第17話 迷宮潜入
第17話です。
9/15:一部改訂を行いました。
ノルテランド暦1991年11月上旬
《迷宮都市ヴィッテル内冒険者ギルド》
ヴィッテルに到着した翌日、オレとクー兄は、迷宮へ行くために冒険者ギルドへ向かった。しかし、2人だけではなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
前夜、食堂で夕食を取りながら、迷宮へ向けた準備を話し合っていると、いつの間にかエリカが来ていた。
「あたしも行くわよ。」
と敢然と言い放つ。
「あんたたちはお姉さまの言うことを聞きなさい。」
愚図るオレたちにこう言い切ったのだ。
エリカを出し抜こうと、朝早くこっそり食堂へ降りると、そこには満面の笑みを浮かべた彼女がいた。
「あんたたち、あたしを出し抜こうなんて百年早いわよ。【索敵】スキル持ちを舐めんじゃないわよ。」
そう言うわけで、オレとクー兄は、エリカとともに迷宮へ潜ることになった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「3人で小鬼族迷宮で3万Cね。あそこの徴収係の人にお金を渡して、魔方陣に乗ってください。それで、迷宮へ転送します。帰るときは、向こうの迷宮のどこからでも帰れます。今、徴収係から受け取るチケットに魔素を直接注いでください。足元に魔方陣が展開されます。そこに乗っていただければ、あちらの魔方陣に転送されます。ただし、魔物とエンカウント中は魔方陣が発動しませんのでご注意ください。」
受付係の職員が説明をする。
オレたちは徴収係の元へ向かう。
「ここはあたしが出すわ。無理言って付いて行くんだから、これくらいはさせて頂戴。」
そう言って、エリカがお金を出す。
(無理にねじ込んでいるのは自覚してるんだ。)
魔法陣に乗る前に役割を分担する。オレが前衛、クー兄が中衛、エリカが後衛だ。ここで、爆弾発言が出た。
「あたしも迷宮初めてだからね。」
(初めてのオレたちの保護者じゃないんかい。)
思わず突っ込みたくなったが、オレは我慢をして魔法陣に乗った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
《小鬼族迷宮1F》
迷宮内はほんのり明るく、真っ暗と言うわけではなかった。岩肌が発光しているのだ。
(迷宮ガイドどおりだ。予習しておいてよかった。このまま進むんでよかったかな。)
「今日の目標はどうするのよ。」
エリカがクー兄に問いかける。
「夕べ、ノアとも話し合ったんだけどね。1Fの魔物部屋と1Fのボス部屋には行ってみたいんだよね。そうだ、エリカ、報酬の分配どうする。」
「あたしは、今日はメインじゃないから、討伐分だけでいいわ。拾った素材や宝箱は譲るわ。」
報酬の分配は先に決めておかないと、極レアなんて出たときに揉めるんだ。
「「了解。ありがとう。」」
そう言って、先へ進む。
「ちょっと、待った。そこ10m先の角に気配あり。どうする。」
エリカがクー兄に注意を促す。
エリカの【索敵】便利だな。オレも取りたいな。
「了解。ノア、もう少し近づいて、石でも投げてみて。」
クー兄がオレに提案する。
オレは3mほど離れた地点から石を投げる。すると、
バシッ!ビシッ!と地面に向かって棍棒が振り下ろされる。その刹那、オレが飛び込み、エスポワールで3体を切り裂いた。
「案外、簡単に片付いたな。この調子で、どんどん行こう。エリカ頼むよ。」
「エリカさん、もしくはエリカ姉さんよ。わかった!」
とオレに返事する。
「わかったよ。エリカ。」
エリカが呆れて髪の毛を掻き毟った。
