第2話
【stop war please】
それは、最近習ったばかりの拙い英語。どうすれば、止められるのか? どうしたら、「戦争をやめて欲しい」という僕の気持ちは届くのだろうか? 少年は必死に考えた。
【もし、あなたが『戦争をする』と宣言するなら、僕は死にます】
それは、幼稚な交換条件。もはや、この言葉をどう英語で表現していいのかもわからず、日本語で、少年は思いをつづった。しかし、時の大総統が、こんなやすっぽい交換条件を鵜呑みにするはずがない。それどころか、大総統はこんな書き込みがネット上に存在していることすら知らないだろう。同じ世界に生きる人間の声なのに、その声を聞かないまま、”偉い人”は重大な決断をくだすのだろう。
「ただいま、速報が入りました!」
テレビの中、ニュースキャスターが青ざめた顔で言う。もはや、彼は事実を淡々と伝えるアナウンサーではなく、感情を込めて叫ぶ、一人の人間だった。
「これより、我がA国は……B国に攻撃を開始する!!」
ナレーターがA国大総統の言葉を日本語に翻訳して、力強く言った。
ついに、A国とB国の戦争が始まったのだ。
そんな、世界を揺るがす宣告を、少年は聞いていなかった。きっと、自分の死が奇跡を起す。僕の死を見た大総統は、戦争なんてバカげたことをやめてくれる。
そんな、夢みたいなことを願いながら、少年はすでに息絶えていた。 少年にできることは、死ぬことしかなかった。きっと、”死”以外にもたくさんの方法があったはずだ。でも、そのどれも、”少年”にはできない方法だった。”大人”ならできるけれど、大人はだれもそれをしようとしなかった。大人は行動できるくせに、何もしなかった。少年は何もできなかった。でも、どうにかしたいと純粋に強く望んだから、死んだ。
そんな、少年の死はインターネットを通じて世界中に配信されていた。
いったい、どれほどの人が少年の死を目撃したのだろうか? 結局、少年の死では何もかわらない。少年の思いは届かない。
少年の震えは伝わらない……はずだった。
しかし、少年の死は確かに奇跡を起した。
「ねぇ、ママ」
「なに? どうしたのシゲオちゃん?」
「この字、震えてるよ」
少年の死後、少年の死は加速した。