人嫌いな女の子と部長
同好会とは、予算がなく、部員が一定数を下回ると廃会する。部とは、予算があり、部員が一定数を下回ると廃部する。生徒手帳を見ながらわたしは要点を頭の中にまとめた。
「部にしないの?」
「決まった大会とか、登山とか、写真とか、そういうもんじゃないからぁ。活動はひたすら図書室の本を読むだけ。文化祭は歴史を感じるっぽいものを置くだけ」
「っぽいもの?」
鞄から手帳と缶ジュースを取り出して「いまこの瞬間も歴史の一部で」勧誘文句と書かれた場所を見ながら「それが歴史の教科書に載らないのはただ必要ないと判断されただけで」わたしは缶ジュースを受け取って「たとえばもし、自分史というものを作るのならば、それは必要なものになるかもしれない」と恵は説明した。「日記なんか後世に読まれる読み物だからねぇ」手帳を閉じたところでアンパンを渡す。
「ありがとぅ。一年から入ってるけど変なところじゃぁないよ」
文武両道を謳う我が校では、一年生は部活動への入部が求められる。アンパンの優しい甘味で脳を覚醒させ、
「二年になったら抜ければいいのに」
と、言うと、
「それが人の情けよぉ」
と、返ってきた。
「……わたし酷い?」
「んぅ?」
オレンジジュースを飲んでいた恵がそのまま首を傾げる。
「わたしは春に美術部を抜けたよ」
「人嫌いだもんねぇ」
「……入っても抜けるよ」
「入ってくれるの!?」
「……(失言した)」
無言でわたしはアンパンを頬張る。ひとつ食べ終えないと放課後はまともに脳が働かないのかもしれない。オレンジジュースで喉を潤しながら、甘味と酸味でまともな思考回路を作ろうとする。
「さーやちゃん入ってよぉおお」
背を向けて言葉を遮った。つん、と服を引っ張られる感覚がする。
恵に後ろから服を捕まれたんだ。昔馴染みでなければ気持ち悪い動作だった。小学生以来の感覚にいまのわたしがどこに居るのか戸惑った。
「ごめん。逃げないで」
声変りをした高校生の恵の声にわたしの意識がいま――人嫌いな小夜香に戻る。
「冗談。逃げていいよ」
服の裾を放され、歩行のつっかえが消えた。離れた先にはちょっと悲しそうな恵がいる。それは一瞬で、すぐにいつものへらっとした表情に戻った。
「嘘。逃げたら本当は淋しぃい」
恵の顔をじっと仰ぎ見る。わたしより背が高く、少し姿勢を悪くして首を上に向けないと見えない。沈黙に耐えかねた恵がぽつりと言葉を漏らす。
「……皆川と付き合ってるから?」
「それはない」
即答したら驚かれた。なんてデジャ・ヴュ。なんだそんな事か、首が疲れるから正面にある恵の首付近に視線を移す。
「入会届は?」
恵の喉仏が嚥下した。慌てて鞄から取り出した白紙をわたしが奪い取ってさらさらと必要事項を書いていく。書き終えたそれを恵の鞄に押し込んでやると視界が陰った。
「部長はぼくだから。さーやちゃん名前呼ぶの苦手でしょ? 部長さんって呼んでね」
退会届を出す時にまた一悶着ありそうだ。
わたしは人嫌いな女の子。