る。
「後方からも、騎馬の集団接近中。数は10。同じく武装。」
『ウルリッヒさんどうしましょうか。万が一盗賊だったら、積荷が…。』
トールマンさんが心配して、ウルリッヒに相談する。
「総員、警護隊形だ。向こうが手を出すまで、動くな。盗賊だと判断したら、躊躇するな。ノアにクースも生き抜きたいんなら手加減するなよ。全員、いいなっ!!」
ウルリッヒさんの檄が飛ぶ。
「「「おうっ!」」」
オレたちは、商会の人と荷馬車を街道の端へ寄せ、半月円を作り警護体制を敷いた。
そこへ騎馬の男が近寄ってくる。
「死にたくなければ、積『火爆弾!』
エリカの魔法が炸裂する。
「生憎、盗賊の口上を聞いている暇はないんだよ。血の嵐、蹴散らすぞ!!」エリカが吼える。
「「「いよっしゃぁ!!」」」
メンバーが応じる。
「輝かしい剣!負けんじゃねえぞ!掛かれ!」
ウルリッヒに率いられたパーティも盗賊めがけて突撃をかける。
「頭!こいつら、やる気だ!」
盗賊団の一人が叫ぶ。
「いい度胸じゃねえか。お前ら!こいつらを血祭りに上げろ!俺たちに逆らったことを後悔させてやれ!皆殺しだっ!!」
盗賊団の頭が号令を下す。
「殺せっ!殺せっ!ぶっ殺せっ!」
襲い掛かる盗賊団に、血の嵐と輝かしい剣が撃退にかかる。
血の嵐は、エリカを扇の要に3人1組で死角を消しながら盗賊と戦闘を繰り広げる。そのうちの、一角が押されそうになると、エリカの援護の魔法が飛ぶ。
一方、輝かしい剣は、元騎士団員だけあって個々の技量は高い。1人でも盗賊を蹴散らしていく。そして【弓士】は、馬車の上から、敵を射抜いていく。
オレとクースも、前線に出て魔法を放つ。クー兄は弓を用いて遠距離に徹する。
しかし、さすがに相手の数が多い。周りを見回すと、けが人が増え始めた。血の嵐の【剣士】が二人戦線離脱した。エリカも、魔素が無いようで細身の剣を振るっている。輝かしい剣も一人離脱したようだ。
そんな中、クー兄がオレに話しかけてきた。
「ノア。さすがに相手の数が多過ぎる。ウルリッヒのとこも、エリカのとこも士気は高いが、怪我人が離脱し始めた。このままでは、数で一気に押し込まれる。ノア、あの男が見えるか。あの、革鎧の男だ。あいつが、盗賊団のリーダーだ。【隠密】を使って、街道の茂みを迂回してあいつの背後を取れ。チャンスは一撃だ。頼むぞ。」
「了解!!クー兄、オレを信じろ。オレはオレを信じる。行ってくる。」
オレは、街道沿いの植え込みの背後を匍匐前進する。剣戟や叫び声が聞こえると、不安に心が蠢く。そんな心を押さえ込みながら、オレは1m、また1mと前進を続ける。
茂みから見回すとクー兄も弓からレイピアに持ち替えて剣を振るっている。エリカも力杖で盗賊を殴りつけていた。
皆が無事なのを確認し、オレはさらに匍匐前進を繰り返した。
どれくらいの時間が経ったのだろう。オレは、盗賊団の後ろの茂みに身を潜め、隙を窺っていた。
「お前ら。たかが10人程度になに時間掛けてやがんだ。さっさとお荷物頂いてずらかんぞ。」
そう言って、剣を振り回す。
オレは回復薬を口にし、絶好の機会を窺う。
盗賊のリーダーの男が水筒に口をつけたその瞬間だった。
『今だっ!』
オレはエスポワールを抜くと、乾坤一擲、盗賊団の頭目掛けて斬りかかった。
一撃、勝負は正に一撃だった。
『敵の首領、討ち取ったぞ!!残りの雑魚だ。蹴散らせ!』
オレは勝ち鬨をあげる。
「勝ったぞ。蹴散らすぞ。」
クー兄の声が続く。
「行くぞ!」「敗残兵を殲滅だ!」「勝ったぞ。押し返せ!」
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盗賊の集団を撃退したオレたちは集まって被害状況の確認をしていた。
