第16話 西部都市ヴィッテル? 迷宮都市ヴィッテル?
第16話です。
こんなに多くの人に読んで頂けるとは思っていませんでした。感謝、感謝です。
9/15:修正および改訂を行いました。
ノルテランド暦1991年11月上旬
《ノルテヴィッテル街道》
今、オレたちはトールマン商会を中心とする商隊の護衛をしながら、西部一の大都市ヴィッテルへ向かう街道を進んでいる。積荷は王都に集まった各地の食品や布地などの日用品である。
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きっかけは、ジョアンナさんだった。
「あら、あなたたち討伐と採取ばかりで、護衛依頼を受けてないじゃない。」
意外そうな声でジョアンナさんが声をかける。
「はい。あまり面白そうじゃないですし、どうも人に合わせて動くのが苦手なんで…。」
オレはそう言いながら頭を掻く。
「それじゃぁ、駄目よ。」
ジョアンナさんは護衛依頼の必要性を説明してくれた。
【冒険者】のランクが低い依頼は、ソロや少人数のパーティで対応可能だが、竜種討伐など難易度の高い討伐依頼などは複数パーティで対応するらしい。協調性つまり連携して作戦が遂行できないと強敵相手には戦えない。つまり、ランクが上がっていかないそうだ。
護衛依頼、特に商隊の護衛依頼になれば、複数パーティでの護衛になる。
それで、丁度いいからと西部の都市ヴィッテルへ向かう商隊の護衛依頼を受けることになったのだ。
今回の護衛隊はオレとクースの他に、4人パーティが二つだ。
一つは、元騎士団員からなる輝かしい剣。【剣士】3人、【弓士】1人のDランクパーティ。リーダーはウルリッヒ。
もう一つは、血の嵐。【剣士】3人、【魔術士】1人のEランクパーティ。リーダーは女魔術士のエリカだ。
メンバー構成が明らかに前衛に偏ったため、【 魔術士】【弓士】を持つオレたちに白羽の矢が立ったのだ。
「私は、【冒険者F】のクーサリオン。こちらは、同じく【冒険者F】のノアシュランだ。私はクース、彼はノアと呼んでくれ。」
クー兄が挨拶をする。
「新人のしかもガキじゃねえか。こんなので大丈夫かよ。ガキが足を引っ張ると、護衛全体の負担になるぜ。エリカさんよ。澄ました顔してるけどいいのかよ。」
とウルリッヒがぼやく。
オレとクー兄は完全無視する。
(騎士団って言っても、リュングさんのように規律のある騎士団じゃないだろうな。)
「あら、後衛中心に追加パーティが欲しいと言ったのはあなたじゃない。それに、あたしちょっと楽しみなのよね。」
「何がだよ。」
「その子たち、たった2人でゴブリンロードとホブゴブリンの集団を討伐した期待の新人よ。」
そんなエリカの言葉に、ざわめきが起こった。
「まじかよ。でもあれって前衛と後衛のパーティだろ。こいつら、後衛と後衛だろ。おい、お前ら黙ってないでなんか言えよ。」
とオレたちにも絡み始めた。
「まあ、まあ。この子たちは、二人とも【魔術師】を持っているのよ。それで、ジョアンナさんに後衛をお願いしたら紹介してくれたのよ。それよりも、護衛配置はどうするの。急がないと出発の時間よ。」
エリカがウルリッヒを窘める。
「それもそうだな。今回はトールマン商会の3台を中心に5台の荷馬車が出る。荷物は主に食料品だ。だから、ゴブリンやオークなどの魔物だけじゃなく、狼や熊なんかの野生動物にも注意をしてくれ。」
ウルリッヒが注意点を具体的に挙げていく。
(この人、見かけや言動よりもいい人みたいだな。オレたちみたいな新人にもわかるように注意点を挙げてくれている。)
「次に護衛だ。基本的にみんな荷馬車での移動となる。俺は斥候も兼ねるので騎馬での移動だ。俺のパーティの前衛ユージーンとエリカの組の前衛の1人は1台目に乗れ。新人2人は3台目。エリカと残りの前衛は5台目だ。新人の2人は前後どちらが襲われても移動できるようにしておいてくれ。ああ、それとエルフのクースとエリカは馬車の幌の上に定期的に上って、前後を警戒してくれ。遠見はできるだろ。何か、質問は。」
ウルリッヒが皆を見回す。
「街道の最近の情報と、魔物討伐時の分配はどうなっている。」
とクー兄が口を開く。
「そうだな。普段からゴブリンや雪兎の出現報告は多いが、街道沿いは定期的に魔物の討伐が入るからそれほど心配はないと思う。それよりもこれから厳しい冬を迎えるので、野性生物の出現頻度は上がっていると考えたほうがいいな。報酬は討伐者優先で考えておいてくれ。あと、盗賊は要注意だ。殺してもかまわない。他のみんなもいいな。」
