第3話
【僕は今から死にます】
少年の書き込みがまた、ネット上に流れた。
【お! また新しい自殺志願者がきたぞ~】
【これで何人目?】
【確か17】
【いや、18人目だろ?】
【いや、前回の書き込みは嘘っぱちだったから、これで17じゃね?】
【まぁ、どうでもええや】
【お願い! 死ぬなんて馬鹿なことはやめて!】
【でたでた、自意識過剰の良い子ちゃんがきましたよw~】
【偽善者おつ】
【はぁ? うっせぇ! てめぇが死ねよカス! 死ぬ勇気もないくせに】
【俺は命の大切さを知っている。だから死なないだけ。勇気がないわけではない。命を粗末にするヤツと一緒にスンナ】
【カッコツケンナYO!】
こんなくだらない大人達のやりとりを遮るように、少年の最後の書き込みがネット上に打ち込まれた。
【僕の死を目撃した皆さん、どうか、僕の死に意味を与えてください】
少年は震えていた。震えながら、包丁を手に取り、その白く光る刃を自分に向けた。そんな少年の行動は、カメラを通してインターネットに配信されていた。
カメラを通して、少年の死は誰かに届く。もしかしたら、カメラを通じて少年の”体の震え”も、誰かに伝わるかもしれない。でも、少年の”心の震え”は、やっぱり大人に届かない。
「さよなら」
少年の声は小さく震えていた。次の瞬間、ネットの世界に咲いたのは真っ赤な血の花だった。モニター越しに少年の自殺を目撃した人々は、その印象的で、ある意味エンターテイメント性に優れた血しぶきばかりに注目していて、誰も少年の震えに気付かなかった。そう、誰も。モニター越しに少年の死を目撃した人では、気付くことはできない。もし、少年の震えに気付くことができる大人がいるとしたら、それは、モニター越しではなく、自らの目で現実の少年を見ようとする者だけだ。本気で助けたいと、まるで子供の様に、純粋に強く願う者だけだ。
「やめろ! 死ぬんじゃない!!」
俺には、少年が「死にたくない」と言っている様に思えた。だから俺は、血だらけの少年を抱きかかえて、直ぐに病院へと走った。この子を絶対に、助けてみせる。
警察官の”守屋道孝”は、血だらけの少年を抱えて走った。無我夢中で、走った。