第14話 ノアの想い
第14話です。
9/15:一部改訂を行いました。
ノルテランド暦1991年10月初旬
《王都ノルテ冒険者ギルド内応接室》
オレは、豪華な内装の応接室でジョアンナさんと向き合っていた。
「あなたが、誰にも聞かれたくないと言ったから応接室にしたけど、そんなに緊張しなくて言いのよ。今日はどうしたの。」
とジョアンナさんが優しくオレに問いかける。
「実は奴隷のことなんだ。」
とオレが切り出す。
「なに、あなた奴隷を買いたいの。奴隷が必要なほど難しい依頼はまだ受けれないはずよ。迷宮に行くわけではないんでしょう。」
と少し困惑しているようだ。
「そうじゃないんだ。オレがユリウス辺境伯領から来たのは知ってるよね。オレの父は元々騎士爵だったんだ。ユリウス辺境伯領ハーレン村で領主をしていたんだ。村人思いでとても慕われていた。でも、それを辺境伯が嫉んで、反逆を企んでいると言って、騎士爵を廃し農奴に落としてしまったんだ。」
オレは事情を説明し話を続ける。
「それで、農奴をどうしたら解放できるのかということと、ユリウス辺境伯を打倒したい。そのことを相談したいんです。」
「そういうことね。確かにほかの人に聞かせられない話よね。奴隷を買いたいくらいならほかにもいるから問題ないけど、辺境伯を打倒したい、だと下手な人に聞かれたら体制を覆そうとしているとして、内乱罪に問われかねないわね。だから、今日は奴隷の話だけをするわよ。」
とジョアンナさんが腕を組んだ。
「はい。それで、お願いします。」
オレはジョアンナさんに頭を下げる。
「そうね。奴隷を買い取るのは、その所有者と買い取り希望者の問題だからそれほど難しくないわね。あなたが、直接辺境伯に買い取りを希望しても難しいと思うけど、冒険者ギルドを通せば個人は特定できないから大丈夫でしょう。あとは、金銭的な問題よね。普通、農奴は人頭税100年分が相場といわれているは。」
ジョアンナさんは、何人買い取るのという表情でこちらを見る。
「取り戻したいのは家族なので、父と母、それと兄が一人です。でも、買い取りたいんじゃないんです。奴隷を解放したいんです。」
「なるほどね。買い取った後に、開放はできるわよ。一人、大金貨10枚を国庫に収める必要があるけどね。そうすると、奴隷の買い取り料金が、最低でも大金貨1100枚ね。開放登録料が大金貨30枚。あわせて、1130枚の大金貨が必要になるわ。1億1千3百万Cが必要になるわね。あなたたちは、今、1回の依頼で1万5千Cくらいの収益よね。」
とジョアンナさんは細かな計算をしながらオレに尋ねる。
「はい。2日間の宿代と回復薬の料金を差し引くとそれくらいだと思います。」
とオレも応える。
「うぅ~ん。そうすると、1ヶ月で貯金することができるのは、大体22万Cぐらいね。年だと250万Cになるわね。そうすると45年くらい掛かるわね。もちろん、あなたが努力することで、ランク、レベルともに上昇し難しい依頼を受けることができるようになれば、収入は上がるわ。それでも、20~30年は掛かるわね。」
とジョアンナさんは厳しい顔でオレを見つめる。
「そうですか。」
オレは肩を落としイスから立ち上がろうとした。
「ちょっと待ちなさい。ほかにも方法があるかもしれないわ。ギルド長官のモネに相談してもいいかしら。」
「はい。お願いします。」
オレは力なく応えた。
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同日30分後
《王都ノルテ冒険者ギルド内長官室》
「君がノア君じゃな。わしは、モネ=フォン=ファイアージンガーじゃ。この国の冒険者ギルドの長官をしておる。まあ掛けたまえ。」
そう言って、イスを勧める。
「ありがとうございます。」
そう言ってオレはイスに腰をおろした。隣にジョアンナさんも座る。
「詳細は、そこな、ジョアンナ女史から聞いたよ。できるだけ早く、家族を取り戻したいと。そういうわけじゃな。勿論、それは可能じゃ。」
事もなげにモネが応える。
「本当ですか!!」
思わずオレは身を乗り出す。
「おう、おう、そんなに慌てなさんな。金なんかな、借りればいいんじゃ。腐るほど持っとるやつらも居るんじゃよ。」
「でも、何の保証もない小僧に金を貸してくれる人なんか…。」
と項垂れる。
「そうじゃな。何の保証もない小僧じゃな。じゃがのぅ、おぬしの可能性を示せれば充分なんじゃ。おぬし、ギルド内で本当に凄腕の【冒険者】に会ったことがあるかのぅ。」
(そう言えば、おじのハインツさん、元従士のダンの情報って入って来ないな。ギルドに居ないのかな。ルイーゼさんもギルド内で会ったことないな。)
「いえ、ありません。」
と応える。
「そうじゃろ、そうじゃろ。本当に力のある【冒険者】はの、貴族が抱え込んでおるんじゃよ。貴族の専属として貴重な素材を採取をしたり、迷宮で貴重な魔具や魔法武器防具の収集に勤しんでおるんじゃよ。そういう、【冒険者】を囲い込みたがる貴族は多い。例え、1000枚単位で大金貨が出て行ったとしても回収の見込みがあるからのぅ。おぬしもその可能性が示せればいいんじゃ。」