オレたちは一斉に頷いた。
『みなさん。用意はよろしいですか。出発しますよ。』
とトールマン商会のトールマンさんが声を掛ける。
オレたちは3台目の荷馬車に乗り込み出発した。
こうして、オレたちはノルテヴィッテル街道を進むことになったのである。
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ノルテヴィッテル街道は王都ノルテと西部の中心都市ヴィッテルを結ぶ主要道の一つで、ほとんどの道程がなだらかな丘陵地帯であるが、途中で2箇所危険地帯(峠と森林)を抜ける。ここは魔物や野生生物の出現しやすい場所なのである。
また、一本道で見晴らしがいいため、遠くから盗賊の集団が街道を見張り、襲えそうな商隊を襲うのである。
出発から2日目。
『まもなく、峠に入る。総員、警戒態勢をとれ!クースは幌に登れ。オレはこれから斥候に出る。警戒態勢を取りつつ、前進を続けろ。その間の指示はエリカに任せる。』
「ちょっと待って。」
荷馬車の幌に登り、警戒態勢を取ったクー兄が声を上げる。
「前方から灰色狼の群れが接近中。数は、およそ40。距離800。後ろからの接近は無し。」
・灰色狼…ノルテランド王国内いたるところに出現する狼。魔物ではない。ごく希に狼王に率いられることがある。そうなると、大集団になる、冒険者ギルドで一斉討伐することになる。その毛皮は、庶民や低級の【冒険者】の防寒具になる。
エルフの目はこういう時にも役立つ。
『総員戦闘態勢!!後衛【弓士】は1台目の屋根から狙え。【魔術師】は前衛を後ろから援護。』
ウルリッヒが指示を出す。
「やっぱり後退しづらく、防御態勢が取り難い峠で来たわね。」
エリカもそう呟く。
灰色狼の先頭集団10頭がひたひたと迫り来る。
『来るぞ!!距離50を切ったら弓と魔術を放て。近接戦闘は前衛中心に行え!!放てっ!!』
ウルリッヒの声にあわせて
「火爆弾」エリカの魔術攻撃が炸裂する。
「火弾丸」オレも続く。
オレとエリカの魔法で数匹の狼が倒れる。
クー兄も次々と矢を射るが、距離もありかわされていく。
オレたちは群れの本隊に目をやるが、本隊は後方に陣取り状況を見守っている。その中に一際大きなボス格の狼がいる。
狼は魔物ではないがとても頭のいい動物だ。群れのボスで長く生きている狼ほど厄介なものはない。神話などにも語り継がれる狼もいるほどだ。
おそらく、あのボス狼の指示で守りの弱そうなところから攻めてくるに違いない。
「クー兄、あの辺水浸しに出来るかな。」
オレは、戦闘の向こう側でこちらの様子を伺う残り30頭の群れを指差しクー兄に尋ねる。
「あぁ、容易いことだけど、どうするの。」
「まあ、任せてよ。」
すると、クー兄は群れに向かって水球を連発する。足元を狙っているのでもちろん届かない。その様子に、灰色狼たちは、身動きせずこちらを窺うのをやめない。
その瞬間、オレは雷魔法を詠唱する。
「雷弾丸!!連弾!!」
オレは雷魔術を連続発動する。
攻撃魔術の連続発動は実はオレの得意技だ。ラトゥ教官には王立魔法学校受験までには3連弾まで使えるようになれと言われている。
バチッ、バチッ、という音を立てて
灰色狼の群れの後方を雷が襲う。ほとんどの狼が雷を避けて前に出る。しかし、足元の水を通して一気に群れ中に雷が走る。
バタバタと狼たちが倒れていく。数匹の狼とボスが生き残るが、雷の影響だろう動きが鈍い。それでも、ボス狼はこちらを睨んでいる。
ビンッ!!と鋭い音を立ててクー兄の弓から矢が放たれる。ボス狼と残りの狼どもが矢の餌食になる。
オレとクー兄が周りを見回すと、灰色狼はほとんどが討ち取られていた。
結局、28頭がオレとクー兄によって討ち取られ、他の人たちも合わせて15頭を討ち取った。
戦闘が終了し、オレとクー兄やエリカなど護衛メンバーがウルリッヒの所に集合する。
みんな、オレとクー兄を見て小声で囁きあっている。
「お前ら凄いな。その腕で、【冒険者F】のレベル3かよ。正直甘く見てた。申し訳ない。」
そう言って、ウルリッヒが頭を下げてきた。
「それだけの腕があれば、護衛としても計算が出来るわ。ノア君は【剣士】として前衛も任せられるんでしょ。そうすれば、今までよりも商隊の安全が確保できるわね。今回だけでなく、これからもぜひ組みたいわね。」
