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接近

 てんぷれ!

 あるいは、そうだな…。

 おうどう!


 失礼、いきなり日常系萌え4コマ漫画っぽく言ったのには意味がある。

 趣味である娯楽に触れられなくなって、24時間以上経過している現在、俺はインターネット依存症の症状が出始めてもおかしくはない。

 それが普通にしていられるだけでも奇跡的なのだ、これくらいの暴走は許してもらおう。


 話がそれたが、こんな事をしでかしたのには訳がある。

 街道を突き進み初めてしばらく、足元が森から多少なりとも整備された道に変わった事か俺達の歩みは速く

 足の痛みを感じながらとはいえ結構な距離を稼ぐことが出来たといっても過言ではないだろう。


 先導する為に俺に背中を見せ、ナイフで露払いをしていたアイリも今は普通に隣を歩いている。

 いや、今は立ち止まっていたから歩いていた、が正しいのだな…この場合は



「コウタ様、少しずつ近づいてきました…馬が1…2………5頭、……先頭の一頭はは何かをひいているようで

 後を追う4頭バラつきはありますが、余力を残しているような足音が……、先頭のこれはずいぶんと必死な様子で…」



「追われている、と考えるのが妥当ってことか」

「はい、いかがなさいますか?」

「そんなの決まってる!」



 右を見る、遠くまで続く草原の終わりに森が見える、あれは多分俺達が通ってきた森だろう、あんなに広かったんだ。

 左を見る、こちらは森よりも更にずっと、ずっと遠くに山が見える、その雄雄しい姿に心を奪われそうになるが、こちらも山にたどり着くまでは、大体平原や山が続いている。



「身を隠すような場所を探して……そのまま、隠れよう」

「かしこまりました」



 本当に王道やテンプレならば、ここらで様子を見に行くかといって駆け出す所だが、あいにくと俺は正真正銘の一般人。

 アイリは戦闘力はあるものの…もし彼女は俺の生命線で危険な眼にあわせるわけにはいかない。

 結果として、今はまだ…どちらかが危なくなるような真似はダメだろうと判断すると後の行動は迅速だ。



「コウタ様、あちらの草むらがちょうど良いと思います」

「コウタ様、顎と地面がぴったりくっつくほど伏せてください…黒髪は目立ちますので、頭に少しだけ草をちぎってかけて、ごまかします」

「コウタ様、通り過ぎる相手を強く見つめすぎるのは、注意してください…腕の良いその道のモノ、なら視線を感じただけで反応してくることもあります」



 アイリの指導のもとで、傍にあった草むらに伏せる。

 そんな風にしていると俺の耳でも聞こえるくらいはっきりと、物凄い勢いで駆けてくる何かの音が聞こえてきた。

 っていうか、どれだけ耳が良いんだよアイリのヤツ。…どれくらいだったかな、パソコンが手元にないから覚えてねーや。



「来ます」



 俺の隣で伏せている彼女の声が短く響くと、伏せた際に繋ぎあわせたアイリの手が強く握り締められる。

 何事もなく通り過ぎれば数秒にも満たない通過時間とはいえ、用心に用心を重ねる彼女の提案してきた、この意思表示方法が心強い。


 了解、という意思をこめ彼女の手を握り返す。

 馬の蹄鉄が地面を踏みしめ駆けていく音が徐々に大きくなっていく。




「待ちやがれ!クソが!!ジョシュア!もう一度だ!」



 ソレに混じって男の怒声、これは明らかに追いかけているモノの叫びだろう。

 乱暴で荒々しく色んな意味で攻撃的な声だ。

 流し見るように視線をそちらに向けると、今まさに金や銀らしきものを用いて細工を施した豪華な幌付きの馬車は

 金色の髪色をした青年に導かれ、俺達のいる脇を通り抜けようとしている所で…そこで異変が起こる。






 最初に感じたのは、異音。

 キィィ…と響きだす音は何とも不思議な話ではあるが、可聴域ギリギリの音のようにも聞こえる。



 何が起こっているのだろうか、それを不安に思った俺はもう一度…視線を感じさせないように、とアイリからある程度受けた教えを思い出しながら、そちらを凝視する事をしないように視線を動かす。