と言ってお茶を啜る。
「でも、どこでそんな可能性を示せばいいのか。そもそも、オレにそんな可能性があるのか。」
頭を振るオレ。
「なに、可能性は充分じゃよ。なんせ、そこな、ジョアンナ女史に言わせると期待の新人じゃろ。ツァラトゥストラ君も君を可能性の塊と言っておったぞ。あとは、見せる場じゃのぅ。」
と言ってモネは目を閉じる。
どれ位が経ったのだろうか。
「そうじゃ。おぬし王立魔法学校へ行きなさい。あすこは、王立なので、王侯貴族の謁見式がある。入学試験や卒業試験も貴族が立ち会うことになっておる。年間行事に魔術競技会や魔物討伐もあり、その結果は貴族どもも目を通すのじゃ。勿論、わしも男爵として目を通してギルドに役立つ人間を引き抜いておるんじゃよ。」
とノアに告げる。
「王立魔法学校ですか…。ツァラトゥストラ教官にも勧められたんですが、入学金や授業費、生活費もかかります。その間、討伐もできないんであればやっていけないと思います。」
とオレは応えた。
「そうじゃの。じゃがのぅ、特待生と言う制度がある。男爵以上の貴族3人による推薦と入学試験時に【魔術師Lv3】以上のスキルを1つでも持っているのが条件じゃ。この制度であれば入学金と授業料は免除となるはずじゃ。わしも推薦してやろう。それに、お主はリュングベリの知り合いでもある。これで、2人。あと1人は自分で探すことじゃ。生活費は…。まあ、これからの2で精一杯貯えることじゃ。王侯貴族の目にとまりたいんであれば、生半可な気持ちじゃ無理じゃのぅ。ほかに方法ないんじゃろ。おぬしの求めているものはそれほど大きなものなんじゃ。じゃから、これからのおぬしの活躍に期待しておるぞ。そろそろ、いいかのぅ。わしも仕事が押しておるんでの。」
こうして、オレとモネ長官の話は終わった。
(たしかに、俺がやろうとしていることはそれだけ大変なことなんだ。)
「どうかしら。参考になったかしら。」
そう、ジョアンナさんが話しかけてくる。
「ありがとうございました。やるべきことがはっきりわかりました。」
オレは頭を下げる。
「オレは、再来年の10月1日に王立魔法学校への入学を目指します。それまでに、魔術のレベルを上げて、討伐をがんばって生活費を貯めておきたいと思います。」
「そう、役に立ててよかったわ。王立魔法学校はこの王都にあるからぎりぎりまでがんばってみなさい。」
「はい。」そう言ってオレは冒険者ギルドを後にした。
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同日、夜
《王都ノルテ百舌亭食堂》
オレとクー兄はいつものようにここで食事をしていた。
「クー兄、オレ12歳になったら王立魔法学校を目指すことに決めたよ。」
そう言って、オレは自分の事情と、モネ長官、ジョアンナさんとしてきた話をクー兄にもした。
「事情はわかった。そんな大きな目標があるのならば、私は応援するよ。でもね、同期の縁でパーティを組むようになったけど、私はノア以外とパーティを組む気はないよ。ノアが魔法学校へ通っている間は私も自分のレベルアップを中心に採取の依頼を取り組むようにするよ。それに、兄の勧めもあるから王都警備隊の養成所に通おうと思う。」
そう言って、クー兄はにっこり微笑んだ。
(あぁ、そうか。オレは最高のパートナーを得たんだ。これから先、どんなことがあってもこの期待に裏切ってはいけないんだ。)
「クー兄、ありがとう。オレは、今後、どんなことがあってもクー兄を裏切らないよ。」
それから、オレはクー兄と今後の方針を話し合った。
討伐は報酬が見込めるものを中心に2勤1休ペースで月に20回は討伐に出ること。休みの日の回復薬の購入や防具のメンテナンスはクー兄が行ってくれるので、オレは魔術の訓練を行うことにした。
ただし、もう一人の貴族の推薦者を探す件だけは暗礁に乗り上げた。
そこで、月に1回はジョアンナさんを尋ね、貴族の情報を集めることにした。これは、討伐を好んで行う貴族や採取を頻繁に行う貴族、迷宮へ潜らせたがる貴族など傾向が異なるため、どんな系統の能力を身に着けるのがお眼鏡に適うかを図るためだ。
そして、オレたちは家を借りることにした。
生活に必要な金額をオレはクー兄と算出した結果、家を借りたほうが節約できることがわかったのだ。
今までみたいな宿暮らしをすると、1日二人で1万Cがかかる。(宿泊費3千5百C+1食5百Cが3食。これが二人分だ。)毎月30万C出費していることになる。10万C代で借家を借りて、自炊すれば充分に節約ができるのだ。
次の休みの日、オレはクー兄と部屋を借りに不動産屋さんを訪れることにした。
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