第13話 魔術師ノア誕生
2500PVこえました。ありがとうございます。
第13話をお届けします。
9/15:一部改訂を行いました。
ノルテランド暦1991年9月5日
《王都ノルテ冒険者ギルド内教練所》
今日も、オレは魔術習得のためにラトゥ教官のもとへ向かう。すでに取得に成功したクー兄は今日はいない。
「ノア君、前回の研修で君は魔素の流れを感じることに成功しました。たった3回の研修でそこに至ったのは、まさに驚天動地であり、空前絶後のことなのです。吾輩もギルドでの教官生活で初めてのことですよ。」
朝から絶好調のラトゥ教官は話を続ける。
「君は12歳になったら、王立魔法学校へ通うべきです。このまま、放っておくにはあまりにも勿体ない。」
「教官、オレはまだ自分の属性も知りません。いきなり、そんなことを言われても、なんとお応えしていいかわかりません。」
そう言ってオレは頭を掻いた。
「そうですわよ。それに、その子は冒険者ギルドの期待の新人なのよ。あなたも、冒険者ギルドの魔術教官なら、露骨な引き抜きは、おやめいただきたいですわね。ツァラトゥストラ教官。」
ジョアンナさんが教練所に入ってくる。彼女もオレの魔術取得は気にしてくれていたようだ。
「ジョアンナ女史。吾輩は決して引き抜きなどでなく、ノア君の素質を思えばこそ…。」
「わかりました。ノアの素質を惜しんでくださったのね。でも、それは彼自身が決めること。余計な口出しは無用ですわ。それより、属性判別がまだなのでしょう。はやく、やっておあげなさい。」
「そうでした、そうでした。ノア君、早速この石の上に左手を翳して、魔素を送り込んでください。これは魔観石と言います。」
そう言って無骨だが透明な石を取り出す。黄玉石の原石で出来ているそうだ。
ラトゥ教官の話によると、この石を通して魔素を発動すると、属性によって色のついた魔素が発動するらしい。
「まずは吾輩がやって見せましょう。」
そう言ってラトゥ教官が左手を翳す。
掌から魔素が溢れ出す。
(おっ、色が出た。えぇ~と、赤と青と白だな。)
「ノア君、見えますか。その色から、吾輩の属性は火と水と聖だということがわかります。クース君は、青と空色の魔素が見えたはずです。では、君もやってみましょうか。」
そう言って、石から手をはずした。
魔観石で発動した魔素は、その属性ごとに
火属性…赤
水属性…青
風属性…空
土属性…茶
雷属性…黄
聖属性…白
に見えるらしい。
オレは、少し緊張しながら魔観石に向かって左手を翳す。魔素を発動する。
魔観石に虹色が灯る。
(オレの属性はどうなってんだ。何でラトゥ教官もジョアンナさんも何も言ってくれないんだ。)
オレは、発動をやめ左手を石からはずした。
「ラトゥ教官、どうでしたか。」
振り向くと、呆然とした顔をして立ち尽くしている。
(何だ。オレはやっぱり素質がないのか。)
「素っ晴らしいですよぅ!さに、奇妙奇天烈摩訶不思議奇想天外荒唐無稽ですよぅっ!!」
駆け寄ってきたラトゥ教官の声が響く。
「ノア、あなたの魔素は、虹色だったのよ。初めて見たわよ。ちょっとツァラトゥストラ教官っ!興奮していないで説明してくださらない。」
とジョアンナさんがオレと教官に話しかける。
「あぁ、すまない。ジョアンナ女史。ノア君もすまないですね。吾輩もここまで興奮したのは、絶えて久しいですね。」
ラトゥ教官はそう言って俺のほうを振り向き説明を始める。
「ノア君。君の属性は、火、水、風、土、雷、聖のどれにも属していないし、すべてに属しているとも言えます。これから、研鑽を積むことでどの属性の魔術も使えるようになります。ただ、全属性とはいえ、個別に属性が判明していないので、属性の修行は五里霧中、暗中模索と言えるでしょう。クース君であれば、水と風の属性魔法を鍛えればよいのですが、君の場合はすべての属性を平均的に鍛えていくのか、いくつかの属性から集中的に鍛えていくのかを決める必要があります。しかし、今のうちから広範囲に魔法に手を出すと器用貧乏になってしまう可能性がありますから、Lv3くらいまでは3属性くらいに絞ったほうがいいでしょうね。」
(そう言われてもな。何から始めるべきなんだろう。【冒険者】にとって何を身に着けることがいいんだろう。そうだ。)
「ジョアンナさん。【冒険者】にとって役に立つ属性とかはありますか。」
とジョアンナを見る。
「そうね。やはり、聖属性の回復魔法を持っている【冒険者】は貴重ね。パーティ組むとき、必ず一人はいてほしい属性ね。あとは、一長一短ね。森での討伐や採取を中心に活動するのであれば、火よりも風や水の方がいいわね。火だと、森を傷つけてしまうから。迷宮に潜ったりするんであれば火か土ね。迷宮内の魔物は火に弱いわ。それに土属性で壁を造れれば、疲れていても休憩のスペースが作れるわ。」
そうジョアンナさんが教えてくれた。
「そういえば、カーン教官やルイーゼさんはどうなんですか。」
と聞いてみる。
「あら、あの二人は生活魔法しか使えないわよ。生活魔法の治癒力向上で精一杯ね。でも、二人ともパワータイプだから参考にならないわよ。ルイーゼは獣人だから、【猛獣咆哮】なんて言う特別なスキルもあるのよ。だから、あなたは自分で決めた方がいいわ。ツァラトゥストラ教官の言うように王立魔法学校で習うという手段もあるのよ。」