 先頭を走る男のすぐ後ろには、男が一人乗っていて…更にその後ろに3頭の馬に乗った奴らがいた


 そいつらは共通して、ボロボロのフードつきの街頭のようなものを羽織っている。

 いや…確かあれはローブだな…ファンタジーな世界の基本的な品で色んなことに使える便利品だ。



 …話を戻すが、…馬車の後ろにぴったりとくっついていた二人乗りのヤツの後ろにのっていたローブ男が、手に持った杖のような物を掲げる。

 すると、そいつの先には光が灯ったかと思うと…杖を前方に突き出しその瞬間、先端から土の塊が飛び出していく。


 風を切る音さえ聞こえて来そうな程の近距離で放たれたそれは、迷いたがわず青年の操る馬車の車輪にぶつかり、馬はあえなくバランスを崩し倒れてしまう。



 馬が転べば当然、手綱を握っていた青年は御者台から投げ出されて地面へと転がり落ちていく。

 馬車の方は大きく揺らぎ転倒するかと思ったが…幸運にもバランスを取り戻し、壊れた車輪で歪に停止。



 御者と馬車は俺らが潜んでいる草むらから10メートルもしない距離で、その逃避行を終えたのだ。

 おいおい…いくら何でもこれはないぞ……。





「タイミング悪すぎるだろ……」


 アイリの手を握り締めながら、ぽつりと小さな声で呟くと彼女の指が俺の手の甲を撫でる。

 落ち着いていろ、といった雰囲気が伝わってくる表現に従うように、息を押し殺し顎を地面と密着させるくらい低くする。



 事の成り行きは俺達の視界の中でどんどんと変化していく。

 御者の美青年が腰に帯びた鈍い色合いの木で作られた板状の容器…どう控えめにみても剣の鞘と、そこから伸びる柄頭に手を沿えて馬車の扉に手をかけた

 恐らくは中にいる人物を呼び出しているのだろう、一言二言だけ早口で捲くし立てると先導するために馬車から数歩離れて森の方

 即ち、俺達が潜んでいる草むらの方へと歩み寄ってきた。 



 幸いまだ距離はあるので気がつかれた様子はないが、青年はしきりに俺達の背を通り越し森の方と、目と鼻の先まで来ている襲撃者。

 そして馬車の中にいる人物を気にしては忙しなく顔を動かしている。



「コウタ様」



 握った手にアイリの方から力がこめられた事で、呼びかけられていることに気がつけるほどの小さな声。

 一度彼らから目を離すとアイリの瞳は既にそちらを向いてはいなかった。



「何かあれば一言で構いません、望むがままに命令なさってください」



 躊躇いも迷いもない言葉は非常に頼もしく、草むらに横たわったまま頷いて返す。

 馬車の中からは、ようやく件の追われていると思われる人物が、みずぼらしい鞄を一つだけ抱きかかえるようにして降りてきた。


 金に近い程強い色合いの黄色のドレスを纏うシルエットはおそらく女性、まだ距離があり顔つきまではわからないが…その身体は逃亡をするのには難しいほど、ほっそりとしているのがわかった。



 彼女が地面に足がつくのと殆ど同じタイミングで御者だった青年は彼女の手をとり駆け出す。

 目的は勿論、俺達…ではなく、その向こう側にある森に向けてなのだが、流れが悪すぎた。

 5メートルも走らないうちに女性は彼の急かす様子に足を取られ躓いてしまう。

 青年も彼女を見捨てて行くことはできないのか、彼女の傍に跪くと再びその手を取り直し、逃避行を開始しようとし



「お~~っとぉ、それ以上はいかせねぇ…森に入られても困るからな…おい!馬車の中に誰かいねぇか調べろ!」



 耳にビリビリと響くような大音量の声は、野太い。

 荒事に慣れていないような人物なら聞くだけで怯えて、竦みあがってしまうだろう…例えば、女性や俺のように。


 そうだ…ここに来て、追撃者たる彼らは完全に逃亡者に追いついてしまったのだ。

 彼らの馬はゆっくりとその速度を落とし、馬車のすぐ傍で止まると次々に降りていき、一人は馬車の方へと向かっていった。

 


 その姿を遠めに見るだけでわかる、巨漢で髭面

 腰に両腕ほどの太さもある大剣を持ち、頬を縦断する古い傷跡が痛々しい。


 フードで全身を隠した杖を持つ人物や、むき出しの片手剣を装備して逃亡者達にゆっくり、ゆっくりと近づいていく連中は

 誰が見ても明らかに悪党、それも山賊の親分とか言うのが相応しかった。




 ここまで来て、何を疑うことがあろうか。

 俺は……俺達はちょっと洒落にならない事態に巻き込まれてしまったらしい。

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