「しかし、あなた凄いわね。いくらゴブリンとはいえ、3体を一瞬よ。」
エリカがオレに言う。
「ノアの凄さは、まだまだこんなもんじゃないよ。ピンチになるともっと吃驚することが起こると思うよ。」
そう言って、クー兄が微笑んだ。
さらに、迷宮を進む。敵はこちらに気付く前に、エリカの【索敵】に引っかかり、ことごとく討伐されていく。
「何よ、この気配。そこの左の部屋。入り口が見当たらないから隠し部屋ね。その中に数え切れない気配を感じるわ。しかも、ゴブリンよりも強い種よ。止めておいた方がよさそうよ。」
とエリカが助言する。
「馬鹿言うなよ。ここは行くべきだよ、クー兄。ドアを開けたら、3人で魔法を打ちまくり、その後オレとクー兄が中に侵入。エリカ、いや、エリカさんはここで、逃げ出す敵を殲滅。これでどう。」
「う~ん。どうしようか。」
「やめるべきよ。3人しかいないのよ。ここで、無理する意味なんてないじゃない。」
「いや、行こう。ここなら、敵の数が多くても、エンカウントしてしまえば、あそこの手前の細い道へ呼び込める。そうすれば、敵は多いけど一度には掛かって来れないはずだ。ノアも無理そうだったら、あそこへ逃げ込んでね。いいね。」
「まったく。あんたたちは新人の発想じゃないわよ。あたしの魔力では、火爆弾10発程度が限界よ。だから、数を多く撃つために、火弾丸で援護するわ。」
「「頼んだ。行くぞ!」」
オレとクー兄がそこで見たのは、ゴブリンリーダーに率いられたゴブリンナイトの群れだった。皆、武装している。
・ゴブリンが迷宮や村を作り集団になると生まれる。複数の種類のゴブリンを率いて戦術的に戦う。
・ゴブリンナイト…【冒険者】が打ち捨てた刀剣や鎧を身に纏ったゴブリン。ゴブリンよりも膂力に優れ攻撃的なため、新人の間は攻撃を受けやすい。
オレとクー兄はエリカとともに入り口で火弾丸、風弾丸を放つ。
「クー兄、オレが中に入る。援護の弓、期待してるよ。」
中に入ったノアは、エスポワールを抜き、壁を背に立ち、左右正面から襲い掛かるゴブリンナイト迎撃の準備をする。
「ギィヤァー。」「ギョィアー。」叫びを上げながらゴブリンナイトが斬りかかって来る。
「1.2.3。次、4。まだまだ、5.6.7.8。」
オレは、自分を鼓舞しながら戦う。
実際には、オレに切りかかろうとする敵はもっと多い。しかし、オレのところに辿り着く前に、クー兄の弓やエリカの魔法で倒されているのだ。
「ギィヤァー。」「ゴァー。」
ゴブリンナイトの声が響く。
「14。はぁ、はぁ、はぁ。次、来い、次っ!」
さすがに息が切れ始める。しかし、オレは無心で剣を振った。
(だんだん、何も考えられなくなってくる。いったい、何体を倒したんだろう。どれだけ、斬り付けられてるんだろう。)
ゴブリンナイトの攻撃が途切れた。目を凝らすと、そこら中にゴブリンナイトの死体が転がっている。その向こうから、ゴブリンロードが顔を出した。
「「「ゴブリンロードっ!!」」」
「クー兄、エリカ、援護を頼む。オレはやつの懐に飛び込むことに集中する。頼むぞっ!」
オレは【魔術師聖Lv1】の回復を自分にかける。見るとエリカも高価なMP回復薬を口にしている。
「わかったわ。それと、エリカさんよっ。火爆弾。」
「わかった。取って置きの、黒妖犬の矢。麻痺がエンチャントされてるから、私の攻撃の後に飛び込めっ!」
クー兄がBOPから見慣れない矢を取り出す。引っ越したときに回収した素材である黒妖犬の牙を使った鏃の矢だ。
「了解。行くぞっ!」
エリカの魔法とクー兄の攻撃が続く。クー兄の矢がゴブリンロードの目に突き刺さった。
(今だっ!!)