(なるほどな。でも、王立って言うんだから、お金とか掛かるんだろうな。)
「王立魔法学校ってお金がかかりそうだから、自分で決めます。まずは、聖属性ですね。あとは、クー兄に水と風の属性があるんで、火と雷を鍛えたいと思います。ラトゥ教官この属性でお願いします。」
「わかりました。では、今後は、聖・火・雷の属性を中心に取得を目指しましょう。ただ、ノア君。吾輩は、君は王立魔法学校で学ぶべきだと、今でも思っています。全属性を持っている人なんて、吾輩は君のほかに知りません。確かに、お金は掛かります。しかし、これからの魔術の成長次第で、学費免除も有り得ます。12歳になったとき、もう一度考えてみてください。」
とラトゥ教官は私に諭すように話してくれた。
「それでは、ノア君。早速属性の修行を始めましょう。ジョアンナ女史も、そろそろお戻りになったほうがよろしいのではないですか。かなり長いことここにいらっしゃいますけど、お仕事は大丈夫ですか。」
と皮肉混じりにラトゥ教官が言う。
「そうね。そろそろ戻るわ。ノア、修行がんばってね。」
そう言いながら手を振って教練所を出ようとする。
「そうだ。ジョアンナ女史、彼の属性のことは他言無用でお願いします。もし、漏れれば王立魔法学校や騎士団などから引き抜きが殺到することは想像に難くありません。万が一、他国に知られれば、後の世の脅威として消されかねません。」
とまじめな顔をしてラトゥ教官は続ける。
「わかったわ。」
そう言ってジョアンナさんは出て行った。
「教官。オレはみんなにはなんと言えばいいのですか。」
オレはラトゥ教官に尋ねる。
「そうですね。ちょっと心苦しいのですが、聖・火・雷と言っておくのが無難でしょう。身近な人にまで嘘を言うことは大変気が引けますが、自衛のためです。では、練習を続けますよ。」
それから、オレはラトゥ教官の指導のもと属性魔術と生活魔術の取得を目指した。
ラトゥ教官が言うには、魔術を使うにはイメージが大切らしい。【魔術師火Lv1】【魔術師雷Lv1】では単体の敵に弱攻撃を仕掛けることができる。そのイメージが弾丸や球である。
ラトゥ教官の説明によるとあくまで目安ではあるが、
Lv1…単体へ弱攻撃。回復。
Lv2…単体へ中攻撃。中回復。
Lv3…単体へ強攻撃、広範囲に中攻撃。隊回復。
Lv4…広範囲に強攻撃。大回復。
Lv5…天災クラスらしく王立魔法学校で審査を経て取得できる。詳細は秘匿事項。
Lv6…伝説ではあるらしいが、ここ100年は誰も取得できていないらしい。
となっている。
また、【魔術師聖】を持っていなくても、エルフと一部の種族は回復は使えるそうだ。これを種族魔術と言うことも教わった。
Lv1~4までの取得は、自力で可能なため、これから研修が行われる日はイメージ修行となる。
本などでイメージを補助する方法もあるらしく、王立魔法学校ではこの手の書籍が図書館に数万冊もあるらしい。ラトゥ教官は、この方法でできるだけ早く上位の魔法を取得したほうがいいとオレに勧めたようだ。
イメージが湧いたら、後は実践あるのみだとラトゥ教官からも発破をかけられた。
その日から、オレは弾丸や球をイメージし、ラトゥ教官に説明しに行くことや、イメージした雷弾丸、火球を紙に描画しラトゥ教官に見せに行くことを繰り返した。
その後もなかなか取得できなかった。どうやらオレのイメージ力はそんなによくないらしい。クー兄からも、MP高いのに宝の持ち腐れだと笑われた。
「ノア君は絵心がない。」
と言って苦笑いするラトゥ教官を、ジョアンナさんをはじめ誰も否定してくれなかった。
属性が判別してからちょうど10日後、ラトゥ教官はほとほと困りかけ、オレに1冊の本を見せてくれた。
「ノア君。君は、それだけの素質を持っているんだから、もっと真剣に取り組んでくれないと困る。今日は、君のために吾輩の蔵書を持参した。まさに、魔術が発動しているところをスケッチしたものである。これでイメージを固めてくれたまえ。」
それから、2週間後。オレは【魔術師火Lv1】【魔術師雷Lv1】【魔術師聖Lv1】【生活魔法】を取得した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ノルテランド暦1991年10月初旬
《王都ノルテ冒険者ギルド内カウンター》
【冒険者】になり半年が過ぎた。ようやく【冒険者】として生活していく目途が立ち始めたオレは、意を決してジョアンナさんを訪れることにした。
あることを相談するために冒険者ギルドのカウンターを訪れたのだ。
「ジョアンナさん。今ちょっといいですか。相談したいことがあります。あまり、ほかの人に聞かれたくないことです。」
そう申し出る。
「あら。何かしら。好きな子でもできたのかしら。」
そう言って、個室に案内してくれた。
オレは、この日、農奴となっている家族を取り戻す方法を相談に来たのだ。
誤字・脱字がございましたらご連絡をお願いします。