エリカもそう言って声を掛けた。
「私たちもこれから、パーティ同士の連携などを学びたいと考えているので、ぜひ、よろしくお願いします。」
そう言って、クー兄が頭を下げる。オレもつられて頭を下げる。
そこに荷物の確認をしていたトールマサンがやって来た。
『皆さんご無事ですか。護衛ありがとうございます。荷物も無事なようなので、そろそろ出発しましょう。』
そう言って、出発を促す。
オレとクー兄は再度3台目の荷馬車に乗り込んだ。
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灰色狼の襲撃から4日目。オレたちは無事ヴィッテルに到着した。
『みなさん。ここまでの護衛ありがとうございました。明後日午前8時にここへ再度集合しノルテへ向けて出発します。それまでの宿は取ってあります。今夜、そして、明日と英気を養って帰りの道中もよろしくお願いします。』
トールマンさんがそうみんなに声を掛けた。
「ノア、どうする。」
クー兄が声を掛ける。
「ここがどんな街か知らないから。今日は休んで、明日ギルドへ行ってみようか。」
そんな話しをしていると、ウルリッヒが声を掛けてきた。
「そうか。お前さんたちは、ヴィッテルは初めてか。ここはな、迷宮都市とも言われてるんだぜ。」
「「迷宮都市?」」
「おう。街の中から直接迷宮へ転送で行けるんだ。もちろんお金は取られるがな。もし、暇なら明日行ってみるといい。その腕なら、2人でも1階層なら問題ないと思うぞ。」
「ありがとうございます。ウルリッヒさんって見かけよりいい人ですね。」
とクー兄が返す。
「おいおい、オレは紳士だよ。見かけだけ余分だぜ。じゃあな。オレたちは飲みに行ってくる。お前ら、お子様はは早く宿で休んだほうがいいぞ。」
そう言ってウルリッヒは出かけていった。
思いがけず聞いた迷宮と言う言葉にオレは興奮を覚えた。
「クー兄、迷宮って知ってる。」
「あぁ、勿論だ。エルフの谷のそばにもあった。立ち入り禁止だったけどね。」
クー兄も詳しくは知らないらしい。そこで、ギルドへ行き聞いてみることにした。
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《ヴィッテル内冒険者ギルドカウンター》
「迷宮か。良くぞ聞いてくれました。」
そう言って、受付の職員が腕まくりをして話し始める。
「ここ、ヴィッテルの周囲には大小あわせて7箇所の迷宮がある。それぞれ、難易度の低いほうから、小鬼族迷宮、骸骨迷宮、巨鬼族迷宮、不死者迷宮、そして、探索が済んでいない迷宮が3箇所だ。新人なら小鬼族迷宮を勧めるね。ここは、各種ゴブリン、ホブゴブリン、コボルトなどの小鬼族とその上位種が巣食っている。迷宮主はコボルトキングかゴブリンロードだ。」
ギルド職員の名調子が続き、周囲に人垣が出来始める。
「迷宮に入る目的は魔物を倒して、迷宮主を討伐するって言うことでいいのかな。」
周囲から声が飛ぶ。
「いいや、違う。そんなんじゃない。確かに、魔物の出現率は平原や荒野、森林などと比べても段違いだ。20mも歩けばなんかいる。だが、しかし、but、迷宮の醍醐味はそんなものじゃあない。迷宮のとある一室。薄暗い壁に囲まれた部屋だ。そこには、見たこともないほどの大量の魔物が潜んでいる。通称、魔物部屋。小鬼族迷宮の一室にはゴブリンが200体以上いたって話しだ。その、ゴブリンを片付けるとおくには宝箱が。」
職員がここで話しを切る。
「その宝箱には何が。」
オレは思わず声を上げる。
「まあ待て。この宝箱こそ迷宮の醍醐味だ。中からは見たことのないような魔法具、あのゴーレムですら一撃で斬り裂く魔法剣、他にも金、銀、ミスリル、神鋼のインゴット。まあ、何が出るかはお楽しみだ。他にも、金剛石が出たり迷宮内に宝石が落ちていたなんて話もある。また、前のパーティが残していった武器防具は拾ったものに所有権がある。もちろん、迷宮主を討伐した時には、魔物部屋以上の宝物が君を待ってるぞ。どうだい、面白そうだろ。迷宮こそが男のロマンだ。そんな小鬼族迷宮まで、今なら往復1万Cでご案内。」
話しを終えた職員に、一斉に拍手が沸き起こる。
オレはクー兄と話し合い、道具類の準備をして明日、小鬼族迷宮を探索することにした。
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