オレはゴブリンロードの懐に飛び込む。一撃、二撃、三撃…。力の限り斬撃を打ち込む。
オレの攻撃を嫌った、ゴブリンロードが大鉈を振りまわす。しかし、黒妖犬の矢の麻痺効果か動きが鈍い。懐近くまで飛び込んでいるオレに反撃が出来ない。
(やれる。前のゴブリンロードより弱いぞ。)
動きの鈍い横殴りの大鉈をしゃがんでかわしたオレは、顎下からエスポワールを一気に突き刺した。
ぐにゃりとその場に崩れ落ちるようにゴブリンロードが倒れた。
「よしっ!!」
すぐにクー兄とエリカが駆け寄る。
「はぁ~。あんたたち、何者。ゴブリンロードをたった3人で倒そうなんて思わないわよ。」
エリカがぼやく。
「でも、エリカ。あっ、エリカさん、今日のロードは前のよりも弱かったよ。」
素材を剥ぎ取りながらオレが応える。
「いや、ノア強くなってるよ。たぶん、リュングベリ隊長との特訓が効いてるんだと思うよ。前は、勢いよく剣を振るだけだったのに、ちゃんと考えて攻撃できてたよ。」
クー兄がそう感想を漏らす。
「そっか。リュングさんのおかげか。」
「ちょっと、リュングベリ隊長って王都警備隊の大隊長でしょ。そんな人と知り合いなの。」
エリカが驚く。リュングベリさんは、王都警備隊一の人格者として王都内では人気があるんだ。
「おしゃべりはこれぐらいにして、魔結石と素材を回収しちゃおうか。」
回収の結果、オレはゴブリンリーダーを4体とゴブリンナイト88体、それとゴブリンロードを1体。クー兄は、ゴブリンリーダーを8体とゴブリンナイトを33体、エリカはゴブリンリーダーを2体とゴブリンナイトを44体討伐していた。
なんと、この小さな部屋に、180体もの魔物がいたのだ。
そして、宝箱。だが、その時エリカが気付いた。
「その辺に武器とか転がってるわよ。」
よく目を凝らすと、すでに事切れている、【冒険者】が3人横たわっていた。
オレたちは、【冒険者】から魔結石を取り出し、ギルドへ届け出ることにして、武器と防具を回収する。その中に一際目を引く槍があった。火炎槍だ。これもオレたちの報酬となるのだ。
そしていよいよ“宝箱”オープン。
中からは、腕輪が出てくる。
「何これ。」
その腕輪を取り上げオレがつぶやく。
「何って、あんた、知らないのっ!これ、聖女息吹じゃない。着けているだけで、HPとMPの回復力が5倍になるのよ。極レアとまではいかないけど、オークションとかで売りに出れば、大金貨で5~8枚位になる代物よ。魔法使いなら垂涎の的よ。」
エリカがオレを叱る。
「ノア、お前が付けろ。それは、お前にふさわしいと思うよ。」
とクー兄が言う。
「でも、MPの回復もあるんだし、クー兄のほうが役に立つんじゃない。」
「いいえ、ノアが着けるべきよ。今日の活躍を見てそう思ったわ。あなたみたいに敵に突っ込む前衛は少しでも回復手段を持っておくべきよ。」
エリカもそう勧める。
「わかった。一先ずはオレが使うね。」
「さ~て、あたしも、これからもっと腕を磨くわ。あんたたちみたいな新人に負けていられないわ。そして、いつの日かあんたたちとパーティを組むわよ。」
エリカがそう宣言する。
「「えぇ~。」」
オレもクー兄も思わず声を上げる。
さすがに、疲労を覚えたオレたちは、ここから2階へ行くことを断念して、チケットに魔素を注ぎ込み帰還することにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
《迷宮都市ヴィッテル内冒険者ギルド》
買い取りカウンターへ赴いたオレたちは驚きをもって迎えられた。
「あの、野郎2人、新人だってよ。」「あの、坊や、王都でもゴブリンロードを屠ったって噂だぞ。」「いくらなんでも、あの小僧じゃないだろう。」「でも、あいつが魔結石もってるぞ。」
魔結石を換金すると
オレ:ゴブリンロード×50万C ゴブリンリーダー×5万C×4体 ゴブリンナイト×4万C×88体 =422万C
クー兄:ゴブリンリーダー×5万C×8体 ゴブリンナイト×3万C×33体 =109万C
エリカ:ゴブリンリーダー×5万C×2体 ゴブリンナイト×3万C×44体 =142万C
になった。
また、3人の身分証をギルドに届け出ると1人1万Cの報酬と引き換えられた。これは、すべてエリカに渡した。
素材や武器防具は、クー兄が、冒険者から回収した火炎槍と矢を、オレはロードのマントとラウンドシールドを、エリカは力杖をそれぞれ引き取り、残りを売却した。20万Cだった。
「総額696万Cだってよ。」「1階層で最高額じゃないか。」「うちのパーティも明日潜るぞ。」
ギルド内が大騒ぎになった。
「今日は、あんたたちのお蔭で大儲けできたわ。あんたたちはまだ、新人だから【冒険者F】なだけね。すぐに、上がり始めるわよ。さっきも言ったけど、あたしのレベルが上がって、あんたたちと肩を並べたときには、また、パーティを組んでね。あたしの【索敵】からは逃れられないからね。じゃあ、また明日。」
「「やっぱり、組むのかぁ。」」
オレたちはそう言って、宿へ戻った。
誤字・脱字のご連絡をお願いします。