人嫌いな女の子と班長
わたしは人が嫌いだ。母親からのおはようのキスは、朝の口臭が苦手で物心つく前に卒業した。小学校の女先生からのハグは、体が強張ってしまって固い表情になる。帰宅の人数制限が無くなってからは、のろのろと集団で帰るより、一人でさくさくと帰宅して有効に時間を使いたい。危ないからと、いつもわたしの後ろを付いてくる昔馴染みがいたっけ。
他人は、わたしの書いたプリントを横から覗いたり、シャーペンを隠したり、傘をなかなか帰してくれなかったりした。でも、それは地元までの話。
高校デビューという言葉がある。わたしは外見や中身は変わらなかったが、周りは例にももれず変化した。馴染みが数名になっただけで、わたしのような周りから浮いている子が珍しくなくなった。
「気になってる人っている?」
彼女のいなそうな男子から声をかけられた。適当な女子と付き合い、おおかた見栄を張りたいのだろう。特定集団にいない女子にはこういう話を持ちかけやすい。
「(班長だから会話してただけなんだけど)……同性愛はもっとも崇高な愛といいます」
「……」
「非生産的なのに相手をもとめる……班長さんもそんな相手を探してみたらいかがでしょう?」
世間話をする体で、健全な男子に最大の皮肉を送った。
「……はは」
苦笑いをしながら彼は去っていく。文化祭の出し物がまだだったと気づいたわたしは白紙に筆を走らせる。
『女装メイドと男装執事喫茶』
『衣装は○○さんのお兄さんが経営している○○○○(ガチゲイいるから○○さんを通して話した方がよい、要交渉)』
『予算は借り衣装代、クリーニング代、茶器・テーブルクロス代、内装代、茶葉代、お菓子代、化粧代、菓子折り代』
『ニクラス合同を提案(予算足らないと思うから)』
『調理は家庭科室(要予約)』
『冷蔵庫は科学室(要交渉)、クーラーボックス』
『飲食販売許可申請(要期限厳守)』
「……ふぅ(こんなものかな。冬眠に冷蔵庫もう使ってないだろうし……)」
思いつく限りクラスの出し物に必要な事柄を書きつけた。より実行されるように、より現実味を帯びさせるように、より面白そうに。
書いた紙を班長に渡す。どうやらわたしが最後だったようだ。班員分の紙を持ってクラス委員長へ届ける彼は、最後の一枚をちらりと見て、顔をひきつらせていた。
「よろしくお願いしますね」
「……うん」
そして二行目に指先を当てて、
「(タッパあって純朴そうな班長さんは)きっと気に入られますよ」
にっこりと微笑みながらお勧めした。
くるりと身を翻してわたしは自分の席に向かう。
わたしは人嫌いな女の子。