重症者2名だったが、エリカの中回復と回復薬で命に別状はないようだった。
「ノア、お手柄だったな。」
オレの頭をガシガシ掻き回しながらウルリッヒが声を掛ける。
「まったく、その通りよ。あの集団戦のまま押し切られたら、あたしたち死んでたわよ。ホント、大手柄よ。それに、あの盗賊団のリーダー、賞金首よ。魔結石回収してギルドへ持っていけば、賞金を貰えるわよ。」
オレたちは、盗賊撃退の報奨金と武器などの売却益を等分することにし、リーダーの賞金はオレが貰えることになった。
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翌々日
《王都ノルテ内冒険者ギルド》
オレたちは、冒険者ギルドへ盗賊の報告を行い解散することになった。
オレたちが撃退した盗賊団は、最近、王都近辺に出没して商隊や村々を襲っていた、『鷲の爪』だったことがわかった。
リーダーの報奨金が4万C、その他のメンバーや武器などの報酬は、1人2万Cになった。
「あなたたち、凄い活躍じゃない。向こうで、迷宮にも行ったようじゃない。」
そう言って、事務室からジョアンナさんが出てくる。
「えっ、もう知ってるんですか。」
クー兄がジョアンナさんに尋ねる。
「勿論よ。各地のギルドの情報は翌日の早馬でモネ長官の下に集められるのよ。私は、昨日モネ長官から伺ったわよ。モネ長官もお喜びだったわよ。これで、他の低ランクの【冒険者】のやる気が沸くかもってね。」
ジョアンナさんがそのように教えてくれた。
さらに、ジョアンナさんは他の護衛にも声をかける。
「ウルリッヒもエリカもご苦労様。ノアとクースはどうだった。役に立ったでしょ。」
「あぁ。最初はこんな小僧どものお守りをさせやがってと思ったけどな。でも、まあ、正直ここまで腕の立つやつらだとは思わなかった。恐れ入った。っていうのが感想だな。」
「まったくよね。ゴブリンロードの一件を聞いてはいたけど、実際に見るまでは信じられなかったわ。新人の初迷宮で魔物部屋殲滅よ。将来の【冒険者A】の“お初”に立ち会えてうれしかったわ。」
ジョアンナさんは満足気に頷く。
「ノアとクースも、連携って大事だとわかったでしょ。トールマンさんの話じゃ、ノアの【隠密】を成功させるために、怪我を負いながらぎりぎりまで盗賊を引き付けてくれてたみたいじゃない。あなたたちも、2人のコンビネーションだけじゃなく、周囲と連携して大きな仕事を出来るようになるのよ。」
ジョアンナさんはそう言って、オレたちにアドバイスをくれた。
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ノルテランド暦1991年11月中旬
《王都ノルテ内冒険者ギルドカウンター》
初雪の舞う、ある寒い日だった。オレはギルドへ向かって歩いていた。ジョアンナさんに呼ばれたんだ。
(寒くなってきたな。冬の討伐ってどうなってんだろ。)
「ノア、来たわね。長官室へ行きなさい。」
ジョアンナさんにそう言われ、オレは長官室へ向かった。
(長官室?なんで長官が呼んでいるんだろう。なんかいやな予感がするな。)
〈こん、こん。〉
ドアをノックする。
モネ長官の入れとの声に応じて部屋へ入る。
「失礼します。」
そう言ってオレは頭を下げる。
「まあ、座りなさい。」
モネ長官の低い声が響く。
オレが座ると、モネ長官は徐に口を開いた。
「さて、何をどう話したらいいのか。ノア君、とても厳しい話じゃ。」
オレは、身を乗り出しテーブルの上に手を載せた。
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